SAO:Assaulted Field   作:夢見草

54 / 70
もうやめて!もう作者のライフは(ストック的な意味で
ゼロよ!!

最近またゲームばっかりやってたツケよ!

そんなわけでどぞ


Ep45: Dance With Me -Act.Last Dance

『結局、大切なのはイメージなんだよ』

『はい?』

 

荒れた息を整えながら、青々とした空を見つめていたレンに、カズはふとそんなことを漏らした。疑問に染まった声を上げつつ、レンがそちらへ首を向けると、カズは地面に突き刺しておいたセイバーズソウルを背中の鞘に納めてから、寝転がっているレンの真横に身を投げ出した。空はやはり澄み渡っていて、フワフワとした雲はソレを斑に漂っている。

 

『例えば、この世界における“強さ”って何だと思う?』

『それは……』

 

唐突に問いかけられ、レンはしばしその答えを探しつつも、すぐに返した。

 

『それはまぁ、ステータスとか、Lvの高さじゃないのか?』

『まっ、半分正解かな。俺としては、まだまだってトコだけど』

『半分?じゃあ残りの半分は何なんだよ。この世界の“強さ”なんて、それ以外に答えなんて無くないか?』

『答えとしては正しいんだぜ?Lvの高さ、ステータスの高さ=強さに直結するって考えは間違ってない。SAOはまず大前提として、“レベル制RPG”だからな』

 

口元は何時ものように薄く笑ったまま、そんな風に得意げに話すカズに、レンの疑問はますます深まるばかりだった。このSAOにおける強いプレイヤー、例えばキリトやレナ、アスナとかヒースフリフなどが挙げられる。もちろん、レンの横で寝転がっているカズも例外ではない。そのプレイヤー達は皆レンの知り合い――ヒースクリフは微妙ではあるものの――だが、やはりLvやステータス値は他のプレイヤーよりも頭二つ分ほど飛び抜けている。だからこそ、カズの問いに対して出した答えはそれだったのだ。

 

『解らないな。“レベル制”とか何とかそこまで詳しくはないが、RPGなんて大体そんなもんじゃないのか?』

『まぁ、FPSしかやってこなかったお前からしてみれば、その答えも妥当だが……俺からすれば、必ずしもそれだけじゃないんだよ』 

『?やけにもったいぶるな。何だよ、謎かけ好きだったけか?カズ』

 

不満を包み隠すことなく口にするレンに、カズはしばしの間瞬きを数回繰り返していたが、やがて我慢できなくなったかのように吹き出した。

 

『はぁ……』

『いやいや、悪いな。別に謎かけしたいワケじゃないんだ。出来ることなら、お前にその答えを探してもらいたかったんだが……その様子だと、無理っぽいな』

『……ああ。是非とも教えてくれるとありがたいね』

 

その言葉に、ムッとしないでもないレンだったが、カズの求める答えが全く分からないのも事実である以上は仕方がない。

 

『レン、この世界……SAOにおける強さってのはな、何もレベルとかステータスとか、そんな数値上のものじゃないんだ。むしろ、いくらレベルが高かろうが最強装備に身を固めていようが、そんなのは俺からすれば所詮まやかしの強さでしかないんだ』

『なら、お前の言う本当の“強さ”ってのは何なんだ?』

プレイヤー(ソイツ)自身の“意思(Will)”の強さ、さ。どんなにレベルが高くても、ソイツ自身の意思が弱かったらダメなんだ。どうしてか解るだろ?』

 

問われて、レンは朧気ながらにカズが何を言いたいのか解ったような気がした。重要なのはレベルでもなく、意思の強さなのだと。それは――

 

『……このSAOが、普通のゲームではなく、“VR”だからか?』

『というよりも、戦うために体を動かすのが他ならぬプレイヤー自身だからな』

 

例えば(仮定)の話をしよう。ある二人のプレイヤーが、モンスターに遭遇した。かたやレベルはとても高く、それに見合う装備もある。もう一方はレベルも低く、装備もそこまで整ってはいない。そんな二人が、ちょっとしたミスで瀕死直前の大ダメージを負った。そこで、レベルの高い方のプレイヤーは“死”の恐怖にとらわれ、向けられる獰猛な目線に恐怖心を煽られ、足をすくませてしまった。なにせこの世界においてダメージを喰らうということは、即ち自分自身の命が直に削られているも同義だ。足をすくませてしまうのも、無理はない。しかし、もう片方の方は、なおも冷静さを保ったまま足をすくませることなく、真っ直ぐ敵を見据え、この危機的状況を打開せんと動き出す。さて、真に“強い”のは、果たしてどちらだろうか。この二人を分かつものは、何もレベルだけではない。“意思”の強さもまた違うのだ。そしてそれが、何よりもこの世界(SAO)では重要な意味を持つ。何故ならば、他のゲームとは違い、このSAOでは、プレイヤーが自らの意思でポリゴン体を動かさなくてはならないし、モンスターと対峙するのも、“画面越しのキャラクター”ではなく“自分自身”なのだ。この世界がフルダイブVRであるが故に、モニター越しからではなく自らの視覚を通して対峙しなくてはいけないからこそ、生まれる恐怖心やプレッシャーに負けない“意思の強さ”が必要なのだ。そしてそれは、レンにとっての一つの盲点でもあった。

 

『なるほど。確かに言われてみればそうかもな。けど、ソレとコレがどうつながる?』

 

言いながら、レンはその傍らに置いてある剣を見やった。そも、“スキルキャンセル”の練習の休憩がてらにそんなことを口にしたのはカズの方なのだ。だからこそ、レンは今の話とカズが言うイメージの話がどう繋がっているのか解らなかった。

 

『必ずともそうとは言えないが、意思の強さってのは=イメージに直結するんだよ』

『へぇ、それで?』

『自分が思ってる以上に、イメージってのは大きな影響を与えている。時にはソレが体を縛り付け、ある種の制約みたいなのを掛ける。よく言うだろ?“出来ないと思い込んでるだけだ”って』

『ああ』

『それと同じ事さ。この世界では、何よりもイメージ――それが引っ張られる意思が強く影響する。本当の強さなんて、レベルとかそんなもんじゃ手には入らない』

 

そしてそれこそが、(カズ)お前(レン)の違いでもある。そうカズは続けた。確かにレベルの差はある。プレイヤースキルだって違う。それでも本当に違うのは“意思”の強さ、即ちイメージの差であると。

 

『レン、このスキルキャンセル……いや、俺とお前の技量の差について俺から言えることは一つだけだ』

 

カズはふっとその体を起こし、先ほどまでとは違い至って真剣な表情でレンへと向かい合った。

 

『どこぞの弓兵の言葉でも借りるんなら……意思を持て、常にあるべき自分への。そして思い描け、常に最強の自分を』

『……』

 

そんなカズに、レンも口を挟むことなどなく、静かにソレを聞き入れる。カズの放つ言葉の一つ一つを、胸に刻みつけるように。

 

『それに外敵なんて必要ない。真に打倒し、超えるべき相手は常に、他ならぬ自分自身なんだからな。そうすれば、お前はもっと高みを目指せる。限界なんてそんなもの、お前が勝手に決めつけただけのもん(イメージ)だ。そしてお前なら、この“スキルキャンセル”だって必ず習得できる』

 

さも当たり前のように、真っ直ぐな視線を向かるカズは、レンがとても知る姿そのものだった。そう、小さいころからの知り合い、いや兄弟も同然であるからこそ、カズは自信をもって言えるのだ。お前なら必ずたどり着けるはずだからと。だからレンも、その言葉に疑いの余地を入れるつもりはない。同じように体を起こし、確かな声で告げた。

 

『ああ。今に見てろ、必ずお前の立つ場所までたどり着いて見せるさ』 

『おう、楽しみに待ってるぜ』

 

“約束”なんてそんな大げさなものじゃない。これが二人のあり方そのものであるから。そうやって笑いあっている二人。しかしそれこそが、二人にとっての最後でもあったのだ――

 

***

 

「くっ……ちぃぃ!」

 

まるで、自分が小石であるかのように錯覚するほど、軽々しく流れていくその体。流れゆく景色の中で、レンは姿勢を立て直す。両足でしっかりと地面を掴み、勢いになお滑りゆく己を地面に突き立てた左手一つで静止させる。その対極、影もまた、同じように体制を起こした。顔を上げ、表示されるHPバーを見やれば、既にその色はオレンジの、危険値一歩手前まで減少している。武器が武器であるなら、通常攻撃四発を耐えきれるかどうかの瀬戸際。新たに再生した腕の感触を確かめるように開いては閉じ、レンは右手でショルダーホルスターから沙獄を取り出す。その傍らには、左手と共に失ったもう一つの沙獄もある。ニヤリと口元を釣り上げてから、レンは立ち上がると、その沙獄を右足で蹴り上げた。影も同じく、そのまま宙をまう沙獄を、二人は左手でキャッチした。残りの刃はもう無く、投擲物(リーサル)もすでに底をついた。セカンダリー(レリーファ)も失った今となっては、残された攻撃手段など一つしかない。それを逆手に、体の正面へと正対させた両者は、僅かに姿勢を落として口を真一文に結ぶ

 

僅かに吐き出された息が一つ、そしてそれが、最後の火ぶたを切って落とす。

 

「はぁ!!」

『はっ!!』

 

活歩による高速移動が、開いた間合いをゼロへと縮めていく。そうして振りかぶられた沙獄の刃が激しくぶつかり合いより一層の火花を舞い散らした。

 

***

 

『くらえっ!!』

 

横殴りに迫る左を、レンは僅かな動作のみで躱す。更に続く右の切り上げに己の斬撃を重ね合わせ、

 

「返しだっ!!」

 

その胸元めがけて左を突き出す。影はあせることなく迫るその突きに、引き戻す左手の功を利用してソレを外へとズラす。沙獄の刃が、かすかに影の体をかすめるも、HPが減少することはない。

 

『せいあ!!』

「グッ!!」

 

そこから腕を回し、繰り出される掌底打ちを右腕で防御したレンは、上手く勢いを殺すことができずにその体制を崩す。

 

「っ!!」

 

その刹那、膨れ上がった殺意に全身が粟立つ。己の本能が警鐘を告げるまま、上半身を倒してから更に後転するレンのスレスレを、影の右短客端脚が迸った。八極拳スキルたる《連環脚》。であるならば、この攻撃はまだ続く。流れに身を任せる影は、そのままクルリと体を反転させると、体制を立て直そうとするレンめがけて続く左脚を蹴りだす。が、尋常ならざる威力を内包したその蹴りは、同じくソレを操るレンだからこそ読んでいた。

 

「らああ!!」

 

迫る左脚。レンは無理やり体を横にひねると、右手、そして左手をそれについてからドンダートじみた動作で一気に体を押し上げ、影を飛び越えた。

 

『ちぃ!!』

「喰らいやがれ!!」

 

叫びながら、体制を戻したレンは、そのまま影めがけて左の沙獄を叩きつけた。

 

ガキィンッ!!

 

鈍い音がして、受け止めた影の体が僅かに沈み込むが、ありったけの力を以てその一撃をはじき返す。しかし、まだ終わったわけではない。そのまま再び、左を引き戻したレンは、更なる連撃を繰り出しながら、宙より沙獄を振るう。そして影もまた、そんなレンの攻撃を防がんと沙獄で捌いてゆく。上で追撃を放つレンと、ソレを下で迎撃する影。二人の刃は幾度となくぶつかり、混じりあってそして更なる火花と甲高い金属音が大気を揺らす。

 

『この……調子にっ!!』

 

ほんの数秒足らずの攻防、しかしそれにしびれを切らした影は、体を思いっきり後ろへと投げ出し、突き出した両手を地面に置いてから、反弧を描くように背転する最中で左足を蹴り払い、落ちてゆくレンを蹴り飛ばした。更に着地後、両足で地面を蹴り穿って活歩を発動。スレスレを行く超低空姿勢のまま肉薄し、右沙獄を救い上げる。その追撃を、目ではなく本能で感じ取ったレンは、未だ宙に浮いたままの己の体を地につけた両手で支え、カポエイラじみた体捌きで振るった右足でソレを防ぎ、更に体を捻って続く影の左斬り払いを左足で受け止めた。硬直は一瞬、そして両者はまるで先の巻き戻しをするかのようにその場から飛んで後退、すぐさま迎撃を繰り出すことの出来ぬ間合いを一気に開く。

 

先ほど確認したHPバーは既に赤色へと変色を遂げている。最早だれの目に見ても、その終わりは近かった。つまりここでレンが死ぬか、影がその存在を散らすか。All or Nothing(全か無か)、文字通り自身の命を対価としベットしているこの賭け(決闘)だが、それでもなおレンの中に恐怖心などありはしなかった。いやむしろ、内より沸き立つこの高揚感はどこか麻薬じみた快感と妖しさがあった。ソレはなんて――魅力的で、魔的でろうか。

 

――意思を持て、常にあるべき自分への。そして思い描け、常に最強の自分を

 

かつての親友の、もう二度と耳にすることはできないその声が、レンの脳裏に響いてくる。

 

――そうだ

 

嘗てカズはそう口にした。イメージするんだと。ありとあらゆる可能性、その到達点を決めるのは神でも数値でもない。他ならぬ自分自身だ。真に打ち負かすべきは外敵などではなく――自分自身に他ならない。

 

――俺は

 

影と自分との違い。レンでは超えることのできない壁を超え、更なる境地へとたどり着いたもう一つの(レン)。だが、本当にそうなのだろうか?自分では超えられない?そう思い込んで、本当の自分を制限していたのは、他ならぬ自分ではないのか。ならば思い描けばいい。レンの、自分にとっての最強の姿を。カズはそう告げた。

 

――お前はもっと、高みを目指せる

 

疑いの余地すらなく、ただただその真っ直ぐな(信頼)を向けて。

 

――まだ行ける。ここが限界じゃない

 

幸いにも、そのイメージがあるではないか。自身にとっての最高()が、レンの目の前に、今もなおその殺意を絶やすことなく、立っているではないか。なら――ソレを吸収して、その全てを模倣すればいい。何故なら、その体も、思考も、技量に至る全てまで、アレ()はレンの現身なのだから。なればこそ――そのオリジナルであるレンが、その境地にたどり着けぬ道理もまたある筈がない。何故なら、その身は既にあるべき到達点(モノ)を得たのだから。嘗てカズが口にしたように、今のレンには、閉じられていた眼が開かれたのだから――

 

――たとえその先に、待ち構えてあるのが“死”だとしても、その全てをかき集めて、お前の立つ場所まで辿り着いてやる

 

シニタクナイ

 

/嘗て守れなかった命のために

 

ゆーびきーりげーんまん

 

/嘗て果たせなかった約束のために――

 

右手をゆらりと持ち上げ、光を受けてキラリと光る沙獄の刃を、レンは静かに影へと向けた。

 

「この舞踏会も、そろそろ幕引きだ。行くぞ、これで終わらせてやる」

『いいぜ、乗ってやる』

 

――さぁ、最後の(演舞)を謳おう

 

***

 

刃が重なり、火花が散った。レンが蹴りを穿てば、影の腕が唸りを上げる。影の沙獄が空を切り裂けば、レンの体が宙を踊る。混じり合う二人の動きと、それらが織りなす剣戟の演舞は、それはそれは美しく、あたかも、幻想が織りなすおとぎ話の舞踏会のよう。

 

「驚いた。まさか本当に、超えるとは」

 

しかし、今までのそれとは明らかに何かが違う。そしてそれが何であるか、この演舞を俯瞰し続ける茅場は気づいていた。そしてもちろん――いや半ば本能的であるかもしれないが――その主役たる彼らもまた察していた。

 

『くっ……このやろ!』

 

十七合目となるその斬り払いを弾いた影から、思わずそんな苦悶の声が漏れた。

 

「はぁっ!!」

 

しかし、そんなスキすらも許すことなくレンは更なる追撃を繰り出してゆく。

 

『クソッ!!』 

 

右下への斬り払い、そして左への斬り上げを同じきどうから斬り伏せた影は、ありったけの力を込めてレンに斬り払いを叩きつける。その痛烈な一撃に揺らぐレンの体、がしかし――

 

「無駄だらけだッ!!」

 

そのまま同じように、その追撃を影へと返す。紡がれた衝撃波が大気を揺るがし、今度は影が踏鞴を踏む。

 

『く……』

 

ギシリと、奥歯が軋むほどにまで歯を食いしばり、右足で踏ん張る。そして更なる剣撃へと己の体を加速させながらも、影はその異常な光景に毒づく。

 

――何故!

 

既に、レンの操る《A-ナイファー》の限界はとうの昔に越えている。限りなく同じように見えて、それでいて限りなく遠い。たとえるならそれは、コインの裏と表のようなものだ。向かい合って初めて本当の自分に気づくが、似てはいても正反対でしかない。レンが越えることのできない境地に影は立っているからこそ、その挙動、踏み込むその軸足、互いの刃がぶつかり合うその一つ一つで、レンは致命的なまでの差を前に少しずつ、しかし確実に“死に体”へと近づいていく。

 

――どうして

 

しかし、実際はどうだ。本来混じり合うことの、向かい合うはずもないレンの斬撃は、影と交えるそのたびに“死んでく”どころかむしろその動きが重なっていく。本来踏み込めるはずのない領域に、レンは踏み込みつつある。

 

『くそ……倒れろ!!』

 

ひときわ甲高い音とともに、二つの沙獄が混じり合い、激しい鍔迫り合いを起こす。

 

影は気づかない

 

本来ならばあり得るはずのないソレが、既にレンの中で覚醒していることに。

 

元々、影がその領域に立ててレンが立てない――超えることができなかったのは、影そのものの存在自体が“高度戦闘用AI”つまり”コンピューター“であるからだ。基となるレンの戦闘データをインプットされている――すなわち本来レンが引き出せるはずの領域をプログラムされている影は、限界値までもがその許容範囲となる。ヒトであるが故の思い込みや決めつけなどで自身の限界値までを引き出せないオリジナル(レン)とは違い、”理論上可能“とされている影はいともたやすくソレを開放できる。それこそが二人の決定的な差だったのだ。しかし今、閉ざされていたレンの眼は開かれた。自分の究極系(イメージ)、いわば完成形(最強)である()と自ら対峙していたレンは、あり得ないほどの速さでその技量を経験、取り込んで自分自身に憑依させていくことで、本来たどり着けるはずの境地へと近づいていく。即ち、レンは影と矛を交えるそのたびに、少しずつ進化を遂げているのだ。それはあり得るはずのない出会いであったが故に、その異常は起こる。一つ、また一つと、その差が埋まっていく。ソレが、その違いだった。そして――

 

「捉えた!!」

『つっ!!』

 

三十二合目となるその両薙ぎ、ついにその歯車が、音を立てて嚙み合った。

 

「沈め!!」

 

短い裂帛の気合一つ、そのまま引き戻しつつ体へと引き絞ったレンは、左の寸勁を影の胸元へと開放、そして吹き飛ばす。

 

『っ……くぁ……は……』

 

そしてまた、対峙する影もそれに気づいた。最早、目の前に居るオリジナル(レン)と自分の技量に、差がなくなったのだと。ならば――残された時間、手段は一つしかない。

 

『調子の乗るなよ!!オリジナル()!!』

「仕留めるか!!!」

 

閉幕の時、お互いのラストダンス(最終演舞)へと駆けてゆく、深紅と深蒼のライトエフェクトが、二人の体を包み込んでいった。

 

***

 

『調子の乗るなよ!!オリジナル()!!』

 

影は高らかに

 

「仕留めるか!!!」

 

レンは静かに、二人は同じように左右のこぶしを構える。やがてさもそんな二人の膨れ上がった闘気を体現するかの如く、深紅色と深蒼色のオーラが迸る。システムの力がその体を加速させるようにして、二人はその絶技にして奥義を開放した。

 

最初は右の、突き技たる《冲捶》更に拳ではなく掌で打つ左の《川掌》、肘を下から突き上げるように立て、踏み込んで放つ《頂肘》、両腕をそろえて胸を打つ掌の攻撃《双撞掌》、両腕で顎と胸の二つを同時に打ち付ける《大浙江》。相手に触れている拳から、練り上げ、高められた闘気の衝撃を叩きつける《浸透勁》。そして、これら計六連を受け、連続する拳、掌、肘を、まるで相手の胸を駆けあがるように叩きつける猛虎の如き連続技《猛虎硬爬山》。八極拳スキル最大の特徴、各それぞれの技を、連続でつなげることによって、強烈な硬直を発生させる代わりに秘められた奥義を開放する“スキルストリークチェーン”。迸る六連撃と、ソレが導き出した《猛虎硬爬山》の三連撃は、まるで烈火の如き苛烈さと、神速に届かんとするほどの速さで、文字通り相手の体を砕かんと唸り狂う。その一つ一つ、二人の猛りは同一軌道上にて交じり合い、その核爆発にも似たエネルギーを周囲にまき散らしながら互いの一撃を相殺し合う。一、二、三、拳がぶつかり合う。三、四、五、その拳より伝わる衝撃が、ギチリギチリと残り僅かなHPを削り取っていく。六、七、八、そして最終打となる、《猛虎硬爬山》の連撃がぶつかり合った時、ソレは起きた。

 

レンの周りを流れる時間が、まるで奪われ、改変され、引き伸ばされたかのように、全てがスローモーションとなる。これまでにもレンが体感してきたこの不思議な感覚は、しかし明らかな変化を以て加速する。

 

/思考が――一気に加速する

 

/全てはクリアで――相手の息遣いすら手に取るように理解できる

 

/そして、まるで未来が憑依してきたかのように、その先にある全てを()()

 

/

世界が/反転する

 

――ここだ!!

 

《猛虎硬爬山》最後の一打が相殺され、闘気にも似た深蒼色のエフェクトが色を失い、システムの力が、その体を縛り付けようとする、その最終モーションの最中、レンは加速する思考で新たなモーションを立ち上げんと両脚に力を込めた。本来ならそこで、システムエラーが発生し、ノックバックと共に不発に終わる筈のソレを、レンは根本から覆した。それは、新たなる奥義の目覚め。色を完全に失った影と、新たなる色をその体に宿るレン。その闘志は、ある種の気高さを思わせる純白。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

そして、世界が再びその時間を取り戻したその時、レンはその絶技を開放した。純白が、周囲の大気を侵食し、“気を呑んだ”影の内部へと直接勁力を打ち込む。かつて、“二の打ち要らず”と謳われた一人の武芸者が上り詰めたその極地。その名こそ――

 

无二打(むにだ)》。

 

八極拳スキル、スキルストリークチェーンが辿り着くもう一つの殺人拳。

 

「終わりだっ!!!」

 

終幕の合図はそれだけだった。

 

既に《无二打》のモーションをほぼ終えていたレンは、更なるスキルキャンセルを発動させ襲いかかるディレイをキャンセルし、踏鞴を踏む影の――クリティカルポイントとなる右胸部へと、沙獄を深々と突き立てた。

 

 

 




つい三日ほど前にCoD4:MWの印象的なキャンペーン、”消耗品のクルー”のリマスタードゲームプレイが上がってたんですが、もうやばいっすね。リマスターじゃなくてリメイクに近いんじゃないかってくらいキレイでした。あのクオリティで”オールギリードアップ”が早くやりたいっす。
元々、IWはちょい様子見ようかなって思ってたんですが、今となっては物欲センサーギンギンのMAX状態です(笑)

FGO?ああ、沖田さん大勝利でしたね(白目
あのガチャ確率設定した奴来世まで呪ってやる

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。