SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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何を勘違いしているんだ!

まだ俺の投稿フェイズは終了してないぜ!

速攻魔法発動!!「連続投稿」!!

はい、完全に言いたかっただけです。すいません




Ep44: Dance With Me -Act. Cadenza

ドゴォォォォ!!

 

まるで、拳銃が暴発でも起こしたかのような、鈍い音が一面に響き、

 

「っぐ……あぁ……」

『ガァァ……グッ』

 

二人は踏鞴を踏みながら後ろへとよろめき、ブレイクした。

 

カァン!カララン!!

 

宙を舞うようにして、やがて空中にて砕け散ったその腕から零れ落ちた彼らのナイフが、ほとんど同じタイミングで地面にバウンドし、転がってゆく。その、ほとんど五秒にすら満たないであろう刹那の時間で、二人は利き手である左を失った。それだけではない。お互いに相手の攻撃は喰らいつつも、決して余裕があるわけではないHPを今に至るまでグリーンに保っていたが、ついにはたったその一撃で、たちまちオレンジの半ば位まで落ち込んでしまった。現在、彼らのHPは同程度まで削られており、そのバーの横には人体欠損のアイコンマークが明滅している。やや少し、レンのHPが少ないか。そんな情報を頭の中で整理しつつ、レンは相対する影を睨んだ。左の肩口からは欠損エフェクトが漏れ出しており、完全に左手が生え変わるまでは、少なく見積もっても十五分程度は掛かるだろう。その間を、レンはひたすら待ち続けるつもりなど毛頭なく、それは相対する影も同じ。

 

「ああ――ホント。お前は俺に似ているな」

『ほざけ』

 

右手に握ったB-ナイフを、ショルダーホルスターへと滑り込ませてから、その手を後ろ腰へと回し、手に触れたその柄を握る。しゃらんと音を立て、両者がその腰から引き抜き構えたのは、彼の友にして最高のブラックスミス自らが鍛え上げた名刀。フレンチカトラス“レリーファ”だった。利き手である左腕を失ったレンだが、だからと言って右手が使えないわけでもない。もちろん、左手より筋は落ちるし、元々お粗末な剣術が更に低下するわけだが、条件は影も同じだ。茅場はレンベースの“高度戦闘用AI”だと述べていたが、その実は全てが基となるオリジナルのコピーであるだろうということは、ここまでのマッチアップで理解した。だからこそ条件は同じだと、レンは自信をもって言える。

 

――そう……()()()だ。だから、決着をつけるのはあくまでもA-ナイファーだ、それまで

 

「踊ろうぜ、偽物(オレ)

『お断りだ、オリジナル(オレ)

 

両者同じようにその口元を真一文に結び、向けられたカトラスの刃が、怪しく光った。

 

***

 

『このテクニックはな、コツさえつかめれば誰にだってできるんだぜ?』

 

そんな風に、ニカッと笑って見せたカズへと、レンは眉尻を下げてから抗議した。

 

『よく言うよな。コツが掴めれば?一向に掴める気がしないんだが』

『ハハ、そりゃ失礼。でもな、俺ができるアドバイスなんてホントにこれ位なんだぜ?』

『だろうな。俺も、そこまでお前をアテにしてない』

『ったく、素直じゃないなぁ』

『はい?』

『何にも』

 

ジト目気味に睨むレンの視線を、カズはどこ吹く風で流してから、手にしたセイヴァーズソウルを地面へと突き立て、鍔に手を置いてから体重を預ける。それにため息一つついて、レンは手に持つ直剣を構え直した。

 

――イメージしろ

 

カズはそう言った。

 

“ソレ”を引き起こすタイミングに、特定のアルゴリズムは存在しない。だから、一つ一つの体の動きを意識し、タイミングを見計らえ、と

 

「すぅー、はっ!!」

 

寝かせておいた直剣の先を僅かに下げ、そのモーションを立ち上げる。やがて、システムの力がレンの体を支配し、その腕が……脚が、人外じみたスピードで動き始める。ネーブル色の光を帯びた剣の軌跡は、やがて混じり合って一つの大きな円を描き始める。九連撃スキル“ナインライブズ・ブレード”その六連撃目となる、左上への斬り上げを放ったその瞬間

 

――ここだっ!!

 

今まで、体の全支配権をシステムにゆだね、停止していた思考を再加速。七撃目へと動き出す体に、別のモーションを割り込ませようとするが……ソレは、結局無駄に終わった。何か、強大な力にでも弾かれたかのように、全身に不快な衝撃が走り、尋常ならざるディレイが彼の体を縛り付ける。それが意味するのはつまり、

 

『失敗した』

『らしいな』

『はぁ……疲れた……』

 

ディレイが解けた体で、ぐったりとうなだれるレンの肩に、カズがぽんぽんと手を置いて、地面に刺しておいた剣を構える。

 

『コツさえつかめれば、あとは簡単なんだぜ?』

 

くるくると剣を回して、カズもソードスキルのモーションを立ち上げた。水平に三連撃、そして縦に三連、加速していく剣先は、最早神速すら置き去り、全てを引き裂くが如く。しかしその新緑色の輝きはなお褪せることを知らない。八連撃スキル“シエロ・ムエルテ”その六連撃目に、“ソレ”は起こった。

 

『こんな感じにな』

 

なんと、そんな剣の軌道が突然ゆがみ、一度停止したかと思うと、今度は青色の光を放ちながら二連撃スキル“ダブラ・ティエンポ”が発動した。更に、再び軌道がゆがみ、新たなスキルが立ち上がる。何より驚くべきは、そのスムーズさだ。ディレイすら発生させることなく、次々と意のままにソードスキルをつなげていくその様は、ただただ圧巻の一言でしかない。

 

『はぁ!!』

 

カズの振るう剣の軌道が、四つの四角を作るように空を切り裂き、四連撃スキル“バーチカル・スクエア”と共にその体がようやく止まった。

 

『とまぁ、こんなカンジ』

『……やっぱ、俺には無理かもな』

『そんなこと言うなって。お前も出来るようになるさ』

 

シエロ・ムエルテから始まり、終わりのバーチカル・スクエアに至るまで実に十三個以上ものソードスキルをディレイもペナルティも()()発生させることなくつないでゆくシステム外スキル《スキルキャンセル》を披露したカズは、ニカッと得意げに笑った。

 

***

 

描かれる筋は三つ。

 

右股下から肩口へと上がる一撃目、右袈裟に迫る二連撃、そしてそれらを躱した先を縫う三連目。影が素早い剣捌きで放ったその三つを、レンは掠りながらもどうにか身をよじりつつ横へとスライドして初撃と次撃を躱し、にぎるカトラスを真上に斬り上げてから迫る三連撃目を上へと反らした。

 

「次っ!!」

 

そのまま剣を引き戻し、影の右側へと踏み込んだレンは、《鎖歩》による足払いで影の体制を崩し、そのままカトラスを振り下ろすが、影は流れに身を任せ体を倒し、払われた足のブーツ――その裏側にあしらわれた金属プレートでソレを受け止め、更に背転して剣を弾きつつ後ろへと飛ぶ。通常、相手に自信の体制を崩されてしまえば、後は良いように攻撃されるだけだ。何故なら人間の体の構成上、一度崩された体制をすぐさま立て直すことなど不可能に近いからだ。そんな常識を、影は化け物じみた動体視力と体捌きのみで覆してしまった。だからだろうか。同じ存在、同一の思考を持ち合わせていると頭で理解できていてもまさか防がれるとは思っていなかったレンは、そのまま再び肉薄してくる影への反応が――ほんのコンマ何秒か――鈍った

 

「くっ!!」

 

迫る横払いに合わせようと慌ててカトラスを引き戻すも、完璧には程遠い。結果中途半端となったその防御は、力強い太刀筋に押し負け、レンの手から剣が弾かれてしまった。ギャリィィンと音がして、くるくると宙を舞っていたカトラスが地面へと突き刺さる。忽ち無防備をさらす結果となったレンに、影は真一文に結んだ口元を微かに歪め、苛烈極まる剣戟を重ねていく。次々と体を薙がれ、切り裂かれ、襲う不快感と共に減少するHP。横一文字へと振るった剣を引き戻し、体をねじらせた影は、《震脚》によって地面を踏み鳴らし、全体重を乗せた《連環脚》を、余すことなくレンへと叩き込む。

 

「っああああ!!!」

 

その、渾身の力を乗せて迫る脚の連撃を、レンは体幹に力を入れて身体の前に持ってきた右腕で防がんとする。刈り取るかの如き威力を以て弧を描きながら迫る右の一連目に、レンはガードを合わせた。だが、足と腕とが接触すると思われたその刹那、伸びてくる右足がその軌道を変え、地面へと落ち、ソレを新たな軸足として、その反対側ーー左の二連撃目が飛んできた。

 

ーーマズい

 

極限まで研ぎ澄まされたレンの本能が、絶望的な警鐘を鳴らす。右の一連目はガードを誘導させるためだけのフェイント。本命は、あくまでも続く左。刹那を何十倍にも引き延ばした思考の中で、レンは影の意図を悟る。発動中のスキルモーションを無理やり歪めること自体は可能だ。だがそれは、スキルを強制終了させ、ペナルティを発生させる事を意味する。だが、全ての動作が次へと連結する八極拳ならば例外だ。蹴り足がそのまま次の軸足として機能する《連環脚》なら、多少モーションを歪めてもスムーズに次が放てる。ソードスキルを利用したフェイント。それは、仕様が特殊な八極拳だからこそ出来る技であり、レン(オリジナル)には編み出せなかった影だけの絶技。致命的なまでのスキを晒す左。防御などとうに遅く、叩きつけられた一撃の生み出す絶大な衝撃が、レンの身体を震わす。

 

「ゴフッ!!」

 

口より漏れる、酸素。だが影は攻撃の手を緩めることなく、流れるように連撃を重ねる。既に、ガードなど出来ようはずも無く、その全てを綺麗に喰らったレンは、芥子粒のように吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。

 

「ガァ!……ぐぅぅ」

 

押し出される、苦悶の呻き。全身はすでにボロボロで、まともに力を入れることすら叶わない。視界がグラリと歪み、思考が断絶される。

 

――薄々気づいてはいた

 

確かに、その存在は同一だ。思考も似通っていて、姿かたちも似ている。だが、《担い手》としては……もはや疑いの余地がないほど、(コイツ)のほうがはるかに上手だと。体の使い方、剣捌き、そして何より、《A-ナイファー》の扱いはオリジナルである自分より更に上の次元で使いこなしている。今まで、ついぞ彼が乗り越えることのできなかったその境地に、(コイツ)は立っているのだ、と。技量としては共有されているが故に、一見すれば両者は拮抗しているかのように映るかもしれない。がその実、二人が足を踏み込むその時、手にした剣を振るうその刹那、その一つ一つで

 

――技量が似通っているからこそ

 

――思考が同じであるからにして

 

――同じ存在であるが故に

 

絶望的なまでに、二人の差は広がってゆく。

 

見切ったハズの剣筋が、捉えきれない。完全に裏をかいたハズの攻撃が、いとも簡単に見破られる。

 

最初は、そうではなかった。しかし、両者が互いの矛を交えるそのたびに、影は、まるで“学習”でもしていくかのように、少しずつレンを凌駕していった。

 

――勝てない

 

そんな絶望が、黒い波となってレンへと襲い掛かる。疑いの余地はなく、既にその差は、絶望的なまでに明白で。

 

――俺ではこいつを、倒せない

 

その事実は、深く深く、レンという存在の核へと突き刺さる。

 

ドクンッと、内にある鼓動が大きく跳ねた。

 

――タスケテ

 

その記憶が、己へと流れ込んでくる。

 

――シニタクナイ

 

あの時、目にした光景を、

 

――バカが……

 

あの時、抱いた絶望を、

 

/忘れるのか?

 

/思い出せ、自分が何のために、生かされているのかを

 

――フザケルナ

 

全身に力が籠る

 

――又だ……また俺は……俺はッ!!

 

――ふざけるな

 

断絶し、崩れかけた思考が、白熱と共に塗り替えられる。

 

/お前が生かされているのは、誰かを救うためだ

 

――後は、頼んだ

 

/お前が生んだ、罪の贖罪と

 

――キミ私を、助けてくれる?

 

/果たせなかった約束のために

 

/それがお前の生きる、その全てだ

 

――ふざけるなよっ!!!

 

「ああああああああああああああああああああっ!!」

 

そうして、カトラスを支えにしながら、レンは言うことを聞かない体を無理やり起こした。

 

***

 

「想像以上だな」

 

その光景を、空から俯瞰していた赤ローブの男――茅場昌彦――は、知らずのうちに、そうぽつりとこぼした。その胸中の内にあるのは、果たして感嘆なのか、衝撃なのか。それを知るのは本人のみ。だが、そうポツリとこぼした彼の声色には、少なくとも落胆のような感情は見受けられない。実際、茅場昌彦は目の前で繰り広げられている死闘に、純粋に感心を、そしてそれに勝る好奇心を抱いていた。この世界――SAO――を作り上げたのは他ならぬ自分自身だ。だからこの世界のことは、他のどのプレイヤーよりも熟知しているは道理。そんな彼だからこそ、目の前に映るその光景が、如何に()()であるのかを理解していた。

 

そもそも、このSAOにおける戦闘システムは、その全てが“ソードスキル”を前提として組み上げられたものだ。だから、この世界で起こるありとあらゆる戦闘は、ソードスキルなくしては成り立たぬといってもいい。これは、如何逆立ちしても変えられぬ、SAOの“ゲームバランス”。だがどうだ、目の前に居る二人――実質的には一人だが――は、その前提を根本から瓦解させているではないか。存在しないはずの、十二番目のユニークスキル《A-ナイファー》最初にこのスキルを目にしたときは、なんて酷く、脆弱で、最強のスキルだろうと思った。この世界の核である“ソードスキル”が使用できない。それは、戦闘スキルとして致命的なまでに壊れている。どうやら彼は、その弱点を体術スキルの《八極拳》で補っているようだが、あのスキルも他のソードスキルと比べるべくもないような存在である。真に異常なのは、そんなハンデを抱えてなお、十二分に戦えている彼自身だ。システムアシストではなく、ただ純粋に、己の技量一つで戦う彼の戦闘技能は、キリト達とはまた別の、“本物”だ。そんな存在を目の前にして、創造者である前に探究者である彼が、どうして好奇心を自制できようか。

 

「実に興味が尽きないな、レン君。君という人間は」

 

ボロボロになり、よろけ、目前に絶対的な限界を突き付けられてなお、立ち上がるレンを見つめる。

 

既に、影はオリジナルであるレンの技量をはるか凌駕している。"高度戦闘用AI"それは、闘いの中で常に己を最適化させ続け、有り得ないスピードで進化を遂げていく人工知能(システム)。当の昔に、ドッペルゲンガーはオリジナルであるレンの現在限界点を突破し、更に一つ先の次元へと到達している。今(レン)が退治するのは同一存在の己ではなく、限界点を超え、その先へと踏み出した未来の自分(レン)なのである。

 

――後は、私に証明してみてくれ。人間(ヒト)は、己に定められた限界を、超えることができるのか

 

視線を影へと向け、茅場昌彦は静かに、そうつぶやいた。

 

***

 

「ぐ…..つぅ」

 

未だ、体は言うことを聞かず、一度砕けた思考は、断片的な悲鳴を発する。だがそれでも、レンは駆け出した。

 

『バカだな』

 

そんな彼へと、影は手に握るカトラスを振り下ろした。

 

「っ、あああ!!」

 

体を僅かにスウェーさせて、まっすぐに振り下ろされる剣閃を、レンは躱す。ソレは奇しくも、失われた左腕一個分の差だった。間髪入れずに腰のベルトにあるポーチから目にもとまらぬ早業で投げナイフを取り出すと、返し、迫るカトラスをソレで防いだ。本来投擲用としてデザインされてある投げナイフで剣を防ぐのは不可能。当然のごとく、ナイフはその負担に耐えきることができずにその根元からへし折られることとなるが、ナイフが稼いだその僅かな時間こそ、レンが欲していたモノだった。軌道が僅かに目測から上へと外れ、本来無いはずのスペースが僅かに生まれる。ソコへ、迷うことなくレンは体を滑り込ませると、その僅かスレスレをカトラスが通過する。そのまま、後ろに飛び退きながら背転を繰り返し、レンはその場所を目指す。そう、今なおポツンと地面に突き刺さる、己の得手へ。

 

『させるか!!』

 

その意図を理解した影は、下がるレンへ投げナイフを五連投擲する。空を切り裂きながら、迫る投げナイフ。しかし、得手のもとへとたどり着いたレンは、流れる体を振り戻して上へと飛び、刺さっているカトラスの柄を蹴り上げて地面から引き抜くと、残された右手で宙を舞うカトラスをキャッチして着地、

 

「はあああ!!」

 

そうして目前へと迫るナイフへ、レンはカトラスを走らせた。押し上げるように斬り上げて一連と二連を弾き、弧を――こね回すようにしてカトラスの腹で三連と四連を、直線に振り下ろして最後の五連を弾き飛ばす。

 

『チィッ!!』

 

憎たらしげに吐かれた影の声が、響く金属音と交じり消える。手に握る剣を、レンはクルリと逆手に持ち替えると、戸惑うことなく宙へと放り投げ、さも獲物を補足した猛獣のごとく姿勢を僅かに落とし、影へと肉薄する。あと数歩で到達するというその最中で、レンは地面を蹴りジャンプすると、空中にあったはずのカトラスを再び同じ手で握りしめ、身を翻しながら全体重を乗せて一直線に影へと振り落とした。過大なる威力を以て相手を切り裂かんと振り落とされる刃は、しかしあえて受け“止”めるのではなく受け “流”さんと払われた影のカトラスによって軌道を歪められ、剣先がむなしく地面を穿つ。

 

「本命はコレだっ!!」

 

僅か右腕一本だけでレンは自身の体を浮き上げると、空を舞いつつ再び円環状に剣を振るう。辛うじてソレも受け流した影だが、それでレンの勢いを殺しきることは叶わない。これがだめならば次を――とでも言わんばかりに同じ動作で再び連続するその動作は、まさに地を駆ける大車輪のよう。

 

『このっ…!!』

 

手を止める暇もなく、ギリギリのところで喰らいついて受け流そうとするが、レンの体重を加算されたその一撃一撃はとても重く、完全に殺しきれなかった反動をうけてジリジリと後方へと押し込まれてしまう。三……いや、四回転した刃が地面に突き刺さると、レンは突如その流れを押しとどめて横に寝かせていた軸を縦に入れ替え、右腕のみで体を支えながらそんな影を刈り取るかのような横一閃の蹴りを繰り出す。それが躱され、空を切ったかと思うと、レンはまるでコマのようにクルリと剣の上で回り、さもブレイクダンスでも舞うかのように体をさばいて蹴りを繰り出してゆく。

 

『く……つ……』

 

その最初こそスウェーのみで躱して見せた影だが、次々と迫るレンの蹴りに堪らずその身をパタリ畳んで軸の下側へと潜り込み、

 

()べっ!!』

 

邪魔でしかなくなったカトラスを地面に突き刺し、軸足で《震脚》を発動させつつ体を浮かし、もう一方の足で《昇脚》を繰り出し、レンをかち上げながら上昇。内包する六度の蹴りを叩き込みつつ体を縦に回して追加の右振り下ろしをレンへと叩きつけて地面へと吹き飛ばした。転がりながらも受け身をとるレンを尻目に、着地した影は素早く腰のポーチより投げナイフを取り出す。先ほど剣を置いてしまった以上、残る攻撃手段はこれしかない。――奇しくも、二人はこのときすでに、C-アックスとトマホーク、そしてB-ナイフの刃を使い切っていたのだ――そして、それらをレンへと投擲する。体を起こしつつ、迫る飛来物を目視したレン。

 

――ヤバい

 

身をよじり、カトラスを宙に放りつつ飛ぶと、舞を舞うようにしてカトラスの柄を足で蹴り弾き、円環状に体の目の前でカトラスを回転させてバリアのようにし、飛翔するナイフを防いでゆく。着地したのち、剣をキャッチして又それを繰り返して、次々と迫るナイフを弾き、落とす。影も、中には弾かれたナイフがそのままこちらへと牙を向いてくるように飛んでくるのを身のこなし一つで躱し、相手の勢いに後退しつつも流れるように止めることなく投げナイフをレンへと投擲してゆく。

 

カィンッ!!キィン!!ガィン!!

 

ギシリッ!!

 

刃と刃が触れ合うたびに火花を散らし、澄んだ音が響くその最中で、レンは確かにカトラスから発せられた悲鳴を耳にした。そもこの細い剣に全体重を乗せるなどの酷使を続けてきたレンだ。その刀身は限界に近いだろうし、いつ砕けようが不思議ではない。それでも

 

――あいつが鍛えてくれた剣だ!耐えるッ!!

 

レンの脳裏に浮かんだのは、そんなブラックスミスの澄んだ笑顔だった。

 

後退と侵攻と、その鍔迫り合いを続けてきた両者だったが、ソレもやがては終わる。投擲を続けた影はついにその投げナイフを切らしてしまったのだ。

 

――耐えたっ!!

 

ソレを見届けたレンは、掴んだカトラスの柄をより一層握りしめて、踏み込んだ。狙うはその首元、レンはカトラスを水平に走らす。ピンチとなった影は、しかし浮かべる不敵な笑みを絶やさない。

 

布石はすでに打ってあった。

 

そう――ただ闇雲に、レンの勢いに押されて後退していたのではない。下がるその方向、躱す動作、そして投擲の速度から角度に至るまでを少しずつ調整しつつ、影は自身がカトラスを置いた場所へと誘導していたのだ。影はすぐ隣に刺さったままのカトラスを右手で引き抜くと、そのまま逆袈裟にレンの肩口めがけて斬り上げる。

 

――首と肩――この二つの点をとらえて迫るその二つの軌跡は、やがて一つとなりて混じり合うことになる。一層の花火はより儚く、響く音はかくも朧気で、二つの“レリーファ”は激突した。ギチリギチリ……燈と紅の混じった火花とともに、やけに耳をつんざくその音。鎬を削りあうにつれ、確かに軋んでいくその刀身は、やがてその終末を迎えた。ガキンと鈍い音がして、鮮やかなまでに美しかったその刀身が、ついに限界などとうに超えて、殆ど同時に砕けた。そして、

 

――さも、そんな彼らの剣と入れ替わるように――その先を吹き飛ばされ、血にも似た赤いエフェクトを迸らせていたソコから、失われていた左腕が再生を遂げた。たったそれだけ、ただ失われていただけの腕の再生。しかしだからこそ――刹那にも満たぬであろうその時の間で、思考の渦が稲妻を以て全身を駆け巡り、二人は同時に動き出した。僅かな初期動作のみで瞬時に軸を切り替え、軸となる右足で力強く地面を踏みならす。押し出された力の奔流が暴発したかのように彼らの体を加速させ、その運動エネルギーに逆らうことなくクルリと体を捻る。

 

――「『とった!!』」

 

必中となる確信をその胸に蘇らせつつ、二人は身を翻す最中に引き絞った左足を相手へと蹴り放った。技の出、タイミングから角度までリンクした八極拳スキル《砕月》は、その青白い奔流を迸らせたまま吸い込まれるように伸びてゆき、やがて終点へと辿り着く。自身の足が確実に相手の体をとらえた感触と、体中を駆け巡る尋常ならざる衝撃その二つを同時に受けた二人は、苦悶に漏れそうになる声を奥歯で噛み殺しつつ、その衝撃を逃がさんと己の体を後方へと弾いた。

 




買いたいゲームは沢山あっても、やる時間がないというこの矛盾。とっくの昔(三月)にクリアしたMGSV:TPPを引っ張り出して、とりあえずイベントFOBをやってます。

着実に情報が公開されつつあるインフィニットウォーフェアですが、メインデュアルの情報が見当たりませんねIWさん?別に、焦らそうとせんでもええんやで?(フラグ

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