βテスト初期の頃、キリト達がいるこのフィールドは、初心者たちの手ごろな狩り場として有名だった。そんな中で、多くの犠牲を出したモンスターがいた。
名を《リトルぺネント》の“実付き“と呼ばれるモンスター。その、植物にも似た体躯の頭上に付いている実が割れると、たちまち周りのモンスターを呼び寄せてしまうという実に厄介極まりない効果を持ち、それを知らずに多くのプレイヤーが身を割って、自らの首を絞めた。
この話はβテスターたちの中では有名な話であり、キリトもまた、十二分に警戒してモンスターを倒していた。
しかし、そんなことを知らないレナは、いつも通りリトルぺネントを倒そうと飛びかかった。
「待て!レナ!そいつを……」
“倒すな”あいつが“実つき”だと分かったキリトは、レナへと制止の声をかけるが、ソードスキルモーションに入ったレナは、止められるはずもなく、ソードスキル《ドロップ・ダウン》が、黄色のエフェクトを帯び、まるで落雷のようにリトルぺネントの“実”ごとかち割った。
「くそ!!レナ、構えろ!」
キリトは悪態をついて《索敵スキル》を発動し、まわりを警戒し始める。すると、夥しい数の反応がキリト達に向かってくるのを確認した。
あたりの茂みからわらわらと様々なモンスターが姿を現す。《ウルフ》、《リトルぺネント》、《フレンジーボア》ざっと見積もっても二十匹以上にも上るだろうその数は、デスゲームと化したこの場において脅威以外の何物でもない。
「キャァァア!!」
恐れを帯びたレナの叫び声が、深緑の森に木霊した。
***
レンとカズは、始まりの街を出た後、無理なく少しずつ確実にモンスターと戦ってきた。
「ハァァァ!!」
向かってくるウルフに対して、レンはソードスキル、《アーク・エッジ》で迎え撃つ。スキル使用直後の硬直時間が、レンの体を縛るが、それをカバーするようにカズがほかのモンスターへと追撃する。まるで暴風の如きすさまじい剣戟と共に、カズは次々とモンスターを斬り伏せてゆく。
「サンキューカズ」
「何、これくらい楽勝だって」
息の合ったコンビネーション、言葉など発するまでもない。物心ついたときからずーっと一緒だったレンとカズにとっては、こんなことは朝飯前も同然だった。
見える範囲のモンスターを屠りつくした後、レンは自身の索敵スキルを発動する。数匹ほどの微弱な反応はあれど、周りに新たな脅威となるような大きな反応はなく、レンは大きくため息ををついた。
「大丈夫かよ、少し休憩するか?」
「いや大丈夫だ」
「無理すんなよ。こんな状況だ、精神的に疲れてもしょうがない。元々VRワールドってのは精神的な疲労が多『キャァァア!!』」
そう説明するカズの声を、不意に少し高めのソプラノの悲鳴がさえぎった。そしてその声色は、切羽詰まっている状況だということをレンたちに諭すには十分だった。
「おい!カズ!!」
「ああ、行くぞ!」
そして二人は、カズの展開する索敵スキルを頼りに、悲鳴の発生源へと駆け出した。
***
「ハァハァ…数が多すぎる!!」
近づいてくるリトルペネントを斬り伏せ、キリトはそう毒づいた。まるで寄せては返す岸波のように湧いてくるモンスターたちを倒しながら、先に異変が起きたのはレナのほうだった。
いくら戦闘能力が高いとは言っても、レナもキリトとほぼ変わらない年齢、加えて、キリトのようなβテストでの経験があるわけでもなく、迫りくる触手、牙に突進がどれも確実に命を削ってゆくとあれば、恐怖に足がすくんでしまっても仕方ないというもの。
それでも大丈夫と自分に言い聞かせ、手にした短剣をふるい続けたレナだったが、ふるう短剣には先ほどまでのキレがなく、遂には主の心情を代弁するかのように短剣の耐久値がなくなり、砕けてしまったのだ。
それからはキリトがレナを庇いながら戦い続けた。庇いながら戦うキリトには、いちいち“実つき”かそうでないかなどの判断をする余裕などなく、時々現れる“実つき”を割ってしまってはまた湧いてくるという負のスパイラルが続いた。
HPを削られながらも敵を倒し続けてきたキリトも、長時間の戦闘と、プレッシャーからなる疲れに少しずつ消耗してゆく。しかし、そんな事とは関係なしにもモンスターたちの攻撃の手が止むことはなかった。
「これでも……喰らえ!!」
この状況を、少しでも買えようと、キリトは渾身の一撃を放つ。しかし、リトルぺネントはあろうことかその一撃を長い触手でブロックしたのだ。ガラスの砕けるようなエフェクトと共にキリトの片手直剣が折れた。
もう終わりだ…
パリィを決められ、ひるんだキリトの体へリトルペネントが襲いかかってくる。万事休す。なす術なく、キリトは襲いかかる死に目を閉じた………
「ク、ソォ……」
しかし、来るはずの衝撃が、キリトの体を駆け巡ってはこなかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開けてみると……自分と同じ片手直剣を両手で支えながら横に構え、苦悶に表情をゆがめながらも、リトルぺネントの触手を受け止めている、薄ブロンドの髪が印象的な、少年が目に入った。
「うおおォォォォッ!!!」
薄ブロンドの剣士は、咆哮しながらもリトルペネントの触手をはじき返した……
***
まさにキリトが攻撃されようとしていた時、レンは、自身のAGIを限界まで引き出し間に割って入った。
空気を切り裂くように迫ってくる触手、レンは腰に納めていた剣を抜刀し、そのままの流れで触手を剣で受け止める。レンの筋力ステータスとリトルぺネントのステータスとが激しく鍔迫り合いを始める。7:3の割合でAGIにステ振りをしているレンの筋力は、リトルペネントのそれに勝ることができず、少しずつ押され始める。
「うおおォォォォッ!!!」
差し込まれる前に、レンは刃をずらし、力を受け流すようにして触手をはじいた。パリィによってバランスを崩され硬直するリトルぺネント、
「喰らえ!!」
そのスキを逃さず、カズがソードスキル《ベルティ・スレップ》による痛烈な斬り上げを放つ。ズブリッと握る剣に不快な感触を残して、リトルぺネントの体はガラス片となって蒸散した。
「レン!まだ戦えるか!!」
「当たり前!!」
レンとカズは背中合わせになりながら、互いをカバーしあうように周りを見渡す。
少なくとも20匹、モンスターの姿形は様々だが、どのモンスターも目に見えて明らかな敵意を放っている。肌を突き刺すようなそのプレッシャーにレンは息をのむが、背中から感じるカズの温かさが、なぜかレンの心を落ち着かせていく。
「基本は一緒だ!カバーは任せて一匹一匹確実に仕留めろ!」
「分かった!信じてるぞ!」
レンの目の前にいるリトルペネントの間合いの外、約十メートルの所から、懐から取り出した投擲用ピックを二本取り出して投擲する。二本のピックは狂うことなくリトルペネントの体に突き刺さりHPを削る。
ピックには全てのHPを削るほどの威力はないが、ひるんだスキを狙ってレンは一気に間合いを詰め、勢いを利用して素早い切り下げをリトルペネントの腹に喰らわせる。
再び動き出したリトルペネントは、その触手をムチのように振るう。その攻撃を受け止めるのは無理だと判断したレンは横に跳んで体をひねる。触手がレンの肩を掠めるのも気にせず、レンは地面をけってまるでスライドするように再び間合いを詰める。リトルペネントの触手付け根あたりに一閃、それだけでは終わらない、普通ならあり得ない速度で手首を切り返し、更に一閃する。縦横二連撃ソードスキル《ダブル・アクセル》すべてきれいに喰らったリトルペネントは蒸散する。
だが、スキル使用による硬直時間がレンに大きなスキを作る。ウルフは、その鋭い牙を向け、レンの腕に喰らいついてくる。断続的に伝わってくる不快感が確実にレンのHPを奪ってゆく。少しずつ近づいてくる《死》、だが、レンは臆することなく、腕から振りほどき宙に浮かす。
「消えろォッ!」
何もできないウルフへピックを右手で投擲し、あいた左手の片手直剣で力の限り斬りつける。
肉を切らせて骨を断つ。当にその言葉が相応しいレンの戦闘は、ピリピリとした気迫が、はたから見ていることしか出来ないキリトとレナにも伝わってきた。
その頃、ろくにRPGなんてしてきたことがなかったレンのために、カズはモンスターのほとんどのヘイト値を自分に向けさせ、レンにかかる負担を減らしていた。わらわらと集まってくるモンスター達の間をすり抜けるように攻撃してゆくカズの圧倒的な戦闘力を前に、モンスターのほとんどは彼に手傷一つ負わせることなくただ散るのみだった。
「ふう」
緊迫した戦闘の中でも冷や汗一つ掻くことないカズは、ちらりとレンのことを見た。
いったい何体目なんだ、コッチもそろそろ……
もう何度目かわからないモンスターの消えゆくエフェクトを見、レンは疲労した頭でそんなことを考えていた。長時間の戦闘で疲れ切ったレンは、迫りくる三体のフレンジ―ボアに気づくことができなかった。
「レン!!後ろだ!!」
切迫したカズの叫び声、
「ガハッッ!!」
レンが振り向いたときには、三体の体当たりによってまるでパチンコ玉のように体が吹き飛び、あたりに聳える木の一角に激突した。
体当たりと、木にぶつかった衝撃で、レンのHPバーは危険値のレッドに染まり、先ほどまで握っていたはずの片手直剣はどこかにはじかれてしまった。
そんなレンを好機と見たのか、三体のフレンジ―ボアは一斉にレンへと向かってゆく。剣はすでになく、HPはとうにぎりぎり、殺意に体が凍りつく、心臓は馬鹿みたいに拍動し、恐怖に思考が停止する。そんな中で、湧き上がった感情は……一つだった。
――イヤダ、コンナトコロデ…シニタクナイ!!――
「うわぁぁぁぁァァァァ!!!」
レンは所持していたピックすべてを両手にまとい、スキルを発動。システムの補助を受けて高速でピックが飛翔してゆく。
投擲スキルの中でも上位に位置する十八連投擲スキル《アストラル・レイン》は鳩羽色の光の尾を引きながら余すことなくフレンジ―ボア達の至る所に突き刺さり、ガシャアアと音を立ててポリゴン片となった。レベルアップのテロップがどこか遠い彼方のように聞こえ、レンは意識を手放した。
――スキル《
夢「罠にかかった狼は足を噛み切るんだ。撃て!」(←リボルバーを構えて
レ「どうしたんだ?いきなり」
夢「いや、今回の話かいてたら何か思い浮かんじゃってさ」
レ「確かBF4、初っ端のダンのセリフだったっけ?」
夢「そうそう、所見のとき、あれで泣いてしまった。ほかに手はないのかなーってさ」
レ「まあ、あれは最初っからクライマックスだよな。でも、ゴーストでも同じようなシーンがあったよな?」
夢「ロークにローガンがトドメをさすやつか。確かに言われてみれば、まあなんにせよ今回の話は難しかった」
レ「ふーん?何やら新しいスキルを修得したっぽいが...」
夢「ああ、《A-ナイファー》のことね。ぶっちゃけると、あれがこの話のユニークスキルその1だよ。」
レ「その1?てことは他にもでるのか?」
夢「まあそれは追々、内緒ってことで」
レ「なんだよ、つまらね」
夢「まあまあそう言わずに、それじゃあ締めるか」
レ「オッケー」
レ&夢「「ここまで読んでくれてありがとうございます」」