SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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皆さんお久しぶりです。

割と久しぶりな感じがしつつ投稿したんですが、何分久しぶり過ぎるせいでタイプするのがしんどかったです。

それでは、ドゾ


Ep40: Hunting of TrickStar

「ゴルァァァァ!!」

「キシャァァァァ!!」

「っ......ふぅ」

 

 

 

......唐突に、"ユメ"から目を覚ます。

 

 

辺りに反響した、真に人外と呼ぶに相応しいであろうけたましいモンスターの声が、浅く微睡んでいたレンの意識を呼び戻したのだ。片目を閉じたままもう一方をその雄叫びがした方へ向けると、レンのいる篝火境界線目と鼻の先を、猿人とブタの混ざったような獣人系のmobがのっそのそと歩いていた。

 

「今何時だ?」

 

しかし、レンは全く意に介した様子はなくそう呟いたかと思うと、右手を振ってウィンドウを立ち上げ現在時刻を確認していた。その無機質なメニューには、3時21分とデジタルで表示されていた。ここで休もうと帰結したのが1時とちょっとだったので、おおよそ二時間といった具合だろうか。

 

「そろそろ移動しないと......」

 

レンが今いる場所は最前線中の最前線だが、いつ他のプレイヤーと出会うか分からない。今、攻略組との接触を極力避けたい彼としては、それだけはどうしても避けたかった。そして何よりーー

 

"今頃、アイツらもオレの事疑ってるんだろうな"

 

そう、今の彼には、どんな容疑がかけられているか解ったものでは無い。ただ一人容疑者の犯行を目にしたプレイヤー。そんな人物が、何の容疑も掛からないハズが無い。

 

"ああは言ってるが、実はレンがやったんじゃないか?"

 

加えて、レンはその次の日に忽然と姿を消したのだ。たとい半信半疑な嫌疑だろうとそしてその嫌疑が間違ったものであったとしても、これまでのレンの行動はそれらに現実味を帯びさせるには充分過ぎる。仮にタークスの連中にでも見つかってしまえば、拘束される恐れすらある。

 

"ヤレヤレ、コレがホントの四面楚歌って奴か"

 

そんな自身の現状を自嘲気味に笑って、レンはすくっと立ち上がった。さっと装備のストックなどを確認。そのまま、レンは万が一の逃亡用に握っておいた転移クリスタルを高々と掲げた。

 

「転移!三十六層《ヴァニティー》!!」

 

次の瞬間、レンの視界は完全にホワイトアウトした。

 

***

 

次の瞬間にレンの瞳が映したのは、夜の漆黒に染まりあがって彼以外にプレイヤーは一人としておらずポツンと孤独に佇んでいるレンガ造りの転移門前広場だった。その様はまるで火を落とした暖炉のようで、吹き抜ける通り風すらもの侘しいものがある。そんな、致命的なまでに人気の欠如したその場所を、レンは自身のロングブーツの底が地面のレンガとぶつかり反響する音だけを耳にしながらひたすら歩いて行った。目指すはこの層のフィールドへと。時たま時代錯誤に色ボケた看板を大通りに掲げる宿屋の標識すら目に止めることはない。

 

***

 

「ギャアッッ!!」

「失せろ」

 

毒々しいまでの血紅色に染まった鋭利な牙を向けて襲いかかってくる《レッドファングウルフ》を、レンは忌々しそうにそう吐き出してから手にするカトラスを走らせた。逆手に寝かせたカトラスの刃は横一閃にウルフを捉え、そのままその毛並み艶やかで隆々とした体躯を両断した。

 

「フッ!!」

 

ミシリッと、耳に届く金属の軋む音。刹那、レンは順手に剣を持ち替えると半孤を描くような軌道でカトラスを掬い上げ、横に両断されたウルフの体躯を更に縦へ切り裂いた。

 

「キャンッ!!」

 

縦と横、つまり自らの体躯を四等分に分割されたウルフは、そんな僅かな悲鳴すら満足に上げることすら許されず、鈍い破裂音と共にガラスの如く散っていった。

 

「............」

 

振り上げたままのカトラスをクルリと一回転させ、そのまま腰のベルトへと通す。そして軽く、毒づいた。

 

「もう歪んだか......」

 

本来レンの体と水平でなくてはならないハズの腰に吊るされたカトラスは、柄の部分からレンの体と離れるように外側に曲がっていた。彼の行使に、剣が耐えきれていない証拠だった。いや、この場合は、彼自身の技量が煩い、といった表現の方が的を得ていようか。

 

「............」

 

 

"お前は、俺みたいに『強く』はなれない"

 

己の手へと視線を落としながら、彼はそんな親友がかつて言っていた言葉を思い出す。

 

「まぁ、最初から分かってたけどな。カズ」

 

その呟きは、今はなき友へと

 

 

そこで、彼は思考を打ち切る事にした。

 

周囲の状況を軽く探ってからレンは再び歩き出す。彼がこの層のフィールドに潜ってから既に三時間。その間レンは常に休むことなくフィールドを練り歩いてmobと共に踊っていたが、未だそのHPバーは安全値を保ったままだった。そもそも、彼がこの層に於いて遅れを取ることは万が一を除けば有り得ない。理由は至って簡単で、レンのLvはこの層層で必要とされるマージンを二回り程上回っているからだ。そうして、レンがスカウティングのスキルによる《追跡》によって地面に残された夥しい量の足跡を観察しつつ南へ向かうその時だった。

 

「っ!!」

 

彼のスカウティングがもたらす多大な索敵範囲に尋常ならざる数の反応。そしてそれを待っていたかのように、

 

「「「うわあああああああああああ!!!!!」」」

 

そんな悲鳴が聞こえた。

 

「......ちっ!!こっちか!!」

 

レンの全神経に鋭い電子信号が走り、その体へと撃鉄が落ちて、思考回路が切り替わる。前へ前へと飛ぶように進むたびに、レンは地面が抉れ削れるかの如く足を動かす。その反応源はぐんぐんと近づいてゆき、その凡そ一分も経たぬ内にレンはその場所へと辿りついた。

 

***

 

「ひゃああああ!近づくな!!」

「助けてくれェ!!」

「だ、誰か!!」

 

その場で繰り広げられていたのは、地面へとへたれこんで肩身を狭く縮こまっている三人と、そんな彼らを絶好の獲物だと言わんばかりに冗談のような数で取り囲む、大小様々なmobの集団だった。それだけでも十分に危険であるのに、何よりも危険だったのは地面でひれ伏している三人のプレイヤー全てに武器が握られていないことだった。何があったのかは知り得ない。途中で無くしたか、破壊されたか。ただ目にしたその事実だけで、レンは己が何をすべきかの最適解を弾き出していた。

 

「ちっ!!」

 

両手を腰に誂えてあるポシェットに滑り込ませ、指と指との間に一本づつ、左右合わせて計四対をブレードグリップに握りこみ、

 

「お前らの相手は......」

 

体の全制御権を一時的にシステムへと委ね

 

「コッチだっ!!」

 

裂帛の声と共に、今にも彼等へと踊りかかろうとするmobの集団へと投げ放った。臙脂色の光の尾を引きつつ、投げ放たれたナイフ達は一度不規則に揺れたかと思うと、やがて獲物を捉えた獣のように、真っ直ぐに飛翔、風を切り裂く鈍い音を発しながら、その一本一本が別々のmobへと突き刺さった。すると、今迄こんなに接近していようが目もくれなかったmob達は、一斉にその敵意に満ちた獰猛な目をレンへと向けた。彼がA-ナイファーによる投擲スキル《アセットシュート》の攻撃を加えたことで憎悪値(ヘイト)の対象を自分に変更させたからだ。

 

「そこの三人!早く新しい武装に切り替えて端の方で固まって互いをカバーしろ!!」

 

ショルダーホルスターから《黎元》を取り出しつつ、レンは未だ何が起こっているのかイマイチ状況を呑み込めないままでいる三人へと鋭く指示を飛ばした。そこに至ってようやく縮こまっているばかりだった3人も慌ててはいながら彼の指示に従った。それを横目で確認していたレンは,漸く自身の神経の全てを目の前に対峙するmob集団へと向けた。

 

「ゴブリンファイターが八、ウォーウルフが三、トライデントオークが六か............」

 

計十八体。レンが所持する《スカウティング》スキルの協力な索敵能力は、たちどころにこの場すべてのmob総数は勿論、その一体一体の詳細に至る全てを掌握していた。それにしても、あっという間に彼の周りを取り囲んだmob集団へ取り出した《黎元》の鋭い二対の刃を向けながら、極限まで引き上げられた集中力で間合いを測り合う傍ら、レンは目の前に広がる光景に内心驚きを隠しえていなかった。何がどうなってこのような状況になったのかは知らないし、知ろうとも思わないが、集まっていたmobの数とバリエーションははっきり言って異常だった。

 

加えて、それぞれがかなりクセを持つのだから尚タチが悪い。少々小柄な体に、ナイフはダガーから果ては長槍やハンドアックスに至るまで実に様々な武器を手に取るゴブリンファイター、大型犬ほどの大きさながら素早い攻撃と身のこなしを併せ持つウォーウルフ、屈強な体躯でそのすべてを絶対的な力で鏖殺するトライデントオーク。成程コレならば確かにその無尽蔵じみた攻撃バリエーションは十二分に脅威たり得る。ここまで集まっているのは不思議だが、件の三人が忽ち混乱しやがてピンチになったであろうその過程は安易に想像が付く。しかし、レンにそれは許されない。ここでレンがピンチに陥るということはイコール後ろで固まる三人の命の終を意味する。

 

「ガァアアアアアアア!!」

「アオーンッ!!」

「オオオオオッ!!!」

「くっ」

 

獣の雄叫びが空をつんざき、一斉に飛び掛ってくるモンスター集団へと、レンもまた微かに口元を釣り上げてから踊りかかった。

 

***

 

「せあ!!」

 

《震脚》による踏み込みで地面を踏み鳴らし、レンは気合と共にSーナイフゴブリンの振り下ろした長剣を受け止めた。微かに後退しつつも、衝撃を肩口から全身へと分散させてその長剣を横へと逸らしきると、空いたゴブリンの横腹へ《連脚》を叩き込む。

 

「グルアアア!!」

「っつ!!」

 

そんなレンへ背後から接近した長槍使いのゴブリンが突きを放つ。それを、レンは左手に持つS-ナイフで槍の下腹を叩くと、そのまま微かに上へと逸らしながら軸足の左を踏み込み《活歩》による高速移動で滑り込むように詰め寄る。懐に潜り込んだ長物程、無用なものは無い。低く保った姿勢のまま、レンはアッパーカット気味に《冲捶》を放ち、間髪入れずに《鎖歩》でゴブリンの軸足を払うと、姿勢後ろに傾くゴブリンから長槍を奪い取ってその厚い胸板を穂先でぶち抜く。皮肉にも、己が手にする武器によって止めを刺されたそのゴブリンは、そのまま虚しく消滅した。

 

「次っ!!」

 

長槍の柄を両手でしっかりと握り、すぐ背後で仲間の仇を取らんと長剣を振り上げるゴブリンを槍の柄で強打し、そのまま脇下を潜らせるようにして右手でキャッチ、槍を持ち替え穂先で逆袈裟に切りつける。彼自身は《槍』スキルを所持していないためにそのダメージはさほど多くはないが、それでもすっかり減少しきったHPを削り取るには充分。更に一体のゴブリンが仲間の後を追った。

 

"これで八体目!!"

 

彼がこのmob集団と矛を交えてから既に三十分と二十八秒。その間で既に四体のゴブリンと三体のウルフ、そして一体のオークを屠り殺していた。A-ナイファーの機動力補正を極限まで引き出して場を駆け抜け、《八極拳》スキルの体術とナイフさばきで常に近接を保ちつつ、時には相手mobの武器を奪う(スナッチ)しながら状況に応じて攻撃手段を変える。

 

その、時間の経過とともに衰えるどこらか更に苛烈さとキレを増してゆく彼の姿は、とてもPvMを苦手としているとは思えなかった。そう、戦うその姿はまさに"鬼神"の如く、必要とあらばあらゆる武器すら扱ってひたすら敵を屠るソレは正に"軽業師"。そんな彼に、この層のモンスターは一体幾許程立ち向かえようか。未だ鮮やかに光をたたえるレンのHPバーがそれを如実に表していた。いや、最早この戦いはレンによる一方的な"虐殺"にも近い。

 

そんな絶望の中でなお、mobとしてプログラミングされたかはたまた殺された仲間への怒りなのかは理解しかねるが、残された五体のゴブリンファイターはまだその戦意を萎えさせるどころか更に増していた。一方的な"虐殺"とは言ったものの、レン自体にはそこまで余裕があるわけではない。彼の防具はその装備数の多さと身軽さを引換に装甲を犠牲にしている為、元々レン自身がそこまで耐久力がないのも相まってたといこの層のモンスターであろうと喰ら続ければ一溜りもない。しかしだからと言って、レンがここで退いていい理由にはなり得ない。

 

「せっ!!」

 

正面より僅か左にいる大鎌持ちのゴブリン目掛けてレンはその長槍を投擲した。更に右のレッグホルスターからC-アックスを取り出し、大鎌持ちのカバーへと入ろうとするダガーもちへと投擲、同時に両足で地面を蹴り穿って跳躍、空中で体を逆さまに、C-アックスがゴブリンの顔へと着弾すると同時に左手はゴブリンの頭部へ添え、右手は刺さったC-アックスを引き抜いてから一息にゴブリンの首を切断、体を振り子のように戻してその背中を蹴り飛ばすと、レンは槍を投擲した大釜持ち目掛けてミサイルのように飛んだ。見事胸板の中心部を貫通させられたままの衝撃にたたらを踏むゴブリンへ更に槍を殴りつけ、背後に回り込むと同時に槍を引き抜く。手の上で槍を滑らせるように回転させ、そのまま八の時を描くような軌道で円環状に旋回、所謂ヌンチャク振りにも似た動作でゴブリンへ追撃を加える。鋭利な穂先とその逆柄の先端による乱撃は、例えるなら荒れ狂う嵐の如く。

 

「ギャオオオオッ!!」

 

悲鳴にも近い咆哮を上げながら、十三連撃目となる横殴りでそのゴブリンは首をもがれたダガー持ちと同様に消滅した。

 

「キシャアアアアッ!!」

「おっと」

 

その横から強襲せんとするハンドアックスのゴブリンだが、極限状態にあるレンにはそれすら読み筋通りだった。流れのまま槍を引き戻し、地面に突き立てると、それを軸に身を投げ出して地面と水平のまま背筋の力だけで旋回しつつ両足でゴブリンのハンドアックスを蹴り飛ばし、槍を握る手を離してから飛び移った。構え直しておいたS-ナイフでその脳天を串刺しにし、そんなレンを払い落とそうと両腕を振るうゴブリンの手をスレスレで躱し、大きく飛翔した。機動力補正を受けて常人より尚高く舞い上がったレンは、空中で体を反転、空いている右手でホルスターから残っていたトマホークとC-アックスを取り出し、計六本を一息の内に投擲した。一投目はゴブリンの右肩を吹き飛ばし、二頭目で左肩を、三頭目にはゴブリンの体ごと消滅させる。残りの三投はその後にいたバスタードソード使いのゴブリンへ襲いかかり、

 

「そこだ!!」

 

左手に握る《黎元》の照準を合わせ、トリガーを引いた。軽やかな作動音と共に飛翔するその刃は、程なくしてゴブリンのクリティカルポイントたる喉元二センチの頃へと着弾した。重力に従い地面へと向かうレンが身を翻すのと、そのゴブリンが死滅するのは、ほぼ同時であった。

 

残りはあと僅か。しかし、地面へと軽やかに着地したレンは、そのまま追撃を重ねることなく体操選手じみた体裁きで後方へと背転した。勿論、逃げる為ではない。彼とて許されるのであれば追撃を加えて残り三体と一体となったゴブリンとオーク惨殺、解体してのけようが、それをしようにも今の彼には武装が絶望的な迄に足りていない。未だ手に握るS-ナイフの替刃は既に品切れ。残されたのは今装填されてある刃のみ。一度射出してしまえば、立ちどころにレンは主武装の一つを失ってしまう。どちらにせよ、B-ナイフよりも致死率が高い変わりにナイフとしてのダメージが低く設定してあるS-ナイフでは続行は厳しい。

 

「かと言って、こっちも切れてるんだよな」

 

そうぼやきつつ、レンは自身の脚部へと視線を落とした。そこには、本来トマホークかC-アックスがストックされているハズのレッグホルスターが空っぽのままあった。先程投擲した六本で、レンは丁度ホルスター内にある全てのストックを使い切らしてしまったのである。再び使用するには、ストレージ内から補充するしかない。残された手段はその身に詰んだ"八極拳(クンフー)"のみだが、そもそもこの《八極拳》も硬直時間がほぼゼロに等しい代償として技一つ一つの威力は他のソードスキルに比べて弱い。これだけでは、少し心ともないものがあった。

 

「相変わらずの欠陥ぶりだよ、全く」

 

そうぼやいてから、レンはメニューウィンドウを立ちあげると、装備スロットから次のホルスター一式をクイックチェンジの要領で交換する。いちいち丁寧に一回づつ武装を補充するのではなく、予め補充済みのモノをホルスターごと取り替える......これが、レンが考えついた限りでは最も効率が良く隙の少ない方法であった。例えるならば、銃と弾倉との関係性に等しいだろうか。レンという投擲者()弾切れ(使い果たす)を起こせば新たな弾倉(ホルスター)リロード(交換)する、といった具合に。だが同時に、これこそがA-ナイファー特有の弱点であるとも言える。現状このSAOにおいてはストレージ内の物をタイムラグ無しで実体化する手立てもMODも無い。いくらクイックチェンジによるコンマ何秒かの交換を行おうとも、その性質上必ず交換はしなくてはならないもの。何よりその都度メニューウィンドウを立ち上げなければならない。そしてその間だけは、どうしても集中がその一点に向いてしまう。PvP、PvEに関わらず、戦いというのはそれ即ち命のやり取りである。そんな中で例えコンマ何秒かの極僅かな時間といえども集中を切らして隙を作ってしまうことは、愚行も甚だしい。彼が、周りにある相手の武器を奪って攻撃手段として扱うのは、別に浪漫を求めたとかそういうわけではなくこのA-ナイファー特有の弱点をどうにか克服しようと試行錯誤を繰り返した結果の果なのだ。他の武器と違って著しく継戦能力の低いA-ナイファーにとって、"相手の武器を奪って得手を切り替えながら戦う"という戦闘スタイルは、効率面と実用面の両立がなされた手であったのだ。

 

「ギャルアアアアアア!!」

「まずっ!!」

 

レンが丁度ホルスターのリロードを終えようといったところ、その僅かな隙を縫って、十分に間合いを引き離しておいたハズの曲刀を持ったゴブリンが詰め寄ってきた。あの隅に固まって周囲を警戒している三人組に目もくれないのは、レンが同族を殺し続けたせいでヘイト値が振り切れてしまっているから。兎に角、ソレは完全にレンの予想外の事態だった。

 

「くっ!!」

 

横薙に振るわれる曲刀。

 

表情から余裕の色が消え、レンは咄嗟に空いている左手をその軌道上に立てて身構えた。しかし、そんな即席のガードは役に立つわけがない。

 

「がッ!!」

 

その曲刀はレンのガードなど初めから無かったかの如くいとも簡単に弾き、その鋭利な刃がレンの体を横一文に切り裂いた。更に今までのお返しだと言わんばかりに、その後ろから追撃するオークの手にした凶器じみたゴツさの棍棒を、その隆々とした筋肉を遺憾無く使って切りつけられたレンへと叩きつけた。

 

「ガァ」

 

視界が馬鹿みたいに歪み、全身を凄まじい衝撃が走る。ソレは、つい体がバラバラに千切れたのではと錯覚してしまうほど。だが、そんなレンなど露知らず、オークは再び棍棒を振り上げてレンへと追撃していく。その重すぎる攻撃をどうにか出来る手立ては、今のレンにはなかった。

 

「グッ!!」

 

結果として、その絶大な威力に耐え切ることが出来なかったレンの体は、まるで芥子粒のように、いとも簡単に弾き飛ばされた。

 

「ガハッ!!」

 

受身もままならず、背中から綺麗に地面へと叩き落とされたレンの口より、行き場を失った空気が漏れる。全身は痺れたように動かず、視界はぐらついて視点が定まらない。

 

「この......野郎ぉ......」

 

そんな体にムチを打って、レンは己をふらつかせながらも立ち上がった。先程までグリーンの輝きを保っていたHPバーはオレンジにまで落ち込み、

 

カラァァァン!!

 

吹き飛ばされた時に握り損ねたS-ナイフがふわり地面を舞った後に軽い金属音を響かせながら地面へと転がった。

 

「おいおい勘弁してくれ......」

 

握っていたハズの両手を見つめつつ、レンはただそんなことしか言えなかった。たった一瞬のスキが、レンからHPをゴッソリと奪ってゆき、得手すらも失わせた。有利にはたらいていた状況は一気に悪化、彼はだたひたすら、Aナイファーに課せられた制限の多さ、取り回しのできなさに呆れた。

 

「グワアアオオ!!」

 

しかし、そう悲観に暮れてばかりもいられない。無手となった彼を好機と見たのか、三体のゴブリンはそれぞれが手に持つ得手を高々と構えてから迫ってきた。握っている得手の種類は、曲刀、短剣、直剣のそれぞれ三つ。

 

「仕方ないか」

 

僅かに腰を落として軸足を入れ替えたレンは、右手で新しくリロードされたレッグホルスターからC-アックスを一本取り出し、もう一方の手で腰に吊るしてあるレリーファを構えた。逆手に持ったC-アックスと、順手に握るレリーファ。その組み合わせは、旗から見ればとても独特にしていびつなものであった。

 

三体の内最初に襲いかかってきたのは先程レンに一死報いた曲刀使い。彼の持つレリーファに似た緩く反った刀身を横に寝かせつつ、そのまま横殴りへと。それを、レンは走り込みながら突っ込んでゆくと、あわやその刃が彼の頭を撥ねるかと思われた瞬間、スライディングの要領で全身をパタリとたたみ滑りこみながらレンはその一撃をやり過ごす。ゴブリンの背後を取ったところで体を跳ね起こし、

 

「せあ!!」

 

気迫とともにその無防備な背中へとカトラスを走らせる。そんな彼の背後から、今度は直剣を手にしたゴブリンが迫り来る。

 

「ゴァァァァ!!」

「シッ!!」

 

逆風に振るわれる直剣、レンは曲刀使いの左腕をとっさに掴み、そのままその脇下をくぐり抜けながら場所を入れ替えると、そんなゴブリンを盾として迫る一撃を避ける。

 

「ホラよっ!!」

 

掴みっぱなしだ手を離し、握りこぶしを作りながら体へと引き絞り、渾身の冲捶でゴブリンの体を吹き飛ばす。

 

「ギャォォォォ!!」

 

悲鳴を上げつつ後ろへと吹き飛ぶ曲刀使いは、やがて呆然と立つままの直剣使いを巻き込んで衝突、そこでレンは左手の平でカトラスをクルリと反転させ、そのまま切り込まんと駆け出す。体制を整えてから、再びレンとの距離を縮めてくる曲刀使いと、それに続く直剣使い。それを、レンはまずカトラスを逆手のまま薙ぎ払って曲刀使いの首を斬りつけ、流れるように身を翻してからもう一方のゴブリンと間合いを詰め、払われた直剣をやり過ごしてから右手に持つC-アックスで胸元を斬りつけ、怯んだところを引き戻したカトラスでそんなゴブリンの銅を串刺しにした。HPバーがその鮮やかさを失い、直剣使いの体がポリゴンとなって爆散。

 

「お前も一緒だっ!!」

 

カトラスから手を離し、レンは素早く振り返ると、その勢いのままC-アックスを一直線に投げ放った。綺麗な直線を描いて飛翔するC-アックスは、丁度振り返るところだった曲刀ゴブリンの頭部を綺麗にブチ抜いた。

 

「あとニ体!!」

 

地面に突き刺さっていたままのカトラスを蹴りあげてキャッチし、腰へと収めてからレンは残った二体へと駆け出した。

 

***

 

この世のモノとは思えぬ程に驚異的な身のこなしと、卓越した戦闘能力を目の当たりにした三人は、武器を構えるのも忘れてソレに魅入っていた。そも、武器を手にする必要すらなかったのだ。この場にいるほぼ全てのモンスターのタゲをただ一人で取り続け、時たまその常識を外れてこちらへと向かってくるモンスター達もいつの間にか投擲された投げナイフで半ば強制的にタゲをとってしまう。こんな、絶望的な状況でも周囲の状態を瞬時に汲み取る視野の広さ、そして何よりも機械じみた冷静さは彼らに畏怖の念すら抱かせた。

 

「あいつ!一体何を!?」

 

だからだろうか、突如として武器を収めてから駆け出す彼の姿を見て、内一人が声を荒らげたのは。未だ残るモンスターは二体。だと言うのにレンは無手のままでその二体へと駆け出しているではないか。

 

正気を失った?

 

いや違う。

 

諦めた?

 

いや違う。何故なら、未だ輝くその紺碧の双眸は光を湛えたままだ。そう、彼は勝負をかけにきていたのだ。

 

***

 

レンはトップスピードに自身を持ち込んでからグングン対峙する最後のゴブリンとの距離を零へと近づけてゆく。そうして、最後のゴブリンが戦斧を振り下ろしたところでレンは両足で急ブレーキを掛けて、上半身を後ろに逸らしスレスレのところで戦斧を躱す。地面に突き刺さる戦斧。体を引き戻したレンは、そのまま戦斧を伝って駆け上がると

 

「はぁ!!」

 

ゴブリンの肩口を踏み抜いて大きく飛翔した。

 

空中で体制を変更させ、両手から地面へと着地、その時落ちていたある物を掴み取ってから一回転、再び両腕の力のみで中へと飛び上がった。

 

「あれはっ!!」

 

弾け飛ぶように急上昇したレンはいとも容易くその横にいたオークの上背をも上回り、そこで漸く三人の内一人がソレに気が付いた。

 

彼のその両手、先程まで無手だったハズのソコに、二対のS-ナイフが握られていたことに。そう、彼が無手のまま突っ込んでいた理由は、地面に転がっていたS-ナイフを手に取るためだったのだ。ついでに言うなら、あの短剣使いと直剣使いのゴブリンと闘った時から既に、最終的にこういう配置となるように細かい誘導を加えていた。

 

「はあああああ!!」

 

そのまま体を旋回させ、追撃に振り上げられた棍棒をヒラリ躱し、そのまま全体重を乗せた三連撃をオークの頭部へと叩き込んだ。だがそれでも、減少したHP量は雀の涙ほども無い。だがーー

 

「まだだ!!」

 

そんなこと、レンが知らないわけがない。重力に従って落ちてゆくさなか、レンは器用な身のこなしで次々とオークの体を斬り刻んでゆく。首から下へと掛けて斬りつけ、穿ち、蹴りあげてから、レンは片手で地面へと着地すると、勢いを殺すことなく水平蹴りをオークの両足へと加えて、全身を使っての《鎖歩》によって相手の体制を崩す。

 

「グォォォォォ!!!」

 

地面へと転がろうとするオーク。ソレは、レンにとってしてみれば最高の状態でもあった。取り出したトマホークを放り投げ、全身をバネのように使ってから再び宙へとジャンプしたレンは、倒れるオークが無防備に晒したクリティカルポイントーー股からほんの僅か上にある、男子にとっ命の次に大事なソコーーへと握るS-ナイフの照準を構え、そのままトリガーをふわり引き絞る。

 

「追撃ッ!!」

 

空中で綺麗に一回転し、落ちてくるトマホークへと振りかぶった左足を捉えたレンは、一切の迷いなくそのトマホークを飛び越えたゴブリンへ蹴り穿つ。

 

「「ガッ!!」」

 

クリティカルポイントをS-ナイフの刃で穿たれたオークと、トマホークで頭部を綺麗に吹き飛ばされたゴブリン。体格もその種族すら全く違うこの両者は、何故か最後の悲鳴ともつかぬ声だけは揃えつつほぼ同時に消滅した。

 

 




最近のゲーム界隈の話でホットなのは(あくまでも自分の中で)

UBIソフトから発売の"トム・クランシー ディビジョン"のベータ版が配信された事ですかね。このゲームは2013年のファーストデビューの頃から気になっていた作品の一つで、かなり期待している作品の一つなんでかなり嬉しいです。

残念ながら未だps4が買えぬ状況なんでこっちはyoutubeに上がったりするベータ版動画を見て判断するしかないんですが......

間違いない、コレは買いだ(確信

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