まるでローマのヴェネチアに似た、迷路のような通路を、まるですべて把握しているかのようにするすると抜けてゆく。
混乱が渦巻く始まりの街の広場から聞こえてくるさまざまな声はすでに聞こえなくなり、それにつれて停止していたレンの思考力も少しずつ回復していた。顔を見上げ、自身の引っ張る人物の顔を確認した。先ほどまでとは打って変わり、覗かせる横顔は力強く、吸い込まれるような漆黒の瞳からは、煌々と輝く強い意志を写す。纏う雰囲気は別物だったが、それは紛れもなくレンのよく知るカズそのものだった。
終始無言でレンを引っ張り続けたカズは突如として立ち回り、状況を飲み込めずに困惑の色を顔に浮かべているレンに向かい合い、
「これから俺はβテストの頃の知識を最大限に生かしてフィールドに向かう。レン、お前も来ないか?」
と、いつになく真剣な表情でレンへと尋ねた。しばらく、レンは絶句した。デスゲームとその姿を変えたSAOは今、レンたちプレイヤーは常に死と隣り合わせのようなものである。ましてやそんな状況フィールドに出るなど、死地にわざわざ飛び込むも同然である。思わずレンは長らくの親友の正気を疑った。
「何故だ……どうしてフィールドに出ようとする?この状況でフィールドに出れば….
死に行くようなもんだろ」
消え入りそうなほどに震えた声でレンはカズへと疑問をぶつける。するとカズはニカッと笑みを浮かべ、
「MMOってのはリソースの奪い合いだ、早ければ早いほど有利なんだ。まあ、そんなことは俺にとってどうでもいいんだ。確かに、ずっと引きこもっていれば安全だろう。でも、アイツが言た通り、脱出するには誰かがやらないといけない。たった一度きりの人生、楽しまなきゃ損だろ」
とんだ楽観的思考である。しかし、一点の曇りもなく、毅然と笑うカズの姿を見て、レンは自身の震えがおさまっていくように感じた。
今フィールドに行けば死と隣り合わせは確実。でもカズの言うとおり誰かがやらないと始まらない。なら…俺は……レンは顔を上げ、幼い子供のように輝くカズの瞳を覗きこんだ。
ああ…カズは変わらないな。どんな時も前を向いて…そんなアイツにどれだけ助けられてきたことやら…...
不思議と、今までまとわりついていた恐怖心がなくなっていくのをレンは感じた。風前の灯も同然だったレンの心に再び火がともる。胸の内に芽生えた新たな決意とともにレンは返事を待っているカズに返した。
「分かった。俺もお前に付いていく」
「そうこなくっちゃな!じゃあ行こうぜ」
再び爽やかな笑顔を浮かべ、カズが突出してきたこぶしに、レンも自身のこぶしを合わせ、力強い足取りとともに二人はフィールドへと向かった。
***
デスゲーム開始の宣言が茅場によってもたらされた後のキリトの行動はとても早かった。数時間前ほどから行動を共にしてきたクラインをつれて、一緒に次の街であるホルンカの村へと来ないかといった旨を伝えた。
当然付いてくるだろうと思っていたキリトの思惑は、しかし、ボイスチェンジャーの機能がなくなり、180度変わったクラインの声によって否定された。
「おりゃあ、まだ広場に仲間がいるはずなんだ。一緒に徹夜して並んだ仲間だ。みすみす置いていくわけにゃあいかねぇんだ」
二人ならなんとかなる。でもこれ以上人数が増えてしまうと…キリトは思考を巡らせていた。すると、よほど表情に出ていたのか、クラインはキリトの肩をたたき、
「大丈夫だよ。俺たちで何とかして見せらぁ」
と告げた。そう言われてしまうとキリトはなにも返すことはできなった。覚悟を決めて背を向けた。
「キリト!おめえ結構かわいい顔してんな」
「あんたも今のほうがカッコいいよ」
そんな軽口をたたきあいながら、二人はそれぞれの道へと進んだ。その後のキリトは、初期装備の皮防具に身を包み、青々とした若葉生い茂るフィールドをわき目も振らず走り続けた。
かなりの速さで駆け抜けたため、もはや始まりの街は遥か彼方に霞んでいた。道中、キリトを襲ってくるモンスターはすべて、この世界の現時点で最も価値があるだろうβテストも知識をフルに活用し、戦闘を展開するキリトの前に、障壁にすらなりえなかった。
すべてはこの世界で生き残るため、それが、クラインすら置き去りにしてきたキリトの決意だった。
「すいませーん、少し待ってくださーい」
少し高めの、ソプラノ声が聞こえてくる。キリトが振り返ってみると、ずっと追ってきたのだろうか、少女が息を切らせながら立っていた。
「ハアハア……あの…一緒に付いていってもいいですか?」
「ええーと…その…」
あまりの突拍子な出来事に、キリトは言い淀んでしまった。
かがんでいるので、同い年くらいだろうか、目の前の少女の顔を窺うことができなかったが、アインクラッドの夕日に照らされ、煌びやかに光る藍色の髪がとても印象的だった。
「いいけど、君は…」
「ありがとうございます!私、レナって言います」
レナと名乗った少女は、顔を上げながら、笑顔でそう言った。
陶磁器のようにきめ細かい白い肌、ツインテールに纏められた藍色の髪、それと対照的な黒く大きな瞳、まるで人形のように整った顔で笑うレナは、だれが見ても綺麗だった。
「俺は、キリトだ。よろしくなレナ」
「はい!」
その笑顔を見て自身の体温が高くなるのを感じたキリトは、目の前の少女に悟られないように歩を進めることにした。
***
「ふっ!!」
レナの立ちぶるまいなどから、元βテスターというわけでもないだろうと推測したキリトは最初、不安だったが、結論からいって、それはただの杞憂に過ぎなかった。
知識は別として、レナの戦闘能力は非常に高かったのだ。何の変哲もない短剣を、まるで自身の手先のように自在に操り、敵を翻弄するその姿はまるで舞を踊っているよう。
キリトは、今が戦闘中だということも忘れて、そんなレナの姿をしばし見つめていたが、フレンジ―ボアが迫るのを確認すると、再び意識を集中させた。
βテストの頃見飽きるほど戦ってきた相手だ、キリトにとってそこまで注意をするべきものでもなかった。ボアの突進に合わせてキリトは片手直剣を構える。イノシシの名の通り素早い突進を左に避け、その横腹に水平に剣を振る。
それでも怯むことなくなお突進してくるフレンジ―ボアに対し、キリトはソードスキル――バーチカル――を放つ。青色の輝かしいライトエフェクトとともに、二連撃の剣の軌跡が、フレンジ―ボアへと牙をむく、カウンターにも近いその攻撃は、フレンジ―ボアに反応させる暇を与えることなくHPを削り取り、鈍い破裂音とともに消え去った。
「終わったみたいだね」
戦闘が一息ついたところでレナがキリトに駆け寄ってきた。
「ああ、そっちは大丈夫か」
「もっちろん!大丈夫だよ!」
エッヘンと胸を張るレナにキリトは思わず苦笑してしまった。
「もおーバカにしてー」
そんなキリトの態度が気に入らなかったのか、レナはそっぽを向いてしまった。
「ゴメンゴメン。ついね」
「まあいっか。じゃあ先いこ?」
「あ!ちょっと」
そんな弁解に穏やかに笑い、レナはキリトの腕を引っ張って先へと進んでいった。
***
キリトとレナの二人は、数多くの戦闘を、危なげなくこなしながら、着々とホルンカの村へ近づいていった。
二人のコンビネーションは、烈火のごとき激しさ、そして堅実。舞い踊るレナにキリトがフォローしながらモンスターを倒してゆく。順風満帆ともいえる二人の戦闘は、しかし、レナがあるモンスターを屠ったことで一変した。
夢「どうも!作者の夢見草です!」
レ「レンだ」
夢「そして今夜はスペシャルゲスト!本作品三人目のオリキャラ、レナに来てもらいました!」
レナ「どうも!レナです♪」
パチパチパチー
レ「あれ?カズは呼ばないのか?」
夢「うーんスケジュールになかった」(←ネタ帳を確認しながら
レ(あ、カズが陰で泣いてる)
レナ「私、結構いきなり本編に現れたけど...なんで?」
夢「構想ではキリトの登場と同時期に出すのは決まってたんだけど、何よりも今までレナの性格に色いろ四苦八苦したのが理由かな」
レ「珍しいな。あんたがそこまで熟考するのは。俺とカズなんか結構適当だったくせに」
夢「(ギク!)そ、そんなことない。うん。」
レナ「焦ってる焦ってる」
夢「本編では、レナにはある重要な役割があるんだ。だから仕方がないね」
レ「ほお、駄作者の割にはちゃんとしてるな」
夢「相変わらずだな。で、決まったのが快活で明るい性格ってわけ」
レナ「ふーん。そおだったんだ」
レ「文章力のなさがレナの性格を表しきれてないがな」
夢「ハア...少しは褒めてくれても...」
レ「却下で」
夢「ハハハハ(遠い目」
レナ「あ!作者が!」
レ「いいんだ。ほっとけどうせまたゴキブリの如く生き返ってくるさ」
レナ「そんなもんなんだ。じゃあ、そろそろ締める?」
レ「そうだな」
レナ&レン「「ここまで読んでくれてありがとうございます!!」」