SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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本当に更新が遅れてすいません(大土下座)

ここ最近ずーとこのオリジナル編のストックを作っていました。なので結果とても遅れてしまいました本当に申し訳ありません(大大土下座

では、本編をどうぞ!!


Ep34: Shadow’s hiding in your eyes

「じゃあ、式は明後日だからな?問題ないよな?」

「ハイハイ、判ってる」

「じゃあ行こうぜ?アルゴ」

「あいヨ」

 

軽く打ち合わせを済ますと、レンは出口に向かって歩き出す。その数歩遅れて、アルゴがトコトコとソレに続く。これが、彼女のいつもの立ち位置だった。何故か、疑問と言うより不思議に思い、レンも何度かその理由を聞こうとした事がある。しかし、返ってくるのは何の脈絡もない要領を得ない言葉ばかり。まあ、特に自分に何かあるわけでもないかと考え、あまりレンが追求しなくなったのもつい最近のことだ。

 

「ああ、それと。式にはドレスコードがあるらしいから」

 

思い出したように立ち止まると、レンはふとそんなことを言った。

 

「へ?ドレスコード?例えばドレスとか?」

「それ以外にあるかよ。因みに、男子はタキシード又はスーツ着用なんだってさ」

 

まったくメンドイ……とでも言いたげに肩を竦めるレンだが、シェリーにはそれどころの話ではなかった。結婚式ならば、ドレスコードはあっても何らおかしくはない。SAO内でも現実でいう常識の範疇に落とし込んで考えれば普通だ。シェリーにとって問題だったのは、女性のドレスコードに該当するのはドレスという常識だった。彼女の日常は、たまに気分転換に外に出かけてみたり素材の為に前線まで足を運んでみたりすることはあれど、基本的には自分の工房居ることが多い。極論を言ってしまおう。彼女の日常にはファッションなんて必要ないのだ。それでも一人の女子としてファッションには興味もあるし、何着かは持っているのだが、そのどれもがやはり“日常でのオシャレファッション”であり、到底ドレスとは呼べないだろう。つまりだ、シェリーはドレスなんて持ってないのだ。

 

“さてこれは困った”

 

と彼女は一人ごちる。

 

“アシュレイさんにあしらってもらおうか?いや、そんなにすぐにはムリだ。彼女の店は超人気でオーダーメイドには予約待ちが出来てるし……ならアスナやリズに貸してもらう……のもだめか。私が呼ばれてるくらいだし、当然彼女たちも呼ばれてるはず”

 

まったく巡りあわせが悪いというべきか運命のイタズラというべきか。彼女はまったくと言っていいほどのツイて無さに頭を痛めた。すると、それが表情に表れていたのかレンの手がポンッとシェリーの肩に置かれた。

 

「シェリーが心配してんのは無駄だぜ?ホラ」

 

言って、レンは自分あての招待状をシェリーの目の前へと広げた。

 

「下の方読んでみ?」

「下?」

 

レンの意図が判らずに首をかしげながらも、シェリーは言われたとおりに文の方へと視線を移した。暫くしてようやくシェリーはレンの言わんとすることが分かった。

 

「『又、パーティーに必要なドレスなどは無料配布される予定です』?配られるってこと?」

「そっ、もうストレージには届いてるんじゃないか?確認してみ?」

「うん」

 

レンに言われたとおり、シェリーはウィンドウを立ち上げると、プレゼントBOXをクリックし、見つけた。BOX内部には、《パーティ用ドレスF》と無機質なフォントで綴られたアイテムが届いている。

 

「本当だ…………」

「な?ついでに言うと俺達にも配られてる。まっ、気が利いてるよな」

「そうでないト、レ―坊はタキシードを買うコルが無いからネェ」

「うっせ」

「あはは……そうね」

「じゃ、そういうことで」

「あっ!待って!!」

 

今度こそ出ていこうとするレンを、シェリーはすんでのところで呼びとめた。

 

「あっ、あのね…………」

「なんだよ、何かあるのか?」

「ええっと……その……」

 

「??」

 

そのまま、シェリーは下を向いて押し黙ってしまった。そんな彼女の意図が読めずに、思わずレンは肩をひそめた。日本人には……まあアメリカの血を受け継いでいるとはいえ珍しく物事をハッキリ言うタイプの彼女が言い淀む姿はハッキリ言ってレンにとっても珍しかった。

 

「あっ、あのさっ!!明後日の式一緒に行かないかな?」

「……別にいいけど?」

「じゃ、じゃあ朝七時にココにきて?」

「判った。じゃあ明後日な」

「うん……」

 

なるべく平常を装いながらシェリーは帰って行くレンとアルゴの後ろ姿を見送った。ガチャンとドアを閉めて、ヘナヘナと地面に座り込んでしまう。

 

「ちゃ……ちゃんと言えたぁ」

 

別にコミュ症でもないのに、シェリーの胸の動悸は抑えが利かずにずっとドキドキしっぱなしで、先程から顔も熱を帯びたまんまだ。とりあえず自分を落ち着かせようと、シェリーはそっと目をつむって大きく息を吐いた。すると、それが功を期したのか、動機は幾分かおさまっていき顔の火照りも冷めてゆく。それと同時に、胸の奥から嬉しさが込み上げてくるのをシェリーは感じていた。

 

「ふふふっ、やった」

 

感極まって、シェリーは思わず胸の前で小さくガッツポーズした。今、自分の顔はだらしなくたるんでいるかもしれない。それでもいいじゃないか。女性なのにカラッとしていて裏表の無い人物。これが自他ともに認める彼女の人柄だ。しかしそんなシェリーもレンの前にだけはどうしてもしどろもどろになってしまう。迷いや葛藤、それらにも増して恥ずかしさはあったけど、それでもレンにちゃんと伝えられた。なら、これぐらい許されてもいいではないか。

 

「明後日かぁ、楽しみだなー」

 

一つだけレンの反応がわりあい淡泊だったのが不満ではあったが、それでもいいだろう。レンと一緒に並んで歩ける。そう考えただけで、彼女の心は弾んだ。でも、ただ一つだけ。ただ一つそんな彼女の嬉しさに影を灯すコトがある。

 

「でも、また……あの眼だった…………」

 

そう、彼が彼女と話している時もずっと、その紺碧の瞳には必ず陰りがあった。

 

***

 

シェリーの店を後にした二人は、夜の賑わいを見せる転移門広場にいた。時刻は七時ジャスト。丁度人の往来が激しい時間帯の一つだ。攻略から帰ってくる者、逆に攻略へと赴く者。防具など身につけず私服で訪れる者。語り尽くせばキリが無いが、これで賑わいが無いわけが無い。すれ違う人とぶつからないように合間を縫いながら、レンはぴったりと半歩後ろについてくる人物へ声をかけた。

 

「なぁ…………」

「……………………」

「はぁ…………」

 

かれこれ、こんなやり取りを二人はもう三回ほど繰り返していた。どういったわけか、レンが幾ら彼女に呼び掛けてみてもアルゴは反応すら見せないのだ。何か怒らせるようなことしたかなと今までの自分を振り返ってみてもレンに心当たりはない。どうしたものか、そう思いながらレンは足をとめた。

 

「あいテ」

 

急に足を止めたため、アルゴが可愛らしい声と共にレンの背中へとぶつかった。ソレに苦笑しつつも、レンはアルゴへと向き直る。

 

「なぁ、俺が悪いならちゃんと謝るからさ。何か言ってくれよ」

「…………」

「はぁ……」

 

こりゃだめかと思いつつ、体を回そうとしたレンを、アルゴが可聴域ギリギリの声で呼びとめた。

 

「……あさって」

「ん?」

「明後日、私も一緒に行く」

「はい?」

 

珍しく素に戻ったアルゴの言葉を、レンは思わず訊き返していた。しかし、アルゴはツーンと顔を逸らすと、それに応じようとはしなかった。

 

“明後日……?ハテ、何か……”

 

そこまで考えたところで、レンはようやく理解することが出来た。明後日、つまりはキリトとレナの結婚式に彼とシェリーで朝一緒に行く予定であるのを、自分も一緒に行きたいと言ってるんだと。二人が一緒に行くのであれば、ついでに私もということだろう。

 

「なーんだ、そんなことか。俺は別にかまわないぜ?」

「よかっタ」

 

すっかり元の調子に戻ってしまったアルゴの頭を撫でてから、レンは思わず苦笑した。

 

「それくらい、すぐ言ってくれればよかったのに」

「やっぱリ、レ―坊は女性(ヒト)の気持ちが判ってなイ」

「…………つまりは?」

「さテ、後は自分で考えるんだナ。じゃあナ、レ―坊。オネーサン楽しみにしてるよ」

 

それだけ言うと、アルゴはヒョイとレンの前に躍り出ると、両手を後ろに組んでからまるで小動物みたくコトリと上半身を傾けた。

 

「ねぇ、レン」

「ん?」

 

再び聞こえる、素に戻ったアルゴの声。今日みたく珍しい日もあるんだなとか思いながら、レンはどこか真剣或いは心配の色を帯びた声色で続けた。

 

「一人で抱え込まなくても大丈夫なんだよ?」

「っ!?」

 

瞬間、レンは心臓を鷲掴みにされたかの如く固まっていた。透き通るようなその声が、全身に冷や水でも浴びせられたかのように熱を奪ってゆく。

 

“「あるいは、誰かを救い出す為に、君が他人の命を奪いさったその時に」”

“「いやだ……………死にたくない、助けて!!」”

 

思い出すだけでも吐き気がするその光景。だが、そんな彼の意思とは関係なしに這いずりあがるその悪寒だけはレンそのものを鷲掴みにして離さなかった。

 

「レン?」

「っ!!ああ、大丈夫だ。無理はしてないよ」

 

僅かに震える声。だが、彼はそんな内情の変化を目の前の少女にだけは悟られまいと、当たり障りのない笑顔の内に隠した。しかし…………

 

“やっぱり、レンは何か隠してるんだ…………”

 

そんな小手先だけの小細工など、アルゴには通じない。生業として情報屋を営んでいる以上、彼女は当然他人のそういった表情の変化などに鋭い。そうでなければ、そもそも情報屋なんてやっていけない。ましてやそれがレンにならなおさらだった。そう、アルゴはすでに知っている。痛い程に。

 

「本当に?何か隠してない?」

「いいや。だってさ、隠すようなコトが無いだろ?」

 

コレもウソ。そもそも最初の問いかけでレンが僅かだが動揺して見せた時点で黒だからだ。が、これ以上問い詰めても絶対に話すことはないのだろう。

 

「……判った」

「だろ?だから…………」

 

そのまま続けようとした言葉が途切れる。そんな時だった。突然レンの両頬になにか暖かい感触が伝わり、そのまま優しく撫でられていた。それはアルゴの手だった。いつの間にかレンの目の前にまで来て、彼の顔を下から覗きこむようにしてその頬を優しく撫でていたのだ。

 

「ア、アルゴ?」

「大丈夫?レンがムリしなくてもいいんだよ?」

「俺は、ムリなんて……」

 

“「君は私と同類さ」”

 

そうだ、無理なんてしていない。全て気の所為だ。けど、レンの瞳を覗きこんでくるアルゴの瞳と、優しく撫でてくるその手の暖かさが、そんなレンを揺らした。

 

「ムリなんて?」

「してないよ、アルゴ。俺は大丈夫だからさ、心配してくれてありがとう」

 

そう言って笑うと、レンはアルゴのさらさらとした頭にポンと手を置いた。すると、アルゴは納得のいかないように暫く彼を見つめ続けたが、やがて小さくため息を吐くと、そのまま瞳を閉じた。

 

「レ―坊がそう言うなら、いいけド……」

「そっか、ならよかった」

 

聞きたいことは沢山ある。どうしてそんな瞳でいるのか。なんで隠そうとするのか。だがそれも、彼が教えてくれることはないのだろう。いつもそうだ。彼はあの時のままから変わっていない。苦しいのに、辛いだろうに、ソレを決して誰にも明かそうとはせず、一人抱え込んだまま。知らないはずがない。だってその瞳も、浮かべた虚構の笑顔も、かつてレンがカズを失ったときそのものだったのだから。

 

「…………じゃあナ、レ―坊。オネーサン楽しみにしてるかラ」

「ああ、じゃあな」

 

それだけ言うと、アルゴはヒョイヒョイと通行人をかわして転移門へと

飛び込んでいってしまった。

 

「無理しなくてもいい……か……」

 

一人残されたレンは、ポツリと消え入ってしまうような小さな声でそう呟いていた。やがて、バツの悪そうな決まりの悪い顔で薄く笑うと、彼は大きく肩を上下させた。

 

“ありがとな、アルゴ。でも……俺には……”

 

その先は、もう語るまでもないことだ。自分にはなにがあって、何をしなければいけないかも、彼には痛いほど判っていた。

 

「さて、俺も行くかな」

 

フッと顔を上げて、レンは頭を掻いた。しんみりするのはこれ位だ。彼にはまだ、やらなければならないことがある。そう結論づけて、彼女の後を追うようにして転移門前へと足を踏み入れると、ハッキリとした口調で宣言する。

 

「転移!三十二層《アマリゴ》!!」

 

転移コマンドと共にレンの体が光に包まれ、その存在がこの場から消滅した。

 

 

 

 




実は私がこういった小説を書くときは所謂プロットみたいなのは作らず全部脳内補完されてるんですよね。物語の進行や展開、設定に至るまで全部脳内にあるんですが......実際他の作者さんなどはどうやっているのか気になる最近です。

感想、意見や批判等々何時でも大歓迎です!!

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