SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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最近蒸し暑くなっていよいよなつが近付いてきたなーと思う夢見草です。(台風も多くなるんですがね......)

話変わって今年の冬季に発売されるNeed For Speedのリブート作品もなんだかんだ言って楽しみです。E3でのデモシーンからインゲームの入りに鳥肌立ちました。もう実写みたいじゃんと(笑)開発元がEAということもあってBFやRivalsで有名なFrostbite Engineが使われてるらしいです。海外の技術って凄いね!(日本にはFox Engine有るから......)


Ep32: Whispering in the Dark

一人の天才科学者によってその在り様を永遠に変革させたこのSAO、アインクラッド。今なお四千人余りものプレイヤーを閉じ込める浮遊する監獄の中、数多に存在せしフィールドにある、マップにすら載る事も無い何処とも知れない洞窟の中で、男は静かに腰を下ろしていた。瞳は閉じられたまま、微動だにもしない。聞こえてくるのは、地表から滴り落ちてくる水滴の反響音だけ。光が届くはずも無く、所々生じた亀裂から漏れる微かな陽の輝きだけが満たされている。

 

「…………来たか」

 

反響音に混じって、何者かの足音か微かに聞こえてくる。この静けさの中で、集中していなければ判らないであろうその足運びは見事と賞賛するべきなのか。それともそれを聞き取れるこの男が凄いのか。砂利が地面と擦れ合うような足音が近くで止み、男はそっと片目を開けた。

 

「久しぶりだなbro、相変わらずこのアジトは一人だけか…………」

「同じくな、静かなのがいいのさ」

「Humm……成る程な」

 

男の目の前には、この薄暗い空間の中でもなお溶け込むかのようなつや消しの黒いポンチョで膝上までを包み、目深に伏せられたフードをかぶる男。このSAO内で、下手をすればフィールドボスやフロアボスよりもプレイヤーを恐怖に陥れる存在。殺人ギルド《ラフィン・コフィン》。その頂点に君臨するギルドリーダー《Poh》その人だった。普通なら畏れ以外の何者でもないPohを目の前にしてもなお、座る男は冷静さを失わない。それどころか、薄く笑ってすらいた。

 

「一人だけ?お前も同じだろPoh。ザザとジョニーはどうした?」

「今日は置いてきたさ。二人とも、今か今かと待ち侘びているぜ」

「フッ……そうか、それは頼もしいな」

「後はお前だけだ。Partyの始まりは近いぜ」

「行くさ、勿論な」

 

薄笑いがピタリと止んで、男を冷酷な雰囲気が包み込んでゆく。その様子に、PohはHa!!と口元を歪めた。満足げに一つ頷き、踵を返す。

 

「集合は--層アジト。攻略組には既にトロイの木馬が行った。後はエサを撒くだけだ」

 

そこで、男のブーツがギャリッと音を鳴らした。すっと立ち上がり、顔を上げる。

 

「任せておけ、コッチも最後の仕上げさ。楽しみに待ってろ」

「OK、楽しみだなbro?血に染まった狂乱のPartyが」

「ああ、違いない」

 

ギチリと表情が歪み、男は恐ろしいまでに剣呑な笑顔を浮かべた。それを見届け、Pohは遠くで朧気に光を取り込む出口へと向かって歩き出した。ギャリィィィンと澄んだ音と共に、男は傍らに立て掛けてある一振りの得手を手に取った。暗闇の中でもなお紅く、血のように光る長槍。その柄には、ルーン文字のような紋章が刻み込まれている。その紅槍の穂先が、男の顔を映しこむ。その鈍色の瞳は、確かな闇に染まっていた。

 

「やっとか…………」

 

これだけ、これだけをずっと心待ちにしていた。その全ての始まりに、男は再び口元を吊り上げた。

 

***

 

その日、男はその全てを失った。かつての仲間も、親友も、夢も希望も誇りさえも。そして、自身が尊敬して止まなかった人物すらも。後悔と呼ぶには余りのも浅はかで、絶望よりもなお深い。これが定められた運命というやつなら、なんと馬鹿馬鹿しい事だろうかと彼は想った。もしやり直すことが出来たなら、彼は間違いなくソレを選んでいたはずだ。しかし、現実は余りにも残酷で、何処までも非情だった。

 

「くそ……くそくそくそくそくそくそ……皆…………」

 

フロアボスが倒され、クリアされた歓喜に包まれる中、彼は地面に両手をついて項垂れていた。現実なら間違いなく血が滲んでいるだろう程強く。なのに、不思議なまでに、涙は流れなかった。未だに、夢ではなかろうかと思っている自分がいたのだ。項垂れていたままの顔を上げ、その瞳にある人物を映し出す。その男こそ、今回のフィールドボスを一人で切り伏せ、本来皆の祝福をその一身に受けるはずの男。しかしその男は、その整った表情を悲痛そうに歪ませ、虚ろのようにある一点を見つめている。その光景が、酷く彼の脳に焼きついていた。

 

その後の彼は、何の目的も無くただ日々を送るだけの屍も同然だった。全てを一度に失ったのなら、他に何があるというのだ?いくら自問自答しても、その答えが出ることは無く、寧ろ考えるほどに虚しいまでに虚無感が彼を襲った。そのまま月日は流れ、ちょうど一ヶ月が経過した後位だろうか。全てに絶望しきった彼の脳裏に、一つの囁きが響いた。

 

“あの時、真に罪を背負うべき人物は誰だ?俺から全てを奪い、今もなおのうのうと生きているのは?”

 

その甘美な響きは、しっくりと彼の思考回路に溶けてゆき、あるイメージをちらつかせる。

 

“そうだ、間違いなくアイツだ。あの時……アイツさえいなければ……オレは……オレ達は……”

 

鮮やかな円陣を描き、九つの剣閃が紡いだそのネーブル色の攻撃は、しかしその対象となるモンスターへと当たる事は無く…………そして……そして全てが終わった。

 

「そうか、やっと判った」

 

彼自身も驚くほどの軽々しい声で、己の怨嗟を……静かに吐き出した。

 

「アイツさえ……アイツさえ居なかったのなら、全てはうまく廻っていたんだ」

 

なら、どうする?自分から全てを奪い去ったのであれば、その罪は償われなければならない。誰が?そんなのは今更聞くまでもないだろう。知れたことだ、オレがすればいい。そのために必要なのは何だ?ソレも解り切ったこと。力だ。決して赦されることの出来ない罪を犯しておきながら、今ものうのうと生き残っているアイツを殺す為の絶対的な力が。

 

「そうだ…………もっと力を。そして、オレが……オレがアイツの罪を償わせてやる」

 

それが、彼にとっての全てとなった。それは星星の瞬く幻想のような夜空の下。しんしんと雪が降り舞うその中で、黒く焼ける復讐の炎が、静かに、されど強く燃え上がった瞬間だった。

 

***

 

「ハァ!!」

 

彼の振るった槍が目にも留まらぬ速さでモンスターの体を貫き、すぐさまポリゴン片へと変えた。

 

「フン……………………」

 

しかし、彼は何の感情すら抱くことなく槍をくるりと片手で回すと、そのまま背中にある二つの輪に滑り落とした。アイツを殺す。そう決めたのは良いものの、いささかその決断は遅すぎたようで、彼がフィールドに篭り続けてもその差が埋まることは無かった。ほぼ最前線にも近い場所で戦い続けている男と、所謂ボリュームゾーンと呼ばれる中層で狩り続けている彼。その間は何時までも平行線上でしかない。どう逆立ちしたって、その差が縮まることはない。正に八方塞にも近かった。取り敢えず、次の湧き場に向かおうとしたところで、彼の索敵スキルが反応を捉えた。

 

「誰だっ!!」

 

すばやく右手を背中の槍に回し、鋭い声を上げる。反応はプレイヤー。しかし、ここまで接近されてもなお気付かないということは、導き出される結論は一つしかない。何らかのハイディング行為をしているということだ。そんなプレイヤーが、まともな訳がない。すると、何処からとも無く手を叩く声が聞こえたかと思うと、彼の正面、捩じれたモミの木の陰から、一人のプレイヤーが現れた。

 

「Wow wow wow、中々イイ太刀筋じゃねぇか」

「キサマ……何者だ」

 

パチパチと手を叩きながらふざけているようにしか見えないそのプレイヤーへと彼が再び疑問を重ねる。容貌は闇に溶け込むかのような漆黒のフードに隠されていて、全身も同色のポンチョで覆われている。一言で言い表せば、得体の知れないまで不気味だった。その背格好から、男であるだろうということだけが唯一判別できた。ポンチョ男はくくくっと肩を揺らすと、何故か印象的な声色で告げた。

 

「オレはPoh、お前に提案があって来た」

「去れ」

 

彼は槍を引き抜くと、その穂先をゆっくりと此方へと向かってくるポンチョの首元に突き立てた。

 

「二度目はないぞ」

 

まるでその瞳に写す者全てを切り伏せるかのような鋭利な殺気と共に、彼はポンチョへと向き直った。しかし、ポンチョはニタリと顔を歪めると、伸ばした左手でその穂先を握って横に逸らし始めた。

 

「…………何のつもりだ?」

「だから言ってるじゃねぇか。俺はお前に提案があると」

「ちっ」

 

すばやく槍を引き戻して、彼は背中へと納める。素手で武器の刀身を掴めば、HPは減少する。加えてここは圏外だ。プレイヤーを守るコードなぞ存在しない。仕方なく、彼はポンチョ男の話を聴くことにしたのだ。その事が伝わってきたのか、ポンチョ男は酷く艶やかな美声でありながらどこか異質なイントネーションと共に口を開いた。

 

「力が必要だろ?」

「なに?」

 

“力が必要だろ?”その言葉に、彼の体がピクリと反応した。

 

「絶対的な力だ。俺が手を貸そう」

 

ゆったりと、彼の前にうでが伸びてくる。どうだ?と口元を歪めたポンチョを、彼は冷ややかな口調と共に一蹴した。

 

「フン、話にならないな。何者かは知らないが、あいにくオレは忙しくてね。狂った奴の勧誘などお断りだ」

 

言って、その場を立ち去ろうとしたその時、再び聞こえた艶やかなポンチョの声に、彼の全身が凍りついた。

 

「…………俺と一緒に、殺人ギルドを作らないか?」

「何だと?」

「このSAO内で人を殺そうが、俺達に罪はない。ならば楽しむのは当たり前だろ?」

「オレに何のメリットがある?」

Power, Absolute power(力、絶対的な力さ)。この世界はデスゲームだが、元となる基盤はMMORPGだ。当然、その名残は今でもある。プレイヤーキル(PK)、所謂プレイヤーを殺せば、モンスターを狩るよりも遥かに多くの経験値が稼げるぜ?それで、力を手に入れればいい」

 

目深に伏せられたフードの下から覗く双眸が、ギラリと鋭く光った。

 

「………………」

 

再び掲げられた手を見つめながら、彼は思考する。このまま狩りを続けても一生強くなれないのは目に見えている。このポンチョの言い分が正しいのであれば、オレにとっても好都合だ。だが…………だが、関係のない、全く罪のないほかのプレイヤーを奪ってもいいのか?彼の疑問はそこにあった。復讐をその身に誓い、地獄に落ちたその身でも、まだそれくらいの良心残っている。逆に言えば、彼もまた修羅にはなっていないのだ。そんな彼の思考回路に、突如記憶の渦が弾けた。

 

「おい、XXX!!」

「早く来いよ!」

「置いてくぜ?」

 

それは、かつての仲間たちとの記憶だった。穏やかでいて、それで暖かい。しかし、彼がその光景を目にすることは一生かなわない。何故なら…………

 

彼の脳裏に酷く焼きついて振り払うことの出来ないその光景。表情を悲痛にゆがめ、絶望、或いは後悔しているかのように歯を食いしばって立ちつくしているそのプレイヤー。それは何故だろうか。今の彼ならば、その理由が完璧なまでに理解できた。それは、そのプレイヤーこそがすべての始まりにして元凶だからだ。何よりも大切だった彼と仲間との絆をボロボロに切り裂き、全てを滅茶苦茶にして、彼から憧れを奪ったその存在。何よりも他の誰でもないそのプレイヤーこそが断罪されるべきなのに、そいつはまるで自分が被害者であるかのような面で彼と同じように絶望していたのだ。その姿が、彼にとって最早吐き気がするほど赦せなかったのだ。

 

「いつかこの皆でこの悪夢を終わらせようぜ!!」

「いいねぇ」

「よし、俺に任せろ」

「XXXじゃ無理だって」

「そうそう」

「お前ら……」

 

在りし日に誓い合ったその言葉。仲間が浮かべた希望に満ちたその表情が、何よりも彼の思考を焼ききって止まらない。あいつ等の死には、果たして何か意味があっただろうか?その死は必要だったのか?いいや違う。全く持って不必要だった。アレは最早不幸だったなんて言葉では済まされない。では何だ、あいつらの死は全くもっての無意味だったじゃないか。そんなばかげた話、在っていいのか。そして何より、あの人の死すらも全く必要なんてなかった。そしてそう、あの人も……あんな所で死ぬ人じゃないのに。

 

彼にとって仲間との記憶に勝るとも劣らないほど尊いその記憶。憧れだった。自分を救ってくれた、その純白の後姿が。そう、あれは希望そのものだった。あの人なら、たとえどんな絶望だろうと振り払うことが出来るだろうと思った。そして、そんなあの人に彼も少しでも追いつきたかった。しかしそれも、最早叶うことのない夢物語。

 

それら全てが、たった一人のプレイヤーの愚考の下に破綻した。なのに、なのに…………それを一番責められるべきその存在が、どうしてそんな顔をするんだ?何を被害者面してるんだ?

 

ゴウッ!!

 

彼の内に、いつの間にか燻ってしまっていたその炎が、再び激しく燃え盛った。

 

“笑わせてくれる。アイツはオレから全てを奪ったんだ。ならば……アイツを殺すことが出来るならば…………手段を選ぶ必要性なんて全くの無意味なんだ!!!”

 

彼の中で、微かに残っていた光は完全に消え落ち、そのがらんどうを何処までも深い闇ばかりが覆い尽くした。

 

「………………いいだろう。お前の提案に乗ってやる。ただし、指図はするな。オレの獲物を、殺すも殺さないも、すべてオレが決める」

「Ha!! いいぜ」

 

それだけ言って、背中を向ける彼にポンチョはニタリと小さく笑った。

 

「It’s show time!!」

 

まるで愉快で仕方のないとばかりにポンチョは声を弾ませて高らかに宣言した。いったい誰が知りえただろうか、この時こそが、後に全プレイヤーを震え上がらせる存在。殺人ギルド《ラフィン•コフィン(笑う棺桶)》の設立された日であると。それを、本人たちですら知らなかった。

 

***

 

「あれからもう一年と半年か。月日が経つのは早いな」

 

穏やかな男の声には、確かな懐かしみが篭められていた。そして、その背後に存在する四つの十字架へと目を向けた。それこそ、かつて彼の仲間だった者たちの眠る墓そのものだった。死んでしまったあの日に残った防具や武器を、彼がこの場所に埋めたのだ。故に、ここは彼にとって特別な意味であり、数多あるラフコフのアジトの中でもただ一つだけの、彼しか居ないアジトだ。彼は片膝をつき、今はもう消滅して存在しない仲間たちの遺品が埋まる地面へと自身の右手を当てた。

 

「やっとだ、やっとお前らの無念を晴らすことが出来る。ここまで長かったけど、最後まで見守っていてくれ」

 

確かな優しさと懐かしさが篭められたその声。男は立ち上がって、握る槍を背中に収めた。

 

“もう自分にはかつての愚かさも弱さもない。アイツを殺すだけの力は手に入れた。この《無限槍》と共にな”

 

「…………だから待ってろ、オレがお前の罪を断罪するその時まで」

 

そして…………そして、カズさん。アンタの無念も、オレが纏めて清算してやるよ。

 

男は自身の左手に纏っているグローブに手を這わせて、その想いを胸に刻んだ。そんな男の絶対零度に凍りついた呟きが、静けさと虚しさ以外何もないその洞窟にこだました。

 




てな訳で始まったオリジナル編、その一話目ですね。ホラ、SAOってアインクラッド編では各章にキーパーソンみたいな人物が居るじゃないですか。例えば赤鼻のトナカイでのサチ!みたいな(ケイタ達にも言えますが笑)このSAO:AFでも各章にスポットを当てるキャラを決めて作ってるんです。なのでこの編にもキーパーソンはいます!タグとかの情報インテル系もそろそろ......

感想や意見批判などなど随時募集しています!それではここまでよんでくれた読者の皆様ありがとうございました!!

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