ということでテンションの上がってる夢見草です。
前々回で「月夜の黒猫団」編が終わり、今回から「心の温度」編が始まります!
では、どうぞ!!
「おねがいだよ……あたしを一人にしないでよ……ピナ……」
頬を伝う二筋の滴。やがて、その滴は大きな羽根に弾ける。長い間、唯一の友でありパートナーでもあった使い魔《ピナ》は、モンスターの攻撃からシリカを守り、一声悲しげに泣いて、長い羽根一枚だけを残して氷のように砕け散った。
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シリカは、アインクラッド内で唯一の《ビーストテイマー》である。いや、だったというべきか。使い魔たるピナはもういないのだから。
しかし、シリカがビーストテイマーになれたのは、本当に偶然が積み重なっただけとしか言いようがない。何の理由もなく踏み込んだ森で、初めて遭遇したモンスターが攻撃せずに近寄ってきて、たまたま袋入りのナッツを与えてみたところ、幸運にもそれがそのモンスターの好物だった、というワケだ。
フェーザーリドラの使い魔ピナ。その存在はシリカにとってとても大きなものだった。わずか十二歳でこの閉塞世界に閉じ込められたシリカに、ピナは安らぎと安心を与えてくれた。とてもAIプログラムとは思えないほどに。
以来一年、シリカとピナは十分に経験を積み、中層プレイヤー達の間では、短剣使いのビーストテイマーとして、そこそこハイレベルプレイヤーとして名が通るまでには腕を上げた。無論、最前線で戦うプレイヤー達とは比べるべくもないが、そもそもが数百人しかいないレアな存在であり、中層においては《攻略組》よりも《ビーストテイマー》は有名な存在である。
つまり、主なボリュームゾーンである中層プレイヤーの中で有名になるということはアイドルになるのも等しい。加えて、圧倒的に男性が多いこのアインクラッドでの数少ない女性プレイヤーというのもそれに拍車をかけた。《竜使い》シリカは年齢のせいもあってかファンも多く、アイドルプレイヤーを求めるパーティーやギルドからの勧誘が止むことはない。そんな状況で十三歳のシリカが舞い上がってしまうのも仕方のない事なのだろう。しかし、そんな驕りがこの結末を生んだのだ。
***
キッカケは些細なことだった。あるパーティーに加入し、狩りを行った時の帰りに、細身の槍を携えた女性プレイヤーが、牽制のつもりかこう言った。
―あんたはそのトカゲが回復してくれるんだから、ヒール結晶はいらないわよね―
その言葉にシリカはカチンッときた。
―そういうあなたこそ、ろくに前線に出ないで後ろをちょろちょろしてばっかりなんだから、クリスタルなんて使わないんじゃないですか―
売り言葉に買い言葉、リーダーの盾剣士の仲裁も空しく、シリカはとうとう言い放った。
―アイテムなんか要りません。あなたとはもう絶対に組まない。あたしを欲しい、っていうパーティーは山ほどあるんですからね―
そのまま、ムシャクシャした気分のまま、シリカは森を歩いた。安全マージンを十分にとっているシリカならば、三十五層のモンスターはそれほどの強敵ではなかった。唯一つ、道に迷うことさえなければ。
なかなかマップの端に移動することが叶わず、足場も良く見えなくなった宵闇の森をトボトボ歩いている内に、ピナがキュルッ!と鳴いた。シリカが目を凝らすと、苔むした巨木の陰から《ドラゴンクエイプ》が表れた。運の悪い事に三体も。しかし、レベルで言えば危険でもない。しかし、ローテーションで回復してくる相手に蓄積した疲労と不安が短剣を鈍らせ、ついには甘く入ったソードスキルのスキを疲れて巨木に激突した。
「くきゅる!」
迫る巨大な腕。しかし、そんな主人のミスを庇うかのように、ピナがシリカと攻撃との間に割って入り、地面にたたきつけられた。
「きゅる……」
小さく鳴いて、ピナは長い羽根を残してキラキラと消えた。
「そ……んな……」
悲しみよりも先に、シリカは自身に対する怒りを覚えた。
そんな時だった。三つの光の軌跡が閃き、三体のドラゴンクエイプが砕け散ったのは。
「ゴメンな、君の友達を救えなかった」
群青色に染まる剣を左手に持ち、淡いエメラルドグリーンを基調としたチェスターコートに身を包んだ男が、静かに告げた。その声を聞き、シリカは耐える事が出来ずに涙を流した。
「えっと……その羽根、アイテム名あるかな?」
こういったシチュエーションになれていないのか、男が戸惑いがちにシリカへ尋ねた。言われて、シリカは青い羽根に目を落とす。恐る恐る羽根をクリックすると、ウィンドウに名が表示された。
《ピナの心》
それを見て、再び泣き出しそうになるシリカに男が割って入る。
「わあ!!泣かないで。心アイテムなら、まだ復活させられるかも知れない」
「本当ですか!」
とたん、シリカの顔が少し明るくなる。しかし、その顔にすぐ陰りが灯った。
「47層……」
今の層よりも12層も上、とてもではないが、シリカには到底無理な話だ。と、シリカの目の前に、不意にトレードウィンドウが表れる。
《メール・シエラ・アーマー》、《
どれもシリカが目にしたこと無いものばかり。いきなりのことで戸惑っているシリカへ、男は穏やかな口調で言った。
「これでレベルを7くらい底上げできる。俺も一緒に行けばなんとかなるさ」
「なんで……そこまで?」
普通なら考えられない男の行動に、シリカは感謝よりも先に疑問が生じた。
すると、男は紺碧の瞳を伏せ、
「それが……俺の償いになるから……」
静かに、くぐもった声で答えた。
シリカは、漠然とながらも、
この人はなにか重いものを背負っているんだ
と感じた。
***
レンと名乗った男と共に、放牧的なたたずまいの三十五層主街区に戻ると、早速顔見知りのプレイヤー達がシリカへと声をかけてきた。
「あの……お話はありがたいんですけど……」
嫌味にならないように、シリカはそれに一つ一つ答え、レンと共に行動する由を伝える。
えー、そんなー、そりゃないよー
とこぼす男たちは、やがてシリカの背後に立つレンへと視線を向けた。
「見かけない顔だけど、抜け駆けは止めてくれないかな」
熱心に勧誘していた背の高い両手剣使いがレンへとつかかった。しかし、レンは少しだけ困ったように眉をひそめ、
「すいません。俺の身勝手で決めてしまって」
と、丁寧な物腰で頭を下げた。それを見てあきらめがついたのか、男達はまたメッセージを送るねーなんて言いながら帰って行った。
「すいません、あたしなんかのために」
「いいって。シリカが気に病むことはないよ」
まるで何とも思っていないようにレンは笑って答えた。その姿を見、シリカは心の中で、
レンさんはほんとに優しい人なんだ……
と思った。
「あの……レンさんはホームタウンとかありますか?」
「まあ、あるっちゃあるんだけど。今夜は遅いし、俺もここに宿をとるよ」
「本当ですか?」
嬉しくなって、シリカは両手をポンッ、っと叩いた。
「私の知っている宿に行きましょう!そこのチーズケーキがとてもイケるんですよ」
シリカがレンの腕を掴んで、宿屋に案内しようとした時、視界の端に五人ほどのパーティーを捉えた。先ほど、口論になって湧かれたパーティーだ。シリカが顔を伏せていたおかげで、前四人に気づかれることはなかったが、運悪く最後尾にいた女性プレイヤーと思わず目があった。
「あら、シリカじゃない」
「……どうも」
仕方なくシリカは足を止めたが、その顔はくぐもっている。
「森から脱出できたのね、よかったじゃない」
赤紙をカールさせた女性―ロザリア―が、レン達へと歩み寄る。
「あら、あのトカゲはどうしちゃったの?」
痛いところを突かれ、シリカは押し黙った。
「あらあら?まさか……」
「やめましょうよ、シリカが嫌がっているでしょう」
おもちゃを見つけたように薄笑いを浮かべるロザリアに、レンが割って入った。
「シリカの使い魔は、俺が責任をもって復活させます」
ロザリアの目がわずかに見開かれる。
「へえ、てことは《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、レベルは大丈夫なの?」
「ええ、まったく問題ありません」
飄々と、レンが答えていく。
「へえ、アンタも物好きね。もしかして……アンタも体でたらしこまれちゃったクチ?」
舌をチロリとだし、ロザリアはくぐもった笑いを浮かべる。
「さあな。少なくとも、性根の腐ったアンタよりはマシさ」
「な!?」
レンの声は、シリカも驚きを隠しえないほどに冷徹だった。
「行こう、シリカ」
あっけにとられているロザリアを無視して、レンはシリカを連れていった。
「あ、そう言えば……何処の宿だっけ?
「ええ!?知らなかったんですか?」
「ははは……ゴメン、分からない」
ばつの悪そうな顔で、レンが謝った。
レ&カ&夢「「「後書きコーナー」」」
レ「次は心の温度編か......」
カ「最初の頃よりはまともになったんじゃね?」
夢「マジ?そう思う??」
レ「カズ、嘘は良くない。ちゃんと言ってあげるべきだ。いいかこの駄作者!お前はいつまでも四流だ!!」
夢「さ、三流ですらないだと......」
カ「まあ、せいぜい頑張れよ」
夢「ヒデえ」
レ「ああ、セリフ覚えが辛い......」
カ「贅沢な悩みだよなー」
レ「そうか?あ、感想とか待ってるぜ!」
カ「それじゃ、今回はこれでな!!」