今回は、もうガッツリ戦闘回です。さてさて、果たして上手く描写できたのやら......
では《SAO:AF》第十七話をお楽しみください。
大抵の人は災難は乗り越えられる。本当に人を試したかったら、力を与えてみることだ。
〜アブラハム・リンカーン〜
「何で……あいつが……」
普段は紺碧色に輝いている瞳は、今では見る影もないほどに生気を宿してはなかった。レンはまるで壊れたカセットテープのように、ただ同じ言葉を繰り返していた。
「おい、レン!!しっかりしろ!!」
まるで、今までの分をやり返すかのようにさえ感じられる見違えるほどの速さと、荒れ狂う波の如き熾烈さを以て攻撃してくるスコーピオンの猛襲を、必死にいなしながら、キリト達が叫び、呼びかけても、レンの耳には届かない。
“カズか死んだ………”
“誰の所為で??”
“それは、紛れもなく………………………”
レンは、心の中に芽生えた負の感情に思考を落とし、一人、自問自答をしていた。
心のどこかで………俺は油断してたのかもしれない。SAOという名のデスゲームが始まってから、あいつは、何も分からず、唯無意味に死んでしまうハズだった俺を助け出し、生きる術を教えてくれた。
初心者の俺を連れていけば、確実に足手まといだったはずなのに………。
俺が、レンクスという存在がいるのは、全てカジェイのおかげなのに………。何時しかあいつが俺を信じて、一人で行動するようになってから、俺は、一人で自分に酔って、その結果がコレだ。カズは俺を庇って死んだ。本来なら、俺が死ぬはずだったのに。
“この手で守れる命があるなら、俺は一人でも多く救うさ”
だって?はッ、巫山戯るなよ。何時から俺はそんな戯言が吐けるほどに強くなった?カズも言ってたじゃないか
“これからモンスターのアルゴリズも、フィールドもどんどん複雑化していく……”
と。なのに…俺は、俺のそんな驕りが、カズを殺したんだ。誰の所為?それは考えるまでもなく
湧き上がる負の感情は、タールのようにしつこくレンの思考に粘りつき、自身に対する怒りが体中を駆け巡る。
「ハ…ハハ……ハハハハハハ!!」
頭を抱えて、レンはおかしく笑う。
「レン…………」
そんなレンを見て、キリトはどうしようもなく不安に駆られた。
明らかに様子がおかしい。まさか、このまま…レンは……
いつもの明るい紺碧色の瞳は暗く、それは、ある種の狂気に染まっているようだった。
レンは左手に持っていた《フラタニティ+5》を投げ捨てると、ウィンドウメニューから装備品項目を選択、数々の片手直剣や短剣などの多種多様な武器一覧を一気にスクロールさせ、その中からS-ナイフ《アヴァン》を選択する。実体化した二本のナイフを、手を使ってくるりと一回転させ、胸の高さの位置で、ナイフを逆手に持って静態させる。
「!!」
「なッ!!」
今まで頑なに秘匿してきたユニークスキルたる《A-ナイファー》を、大勢のプレイヤー達ががいる前で平然と使用したレンに、レナとキリトは思わず声を上げた。
しかし、当のレンに、迷いや戸惑いや躊躇は全く見受けられなかった。
今のレンにとって、ユニークスキルの秘匿がどうのこうのなど、頭の片隅にもなかった。今レンにあるのはただ、自身へのひどい憤りと、目の前で暴れているスコーピオンを殺すことだけだった。
「ウオォォォッ!!」
怒りの身を任せて、レンは体術スキル《活歩》を発動させた。弾丸にも似た速さで迫るレンへと、スコーピオンは左側の足をふるうが、レンは懐から取り出したトマホークを投擲し、はじき返した。
「ハアアァァァ!!」
一歩、二歩、三歩……レンが歩数を重ねるごとに、活歩によって爆発的な速さにまでブーストされ、スコーピオンとの間合いをどんどんゼロにしてゆく。襲いかかるスコーピオンの直線的な攻撃を、レンは最小限の体さばきだけでかわす。
時々スコーピオンの攻撃が体を掠めるが、レンは足を止めない。たちまちアヴァンの間合いに入り込むと、レンは素早くナイフを二閃走らせた。そのまま全身を使い、右足を振りかぶる。命中する瞬間に、軸足となった左足で地面を強く踏みつけ、十分に威力の乗った右足で、体術スキル《震脚》を放つ。
「グオオオォォッ!!」
痛烈な一撃がヒットし、身をよじるように悲鳴を上げるスコーピオンを尻目に、レンは空いた左足でスコーピオンの体を蹴りつけ、そのまま弾かれるように後退する。
十メートルほど飛んだところで、レンは空中からそのままの体勢でトマホークを二対投げ放つ。更に一呼吸おいて、懐からとりだしたトマーホークをさらに二対。計四対のトマホークは、大きな放物線を描いて、スコーピオンの足関節部分を削っていく。
「グルルルラァァァァッ!!」
悲鳴をあげながらも、先ほどまでとは比べ物にもならない素早さで突進してくるスコーピオンに対し、レンは落ち着いた仕草でゆっくりとアヴァンを構え直す。
間合いに入ってきたところで、襲いかかってくるスコーピオンの巨大なハサミを、レンは左手をついて、そのままロンダ-トの要領で飛び越えてかわし、スコーピオンの上側を取る。
「シッ!!」
体勢はそのままに、レンは素早くC-ナイフを投げ放つ。、まるで風を切るかのように急降下していくC-アックスは、投擲された三本とも見事スコーピオンの背中に突き刺さり、ダメージエフェクトを撒き散らすが、レンは自身へと接近してくるテールの反応に遅れた。
「くッ!!」
完全に後れを取り、右手に感じる何かが突き刺さったような違和感をレンは無視して、自身の左肘と、テールが突出される力を利用して、小さな円を描くかのようにクルリッと体を回転させ、テールをいなしてはじく。
体術カテゴリー《八極拳》。その中の防御スキル《纏》。そのまま横を掠めていくテールを、レンは両足で蹴りつけ、体を弾きあげると、大きく後ろへと跳び退いていく。
体術カテゴリーに属するこの《八極拳》は、最大の特徴として、一個一個の技の威力や効果がなかなか高めな割には、スキル発動後のディレイがほとんどないところだろう。なので、何個かのスキルを連続して使用することができるのだが、それも五つ以上つなげると凄まじいディレイが発生する。
しかし、単体で使う分には何ら問題はない。しかし、レンと一緒になって指南クエストをクリアしたキリトには出現してない。ゆえに《八極拳》は一時期、隠しスキルでは?とすら考察されたほど。だが、最近になって、その謎めいた《八極拳》の出現条件が判明し、これが《カタナスキル》などと一緒であるエクストラスキルだということが分かった。
その出現条件とは、プレイヤーが威力のとても低い武器を装備した状態で、《体術》スキルを使用し続けることである。
これはアルゴとレン、それにカズが協力して調べ上げ、”情報”としてアルゴが配布して回ったのだが、その入手条件の難易度から、修得したプレイヤーはレンを含めてごくわずかだったりする。
地面スレスレのところでレンは左手、そして右手を地面につけると、両手で体を押し上げ、そのまま五連続バックフリップでさらに距離を稼ぐ。一呼吸の間で、ゆうに十八メートル以上もの間合いを稼いだレンの体捌きは、いくら“A-ナイファー”による機動力補正を受けていても化け物じみていた。
「チッ、完全にはかわせなかったか……」
右腕に感じるダメージの残滓、思わず、レンはその場所を左手で抑え、舌打ちをした。レンのHP バーがゆっくりと減少していく。
直撃ではなかったため、その減り具合は幾分か穏やかだが、カズを死に追いやった《ザ・グリムリースコーピオン》の《猛毒》を食らったのだ。
既に、この毒で多くのプレイヤー達の命が散っている。しかし、何もレンだけが異常ステータスを喰らったわけではなかった。よく見てみると、スコーピオンのHPバーも同じように緩やかに減少していた。
原因は、背中に突き刺さったC-アックスがもたらす、異常ステータス《出血》によるものだった。状況は五分五分。しばらく、お互いを牽制し合うかのようににらみ合っていた両者だったが、やがて痺れを切らしたのか、スコーピオンが雄叫びを上げながら突進してくる。
しかし、レンは眉ひとつ動かすことなくゆっくりとアヴァンを構えると、静かに間合いを測り始めた。
スコーピオンとの距離は十五メートルほど、アイツと俺の身長差を考えて、射出角はこれくらいか…
レンとスコーピオンとの間に、レンの描く一本の線が引かれていく。ソレは“予測線”。レンが今まで培ってきた経験と、冷静な判断によって描かれた“死のライン”である。
いまだ!!
迷うことなく、レンは左アヴァンのトリガーを引いた。パシュッという軽い作動音と共に刃が飛んでゆく。
空気を切り裂きながら飛翔する刃は、レンの描いた“死のライン”から一ミリもずれることなく、そのまま吸い込まれるようにスコーピオンの眉間を穿った。
「――――――――ッ!!!!」
スコーピオンは、クリティカルポイントを穿たれ、声にならない悲鳴を上げながら、その体を硝子片へと変え、消えていった。
レ「さあ、毎度お馴染みあとがきコーナー」
夢「さて、何故そこまでテンション高いの?」
レ「いや、おもっきり暴れたから」
夢「さいですか」
レ「今回だけはお前を立ててやろう」
夢「(あ、なんかデジャヴ)そ、そうか」
レ「??まあいいや。これからはナイファー隠さないのか?」
夢「ああ、多分ね」
レ「そうか」
コホン(←レンの咳払い
レ「じゃあ、感想やコメント、意見や批判待ってるぜ!」
カ「俺喋ってない...」
レナ「私も...」