はい、それでは《COD:AF》13話目をお楽しみ下さい
幅五十メートルはあろうかという巨大な一本道が、水平線のかなたまで伸びている。開かずの扉の奥に出現した、いわば隠しダンジョンとでも言うべきか。しかし、レンは不可解な出来事の多さに、内心首をかしげていた。
その大部分は、扉のギミックにあった。たとえあのハイドレートの高い岩を見つけ、回転させるところまで解けたとしても、そこから先は、少なくともB-ナイフかS-ナイフを所持してなければならないからだ。
それなら別に持っていたら問題なさそうだが、そもそもB-ナイフやS-ナイフはショップで売られていない。しかも、レン自身、今までモンスタードロップしたためしがない。なのでレンは仕方なく、火力不足感が否めない桜花を、今でも使い続けているのだ……
……何かがおかしい。もしかしたら、罠かもしれない……
そう思ったレンは、隣を歩いているアルゴに、十分警戒するよう促した。しかし、そんなレンをあざ笑うように、道中でModが出現することはなく、いたって平和そのものだった。
「すこしピリピリしすぎじゃないカ?」
「まあ、杞憂ならそれでいいんだが……」
そんなアルゴを見て、レンも警戒を解くことにした。
***
「そういえバ、レ―坊はどうしてあの穴の仕掛けが分かったんだイ?」
「穴の形状とかそんなのからだよ」
「フーン。しかし、レ―坊がユニークスキル所持者とハ。これはスクープだゾ」
「売るなよ?」
「さア、どうかなア」
そういうアルゴの目は、心なしかいつもより輝いているようレンは感じた。おそらく、いや、百パーセント“A-ナイファー”のことについてだろう。
正直、レンは頭が痛くなった。今まで、コソコソ人目を避けて使用してきたA-ナイファーだが、アルゴに知られてはすべてが水の泡と化す。金を積まれれば情報を売るであろう姿が安易に想像できるからだ。
「はあ…………」
レンはひときわ深い溜息をこぼすと、何がおかしいのか、アルゴがクックックッと笑った。
「大丈夫だっテ、売らないかラ」
「本当か?」
「あア、オネーサンを信じなさイ」
どうやら、レンはアルゴの思惑通りに行動してしまったようだ。一本取られたなと思いながらも、改めてコイツといるときは気をつけなければ、とレンは思った。
「なあ、アルゴは何故情報屋を始めようと思ったんだ?」
ふと、レンの脳裏に浮かんだ疑問。アルゴとの付き合いは長いが、それでもアルゴがなぜ情報屋なんて家業を営んでいるのか、レンは知らなかったからだ。
「ウーン、ま、レ―坊にならいいカ」
ナイショだヨ、と付け加えて、アルゴはコケティッシュに笑った。
「元々、他のMMOでは情報屋なんて始めから営んでなかったんダ」
「へえ」
それは意外だった。アルゴの情報収集能力の高さと、立ち回りのうまさは、ずっと情報屋をやってきたからだろう、とレンは思っていたからだ。
「そんなとき、ちょうどお金が足りなくてネ、その時ニ、フレンドの一人が、“それなら、アルゴの入手した情報を売ってくれ”って言われたのが始まりかナ」
「なるほどね、それで?」
「まア、思ってもなかったカラ、売ったんだケド、それからちょくちょく情報を売ることが多くなってネ」
「ふうん」
「そしたラ、いつの間にか情報を収集して、売るのが自然になってきたんダ」
「それじゃあ、アルゴは不本意だったのか?」
アルゴの話を聞いている限りだと、流れのまま情報屋になったように聞こえる。しかし、そんなレンの疑問を、アルゴはチッチッチッと指を動かしながら、不敵な笑みを浮かべて続けた。
「それがだんだん楽しくなってきてナ!!例えバ、オレっちが持っていた情報Aヲ、Bが買ったとするだろウ?すると、新たに“Bが情報Aを買った”て言う情報が生まれるんダ。その過程が、まるで生き物みたいでナ、そんな情報の流れがオレっちのは新鮮なんダ」
アルゴの言いたいことはレンにも理解できないことはない。つまり、物事の出来事の中で、絶えず生じる“情報”、その過程が楽しいのだろう。
しかし、同じように共感できるか、とレンが問われたならば、答えは“ノ―”だろう。しかし、何となくアルゴの人物像がつかめた気がした。アルゴの、情報や云々のいきさつを語っていた時の表情は、いつになくハツラツとしていた。
…へえ、コイツってこんな表情もするんだ…..
その後も、二人は他愛もない会話をしながら、先へと進んでいく。
***
それからしばらくすると、二人はマップ最奥と思われる場所にたどりついた。
「ヒュー!絶景だナ」
今までの殺伐とした砂漠景色はナリを潜め、澄んだ空色の大きな湖に、ソレをかこうように青々と生い茂る木々がそびえ立つ。
あたりにMobは見当たらず、まるで忘れ去られた秘境のよう。どことなく穏やかな空気が漂う、当に砂漠の中のオアシスと呼ぶにふさわしい場所で、アルゴの言うとおり、とてもきれいだった。
「あーア、ノドが渇いたナア!」
太陽がさんさんと降り注ぐ、灼熱かと思うほどの砂漠を歩き続けること、ゆう二時間。バーチャルであるこのSAOにおいて、別に水分補給しなくても死ぬことはないが、澄み渡る湖を目にしたとたん、アルゴとレンは強く水を飲みたい衝動に駆られた。
とにかく、ノドを潤そうとアルゴが湖に近づいたその刹那、突如巻きあがった砂煙と共にあらわれた巨大なゴーレムに、その行く手を阻まれることとなった。
***
突如としてレンとアルゴの行く手を阻んだのは、全身をゴツゴツとした岩で覆われた、全身二メートル以上はゆうに超すだろう巨大なゴーレムだった。
岩でできた顔の奥からのぞかせる紅く光る眼が、アルゴとレンを“敵”と認識していた。レンがゴーレムのネームタグを見ると、《
「来るぞ!アルゴ!!」
ゴーレムから放たれた右ストレートをバックステップでかわし、レンは、桜花の間合いまで一気に踏み込む。ゴーレムとの距離は五メートルほど、更に迫る一撃を、レンは強引に体をひねってかわし、右手の桜花をふるう。
しかし、レンの一閃はゴーレムの強固な岩に阻まれ、ダメージをほとんど与えることはできなかった。ならばとレンは体を回転させ、体術スキル《連環脚》を放つ。しかし、またしてもダメージを与えることはできなかった。
まずい…物理ダメージが通らない!!
ゴーレムは体を回転さて、その巨大な腕をハンマーのように叩きこんでゆく。
「ガッッ」
レンはかろうじて桜花で防ぐが、その暴風の如き攻撃により発生した竜巻と共に、レンは弾き飛ばされた。
アルゴは手にした小型のクローと投げナイフで、ゴーレムの攻撃を凌ぎながら攻撃するが、レンと同様にダメージを与えることか出来ずに防戦一方だった。
アルゴに攻撃を続けているゴーレムに、レンは桜花の照準を合わせ射出、しかし、覆われた岩の鎧を貫通することはかなわず、小石のようにはじかれていた。
当に絶体絶命。レンとアルゴは、暴風のように暴れるゴーレムの攻撃をさばき続けるしかなかった。
***
硬直していた状況が動き出したのは、それから十分後のこと。アルゴがゴーレムの猛攻を凌ぐことができずに、クローをはじかれたのだ。
無防備になったアルゴへ、ゴーレムの無慈悲なパンチが迫る。レンはモーションを起こし、体術スキル《活歩》を発動する。一歩でゆうに五歩以上進む活歩は、爆発的なスピードで数十メートルあった間合いをゼロにする。
唸りを上げて迫るパンチに、レンは体術スキル《川拳》を合わせる。揺らぐゴーレムへ、震脚を放ち、活歩で滑るように横へスライドしてから、ノーガードの側面へと《紬膵》を放つ。しかし、ここまで体術スキルを重複使用したレンに、ディレイによる制限が体を縛る。
そんなレンへと、ゴーレムが反撃とばかりに《ストーム・パンチ》を繰り出す。その名の通り、体を台風のように回転させ、全方位に攻撃する技が、レンに炸裂する。全身にすさまじい衝撃が走り、そのまま吹き飛ばされた。
「ぐあッ!!」
背中からたたき落とされ、レンのHPがゼロ近くまで落ち込んだ。
「レ―坊!!大丈夫カ!!」
叫ぶアルゴを無視して、レンは軋む体にムチを入れて立ち上がる。
…あそこだ、あれがアイツの弱点なんだ!
再びレン活歩を発動し、加速してゆく。雄たけびを上げて迎撃してくるゴーレムの股の間を、レンはスライディングの要領でくぐりぬけ、背後を取る。
片手で体を押し上げ、そのまま桜花の刃を射出する。飛翔する刃は、ゴーレムの弱点…背後の岩で覆われていないコアのような場所…を貫き、ゴーレムは崩れ落ちた。
***
「レ―坊!!」
肩で息をしているレンの口へと、アルゴがポーションを突っ込む。柑橘系の甘酸っぱい味が口に広がり、レンのHPバーが少しずつ上昇してゆく。
「何デ、なんであんな無茶をしたんダ!!」
アルゴがレンの襟をつかんで、必死で問い詰めた。レンは少し悪いことしたな、と思いながらも、
「無我夢中だったから……それでも、アルゴが無事でよかった」
そう言って、アルゴの頭をなでた。
「ナッ///」
アルゴは自身の鼓動が速くなるのを感じた。安心したように笑うレンの顔がとてもきれいだったから。
「さてと……うわッ!!」
アルゴの頭をなで終えると、ドロップアイテムの確認を始めたレンの背中にアルゴは抱きついた。
「ちょ、ちょちょちょアルゴ?」
「レ―坊の卑怯者…そんな顔されたら…………」
好きになっちゃうじゃないカ…
その言葉を、アルゴは胸の内に押しとどめ、レンの背中に深く頭をうずめた。
「………………」
どうすればいいか分からなかったレンは、
まあ…だれでもあんな目に会ったら…不安になるよな……と、どこか他人事のように考えていた。
しばらくして落ち着いたアルゴを離して、レンがLAボーナスとして獲得したS―ナイフ《アヴァン》を装備して、
「これも秘密にしといてくれ」
「バカ……」
と、アルゴにパンチをもらったのはまた別の話。
レ「さあ、あとがきコーナーだ」
夢「..............................」(←ジト目
レ「どうしたんだ?」
夢「鈍感くそ野郎め」
レ「はい?」
夢「てめえなんか爆散しちまえばいいんだよ」
レ「意味わかんねー、このアホ作者」
夢「てめーには言われたくねえ朴念仁」
レ「な、誰が朴念仁だ!俺はそうゆうとこちゃんと敏感だぞ!」
夢「こりゃ重症だ。理解してない分なおたちが悪い」
レ「もいいい、一回殴らせろ」
パキリッ(←拳を鳴らす音
夢「な、それはひきょuガハッ」
レンの川拳が見事夢見草にクリーンヒッツ!!!
夢「ク、クソ...あの野郎.......」
バタッ(←倒れこむ音
レ「一体なんだったんだ?まあいいや、これからも読んでくれよな!」