「へっくち!」
となりでリズがくしゃみをする。俺達は軽く自己紹介したあと55層にあると言われているクリスタルインゴットを取りに来た。まぁクリスタルとか付いてるくらいだから寒そうだと予測するのが普通だがそこのお姫様は上着を持って来ていない。武具店の服装まんまだ。アホなの?そりゃ寒いでしょ。
すると、キリトがリズにコートを被せる。なにその完璧なモテ男仕草。
「あんたは、大丈夫なの?」
「鍛え方が違うからな」
「一々、むかつくなぁ!」
「あの、俺も鍛え方違うんでコート貸してくれない?」
でも、寒いもんは寒い。
「我慢しろ」
「俺は自分にかなり甘い男だぜ?MAXコーヒーだって大好きだ。我慢なんて言葉は知らないな」
「同じ男でもここまで違いの出るものなのね…あとMAXコーヒーは関係ないでしょ。ていうかあなた、クリスタルインゴットが必要な武器を扱えるほど強いわけ?キリトからはそれとなくそんな感じがあるけど」
「弱いからホントはリズの店で店番してたいんだけどな」
「ほらしゃべってないで行くぞ」
リズは俺を疑うような視線を向けてくる。
と、まぁこんな感じで歩くこと20分くらい。
「うはぁーっ!」
一面にキラキラしたクリスタルっぽいのが広がっていた。それに感動したリズがパタパタ走り回ろうとするが、キリトが首根っこを掴む。
おかげでリズから潰れたカエルのようなとても女の子とは思えない声が聞こえた。
「なにすんのよ!変な声出ちゃったじゃない!」
「そろそろドラゴンが来るから転移結晶の準備してろ」
俺達の言い草にリズがまた突っかかってくる。
「分かってるわよ….」
「ドラゴンが来たらその辺に隠れとけよ。絶対にロックオンされるな」
「なっ…!?私だって素人じゃないのよ!?手伝うわよ!」
「ダメだ!」
リズは手伝うと言うがそれをキリトが許さない。その声には異論や反論をすべて許さないという覇気があった。怯んだリズは一歩引き、無言で頷いた。
それに満足そうにキリトは頷き、リズの頭に手を載せる。
「あの、俺も転移結晶の準備して隠れてていい?」
「いいけど、今回で手に入れたクリスタルは全部俺のだからな」
「あんた…自分で言ってて情けなくならないの?」
みんな酷いです…。
その時、グオオォォォォッッ‼︎‼︎‼︎とドラゴンの声が響く。リズと俺はさっそくクリスタルに隠れたが、「あんたはやるんでしょ!?」と、放り出された。
そして、キリトと俺の前に降りてくるドラゴン。そして、ドラゴンのブレス。それをなんなく弾くキリト。そのまま、斬りかかってガンガンボコボコにする。
だが、その瞬間ドラゴンは翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。その時こそ俺の出番だ。一番大きな結晶に登ってジャンプし、ドラゴンの背中にクリティカル×弱点突きをヒットさせ、飛行をキャンセルさせる。
たまたま視界に映ったリズが唖然で見ていた。
落下したドラゴンをさらに俺達はフルボッコし腕、肩の部位破壊をする。
もうすぐで終わりそうだな…そう思った俺の考えは次の瞬間、すぐに打ち砕かれた。
「ほら、さっさと終わらせなさいよ」
え、なんで出て来てるのリズさーん。
「バカ!まだ出てくるな!」
キリトが怒鳴るが遅い。ドラゴンの目が光り、リズもロックオンされてしまう。
「なによ、もう終わりでしょ?」
まだ状況が分かってねぇのかあのアホは。
すると、ドラゴンは翼を大きく振りかぶる。リズを風で吹っ飛ばす気か。俺はさせまいと翼の部位破壊を試みるが遅かった。俺ごと風に吹き飛ばされる。
「リズ!エイトマン!」
キリトが手を伸ばして助けに来てくれるが、下にはステージトラップのような穴があった。三人とも全滅という事態だけは避けなければならない。リズはパニクってるしキリトはまだここから距離がある。
……やっぱ、俺にはこれしか出来ないか。
俺はリズの腕を掴むと、キリトに向かって投げ付けた。見事にヒットし、二人は穴の淵ギリギリに落ちる。
「あのバカ…!」
キリトのそんな声が聞こえ、穴の中を覗きに来る。
リタイア、かな。
俺はわずかに見えた二人に笑顔で手を振ると、そのまま穴の中へ落ちて行った。