黒子のバスケ 銀色の疾風   作:星月

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喪中につき新年のご挨拶は控えておりますが、今年もよろしくお願いします。


第八十二話 友に捧ぐ

「決まった……!」

「大仁多、ついにあの陽泉ディフェンスから得点!」

 

 試合開始直後から完璧な防御を強いていた陽泉。

 その完全防御を突き破り、大仁多が得点に成功した。

 ようやく持ち前の攻撃力が発揮されるのかと会場が大いに湧き上がる。

 

「今のって、ロビンの?」

「ああ。俺が教えたやつだ」

「……そういや合宿中にも練習してたな」

「あいつが普段やっているツーモーションシュートではなく、ワンモーションシュートで紫原のブロックをかわしたってことか?」

「ええ。ただおそらくは」

 

 ジャンピングシュートあるいはワンモーションシュートとも呼ばれる、ジャンプしたと同時にボールをリリースするシュート。

 県大会後、楠からアドバイスを貰って白瀧が練習に励んでいた技だ。

 やはり見覚えがあるためにすぐに気づいたのだろう。教えた楠だけではなく、西條や勇作、細谷もその原理に気づく。

 ただ、楠だけは白瀧のシュートの正体に気づいただけでなく。

 

「あれはおそらく、俺のシュートよりも早い(・・・・・・・・・・・)

 

 さらに白瀧が独自に適応させた彼の技術まで見抜いていた。

 

「一拍子?」

「はい。武術――白瀧君の場合は古武術に当たりますが、その世界で使われている言葉だそうです。一調子とも呼ぶそうですが、彼は一拍子と呼んでいました」

 

 見抜いていたのは彼だけではない。データ収集に長けたかつての白瀧の同僚である桃井も本質のスカウティングを終えている。

 

「二つの動作をそれぞれ段階的に行うのではなく、同時に行うというもの。今回白瀧君はドリブルをやめ、セットポジションにまで移る動きと膝を曲げる動きを同時に行っていました」

「なるほど。それで余計に動きが早まったんやな」

「それだけではありません。シュートのタイミングで膝を伸び始める事が可能になるため、より力を伝えやすく、力が逃げない動きになっています」

「――動きの最適化。あいつが得意としていた事だ」

 

 ただ楠の技術をものにしただけではない。既に持つ己の技術を適応させることで最良の武器と化した。

 これだけでも十分厄介なものではあるのだが。

 桃井の説明を引き継いで青峰が語り始める。彼にしては珍しく、目もギラギラと好戦的なものに変わっていた。

 

「無駄を最大限排除したシュート。あくまでも早さを追求するのはやつらしいが、まだだ」

「え?」

「あいつがこの程度で切り札にするわけがねえ。これにはおそらく、まだ別の使い道がある」

 

 あの男は強さに貪欲だ。たった一つで満足するはずがない。一を学べばそこから次々と発展させる。

 ならば、このジャンピングシュートにもまだ隠された秘密があるはずだと青峰は言った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うっ、お、おおおおおお!」

 

 山本のブロックが炸裂。

 岡村からパスを受け、レイアップを決めようとした宮崎のシュートを阻んだ。

 

「ちぃっ!」

(ディフェンスも厳しくなってきた。白瀧のシュートで勢いを取り戻したか?)

「アウトオブバウンズ。陽泉()ボール」

 

 攻撃成功でディフェンスも調子を良くしたのだろうか。大仁多の選手達も動きが機敏になったように見える。

 

「このっ!」

(びくともせん! こいつ!)

「……ッ!」

 

 ガード陣だけではない。ゴール下では光月も岡村を相手に体を張り、中に入れさせない。

 

「まだじゃ、小僧!」

 

 だが岡村も負けてはいない。

 福井のさばいたパスを受け取ると、光月の押し返してきた力を利用してスピンムーブ。光月をいなしてゴール側へと回転する。

 

「な!?」

(力や高さだけではなく技術も。まるでセンターの選手みたいに!)

「撃たすか!」

 

 センターと思わせるような動きで岡村はマークを突破。

 すかさず中央から白瀧がヘルプに出てブロックを試みるが――

 

「ふん、ぬううう!」

「がっ!?」

 

 岡村は白瀧を軽々と吹き飛ばしダンクシュートを決める。

(大仁多)4対12(陽泉)。

 

「なんじゃ? ブロックでもするつもりだったのか?」

「何?」

「怪我する前に引っ込んどれ。あまりに軽すぎて潰してしまいそうじゃ」

「……ほう」

 

 見下ろしながら、岡村は白瀧を挑発する。

 大仁多に勢いをもたらす彼から冷静さを奪おうという思惑があったのかは不明だが、白瀧は静かに敵の言葉を聞き流した。

 

「ごめん、要」

「謝るなよ。お前の力は通用しているんだ。挽回しなおせばいい。――ま、このまま引き下がるわけにもいかないから。この第一Q中に二人で、やり返すぞ」

 

 もっとも何も感じていないというわけではない。

 謝罪する光月を宥めると白瀧は意地が悪そうな笑みを浮かべて耳打ちした。

 

「とりあえず、また行くか」

 

 大仁多のオフェンスに移る。

 先ほど得点を決める白瀧に陽泉の警戒は強まっている。

 このディフェンスを掻い潜るのは困難だと思われるが、小林はまた彼にパスをさばいた。

 

「行かせねえ!」

 

 宮崎がドライブを警戒し、素早くプレッシャーをかける。

 マークを見ても白瀧は気にしない。左45度から中央へとドライブ。彼の姿を追いつつ、宮崎はパスをさばいた小林が腕を組んで待ち構えていた事に気づいた。

 

(スクリーンが狙いか)

 

 動きを見抜いた宮崎は小林の位置を見て、彼の前に出るように方向を変えて――その瞬間、白瀧が逆へと切り替えした。

 

「うっ――ぅぁっ?」

 

 鋭い切り替えしに宮崎の体は追いつかなかった。勢いを殺しきれず転倒し、白瀧の突破を許してしまう。

 さらにヘルプに出た福井をバックロールターンでかわして紫原が動き出す前に制止。視線を上げてシュート態勢に入った。

 

「こんのっ!」

 

 今度は紫原の動き出しも早かった。白瀧が止まるやいなや跳躍した。

 そんな宙に浮いた彼の横を通して白瀧はゴール下の黒木へとパスをさばく。

 

「ッ!」

「ナイスパス!」

 

 全力で跳んだ紫原は追いつけなかった。黒木が劉のブロックを越えてベビーフックを沈める。

 (大仁多)6対12(陽泉)。

 試合開始直後は決められなかったシュートを今度は決めて、大仁多が追加点を挙げた。

 

「よし。ナイッシュ黒木!」

(白瀧のおかげでオフェンスも形になってきた。紫原もジャンピングシュートを警戒していつものように考える時間を奪われている。今なら!)

 

 あの陽泉から中で点を挙げることが出来ている。これが大仁多に与える影響は大きなものだ。攻撃も組み立てやすくなる。

 

「だが、まだゴール下(ここ)はうちの領域アル!」

 

 大仁多が奮闘を見せる中、陽泉も負けてはいない。

 宮崎のスリーポイントシュートが外れるものの劉がオフェンスリバウンドを制するとそのままゴール下からシュートを決めた。

(大仁多)6対14(陽泉)。陽泉、得意のゴール下から得点に成功する。

 

「ッ……!」

「くそっ」

 

 リバウンド争いに負けた黒木と白瀧が歯を食いしばる。

 そう、バスケにおいて最も重要とも言われるリバウンドは未だに陽泉が優位に立っていた。

 

「大仁多は全然リバウンドを取れないみたいだね」

「無理もねえだろ。何せ高さが違いすぎる」

「大仁多は#7白瀧・179cm、#9光月・192cm、#5黒木・195cm。対して陽泉は#4岡村・200cm、#11劉203cm。さらにディフェンスは#9紫原208cmが加わる。陽泉全ての選手が

大仁多を上回っている」

「これでは全くシュートを落とせないし、シュートを撃たせないしかない。大仁多も困ったものでしょうね」

 

 まったくだと洛山の選手達は少し気楽な様子で大仁多に同情を寄せる。あるいは自分達が次に当たるかもしれないのに、心配は必要ないと考えているようだった。

 

「……明、黒木さん」

 

 もう少しで第一Qは終わってしまう。早くどうにかして第二Qへの弾みにしなければ折角の勢いも弱まるかもしれない。そう考えて白瀧は光月と黒木を呼んで、考えを打ちあけた。

 

(早めに切り札を切ってしまった以上、この程度で終わるわけにはいかない。こんな中途半端な形では先まで続かない。この第一Qで一気に点差を詰める)

 

 元々ジャンピングシュートは第二Qまで、可能ならば後半戦まで取っておく予定だったものだ。

 しかし温存する余裕が無い為にこの第一Qから使わざるをえなかった。

 監督の判断を斬り捨ててまで秘策を使ってそれでも負けているようでは話にならない。

 白瀧は第二Q以降の弾みをつける為、決断を下す。

 

「小林さん、山本さん」

 

 二人と話を終えた後、今度は小林と山本に声をかける。彼らは白瀧の話を聞いて少し驚いた顔をして、そして頷いた。

 

「さすがに試合でやるとなると些か不安が残るが」

「やるからには――決めろよ」

「……わかっています。ずっと前から、ずっと」

 

 誰かに言われるまでもない。

 何故なら白瀧が初めて友から教わった時から教わった、友の誇りなのだから。

 百発百中。些細なミスさえ許さない、完璧主義者の変人に耳が痛くなるほど厳しく指導された武器なのだから。

 

「むっ?」

(これは……?)

 

 陽泉の選手達が異変に気づく。

 ボールが大仁多に渡って攻撃が再開されたのだが、先ほどまでと異なり小林と白瀧が並列してボールを運んでいるのだ。

 山本は黒木、光月と共に一足先にゴールの方へと走っている。

 

(これは、白瀧のポジション変更か?)

(そういえば県大会予選であいつが司令塔のポジションをやっていたという噂もあったが、ひょっとしたらそれを?)

 

 陽泉の動揺を誘う動きとは思えない。まさか人伝いに聞いた司令塔白瀧のパターンなのだろうかと考えを巡らす。いざという時は2-3ゾーンを変更してでも向こうのオフェンスに対抗しなければならない。

 あらゆる可能性を考えて、敵が集中力を高めている中。

 小林と白瀧の二人がセンターラインをこえる。

 白瀧は小林へとボールを回し、大きく息を吐いて呼吸を整え――小林にアイコンタクトを送った。

 

「行くぞ陽泉」

 

 センターサークルを少し越えたほどの位置で、小林から白瀧へとボールが返った。

 軽く跳んでパスを受けた白瀧は空中でフォームを整えるとゴールだけを見据えて。

 

「行くぞ紫原!」

 

 着地と同時に、地面を蹴ってシュートを放った。

 

「……はっ?」

「はぁっ!?」

(馬鹿な。何を考えている?)

 

 当然陽泉の選手達は、ベンチの選手達も含めて表情が驚愕に染まる。

 ゴールから10メートル近く離れているであろう場所から白瀧がジャンピングシュートを撃ってきたのだ。とてもではないがまともな判断であるとは考えられない。

 

「っ、ボケッとしてんじゃねえ。あんなの入るわけねえだろ! 紫原、岡村、劉!」

「もうやってるし」

「お、おう!」

「わかってるアル!」

 

 いち早く立ち直った福井がゴール下の三選手に檄を飛ばす。

 そうだ。こんな出鱈目なシュートが入るわけが無い。向こうがわざわざ絶対外れるようなシュートを撃ってくれたのだ。確実にリバウンドをものにしようとパワープレイヤー達が体を張ってポジションを取る。

 

「『入るわけない』だと? 馬鹿なことを言うな。言っただろう。『すでにここまでの試合で消えてしまった者の思いも篭めて戦う』と。俺にスリーを教えたのが誰だと思っている?」

 

 だが白瀧は入るという確信を懐いている。

 白瀧にスリーポイントシュートを叩き込んだのは、全国に名を轟かせたスリーの名手である緑間慎太郎なのだから。今となっては、このシュートこそが彼との間に残されたわずかな絆の象徴。

 

「だから――俺のシュートは、落ちん!」

 

 ゆえに、このシュートが外れるわけがない。外すわけにはいかない。

 白瀧が放ったシュートはリングに掠りさえせず、中央を綺麗に射抜いた。

 (大仁多)9対14(陽泉)。白瀧のロングシュート、炸裂。

 

「なんだと……!? 馬鹿な!」

 

 思わず荒木は冷静さを失って立ち上がった。

 スリーポイントラインよりもはるかに長いシュート範囲。今のはまさに緑間慎太郎のシュートを彷彿させるものだった。そんなシュートが、白瀧から放たれた。

 

「……い、今のって。まさか」

「秀徳、“キセキの世代”の緑間がやっていた超長距離(スーパーロングレンジ)3Pシュートか?」

「うっそー」

 

 これにはさすがに歴戦の猛者達も肝を冷やした。

 陽泉の選手達は勿論、観客席で試合を見ていた選手達も驚きを隠せない。

 すでに緑間は東京都予選で姿を消した。ゆえにあの長距離シュートはこの大会では見られないと思っていたのに。まさか、このような所で見られるとは。

 

「あ、あいつは、狙って決めたんだよな?」

「ジャンピングシュートでシュート範囲を伸ばしてきた?」

「ああ。ジャンピングシュートの本来の使い方(・・・・・・・・・・・・・・・・・)でここまでの技にするとはな。驚いた」

「え?」

 

 かつて県大会で戦って来た者達も、未だに成長し続ける好敵手の技量に震える。

 楠も、教えた相手がここまで昇華してきたという事実に驚き、同時に感動を覚えた。

 

「ジャンピングシュートはジャンプシュートよりも打点が低いシュートだ。その為シュートのスピードが上がってディフェンスのタイミングがずれるというのもあるが、それだけではない。打点が低くなることで大きな力を使わなくてもボールを軽く飛ばせるようになる」

 

 より早く、最小限の力でシュートを放つ事が可能になった。

 これにより白瀧は前よりもさらに広いシュート範囲を獲得する事が出来るようになったのだと楠は語る。

 

「加えて、彼の古武術の適応ですね。力が逃げず、最小限の力で放つことが出来る」

「早く、そして長く。緩急も手に入れた今は速さも自由自在。……面白いじゃねえか」

 

 離れたところで桃井や青峰も、そして赤司も仕組みに気づいていた。

 

(緑間のように撃てば止められないという高打点から放たれる超ロングシュートは実現できなかった。しかしその代わりあいつのシュートに存在するタメの時間をジャンピングシュートの応用により極限に削減した。早いリリースを可能とした長距離砲。言わば――高速で動く移動砲台)

「これが、お前の導き出した答え、新たなバスケスタイルなんだな」

 

 桃井は驚嘆した様子で、青峰は満面の笑みで、赤司は無表情で白瀧を見つめる。

 

「……すげえ」

 

 一方で、火神は一言だけ呟いて、白瀧から目を離せなかった。

 正直な話、彼は今までキセキの世代の技を自分のものにしようとして出来るものとは考えられなかった。常識から逸脱した異常な動き、到底普通の人間が真似できるものではない彼ら唯一のものだと。

 現に黄瀬でさえものにすることは出来なかったという黒子の話を聞いた。あの模倣の天才でさえ出来ない技だ。常識的に考えれば出来るわけもない。

 しかし白瀧は、火神や黄瀬よりも身体能力(スペック)で大きく劣るというのに自分の武器を活かしてものにしている。

 白瀧が元々持っていた古武術。緑間より教わったスリーの基礎。楠に助言されたジャンピングシュート。持っているものからあらゆる可能性を模索し、適応させている。

 こんな事、他の誰が出来ようか。

 

「信じられません」

「ああ。形こそ違うけど、まさかここまで緑間(あの野郎)のシュートを再現するなんて」

「いえ、そういう意味ではありません」

「え?」

 

 火神の横に座る黒子も、目を丸めていた。だが、彼が懐いていた驚愕は、他の者と懐いている意味が全く違う。

 

「信じられません。ありえません。白瀧君がやるはずがない。たとえ出来たとしても(・・・・・・・・・・)彼は絶対にやるわけがない(・・・・・・・・・・・・)。だって、だって彼にとってあの技は――」

 

 中学時代の白瀧を知る黒子だからこそ懐く感情だった。

 白瀧はあのシュートを仮に身につけることができたとしても、絶対に自分ですることは無い技であるはず。かつて緑間から聞いた、彼らが袂を分かつ原因となったというものなのだから。

 

『なっ!?』

『ハハハハ、ハハハハハハハハ!!』

『白、瀧……』

『何でだろ? 嬉しい、ことなのに。どうして涙が、止まらない……!?』

 

 中学時代、白瀧を失意のどん底へと突き落とす、最後の一押しとなった絶望の象徴。盟友との絆を引き裂くこととなった元凶。

 あの日から緑間は白瀧と時間を共にすることは無くなったと言っていた。

 白瀧にとっては最後の頼りであった大切な存在を失ったというのに。どうして思い出したくも無いはずの技を、自らぶつけるのか? 黒子には理解できなかった。

 

(見てるかよ緑間? ……まあお前の事だから、たとえ見ていたとしても『見ていないのだよ』とか恍けるんだろうけど)

 

 かつての友が思い悩んでいる中。

 白瀧は心中で緑間の事を考えながらプレイを続行していた。

 

(俺も先に進んでるぞ。約束どおりお前達の代わりに戦っている!)

 

 決してかつての別れを悔やんでいないわけではない。むしろ誰よりもあの日の悲しみを深く覚えている。

 しかしそれ以上に、友との誓いが大切だった。『俺のことは気にするな。お前は先に進め』、東京都予選の誠凛―秀徳戦後に彼と誓った成果を示すということ。

 誠凛戦で秀徳の仇を取った。あとは約束通り戦うのみだ。『自分はきちんと前に進んでいる』と。『お前達の分も戦っている』と。旧友に恥じない姿を見せる為に。

 精神的に追い詰められてもなお、白瀧は昔の友情を忘れてはいなかった。彼はあらゆる者の思いを全て背負って戦う事を選んだ人間なのだから。

 ゆえに彼は躊躇わない。

 自らの活躍で今の仲間を滾らせ、ディフェンスでも容赦なく圧力をかけていく。

 

(くっそぉっ!)

 

 福井は悔しさを隠しきれなかった。

 小林達の圧力が強くなった為に簡単にパスをさばくこともできず、かといって自ら切り込むということも躊躇われるからだ。

 

(どうなんだ。白瀧のロングスリーポイントシュート。こいつのシュート範囲は一体どこまである?)

 

 原因は先に驚愕の一撃を見せてくれた白瀧だ。

 彼は先ほどハーフコートからのシュートを見せてきたが、その限界はどれほどなのか検討がつかない。

 普通ならばさすがにあれ以上はありえないだろうと考える。しかし都予選で緑間という例外がオールコートでシュートを放ったという確かな情報があった。

 そして白瀧は緑間を彷彿させるシュートを見せた。ならば彼も先ほど以上の距離で撃てるのかもしれない。その場合、セーフティに二人は必要となり、中に切り込むことが出来なかった。

 

(しょうがねえっ!)

「取れよお前ら!」

 

 第一Qの残り時間十五秒でショットクロックが残り三秒。

 これ以上はヴァイオレーションとなってしまう。

 ならば外れることは承知の上でゴール下に託すのみだ。福井は小林のマークを外せないまま、強引にスリーを放った。

 小林のプレッシャーを受けてかシュートは決まらなかった。

 リングに衝突し、インサイドの選手達に後は託された。

 

「任せておけい!」

「負け、るかぁっ!」

 

 ボールは岡村と光月が凌ぎを削るサイドへと落ちて来る。

 ポジションでは光月が優位だ。岡村より中のポジションを陣取り、相手を中へ入れさせない。

 だが高さでは岡村が10cm近く上だ。多様の優位差は引っくり返す事が出来る。

 

「もらった!」

 

 そのアドバンテージの為か、岡村は勝利を確信して跳躍した。

 対して、光月は岡村が跳んでも跳ぼうとはしない。

 

「むっ?」

 

 ふと光月が跳んでいないことに気づいた岡村。

 理由はわからないがおかげで簡単にボールを取る事ができる。

 岡村は両手でボールを掴み取る。このまましっかりと手元に手繰り寄せる――その前に、彼の目の前に巨体が立ちはだかる。

 

「なんとっ!?」

「光月!」

 

 ポジションを取り合っていた光月だった。

 岡村よりも遅れて跳んだ光月はタイミングを遅らせることで最高到達点に達する時間をずらすと、片腕を伸ばして高さをカバーして相手の腕からボールを弾き飛ばした。

 

「うおおおおおっ!」

 

 そして、真上にはじかれたボールを白瀧が確保する。

 即座に最高到達点に達するという瞬発力が発揮。ようやく大仁多がリバウンドを手にした。

 

「よしっ。取った!」

「ならば」

「行くぞ!」

 

 これだけでは終わらない。

 ボールを手にした白瀧はそのままドリブルで駆け上がり、さらに小林と山本も彼の前を行くようにと走り始める。

 

「しまった!」

(ここで最後の速攻を仕掛けてきたか)

「やらせねえよ!」

 

 負けじと福井と宮崎もスタートした。速さとポジションの問題で黒木や光月、岡村や劉は間に合わないだろう。第一Q最後の攻防は五人と、そしてオフェンスに参加していなかった紫原に託された。

 

(絶対に決める。第二Qの流れに繋げる!)

 

 ボールを持っているのは白瀧だ。

 対して白瀧に張り付くよう、宮崎が並列して走っている。警戒すべきは先ほどのロングシュート。詳細な情報が無い以上、徹底して警戒する必要があると考えて白瀧を観察する。

 速さについていくだけでも精一杯だが、なんとか食らいつき、ハーフラインに到達した直後、白瀧は半歩後ずさり、視線と上体が上がった。

 

(ここから撃つ気か!)

「このっ!」

 

 跳んでからでは間に合わないと判断してすぐにブロックを狙う。

 しかし白瀧はそんな宮崎の真横へと切り返し、あっという間に彼を抜き去っていった。

 

(フェイントかよっ!)

「何やってんのー。ったく」

 

 味方が白瀧のフェイントにつられたのを見て、紫原は心底面倒そうに息を吐き、前に出た。

 紫原もロングシュートを意識しているのだろう。彼も高さを活かしてブロックを狙っている。

 

「止めさせねえ。この攻撃も決める!」

 

 アイコンタクトを山本に送る白瀧。返答も頷きも無いが意志は通じた。

 白瀧がチェンジオブペースからのレッグスルーで切り返す。紫原はわずかに緩急に揺さ振られたが、追いすがる。さらに鋭いキレのクロスオーバーで切り返すが、紫原は動きについていき、ついていこうとして山本のスクリーンに捕まった。

 

「あのさあ。さっきそれは通じないってわかったじゃん」

 

 紫原は先ほど同様、山本の体を回り込むようなターンで彼をかわし、すぐさま白瀧の姿を追う。直後、白瀧がドリブルを停止。フォームを立て直すと同時に膝を曲げた。

 

「このっ。……いや」

 

 反射で跳ぼうとした瞬間、彼の動きが変化した事に気づいた。

 紫原が半分ほどの力で跳んだ直後に白瀧はゴール下へとパスをさばく。逆サイドから走りこんだ小林へとパスが通った。

 

「ナイスパス!」

(連続でシュートと見せかけてのフェイクか!)

「小林っ!」

 

 追いついていた福井がブロックしようとするが、高さで唯一劣っている組み合わせだ。小林がゴール下からジャンプシュートを放とうとする中、福井の手は届いていない。

 

「終わりだよ」

「ッ、後ろ来てるぞ小林!」

 

 ――だが、紫原が追いついた。スリーポイントラインの内側ならすぐに対応できる。白瀧のシュートフェイクに気づき殆ど跳んでいなかった為に追いつけたのだろう。

 小林のシュートコースを塞ぐ、完全なブロックを見せた。山本が必死に叫ぶが、既に小林は宙に跳んでいる。今から中断は出来ない。

 

「お前がな」

 

 中断は出来ないが変更は出来る。小林は真っ直ぐ、ゴールへ向けてではなく、斜め後ろへとボールを放った。

 

「え……」

「なっ」

 

 シュートを止めようとしていた二人、紫原と福井は目を見開く。

 

「……白瀧のジャンピングシュートで、紫原を含む陽泉の選手達はワンテンポ反応が遅れた。そうでなくても山本のスクリーンから始まった連続攻撃で対応は後手に回ることになった」

 

 楠が冷静に分析する。視線の先で、白瀧が助走をつけて走っている。

 

「さらに長身PGである小林のジャンプシュートを止めようとすりゃ、紫原は全力で跳ぶしかねえ。着地はその分遅れることとなる」

 

 青峰が珍しく真面目に語る。彼の視界が捉えている好敵手は、利き足で踏み切っていた。

 

「対して白瀧の瞬発力が――真っ先にあいつを最高到達点に達することを可能とさせる」

 

 赤司が無感情に事実を告げる。彼の両目に映っている白瀧が、左手で宙に浮かぶボールを掴んでいた。

 

「確かにキセキの世代の名前こそ失った。だが、もう一つの名前まで失った覚えはない」

 

 白瀧の左手がボールを掴んだ。

 

(駄目だ。着地にはまだ――追いつけない)

(トップスピードならば天才にも引けを取らなかった、瞬発力を持つという“神速”)

 

 誰も白瀧には追いつけなかった。紫原は勿論、皆白瀧の動きを目で追うことしか出来ない。

 まともに戦えば敵わないかもしれない。だが一時の輝きならば今でもキセキの世代相手にも戦える。

 

神速()を、大仁多(俺達)を舐めるな!」

 

 左腕が勢いよくゴールに叩きつけられた。白瀧のアリウープが炸裂する。

(大仁多)11対14(陽泉)。ついに自慢の速攻が成功。白瀧の思いが篭った渾身の一発で、第一Qは終了した。

 大仁多が陽泉高校から今大会初となる二桁得点を挙げて、その点差はわずか三点。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――黒子のバスケ NG集――

 

(見てるかよ緑間? ……まあお前の事だから、たとえ見ていたとしても――)

(それくらい出来て当然や)

(とか恍けるんだろうけど……!?)

「んん!?」

(脳内に直接、てか誰!?)

 

 原作で既に白瀧と同様のロングシュートを放っている今吉とかいう妖怪サトリ。

 

「聞ーこーえーたーでーさーくーしゃー」

 

 ……ッ!?




今吉さんは裏表のない素晴らしい御方です。


というわけで2017年初の投稿となりました。
今日は設定上、白瀧の誕生日でもあるという記念の日です。本人の活躍も祝うということでプレゼントを差し上げましょう。

白瀧「本年もどうぞよろしく。プレゼントとは申し訳ないけど、何だろ」

リコ・桃井・橙乃三人のマネージャーが共同作業で作ったバースデーケーキ。

白瀧「チェンジで! 記念の日に死んでたまるか!」

そんなの知ったことではない。←祝おうとしてガチャを回し、無事に爆死した人。

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