Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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苦悩は絶えない

新学期も始まって3日目。早くも実技の授業が入っている。空中で舞っているのは鈴と一夏。

序盤こそ機動性と瞬間火力に長けた一夏が鈴を翻弄したものの、削りきれずに消耗した白式はただの近距離戦しか出来ない的になっていた。

 

 

「やっぱり一夏くんは駄目だね」

 

「辛口だね~。リンリンが強いのは確かだけど、おりむ~も弱くは無いはずだよ?」

 

「だって自分の機体特性に合わせた戦い方ができてないでしょ? 現にエネルギー兵器を使いすぎてガス欠してるし」

 

「やっぱり先生たちが残念なのかな~?」

 

本音がアリーナの反対を見ると箒とセシリアが2人を見上げていた

箒などは今すぐにでも刀を片手に飛び立とうという剣幕すら感じる

 

 

「かもね……。みんな良くも悪くも極端だから」

 

「さくさくがおりむ~の先生をやったりしないの~?」

 

「そんな暇ないよ。今だって社長、テストパイロット、打鉄弐式の専属エンジニア。それに、この前楯無先輩に生徒会にも入れられた上に技術科特別顧問って何なの? もういやになりそう……」

 

「そ、そうだったね。ごめんごめん。でも、それに見合った対価は……」

 

本音が櫻の顔を伺うと……「本当にそんなに出ていると思うか?」という顔をしていた

 

 

「一応IS学園職員の肩書をもらった以上は給料も出るよ? 今日の5,6時間目は3年の授業担当だし。でも、生徒会はなんなの? あれってほとんど職員の仕事でしょ! イベントの企画も後始末も――」

 

 

授業中にもかかわらず櫻の愚痴が始まり、鈴と一夏が模擬戦を終えて共修の科目へと移行するまでずっと続いた

 

 

 

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一日の仕事を終えて重い体を引きずるように生徒会室に向かう道中、突然後ろから誰かに視界を塞がれた。

 

――ちっ、誰だよ!

 

 

そう思いつつ相手が声をだす前に腕をとって投げ飛ばし、相手を見るとそこには……

 

うずくまる金髪。リボンの色から察するに1年だ

 

 

「あっ。ご、ごめんね! 大丈夫?」

 

「うぅ、どうにか、生きてマス……」

 

「いやいや、まずいでしょ! とりあえずクラスと番号。今から医務室に連れてくから!」

 

「2組のティナ・ハミルトンです」

 

「ティナね。オッケ。歩ける?」

 

「ええ、なんとか。プレジデント」

 

「なんで私を……って。ローディーおじさんが目をつけた娘ってあなただったり?」

 

企業連を纏める櫻だが、各企業が勝手に何をしようと問題がなければ止めない。

ただ、これをこうしました。という報告書がやってくるだけだ。たぶん彼女のこともその中に埋もれていたのだろう

 

 

「ええ、ご挨拶を兼ねて少しふざけてみたら……ね」

 

「本当にごめんね。とりあえず歩こ、加減はしたけど女の子に怪我させたら嫌だし」

 

「ここで襲われたら十中八九女の子が相手でしょうに……」

 

 

ティナを医務室に送り届け、特に目立つ傷跡(自分のようになっていたら可哀相過ぎる)が無いことを見届けると残るスタミナを振り絞り生徒会室に駆け込む

 

 

「櫻ちゃん、遅かったわね」

 

「いろいろあったんですよ。それで、呼び出した要件はなんですか?」

 

「今度の文化祭、計画はほとんど煮詰まってるけど、一夏君の争奪戦をすることにしたわ!」

 

「は?」

 

「名前のとおりよ。部活や同好会で出し物をする、そして生徒から投票を募って得票数の多かったところに一夏くんを入れてしまいましょ~! ってことね。その裏には一夏くんがどこの部活にも入らないことへの不満があったみたいだけど」

 

「なるほどねぇ。ウチって部活動は強制でしたっけ?」

 

「そうよ? でも、一夏君は目立つからねぇ。仕方ない面もあるのよ」

 

「それで、本人には言ったんですか?」

 

「言ってないわ。明日の全校集会で発表よ」

 

「はぁ……。ご愁傷様。一夏」

 

「まだ話は終わらないわ、生徒会でも出し物をしようと思うの。観客参加型演劇ね」

 

「まためんどくさそうなものを」

 

「いいのよ。1年の専用機持ちたちを茶化してシンデレラに仕立てる。一夏君には王子様になってもらう。そして、王子様の王冠を手に入れた人は見事、一夏君と同室に! 素敵でしょ?」

 

「はいはい、勝手にやってくださいね~。私は裏方でいいんで」

 

「むぅ~。櫻ちゃんは一夏君に興味ないの?」

 

「ありませんね。先輩なら私がラウラと一緒に一夏くんをぶっ飛ばしたの知ってるでしょう?」

 

「まぁ、シャルロットちゃんとラウラちゃんへの餌は櫻ちゃんに任せるわ。あとの3人は一夏君が餌で釣れるでしょ?」

 

「でしょうね。そうかぁ。ロッテとラウラの餌ねぇ。一軒家とか?」

 

「何か無いの? 特別ボーナスとか」

 

「お金で釣るのも申し訳ないじゃないですか。面倒だから本人の望むもの、ってことにしますか」

 

「それがいいかもね。何も考えずに済むし」

 

「その時にかかった費用は更識家と折半で」

 

「えぇっ!?」

 

「当然でしょ? 何言ってるんですか?」

 

 

翌日、全校集会で発表された織斑一夏争奪戦は全校生徒のボルテージをイグニッションブーストさせるには十分だった。何も聞かされずに顔見知りの生徒会長からウインクされた本人は呆けた顔で視線を集めていた

 

 

 

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織斑一夏争奪戦の宣言によって楯無への挑戦(生徒会長の座を求めて)が急激に増加したようだったが、楯無は飄々とシンデレラの準備を虚と数人で進めていた。

 

1年1組はと言うと――

 

 

「ポッキーゲーム!」「ツイスター!」「ホストクラブ!」

 

 

――混沌としていた

 

クラス代表として前に立つ一夏がついにしびれを切らし「テメェ等いい加減にしろっ!!」と叫んだのが5秒前。

織斑先生は「決まったら職員室に報告に来い」と匙を投げていた

 

 

「ならばメイド喫茶はどうだ?」

 

静まり返った教室に冷たく響く声。

その主をみてクラスの多くは呆けている

 

 

「喫茶店なら休憩所としての需要ももちろんだが、経費の回収も行える。ただ、ありきたりなものではつまらんからな」

 

まさかの提案に一夏はとりあえず「反対は居ないよな……?」と確認を取ったが

シャルロットが爆弾を投下することで反対意見などは木っ端微塵に消え去った

 

「一夏には執事になってもらえばいいよ」

 

この一言でクラスの空気は一変、一夏の顔色も一変。

「よっしゃ決まりじゃァ!!」と誰かが叫ぶと

「私はメニューを考えるよ!」とか「インテリアは任せて!」など次々と役職が決まり、櫻が「じゃ、私は会計で」と言うと誰も文句は言わなかった

 

団体名:1-1 ご奉仕喫茶

代表: 織斑一夏

会計: Sakura A Fürstenberg 

 

 

諦めて必要事項を書類に書いて職員室に去っていく一夏はどこか小さく見えた


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