Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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大人って面倒ですね……

ドイツから帰国し数日経ったある日。

日本での住まい(寮生活だと外出届が面倒なのだ……)でグダグダと過ごす櫻の元に1通のメールが入った。

差出人は千冬で「付き合ってくれ」と短い本文とマップデータが添付されていた。

 

 

「この言い草は酒だな……あぁ、面倒な事になりそうだなぁ」

 

断るとそれはそれで面倒なことになりかねないので諦めて着替える。

その間にも「どうせ一夏くん絡みだなぁ」とか「山田先生とかも巻き込まれてるんだろうなぁ」とか考えつつハンドバッグに財布やその他もろもろを入れて部屋を出た

 

千冬の指定した店はここから電車で数駅、20分もあれば着く距離だ。改札をICカードで通過すると偶然にも山田先生を見つけた

 

 

「こんばんは」

 

「こんばんは……って天草さんですか。どうしたんですか?」

 

「多分山田先生と同じように千冬さんに呼ばれて……」

 

「そうでしたか。って、先輩の言ってた場所ってバーでしたよ? 大丈夫なんですか?」

 

「先生方が黙っていてくだされば問題ありません。それに、わかった上で私を呼んだんでしょうし」

 

「はぁ……。ここは日本ですからね? 次はありませんよ?」

 

「たぶんその次もあるでしょうけど……」

 

「否定出来ないのが悲しいですね」

 

やってきた電車に乗り込み10分ほど、改札を出るとロータリーの向こうに商店街が見えた

 

 

「あの商店街の中ですよ。なんというか、知る人ぞ知るお店、って雰囲気です」

 

「ほぉ。千冬さんらしいですね」

 

「どちらかと言うと洋酒メインのお店でしたから、多分ドイツから戻ってきて見つけたお店じゃないですかね?」

 

山田先生の先導で商店街を進み、一本入ってから雑居ビルの地下に下る。

小さな木製のプレートには『Bar Creschendo』と書かれていた

 

ドアを開ければ鐘の音がカランカランとなり、マスターがこちらに目線を向けた

 

 

「いらっしゃい。千冬さんなら奥に」

 

素敵なバリトンに案内されるままに奥に進むとビールを煽る千冬がいた

 

 

「来たか。いきなり呼び出してすまないな」

 

「いえ、どうせ家で雑誌読んだりするだけですし」

 

「櫻は家で寝てるだけだろう? たまには布仏にかまってやったらどうだ?」

 

「そんな夏休みなんだから1回や2回一緒に遊べば十分でしょう? 私だってこの前ムッティにいきなり呼ばれたりで大変だったんですよ?」

 

「そうかそうか、ご苦労なことだ。マスター、シュパーテンのミュンヘナーヘルを3つ頼む」

 

「え、ここドイツビールあるんですか?」

 

「ああ、だからここに通うんだ。真耶、ここでは櫻は私達の後輩だ」

 

「はいはい。それで、なにかあるから呼んだんでしょう?」

 

「まぁな。一夏が家に女を連れ込んでいてな……」

 

「え、織斑君、彼女いたんですかっ?」

 

「いや、いつもの面々だよ。それに珍しくウォルコットとボーデヴィッヒもいたな」

 

「うげっ、ハブられた……」

 

「まぁ、そう嘆くな。だから私が誘ったんだ」

 

「うわぁ……」

 

そこにグラスが3つ運ばれ、こちらもこちらで女子会の雰囲気となった

チン、とグラスを合わせ、一口。

 

 

「これは飲みやすいですね。そこまで苦くないし」

 

「だろう? 櫻もコレは有名だから飲んだことはあるだろ」

 

「ミュンヘンのビールですから、社内で飲むときはだいたいコレですね。ヘレスは軽めだから最初はコレで乾杯です」

 

「社内って言うと、ローゼンタールですか? 会社でお酒飲むんですね」

 

「もちろん勤務時間外ですよ? 社内パーティーとかで、です」

 

そうですよね。と頷く真耶を他所に千冬はグラスを空けた

 

 

「それで、だ。今晩は帰れそうにないって言ってしまったから泊めてくれないか?」

 

「え、えっと……私のところは人を呼べるようなところじゃ……」

 

「じゃ、櫻。きまりだな。どうせマンションに一人暮らしだろ?」

 

「ええ、でも面倒なのでそこら辺のホテル取ります? そしたらとことん飲めるし」

 

「私は構わないが。いいのか?」

 

「ここは千冬さんの持ちですが」

 

「まぁ、仕方ないな。真耶はどうする?」

 

「ここで断っても結局酔わされるんでしょう?」

 

「そうだな」

 

「じゃ、2部屋とっておきます」

 

「駅の反対にビジネスホテルがあったはずだ。そこでいいだろう」

 

「は~い」

 

携帯を手に席を立った櫻を見ながら真耶は口を開いた

 

 

「やっぱり、先輩は弟さんに彼女、っていうかガールフレンド? ができるのは嫌ですか?」

 

「う~ん。一夏も普通の男だ、別に彼女くらいいてもいいとは思う。だがな……」

 

苦い顔でそっぽを向く千冬。どこか悩んでいる様子がありありと伺える

 

 

「まぁ、あの子達なら……」

 

「それがなぁ、この前の臨海学校であいつらに余計なことを言ってしまったようでな……」

 

「と言うと?」

 

「いや、ただ、一夏はわたさんぞ。とな……。それであいつらが私のことをライバル視し始めたようでな……」

 

「あらぁ、強力なライバル登場にしか見えませんね。それは」

 

「私としてはそんなつもりは無いんだ。ただ、弟と言うのは姉のものだろう?」

 

「って言われても、私一人っ子ですし……」

 

「あぁ、櫻はまだか?」

 

「はいはい、呼ばれて飛び出てなんちゃらかんちゃら。さくらちゃんですよ~」

 

「天草さん、酔ってます?」

 

「んな、たかがビール一杯でよってたらドイツ人の名折れですよ。まぁ、苦手な人はもちろんいますよ?」

 

「なぁ櫻。弟や妹はやはり、姉のものだろう?」

 

「え、何言ってるんですか?」

 

「ち、違うのかっ?」

 

「あたりまえじゃないですか。嫌ですよ、束お姉ちゃんのものだなんて。って私は思いますね。一夏くんはシスコンの気があるからなんとも言えませんけど」

 

マスター、エルディンガーヴァイスビアデュンケルありますか~? とカウンターに声を飛ばす櫻の前でガクリと頭を垂れる千冬。この時ばかりは"山田先生"が輝く

 

 

「だ、大丈夫ですよ。それって良く言えばまだ先輩が必要とされてるってことですし……」

 

「実際千冬さんは生活能力皆無ですから一夏くんがいないと駄目ですしね」

 

だが、櫻があっさりと止めを刺した

 

 

「あぁ。私はなんて不出来な姉なのだろうな。弟に生活を頼り、人生経験の邪魔をするなど……」

 

「千冬さんって一夏くんが彼女作ることに不満が無いなら何が問題なんですか?」

 

「さあな。自分でもよくわからん。ただ、一夏が女を見る目はかなり酷いからな……」

 

「まぁ、心配な点ってそれくらいじゃないですか? 織斑君しっかりしてますし」

 

「あいつらが一夏に惚れるのもわからなくもない。それなりの覚悟で家に来たんだろうしな。だからこうして出てきたわけだが……」

 

「うぅ、ロッテぇ、ラウラぁ……」

 

「コイツには青春の1ページに大きなキズを残したようだな」

 

「まぁ、それもまた醍醐味ですよ。マスター。アップルロワイヤルを」

 

「私も、おかわりを」

 

「千冬さんってどことなく一夏くんに似てますよねぇ。いや、一夏くんが千冬さんに似てるのか」

 

「冗談はやめろ。何処が似てるんだ?」

 

誰かれ構わず優しくするところとかですかねぇ、ストレートかカーブかの差はありますけど。とは言えず、真耶とともにどこか余裕の笑みを浮かべる櫻。

千冬も年下2人の余裕ぶった態度に少し不満げにしながらやってきたグラスを煽った

 

 

「ん? まだ頼んでないぞ?」

 

「そろそろ頃合いかと」

 

千冬のグラスの縁には白い結晶。乳白色のそれはソルティードッグだ

もちろん、櫻の手元には黒ビール、真耶にはアップルロワイヤルがある。

 

 

「はぁ、私の周りはどうしてこういう人間が集まるんだろうな?」

 

あなたがそうだからでしょうよ。と山田先生と目配せをして櫻はショコラの風味を煽った




未成年の飲酒、ダメ。ゼッタイ。


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