Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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2匹の子猫のカプリッチョ Ⅱ

「これはどういうわけだ……」

 

「ごめんね、ちょうど今日のバイトが2人欠けちゃって。本社の視察とかいろいろあるのに困っててね。あなた達かわいいし、今日だけその穴埋めをお願いしたいの!」

 

「はぁ……」

 

「事情はわかったんですけど、どうして僕は執事の格好を?」

 

「あぁ、ちょうど休んでるのがカップルでね。要は駆け落ちよ。だからその分で」

 

「はい……」

 

「店長! 早くしてください!」と呼ばれてホールに行こうとする女性をシャルロットが止めて、「ここ、なんていうお店ですか?」と聞くと、その女性はスカートの裾を少し摘み上げると

 

「いらっしゃいませ。@クルーズへようこそ」と言った

 

 

ラウラは櫻に「シャルロットがお人好しで損をした。今からよくわからない喫茶店でバイトだ」とメールし、「ご愁傷様、バカにs……応援に行くから待ってて」と返信されてがっくりと肩を落とした

 

 

 

 

「シャルロットちゃん、2番にアイスストレートとアイスコーヒー。そのあと6番の注文受けてちょうだい」

 

「ハイ!」

 

数十分経って、少しこの場にも慣れたシャルロット。元の育ちだけに動作に"素人臭さ"が無い。それは客も店員も問わずに魅了するには十分だった

 

最も、本人は不満そうだが。

 

一方のラウラもその雰囲気でもって客(主に男性)から熱い視線を送られていた。

接客態度は好みがわかれるものだったが……

 

ドンッ、と軽く水が跳ねるのも厭わずに乱暴に水を置くと「注文は?」と低い声で脅すように客に聞く。客が「い、いや、まだ決めてなくて……」などと言おうものなら問答無用でアイスコーヒーが出されるという素敵な接客だ。シャルロットは内心ヒヤヒヤしている

 

一部の客は嬉しそうな顔をするが、それ以外はなんとも言えない表情をしていた

 

 

だが、気がつけばシャルロットもラウラもその容姿と独特の雰囲気でひっぱりだこになり、店長が的確な指示を持って2人を動かしていた。

 

外に少し客が待つ中でそいつらは現れた

 

 

「てめえら、その場から動くな!」

 

店の入口から怒号を発したのはバラクラバを被った3人の男。手にはそれぞれハンドガン。背中には札の飛び出すバッグと長物が背負われている

「なんか漫画みたい……」とか思った客がいたかどうかは知らないが、客の一人が悲鳴を上げるとリーダーと思しき男が天井に向けて一発撃った

 

 

「悪いが静かにしてもらおう。通報しようものなら、解るよな」

 

そう言って後ろの男達が引っ張ったのは

 

――櫻とのほほんさん?

 

そう、まさかの櫻と本音だった。簪は何処だろう

 

 

「変に動いたらこの娘をぶっ殺す」

 

ここまでテンプレ通りな強盗達に客も黙るしかない。櫻と本音はマジでビビっているのか演技かは知らないが、震えているようだ

 

カウンターの影に隠れたシャルロットとラウラは状況を確認する

 

「敵は3、武器はリーダーが ハンドガントカレフと ショットガンM870 ショーティーを背負っているのは見えるな。後ろの二人はわからん。防弾チョッキはない」

 

「人質を取られてるのが厄介だね。それにISを展開するわけにも行かないし」

 

「ああ、実質的にこちらは丸腰だ。かなり不利といっていいが、一つ、勝機がある。奴らは素人だ」

 

シャルロットがそれを聞こうとした時、外から何処かで聞いたことのあるセリフが投げかけられる

 

 

「犯人に告ぐ。君達はすでに包囲されている。おとなしく武器を捨て、両手を頭の後ろに組んで出てきなさい。繰り返す――」

 

まさにドラマチックな展開に客の数人が「古っ……」や「ドラマの撮影?」などとつぶやいている

 

 

「どうしましょう、旦那」

 

部下の一人の細身の男がリーダーの男に聞くが、

 

「ここで焦ったら俺らの負けだ。人質もいるし、しばらくは警察も動けねぇさ」

 

「旦那の言うとおりだ、それに、こっちにはこいつがある」

 

もう一人の背の高い男がスリングに掛かった カービンAKS-47を小脇に抱える

リーダーの男が外に向けて数発撃つと

 

「聞こえるか! 今から30分以内に逃走用のワンボックスを用意しろ! 発信機なんてつけようと思うなよ!」

 

幸いにも人に当たることはなかったようだが、外では野次馬が大騒ぎしている

 

 

「へへっ、やっぱり平和ボケしてる奴らはこういうのに弱いんでしょうね」

 

「ぬかるなよ、小吉、特殊部隊が来ようものなら俺らは逃げられん」

 

小吉と呼ばれた細身の男は本音を引っ張ると顔を覗きこんだ

 

 

「にしても旦那、この娘、結構可愛いですぜ。食っちまっていいっすかね?」

 

「ふざけるな。その時はお前に穴がひとつ増えるぞ」

 

「へいへい」

 

「にしても、この娘共、妙に落ち着いてるな。おい、大丈夫か?」

 

リーダーの男はかなりキレるようだ

 

「いやっ! さわらないでっ!」 

 

本音はいかにもな感じで人質をしている

 

 

「人質である以上は俺らは君たちを傷つけない。時が来たらちゃんと解放するさ。済まないな」

 

涙目の本音を慰めるようなものいいに他の客も心なしか緊張が緩んでいる

櫻は真顔でまっすぐと立ち、まるでアンドロイドのようだ

 

 

「そっちの娘は?」

 

「さっきから一言も話さないし悲鳴すら上げない。やっちまったかな?」

 

「お嬢さん、大丈夫かい? 日本語は解るか?」

 

櫻はわざと崩した英語で「sorry,I'm not good English and Japanese」と言って男を困らせていた

そこから「Zwei Schrotflinte und Gewehr. Der Umzug in meine signalisiert(ライフルとショットガン持ちが2人。私の合図で動いて)」とドイツ語で話した。

 

やはりドイツ語であることはわかっても内容までは理解できなかったようだ

少し困った顔をして「すまんな」と言ってからまた客の方に向いた

 

もう誰一人として声を上げるものはおらず、シャルロットとラウラもまた声を出さずに口元だけで会話をしていた

 

 

「敵の武装はライフルが1、ショットガンが2だ。それと全員がハンドガンを持っていると見ていい。櫻が合図をするからそれで私はリーダー格の男を、シャルロットは細身の男を落してくれ」

 

「OK.僕はカウンターの影を通るから、ラウラは正面で行ける?」

 

「ああ、テーブルの上を走れば弾は客には飛ばないはずだ」

 

2人は揃って頷くと音を立てずに移動する。

 

 

「Laden!」

 

突然櫻が叫んだ。それと同時に襟を掴む腕を取り、そのまま壁に叩きつける。

カウンターの影からはラウラが飛び出し、テーブルの上を跳ねるように男たちに迫っていた

 

「っクソが!」

 

リーダーの男が叫ぶと後ろの細身の男は容赦なくラウラに向けてショットガンを構える。だが、それもつかの間、本音が銃を引いて男の姿勢を崩すと腹に肘を打ち入れる。

リーダーの男は容赦なくラウラに向けて撃ち続けるが、それもすべて上方に逸れていった。

 

「コレだから素人は……」

 

そう言って一気に間合いを詰めてテーブルから跳ぶと回し蹴りを決めた。

男の腕から銃が落ち、それをシャルロットが蹴飛ばす。そして最後にラウラの鉄拳が男の腹を抉った。

櫻の方も制圧したようだ。

 

 

「ターゲットダウン。そっちは」

 

「おとなしくしてもらってるよ」

 

「久しぶりに体動かしたよ~」

 

「僕の仕事は……」

 

本音が更識の従者としての実力を示し、シャルロットの役割を奪ってしまったが、櫻としては本音を戦力とカウントした上での提案だったため、すべて計算内だ。ただ、1つを除いて

 

 

「まだだ、まだ終わっていない!」

 

そう言ってリーダーの男が立ち上がるとジャケットを脱ぎ捨てた。

身体に巻かれているのは茶色い紙に包まれた何か。それにはコードがつながっていて、その先には、男の手のうちのスイッチがある。

 

「最後まで古臭……」などという客のつぶやきも程々に男は形勢逆転だと吼える

 

 

「ガキ共、動くんじゃねぇぞ! もう容赦しねぇ。全員揃ってあの世へ送ってやる!」

 

だが、一つ忘れてはならない。男の後ろには2人手下がいた。片方はショットガンを、片方はライフルを持っていた。ショットガンは本音が放り投げ、ライフルは……櫻の手の内だ

 

タタン! と鋭い2つの音が響くと、地面に穴が2つ。

男が振り返ると、カービンを構えた櫻。バレルからはほんのり煙が上がっている

 

 

「ちょっと試し撃ちしたけど、コレって中国製だよね。とりあえず殺したくはないからお腹狙うけど、ちょっとブレて心臓にあたったらごめんね」

 

「何を言ってるんだ、コレはC4爆薬だぞ! あたったらこの建物ごとドカンだ!」

 

はぁ……と一つため息を付いてセレクターを一つ下げてセミオートに

トリガーに人差し指を掛ける。

 

 

「ダメだ櫻!」

 

タン。と短く響いた銃声のあと、男は崩れ落ちた

 

 

 

 

 

男の足元には湿っていた。ただし、少しアンモニアの臭いがする

 

「さ、大事になる前に行くよ。そとに簪ちゃんもいるし。ラウラとロッテは後でメールするから、そこに集合ね」

 

櫻は銃をハンカチで拭くと無造作に投げ捨て、本音と共に店外の人混みに消えた。

 

 

「はぁ、やり過ぎだよ。どうなるかと思った」

 

「まぁ、この場にいたのは全員プロだからな。素人(アマチュア)など相手にならん」

 

「店長さん、服はロッカーに入れておきますね」

 

とりあえずひと声かけてスタッフルームに逃げ込むと大急ぎで着替えて外に出た

 

 

 

「集合場所は……ここだな」

 

大通りを少し行き、路地に入ってまた少し。住宅街に似合わぬファンシーなお店

シャルロットが少し気まずそうな顔をしているが、ラウラは何くわぬ顔で扉を開けた

 

 

「いらっしゃい。あら、シャルロットちゃん、久しぶりね。と、すると、そっちの小柄な娘が黒猫さんね」

 

「ええ、まぁ。それで、櫻は来てますか?」

 

「櫻ちゃんとのほほんちゃんなら奥にいるわ。正義のヒーローしたんだって?」

 

「僕は出番がなかったんですけどね。お邪魔します」

 

ラウラのジト目を背中に受けつつ、2人は店の奥に消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、シャルロットとラウラの部屋では

 

 

「や、やめろ。それはナシだ! シャルロット!」

 

「いいじゃん、きっと似合うよぉ……?」

 

シャルロットが手にしているは一着のコスチューム。

ラウラがここまで拒否反応を起こすのなら、もちろんそれなりの理由がある。

 

 

「私にはそ、そんな。バニーガールなど無理だぁぁぁ!!!」


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