Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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さらしきさんち

時刻は7時40分、ホルンに泊まっていた更識一行はすでに駅で電車を待っていた

駅の辺りには白い壁の建物が並び、いかにもヨーロッパの都市郊外という雰囲気だ

 

 

「なんか、世◯の車窓からで見たような駅ね」

 

「田舎の駅、ってかんじですかね? こぢんまりしてて素敵じゃないですか」

 

「ふぁぁぁ」

 

「あ、電車来た」

 

日本の電車とは似つかないデザインの電車がプラットフォームに滑りこむ。

 

ヴァインフェルデン(Weinfelden)行き、コレだね」

 

行き先を確認して乗り込むと車内は若干の混雑を見せていた。

事前に手配したチケット通りに2等客車の席につく

 

 

「これで終点まで、そこから急行に乗り換えてコンスタンツ中央駅へ行くよ」

 

「う~、眠む~」

 

「終点までだから寝てていいよ?」

 

まだねむい目をこする本音に簪が天使のささやきを送るとあっさりと堕ちた

 

 

「今日は何処に泊まろうかしら? コンスタンツなら結構ホテルとかありそうね」

 

「そうですね、観光地ですし」

 

こんな会話から想像がつくだろうが、基本的に彼女らのスイス紀行は行き当たりばったりである。目的といえば「ヨーロッパのきれいな風景と美味しいもの by本音」であり、ぱっと目的地として思い浮かんだ――というよりもネットで調べて目についたところだった――コンスタンツ湖までやってきたのだ。

ネットの地図を頼りに評判の良かったホテルに泊まり、美しい風景と美味しい魚料理を食べて満足していた、次の目的地は特に無い

 

 

「でもそろそろ山とか行きたいわね」

 

「スイスアルプスですか、美しい風景で有名ですね」

 

「私はこのままドイツ入りして工場見学とか……」

 

「う~ん、それもまた面白そうだねぇ、どうしよっか」

 

「ドイツの古城めぐりとかはどうでしょう?」

 

「「それだ」」

 

ドイツの美しい風景を見ながら古城を散策し、時には古城に泊まる。ある意味定番ではあるが、とても気分にひたれるだろう

虚が携帯を楯無と簪に見せながら

 

 

「ロマンティック街道なんてどうでしょう? 定番ルートではありますが、バイエルンを南北に370kmほどです。観光バスもあるみたいですし、いいんじゃないですか?」

 

「決まりだね。じゃ、明日はシュトゥットガルトに出て、有名なところを回ったら東に向かってロマンティック街道に合流かな?」

 

「大移動ですね、1日でロマンティック街道まで行けるでしょうか?」

 

「その時はシュトゥットガルトで一泊だね。そしたらゆっくり見られるしそうしよっか」

 

「焦る必要もないですし、そうしましょう」

 

「決定っ! 簪ちゃんも満足できるし、いいよね」

 

「もちろん。シュトゥットガルトは商工業都市、特に自動車産業は有名だからね。ポルシェやメルセデスの博物館もあるから行きたい」

 

「目的地決定! 大都市だし、電車で行けるよね」

 

「多分大丈夫でしょう。距離はあるので時間は掛かりそうですが」

 

 

その後もヴァインフェルデンで乗り継ぎ30分、コンスタンツ中央駅に着いた。ここからは各駅停車で数駅だ。

本音を揺さぶって起こし、電車を降りるとすぐ向こうにドイツ国鉄の電車が見えた

 

 

「あれ? もっと仰々しい税関とかあると思ったんだけどなぁ」

 

「シェンゲン協定に入ってますから、国境審査が無いんですよ。社会科で習いませんでしたか?」

 

「スイスがEUに入ってないっていうのしか覚えてないなぁ」

 

「お姉ちゃん、これ中学の範囲……」

 

しかし、結構大きいこのコンスタンツ中央駅、止まっている電車の数も多い。どれに乗るべきなのか迷っていると本音が駅員らしき人に話しかけていた

 

 

「Ich möchte nach Fürstenberg zu gehen, aber sollte ich auf jedem Zug zu bekommen?(フュルステンベルクに行きたいんですけど、どの電車に乗ればいいですか?)」

 

「Wenn Sie auf den Bus zu gehen, anstatt 's Zug ist gut. 7. Bushaltestelle(電車じゃなくてバスに乗って行くといいよ。7つ目だ)」

 

「Danke(ありがと)」

 

本音のドイツ語力に驚く3人を他所に、パタパタと駆け寄って成果を報告する。

 

 

「電車じゃなくてバスだって~。7つ目のバス停って言ってたよ~」

 

「本音、いつの間にドイツ語話せるようになったの?」

 

「さくさくにちょっと教わったんだ~」

 

「詳しくは聞かないけど、バスにのるんだね?」

 

「そうだよ~、ターミナルは駅前だって」

 

本音の案内に付いて改札を抜けて駅前に出ると中世の趣というか、まるで映画のセットのような風景が広がっていた。

だが、すでに時刻は9時に近い。ゆっくり観光したいが、諦めてバス停を探す

 

 

「本音、どれ?」

 

「2番のバス~」

 

「アレじゃない?」

 

荷物を持ってバスに乗り、席につくとしばらくして発車した。

簪は櫻にコンスタンツ中央駅に付いたとメールを送ると、コンスタンツ=フュルステンベルクに家の人を迎えに行かせると言ってくれた。ついでに紹介した店にも連れて行ってくれるという。ありがたい限りだった

 

バスに揺られて10分ほど、フュルステンベルクの停留所で降りると一人の男性に声を掛けられた

 

 

「更識様でしょうか?」

 

「はい、そうですけど……?」

 

「私、フュルステンベルク家に仕えるハインリッヒと申します。皆様の案内をさせていただきます」

 

「あぁ、お世話になります。私は更識楯無、こっちは妹の簪です。後ろは使用人の布仏虚と本音。よろしくお願いします」

 

「いえ、そんなかしこまらなくても結構です。では最初にドレスの手配でしたね。こちらです。先に荷物を置きに行きましょうか?」

 

「大丈夫です」

 

ハインリッヒの案内でやってきた駅前の小さなビル。1階のメゾンには様々なアイテムが並んでいた。

店主と手短に話したハインリッヒに呼ばれ、店の奥に入るとラックに掛けられたドレスが壁を埋めていた。

 

 

「どうぞ、お好きなモノをお選びください。お嬢様から伺っているとは思いますが、ディナードレスやイブニングドレスからお願い致します」

 

あっけにとられつつも、4人はドレス選びを始めた。知識や経験がないわけでは無いためか、一夏のように色々と時間を掛けること無く全員が飾り気のないディナードレスを選びとった。

楯無は水色のストラップレス、簪は白いホルターネックのシフォンドレスを選びとり、かぶらせずに済ませた。

虚と本音はどちらも暗色のストラップのあるものを選んで公の場での更識との関係を明確にする。

 

一応ハインリッヒに確認を取り、皆様お似合いです。との言葉をもらってからそれぞれのものを決めた。

ドレスをケースにしまうとハインリッヒがそれらを持って店を出ようというところで楯無が財布を取り出すと、店主に首を振られ、ハインリッヒに「支払いはもう済んでいますよ」と言われて櫻が出したのだと理解した。

 

 

「あの、コレって……まさか」

 

「ええ、お嬢様が適当に買っちゃいなさい、と」

 

「ご迷惑をお掛けします」

 

「私はお嬢様に言われた通り、皆様にドレスを選んで頂いただけです。そのようなお気持ちは胸中に収めておいてください」

 

「櫻ちゃんには頭が上がりませんね」

 

「良くも悪くも我が道を行くのがお嬢様ですから。振り回されるという言葉が近いのでしょうが、お嬢様に付き合ってくださるご学友が居るのはとても嬉しく思います。あぁ、その車です」

 

車に荷物を積み込むと4人と執事はフュルステンベルクの屋敷に向かった

町を抜け、森に入ると何もないようなところで曲がった。そのまま石畳の道を進むと広い庭を持つ大きな屋敷が目に入った

 

 

「おっきいお屋敷~、アレがさくさくのお家なの?」

 

「左様で、フュルステンベルクの別邸です。お荷物は我々で部屋にお持ちいたしますので皆様は食堂へ」

 

正面に車を停めると待っていたメイドがそっとドアを開けた。小さく会釈して降りる楯無や簪と対照的に、ぴょんと飛び降りると辺りを見回す本音。虚が黙って手を引いた

 

大きなドアを抜け、エントランスホールに入ると櫻とラウラ、シャルロットとセシリアが待っていた。

 

 

「いらっしゃい、待ってたよ」


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