Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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千冬とラウラ

当日の早朝、千冬は時差ボケがまだ残っているのか妙に覚めた頭で窓の外を眺めると朝霧の木々の合間からボーデン湖が見える。

日本のように家々が立ち並ぶ風景に見慣れた彼女にはドキュメンタリーでしか見たことのない風景が広がることに少し感動を覚えた

 

窓から裏庭を見下ろすと、森のなかにあるべきではない物(マンターゲット)や花壇をぶち壊すもの(カタパルト)が見えたが目をつぶった。

 

――少し歩くか

 

ジャケットを羽織って部屋を出ると少しひんやりとした空気に震える

薄暗く長い廊下を抜け、広い階段を降りてエントランスホールに出ると後ろから声を掛けられた

 

「織斑先生」

 

「ラウラか、おはよう。早いな」

 

「毎朝この時間に起きて少し走ってますから。先生は散歩ですか?」

 

「まぁ、そんなところだな。あと、ここは学校じゃないから好きに呼べ。こっちも気が抜きたいんだ」

 

「いきなりそう言われても……、やはり織斑先生は私の教官であり、先生ですから」

 

「赴任したばかりの時にチフユーと呼び捨てたのはどいつだったかな」

 

「あれは自分の無知故と言うか……」

 

「まぁ、無理にとは言わないが、休みくらい気を抜け」

 

「はい。湖まで一緒に歩きませんか?」

 

「そうだな。道は頼むぞ」

 

「ええ、お任せください」

 

久しぶりにゆっくりと話せた2人は話題も尽きず、通りを抜けて湖のほとりまでずっと話し続けていた

ラウラも懐かしい感覚が呼び起こされたのか、いつの間にか教官、と呼ぶようになり口もよく回っていた

 

 

「今の生活にも慣れたか?」

 

「そうですね、まだデスクワークはあまりしたことはありませんが、周囲の人間関係もいいですし、だいぶ過ごしやすいです」

 

「お前の口から人間関係、なんて言葉が出てくるなんてな。これも成長の証と受け取ろう」

 

「これも教官や櫻のおかげです。よく悩め、と言われたから自分なりに悩みました。その結果として今の自分があります。良い友人や上司や部下に囲まれ、とても充実していますから」

 

「だろうな。合宿辺りからとても落ち着いているからな。自分が誰で何がしたいか、輪郭がつかめてきたのだろう? まだまだ悩む時間はある。ゆっくり考えろ」

 

桟橋に腰掛けゆっくりと話す2人は教官と部下というよりも仲の良い姉妹のように見えた。

朝靄が水面に浮かぶ湖を眺めて何か一つ、自分の今を見つめなおすことで何かを掴んだようなラウラ。千冬は自信の教え子の成長を実感したようだ。自分が教えそこねたことを自身の力で身につけつつある彼女を見て、頭の片隅に残った不安は消え去った

 

 

「よし、軽くなにか食べて戻るか。そこのカフェでいいな」

 

「ええ。あそこのブレートヒェンは種類も多くて美味しいですよ」

 

「ほう、楽しみだ」

 

 

オープンテラスの席で少し大きめのミルヒブレートヒェンを少しずつちぎって食べるラウラを千冬は自然と撫でていた、くすぐったそうに首をすくめつつ抵抗の意を露わにする

 

 

「どうしたんですか? くすぐったいのですが」

 

「あぁ、すまん。リスやハムスターっぽくてつい、な」

 

「はぁ……」

 

「櫻にこういうことされたりはしないのか? アイツも可愛いものには目がないんだが」

 

「櫻はそうでもありませんがシャルロットが……」

 

「ん? 意外……でも無いか、なにかされたか?」

 

「大したことでは無いんですが、お揃いの猫の着ぐるみパジャマを買ってきてそれを着て一緒に……」

 

ちなみにpetit animals製だ。本音のパジャマに興味をもったシャルロットが店を聞いて買ってきたのだった。

 

 

「ははっ、それは面白い、今度写真でも見せてもらおう。お前がそんな、猫の着ぐるみパジャマなんて、くくっ」

 

「笑いすぎですっ。まぁ、あまり嫌じゃないですけど……」

 

「いや、本当にドイツの冷水は何処に行ったんだろうな、ふふっ」

 

「んなっ、帰りますよ、教官っ!」

 

ブレートヒェンを手に席を立つラウラをコーヒーを流しこんだ千冬が追う、いつもお固い2人が見せないであろう光景だが、誰も見ることは無かった




あけましておめでとうございます。
年明け最初のお話は季節感もクソもない真夏のドイツでのお話。
ブラックラビッ党の私としてはちっちゃかわいいラウラかわいいよラウラ。

何ってるかわからないがソレくらい可愛い。


なんにせよ、今年もよろしくお願いします。

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