Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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客を招いて

フュルステンベルクの屋敷でのパーティーを翌日に控え、櫻はラウラとともに買い出しに出ていた。

行き先はもちろん地元のスーパー、約15人でのパーティーともなればその食料の量もかなりのものになる

 

 

「とりあえず肉と野菜は揃えた。あとはなにがいいかな?」

 

「この時期にここで魚は食べたくないからな……まぁ、肉と野菜を使ってドイツ料理を振る舞えばいいだろう」

 

「だね、あとは飲み物。ソフトドリンクからビール、ワインも揃えようか」

 

「そうだな、それだけあれば困らないだろうな。一夏に飲ませるのか?」

 

「日本から来たみんなには飲んでもらいたいよね。日本じゃ合法的には飲めないわけだし」

 

「どうなるのか楽しみだな」

 

「ふふっ、多分一夏くんはお酒に弱いね。ダークホース本音」

 

「布仏はどんな分野においても素質があるような感じがするからな」

 

「だね。じゃ、会計済ませて帰ろっか。下ごしらえがいっぱいあるよ」

 

「おう、コレは全部積めるのか?」

 

「たぶん、行ける。うん」

 

会計済ませてダンボール持って駐車場を往復、車に食材を突っ込む。荷室をうめつくす食べ物の山にハインリッヒも驚きを隠せないようだった。

 

 

「これは、かなり買い込みましたね」

 

「そりゃ、お客様がいっぱい来るからね。でもホームパーティーの体でやりたいから仕方ないよ」

 

「これの1/3程は飲みものなんだがな……」

 

自宅に戻ると大量の食材をキッチンに持ち込み、肉を切り野菜を切り、下味をつけて冷蔵庫に入れ、ラップを掛けて野菜庫に押しこんで、飲み物は少し冷えた別の冷蔵庫にしまう。これだけの仕事を3時間で済ませ、櫻とラウラはやっと一息だ

 

 

「軍の食当より大変だった気がするぞ……」

 

「久しぶりに包丁握ったよ、大変だったぁ。明日はアレに火を通したりするだけだから、結構楽だね。メイドに丸投げしようかな」

 

「どうしても手が回らないならそれもあるんだろうが、できるだけ私達でやりたいな」

 

「ラウラって意外と自立心があるというか、他人を使い慣れてないというか……」

 

「慣れてないからな。どうしても遠慮してしまうのだ」

 

「まぁ、私も引っ越したばかりの時はそんな感じだったかなぁ。まぁ、慣れだね。それに尽きる」

 

「軍の時からずっと私は一人だったからな……結局部下とも溝が出来たまま別れてしまった」

 

「変な流れになりそうだから、ちょっと射的でもやる?」

 

「だな、湿っぽい空気も硝煙でさよならだ」

 

さっさとエプロンを脱ぎ捨て、自室へ向かう2人の目には先程の少し沈み気味な雰囲気は無く、獲物を追う狩人のそれになっていた

 

 

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ところ変わってスイスはチューリッヒ空港。企業連の社有スポットに現れた白き巨体はタラップ車をつけると小さな口を開き、人や荷物を下ろしていく

 

降りてきた客の中にサマースーツを着こなした女性とカジュアルな服に身を包んだ女性、ティーンエージャーと思しき男の子が降りてくる

 

 

「着いた~。スイス、チューリッヒ!」

 

「長かったな、まぁ、快適だったが」

 

「うぁぁぁああ。カラダがガチガチだぁ。思ったより寒いな」

 

「北海道と同じくらいの緯度だからね、それに高地だから結構寒いよ」

 

「で、フュルステンベルクの家はドイツだっただろう。ここからは車か?」

 

「そうだよ~。帰りにお酒でも買って帰ろっか。明日のもあるし」

 

「スイスか……スイスワインだな」

 

「いいねぇ。チーズも一緒に買おう」

 

「じゃ、とりあえず市街に出ようか。さっさと入国審査済ませちゃお」

 

さくちんにもメールしておかないとなぁ。と言いながら先陣を切る束。千冬と一夏もそれに続く

パスポートを見せ金属探知機を通ると何事も無く通過。荷物を受け取り人混みの中で手を振る束につづいて駐車場に向かう

 

 

「迎えでも呼んでるのか?」

 

「んや? 束さんが運転するよ?」

 

「束さんが車運転するのか、意外だなぁ」

 

「失礼だねいっくん、束さんだってお仕事で車使うから数年前に免許取ったんだよ」

 

「それに対して千冬姉はペーパ――」

 

「それ以上は言うなよ」

 

「はいっ」

 

「ちーちゃんも少しは乗っておきなよ。免許があっても実力が無いんじゃ困るよ?」

 

「束に正論で諭されるなんて……」

 

引きつった笑みを浮かべる一夏を視界の片隅に苦い笑みを浮かべる千冬。大きいスーツケースを引きずった2人と小さなバックパックを片手に歩く束がエレベーターに乗るとパーキングチケットを確認する

 

 

「何処に駐めたんだ?」

 

「ん~、地下のエレベーターの近くだよ。白いアウディのワゴンだね」

 

「やっぱりドイツ車を買う人が多いのか? 束さん」

 

「ん~、束さんは車には興味ないからわかんないけど、日本でも見たことあるのは多いね。日本車も結構走ってるよ」

 

エレベーターがフロアに止まると開いたドアから見えるところに少し厳つい白のワゴンが見える

ポケットからキーを取り出すとリアゲートが開いた

 

 

「荷物はテキトーに積んじゃってね。ネットとか使っていいから」

 

「ああ。いい車だな……」

 

「身分相応の車に乗りなさいって会社の人に言われちゃってね。かっこ良くて荷物積めそうだからコレにしたんだ」

 

閉めるよー、ぽちっと。とスイッチでリアゲートを閉めるとエンジンを掛ける。ワゴンボディに似合わぬ重低音を響かせた

一夏は普通の男の子らしく目を輝かせ、千冬は思ったより大きい音に一瞬驚いたあとシートベルトを締めた

 

 

「そういえば、さくちんからドレスコードは聞いた?」

 

「ん? 聞いてないぞ。言ってくれれば持ってきたのに」

 

「やっぱりね~。じゃ、ドレスとスーツも買っていこうか」

 

「え、スーツなんて着たこと無いけど……」

 

「そう肩肘張らなくてもいいよ~。中学校とかの制服だと思えば違和感ないと思うよ?」

 

「コイツの言っているのはパーティー用のフォーマルスーツだ。タキシードとかその類のな」

 

「あぁ~、それか、大体イメージ出来たぞ。俺が着るのか……」

 

「いっくん体格いいし、似合うと思うよ~?」

 

そう言いながらするすると車を走らせる束、幾分余裕が見える。片手でナビをいじりながら後ろの2人と会話を楽しんでいる

 

 

「ちーちゃんはイブニングドレスね、昼は庭でワイワイやるけど、夜は畏まった雰囲気でワイワイやるんだって。さくちん曰『一夏くんにもこういう雰囲気を感じて欲しい』だってさ」

 

「どちらにせよワイワイやるんだな……まぁ、一夏がこういった場を経験するのもいいことだろう」

 

「あぁ、まだ明日の夜だっていうのに緊張してきた……知り合いばかりだとは言ってもシャルロットもセシリアもそういうの慣れてそうだしなぁ」

 

「だろうな、オルコットもウォルコット、紛らわしいな、デュノアも家がそういったことに近いからな」

 

「まぁ、どうせ知り合いばっかりだしマナーのお勉強、くらいな感じでいいよ~」

 

市街地を走ること数十分、観光都市らしく古い町並みが並ぶ中で路肩に車を停めた

 

 

「じゃ、まずは服だね。パパっと買っちゃおうか」

 

「そうだな。行くぞ」

 

「お、おう」

 

異国の地でいきなりわけのわからぬ言葉を喋る3人にいろいろなジャケットやパンツをあてがわれ、色々と試着するうちに何処か諦めが付いたのか着せ替え人形と化す一夏。いつの間にかクラークの手には数着のスーツが重なっていた

 

 

「じゃ、基本に忠実にコレでいいね。ちーちゃんも決めた?」

 

「ああ、これにしよう」

 

千冬は黒いディナードレスを選んで持って来た。千冬らしく無用な装飾のないコレもまたシンプルなデザインだ。

束はうんうん、と頷くと会計を済ませて車にそれらを積み込んだ

 

その後も酒を買い、軽食を買い、国境を超えてフュルステンベルクの屋敷に付いたのは夜の8時だった。

 

 

「ここか、立派な屋敷だな」

 

「こんな映画に出てきそうな屋敷って実在するんだな……」

 

「ま、つったってないで中入っちゃって~、荷物は後で部屋においておくからさ」

 

束に促されるまま屋敷に入った2人は櫻や紫苑から熱烈な歓迎を受けた。だが、あくまで本番は明日、夕飯での積もる話もそこそこに2人はあてがわれた部屋で死んだように眠った。

 

 

 

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夕暮れ時のスイスはホルン、とあるホテルの一室で楯無達4人は明日の予定を再確認していた。

やはり4人のネックはドレスコード。普通の夏休みを過ごすつもりで居た高校生がパーティードレスなんて持っているわけもなく、とりあえずレンタルで済ませようかと考えていた

 

 

「う~ん、小さい町だからそういうお店も無いのね」

 

「一回チューリッヒに出るしか無いでしょうか?」

 

「簪ちゃん、櫻ちゃんに聞いてみてよ、どこかでドレス調達できないかな?」

 

「え、今櫻さんと電話してるから聞いてみる。うん、お姉ちゃんがね――」

 

「コレでなんとかなりそうね」

 

「天草さん、でしたか? かなり信用しているようですね」

 

「そりゃね、あの子は立派よ? 私よりずっといい子だわ。ISの腕以外なら負けちゃうかもね」

 

「まだ会ったことがありませんから、楽しみにしておきますね」

 

「お姉ちゃん、コンスタンツ駅の近くにそういうの貸してくれるお店があるって、それか櫻さんの家にあるもので。ってどうする?」

 

「さすがにそこまで迷惑かけられないから借りて行くわ、インフォーマルでいいのかしら?」

 

「ちょっと待ってね。うん、借りて行くよ。インフォーマルでいいの? あぁ、なるほどね。伝えるよ。――フォーマル以上だってさ。織斑君にパーティーマナーを学ばせたいからって」

 

「じゃ、明日すこし早めに出てそこに行きましょう。詳しいこと聞いておいてね」

 

簪が頷いて返すと楯無がふと、何か思いついたように口を開いた

 

 

「そういえば、ドイツって16からビールやワインが飲めるのよね?」

 

「やめてくださいよ?」

 

「いいじゃない、日本じゃ飲めないんだし~」

 

「場をわきまえてくださいね。明日は誰が居るのかわかりませんから」

 

「まぁ、織斑先生もいるしね」

 

織斑先生、という存在は学園の生徒にとってかなりの物であるらしく、すこし残念に思いつつもベッドに倒れ込んだ。

虚の隣のベッドではすでに本音が寝息を立てている。

 

 

「明日はお昼に庭でバーベキューみたいにワイワイやって、夜はディナーパーティーだってさ。最後に『簪ちゃんは踊れる?』って聞かれたんだけど、これってそういう意味だよね……」

 

「映画のワンシーンさながらのパーティーでもやるのかしら? 虚ちゃんは踊れる?」

 

「え、私ですか? 知識も経験もありませんよ」

 

「だよね~、まぁ、私達も半分お勉強な感じで行きましょ」

 

「そうですね」「だよね~」

 

「それで、ドレスはコンスタンツ=フュルステンベルク駅の近くで貸してくれるお店があるって。櫻さんの家まではタクシーで。行き先はウニヴェルジテーツシュトラーゼ(Universitätsstraße)74082って言えば通じるってさ」

 

「うに……なんだって?」

 

「ウニヴェルジテーツシュトラーゼ。通りの名前だね。それで、電車はすぐそこのホルン駅から、特急に乗れれば1時間半くらいで着くみたい」

 

よくわからないから簪ちゃんに任せる。と楯無が丸投げし、虚に呆れられつつも簪は路線図とにらめっこしながらルートを調べていた

その後も簪はパスポートを確認しに来た時のやりとりからなにからを櫻から言われたとおりに虚や楯無に伝え、水を一杯飲むとそのまま寝てしまった

 

年長組はその後、ガイドブックを見ながら必要になりそうなドイツ語での会話を学んでいた

 

 

「やっぱりドイツ語は難しいわ、発音が独特すぎるのよ」

 

「ですが少しは話せないと。まぁ、国境なら英語が通じるでしょうけど」

 

「だといいんだけどなぁ。明日は7時に出るんだっけ?」

 

「そうですね、逃すと1時間後らしいのでくれぐれも寝坊しないでくださいね」

 

「わかってるわよ。じゃ、もう寝るわ。おやすみ」

 

「おやすみなさい、お嬢様」




年内最後ですね。
すごく半端なところですが、話はまだまだ。原作だと3巻4巻。暁の方ではすでに7巻を終えてオリジナル展開まで入ってます。
これからも期待せずに気長にお楽しみいただければ幸いです。

それでは、良いお年を。



って書いてるのは12月の15日だったりします。

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