Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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夏休みの過ごし方 独の場合

ドイツ入りの翌日、櫻とラウラは日用品を買うついでにと企画していたライフルの購入に行くことにした。

今日はいつものセダンではなく、荷物も多めに積めるワゴンに乗り込み、ハインリッヒの運転で市街地へと向かった

 

まず2人がやってきたのは地元の商店街、小さなお店が立ち並び、消しゴムからライフルまで揃う。

ここでの目的は、特にない。ウィンドウショッピングである。

 

最も、櫻はラウラに可愛い服を着せたくて仕方がないようで、こっそり、パーティードレスを発注し、明日には届く手はずになっていた。

なので、ここで買うべきはラウラの普段着。シンプルな方が映えるだろうと頭のなかで思案しつつ、ゆっくりと歩いていると、いきなり駆け出してある店に張り付くラウラ

 

 

「なにかいいものでもあった?」

 

「あのコンバットナイフだ! 刃の反り、厚み、素材、グリップの太さ。完璧だ!」

 

「う、うん。買ってきたらどうかな?」

 

「そうしよう! 少し待っていてくれ」

 

本当に少し待つと、紙袋を手に幸せそうな笑顔を浮かべるラウラが店から出てきて、

 

 

「ペティナイフをおまけで付けてもらった、また贔屓にしよう」

 

「良かったね。次はあのお店がいいな」

 

「ん? ブティックか?」

 

「そうだよ。ラウラの服を買おうと思って」

 

「別に服には不自由していないぞ?」

 

「女の子なんだから、スカートの1本や2本持ってないと駄目だよ。可愛いんだからもっとおしゃれしないと」

 

「あまりスカートはすきじゃないのだが……仕方ないか」

 

「よろしい。じゃ、行くよ」

 

 

そうしてそのまま1時間ほどいろんな服をあてがわれ、着せ替え人形と化したラウラが顔に疲労の色を浮かべつつ出てきた隣では、紙袋を両手に下げ、いかにも「いいもの買った!」という表情の櫻が居たのだった。

 

荷物を車に積み、ついでに買ってきたサンドウィッチをかじりつつ次の目的を告げる

 

 

「じゃ、次はライフルだね」

 

「ああ、商店街の外れにディーラーがあるらしい。そこに行ってみよう」

 

「ボーデヴィッヒ様、案内はよろしくお願いします」

 

「任せろ」

 

車を走らせること数分、映画のガンスミスを彷彿とさせる店構えのディーラーにやってきた2人

中に入ると壁には骨董品とも思える木製ストックの銃から、最新のポリマーフレームまで様々なゲヴェーア(ライフル)ヴァッフェ(拳銃)が並んでいる。

 

 

「いらっしゃい。おや、女の子のお客さんとは珍しいね。免許は取り立てかい?」

 

カウンターでマグカップを手に雑誌を読んでいた店主は顔をほころばせながら聞いた

 

 

「ええ、エアライフルを撃ってたんですけど、免許もとったしシカ撃ちをしたいなって」

 

「なるほどね、隣のお嬢さんもそうなのかい?」

 

話を合わせろ、と目配せをするとラウラも把握したようで

 

 

「ああ、彼女に付き合わされてな。せっかくだから火薬を使う銃も撃ってみたくて」

 

「なるほど、シカ撃ちとなるとやっぱりライフルだな」

 

コレなんてどうだい? と手渡されたのは木製ストックのボルトアクション。

ニス塗りされたストックが美しい

 

 

「マウザー98カラビナ-だ。歴史ある銃だから初心者でも安心だな。ちょっと構えてみてくれ」

 

一回ボルトを引き、空であることを確認すると立射の姿勢で銃を構える。

ラウラは櫻を見て頷いていたから姿勢は合格なのだろう。店主もきれいな構えだ。と褒めた

櫻は昔ながらの銃は気に入らないらしく、棚に戻して店主から渡されたカタログを眺めていた

 

ラウラは店内を見て回り、ひとつの木製ストックの銃に目をつけた。

使い込まれた木の風合いが歴戦の兵士を彷彿とさせる。

 

 

「美しい……」

 

「お嬢さんはお目当てが見つかったかい?」

 

「ああ、この一番上のやつは」

 

「それは日本のアリサカライフルだ。俺の趣味で集めてたんだが、それに目をつけるとは、いい趣味をしているな。売りもんじゃ無いが、構えてみるかい?」

 

「頼む」

 

小柄なラウラにしっくりと来る大きさ、太いボルトハンドルと長めのストローク。

アイアンサイトは照門に数字が刻まれおおよその狙点を示す

 

 

「お嬢さんは少し小柄だから日本製のライフルがピッタリだね。構えやすいだろう」

 

「そうだな、今まで使ってたものよりずっとしっくり来る」

 

「趣味のものだから売るつもりなんて無かったが、お嬢さんはすごく様になってるし、気に入ったようだから売ろう。幾らまで出せる?」

 

「こちらの都合は気にしなくていい。言い値で買おう」

 

「そうかい、なら4000で弾薬をワンケースつけよう」

 

「買った。ありがとう」

 

「アリサカも実際に使ってくれる人に持っていてもらったほうが嬉しいだろうしな。やっぱり銃は飾るだけじゃなく、撃ってこそだ」

 

細かい説明と書類があるから奥に来てくれ、と促され、ラウラと店主が小部屋に消えてもなお、櫻はカタログとにらめっこを続けていた

 

 

「やっぱり近代的なポリマーフレームがいいなぁ、なおかつセミオートのほうが楽だしなぁ」

 

パラパラとページをめくると、ポケットの携帯が震える

メールの差出人は簪。

 

――へぇ、簪ちゃんスイスに来たんだ。それで、良ければどこか一緒に行かないか。と

    コレはパーティーに呼ぶべきだね。

 

決めると早速返信、ここに更識姉妹と布仏姉妹の参加が決定した。

 

 

「共通点の無い人が集まるなぁ……」

 

だが、今は自分の欲しい銃を探すことに集中。再びカタログを眺めるとラウラがガンケースを片手に戻ってきた。

 

 

「おつかれさん。近所のシューティングレンジの案内も入れておいたから良かったら行ってみてくれ。俺の知り合いがやってるんだ」

 

「そうだな、試し撃ちに行くよ」

 

「そうしてくれ。それで、背の高いお嬢さんは決まったかい? ここになければ取り寄せるよ」

 

「う~ん、セミオートマチックのライフルって何かおすすめありませんか?」

 

「セミオートか……そうだな、ブローニングBARはどうだ? 世界中で人気の狩猟用ライフルだ」

 

「BARは機関銃じゃないのか?」

 

ラウラが聞くと店主は笑いながら「名前は同じだが、俺の言ったやつは96年から製造が始まった普通のライフルだ」と言った

 

 

「なんというか、もっと現代的っていうか、AW50みたいなデザインがいいんですよね」

 

「あぁ、サムホールとか一体的なデザインのポリマーが好みか」

 

「ええ」

 

ちょっと待ってな、と言って店の奥から店主が持ってきたのは2つの黒いケース

どちらもサイズは1mとすこし。

 

 

「最近入荷したばかりでな、まだ店先においてないんだ」

 

そう言ってケースを開けると、片方にはグレーのポリマーフレーム。もう片方はM4ライクなライフルが入っていた。

 

 

「こっちのポリマーフレームはSL9って言ってな、軍用ライフルの民間向けモデルだ」

 

エアライフルをやってたならこういうほうが合ってるのかもな、と言いながらも次の銃を解説してくれる

 

「こっちはMR308。見ての通りM4だ、正しくはHK417なんだが、小難しいのは抜きにして、とても安定した性能を誇る銃だな。どちらも.308ウィンチェスター弾を使うから反動はキツめだ。まぁ、慣れるさ」

 

好みのものはあったかい? と尋ねる店主に櫻はコレください! とSL9を指して言った

 

 

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ガンケースを持って店を出た2人はそのまま車へ向かうと荷物を積んでからハインリッヒとともに昼食を取ることにした。

選んだのは地元でも有名なシュニッツェルの美味しい店で、他にもヴルストなどの定番も揃えている。

 

櫻はシンプルにシュラハトプラット――ソーセージや他の肉とザワークラウトを蒸し焼きにしたもの――を、ラウラはシュニッツェルを食べることにした。

ここで始めて聞いたが、ラウラはシュニッツェルが好きなようで「こんなに美味いシュニッツェルは始めてだ!」ととても喜んでくれた。

 

 

「じゃ、おやつでも買って帰ろっか」

 

「そうだな。家の裏で早速アリサカを撃ちたい」

 

「シューティングレンジでも作るかなぁ」

 

「出来るのか?」

 

「鉄パイプとターゲットシート買えば1時間位で作るよ」

 

「私はさっきの店でターゲットを買ってこよう」

 

「ノリノリだね。じゃ、帰りにホームセンターに寄って鉄パイプ買えばいいね」

 

「楽しみだ!」

 

 

 

 

言ったとおりに材料を揃え、パイプ同士を組み合わせることで簡単な構造にした結果、ラウラが一人でも10分で組み立てられる簡単なターゲットが出来た。

適当な木の板に距離を書き込んで測量し家の裏に簡単なシューティングレンジを完成させたのは家に帰ってからきっちり1時間後。2人は早速買ったばかりの銃でターゲットシューティングを楽しんだ

 

 

撃ち過ぎで紫苑に怒られたのだが、2人はとても楽しそうだった

 

 

 

夕食時、一緒に帰ってきたシャルロットを思った櫻はなんとなくつぶやいた

 

 

「そういえばロッテはなにしてるかなぁ」

 

「私達のようにショッピングでも楽しんでいるんじゃないか?」

 

「リリウムと仲良くやってるみたいよ」

 

そう言って紫苑が携帯を見せるとそこにはロンドンの都市街を眼下に望む2人のセルフィーが写されていた。とても楽しそうに笑う2人は親子というより姉妹のようで、シャルロットがリリウムに懐いた事は明らかだった。

 

 

「この前リリウムから『シャーロットがお母さんって呼んでくれた!』って真夜中にメールが着てね、シャルロットちゃんも慣れたみたいね」

 

「リリウムさんって何歳なんだろう……」

 

「本人に聞いてみたら? 私より大分下、とだけ言っておくわ」

 

「シャルロットも楽しそうで何よりだ。明後日が楽しみだな」

 

「そうだ。さっき束ちゃんからメールがあって、インテレクトで日本を出たって。多分明日の昼前には着くんじゃないかしら」

 

「やっぱり迎えに行ってたんだ……」

 

「みたいね。2人が帰ってくるのと入れ違いで出てったんでしょ?」

 

「ん? 束って……篠ノ之博士か?」

 

「あら、言ってなかったかしら? 束ちゃんは櫻が小さい頃からずっとここに住んでるのよ」

 

「初耳だ。迎えに、と言うと織斑先生も来るのか?」

 

「そうだよ。千冬さんと一夏くんと、更識先輩達も呼んだよ」

 

「聞いてないわよ? お友達?」

 

「うん、前に言った日本の候補生の子とそのお姉さん。あとはルームメイトとそのお姉さんかな」

 

「賑やかになりそうね。食材もいっぱい買わないと」

 

「だね。明日は買い出しだーっ!」

 

「そうね。さ、ご飯を食べたらお風呂入って歯を磨いて寝るっ。寝る子は育つのよ」

 

ラウラがこそっと食堂を抜ける。なんだかんだで自分の背丈を気にしているらしい

さて、ラウラを愛でて楽しむか……などと企みながら櫻は風呂に向かった


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