Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
ついにやってきた夏休み。生徒の中には学園に残るものと家に帰る者と別れるようで、留学生のほとんどは国に帰るようだ。企業連組の3人もその御多分にもれず、夏休み早々にプライベートジェットで日本を発った。
いつもどおりチューリッヒに降り立つと、乗り継ぎのあるシャルロットと別れて櫻とラウラは屋敷へと向かう。櫻には見慣れた景色も、ラウラには新鮮に写ったようで、窓の外をずっと眺めていた
「まもなく到着です」
ドライバーを務めるハインリッヒの声で寝ていた櫻が目を覚まし、ラウラは期待に胸を膨らませた
広い庭を横切り、車回しへと入ると玄関ではすでにメイドが数人待っていた。気が利く執事だ
「おかえりなさいませ、お嬢様。お荷物をお持ちいたします」
「うい~、ただいま。ムッティは?」
「ご主人様はただ今職務で本社におります。今日の夕飯は楽しみにしていて、と言付けを」
「おおぅ、楽しみだね」
メイドが微笑みで返すとそのままトランクから土産物などを持って屋敷の中に消えた
ラウラの方は……
持ち上げられることに慣れていないのがありありと見て取れ、荷物も「いや、自分でやる」とかなり遠慮気味だった。まるでこの家に来た頃の櫻のようで、内心複雑であった
「お嬢様、ボーデヴィッヒ様の部屋は2階の客間です。ご案内いたしましょうか?」
「私がやるよ、ありがとね」
「分かりました」
エントランスホールで天井を見上げるラウラにそっと声を掛け、部屋に案内すると入った部屋でまた呆然としていた
「本当にここが私の部屋か? まるでテレビで見たホテルのようだが……」
「ここがラウラの部屋であってるよ。家具とかは前から置いてあるやつだけど、気に入らなかったら変えていいからね。その時は家の誰かに言ってくれれば置いてあるものはどかすから」
そのままベッドにダイブすると猫のような甘い顔で「いや、十二分に満足だぁ」と言って今度は備え付けのソファに腰掛けた
「あぁ、私にはもったいないな。そうだ、櫻の部屋は何処だ?」
「私の部屋は4階の一番奥だよ。行こうか」
「うむ、どんな部屋なんだ?」
「ここより現代的、とだけ言っておくよ」
そのまま階段を登り、最深部の重そうな木戸を開けると
「おお、ここが櫻の部屋か。私の部屋とはかなり趣が違うな」
「小学生の私にはあんな家具は立派すぎたんだよ……」
櫻の部屋は客間の2倍ほどの広さ。壁は石レンガのままだが、ところどころに貼られたスポンジの板に、ポスターや写真が飾られ、窓際にはパイプフレームのベッドと小さなテーブル。部屋の中央には応接セットが置いてあった。
「なんというか、思ったより質素なんだな」
「私だってただの高校生だしね。身の丈に合わないものは嫌だよ」
「高校生の部屋に応接セットやらマッサージチェアが置いてあるのはどうなんだ?」
「ローテーブルだけだと部屋が寂しくて……」
「色使いは薄いピンク色が主で、櫻らしいな」
「これ全部日本の家具屋で買ったんだよ、いろんな色があったし、安くて結構長持ちするんだ」
「わざわざ日本で買ったのか?」
「いぇ~す。家具より輸送費用のほうがかかったよ」
「お金の使い方が斜め上だな……」
「ラウラもバンバンお金使っていいからね。自分で稼いだものだし、経済回さないと」
「ううむ、ヘリコプターでも買うか……」
「いきなりビッグだね」
「そうか? ならライフルでも買うか」
「ハンティングでもやるの?」
「そうだな。ルイーゼにスナイピングの基礎を教わったし、やはり時々は自然で撃たないと腕が鈍る」
「じゃ、今度一緒に買いに行こっか」
「そうだな、明日はどうだ?」
「そうだね。じゃ、今度日用品買うついでに行こうか」
「シャルロットがいたら『ついでに買うものじゃないよぉ』とか突っ込まれていただろうな」
「かもね、ふふっ。パーティーの準備もしないとなぁ」
「だな。セシリアと何か喋る機会というのもあまりなかったし、これを機に仲を深められればいいのだが」
「ラウラはだいぶ柔らかくなったし、大丈夫じゃない?」
「櫻がそう言ってくれれば安心だ」
「じゃ、ひとまず解散! 家をでるときは誰かに言ってからね」
「分かった。キッチンは何処だ?」
「1階の階段降りて右側の大きい部屋が食堂。そのとなりにあるよ」
「腹が減ってな、じゃ、また何かあれば来る」
「あ~い、居ない時は電話してね」
部屋を出たラウラが迷子にならないか若干の不安を抱えつつ、櫻はセシリアにパーティーのお誘いのメールを送った。返信は早く、セシリアの几帳面さが伺えた。彼女はまだ日本に居るらしく、日本時間の夕方に発つというのは前もって聞いていたからパーティーには間に合うだろう。
束は束で千冬や一夏にラブコールを送っていたらしく、大慌てで飛行機の手配をしていた。どうやらオーメルがアメリカから戻ってくるときに拾うらしい。こういう時に世界をくるくるしている
いま屋敷に居ない束はスーツに着替えて少量の荷物とともに出て行ったと少し前にハインリッヒから聞いた。まさか迎えに行こうとか考えてないだろうな
こうして櫻とゆかいな仲間たちが集まってのパーティーの下準備は着々と進んでいた
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夏休みも始まったばかりで、普段とあまり変わらない混雑を見せる成田空港国際線出発ロビー
そこに2組の姉妹がヨーロッパへ観光に行こうと飛行機の搭乗案内を待っていた
「10時25分発、スイスエア161便、チューリッヒ行きは、ただいま搭乗案内を開始いたしました。優先搭乗のお客様のご案内を致します。ファーストクラスをご利用のお客様、ビジネスクラスをご利用のお客様、ゴールドメンバーシップのお客様――」
アナウンスが入るとゆったり目の装いに身を包んだ快活そうな少女がはしゃぎながら周囲の少女たちに話しかけていた
「搭乗案内始まったよ~」
「本音、慌てない。席順的にはビジネスの前の方だからあとからでも大丈夫」
「チケットはそれぞれ持ったわね。私は窓際、4-Aね」
「私と本音が真ん中」
「虚は反対の窓際、4-Kね。ビジネスの最前列4つ抑えたわ」
「さすがおじょうさま~」
「ええい、もっと褒めろ~」
「お嬢様、本音、行きますよ」
虚にしれっと促され、飛行機へと乗り込む。目指すはスイス、コンスタンツ湖のほとりだ
「本音はヨーロッパで何かやりたいことはある?」
「う~ん、やっぱり美味しいもの食べて、きれいな景色を見てゆっくりしたいな~」
「そうだ、向こうについたら櫻さんにメールしよう。ドイツに帰ったはずだからもしかしたらどこか一緒に回れるかも」
「いいねぇ! さくさくとドイツ旅行!」
「なになに? 櫻ちゃんがどうしたの?」
「櫻さんもドイツに帰ったから、もしかしたら会えるかもね。って話をしてたの」
「簪ちゃん、最近櫻ちゃんにかまってもらえないから寂しいのかな?」
「ち、違う! そんな訳じゃ……」
櫻がシャルロットやラウラのことで忙しく、喋るどころか会うことすら少なかったのは事実で、寂しくないと言ったら嘘になる
「ほほぅ。これはいけない恋の気配ですなぁ」
「お姉ちゃんのバカっ!」
「3人共、静かに」
「「「はい、ごめんさい」」」
虚の一喝で即座に黙る3人。なんだかんだで一番強いのは虚かもしれない。
CAがドアを閉めるとアナウンスが入る。
ゆっくりと飛行機が動き出し、旅の始まりを告げた