Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
基本6時に投稿してますが、読書の方々もそれに慣れてきたみたいで、6時のカウンターが一番回りますね。
織斑先生と山田先生が怪しさ満点で話をしているのを確認した3人は作業を急がせ万が一に備えて紫苑に連絡をとった。
そこで得られた情報として、アメリカとイスラエルのISが一機、ハワイ沖でのテスト中に暴走、海域を離脱したとのことだ。
「コレ関連かな」
「十中八九そうだろう。予想進路は?」
「脱出した方向にそのまま真っすぐなら、北日本を通って中国を掠めてからロシアに抜けると思うよ」
「自衛隊は?」
「レーダーには反応なし。まだ動いてないね」
「これはまずいんじゃないか?」
「僕は先生のところに行ってくるよ」
「じゃ、私は束お姉ちゃんとオハナシしてくる」
「お、おう。私はこのまま状況監視を始める」
箒の操る赤椿を見上げる束に後ろから膝かっくんを仕掛けて首を締める
「さ、さくちん。苦しっ、死ぬぅ」
「コレはどういうことかな?」
「前に言ったとおり、お、お披露目を……」
グッと腕に力をかけて更に締め込む
「へぇ、それで、紅椿にアレを落とさせるのかな?」
「そ、そうだよ」
パッと手を話して束を倒れさせると見下ろしながら更に尋問を続ける
「いまの箒ちゃんにそんなマネが出来るの? 機体にリミッターもかけてるんでしょ?」
「1人では無理だね。だからいっくんと一緒に――」
「はぁ……。千冬さんに報告してこないと。あとそれ相応の
「さくちん、内心楽しみにしてるでしょ」
「まあね。コレで箒ちゃんの心が育てばいいんだけど。力任せに力を振るうと自滅するからね」
「でも失敗するって思ってるんでしょ?」
「箒ちゃんは下手じゃないんだけど、今の状況だからね。あの全能感に浸った感じは箒ちゃんにとって最高であっても周囲から見たらただの間抜けだよ」
「バッサリ言うなぁ。実際そうだろうけどね」
「わかってるなら何でそんなことをするの?」
「第4世代スゴイって知らしめるのはもちろんだけど。一番は箒ちゃんのためだよ」
「はぁ……。束お姉ちゃんは束お姉ちゃんだね」
「どういう意味かな?」
「さぁね。そろそろ呼ばれそうだから行くよ」
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ブースに戻ろうとするとちょうど山田先生がやってきて専用機持ちの招集を告げた
ラウラを呼び、旅館の指定された広間に入ると証明が落とされブリーフィングルームのような雰因気に包まれた
一夏と箒も居るようだ
「揃ったな。では状況を説明する」
織斑先生が前に出るとなぜ専用機持ちが集められ、何をするのかが説明される
ハワイ沖で試験中のISが暴走し、海域を離脱。その後、まっすぐこちらに向かってきているとのことだ。被害が出ないよう、コレを止めて欲しいとご丁寧にお国から頼まれたとのこと。
自衛隊よりも現場に近く、即応体制の整っていた学園に白羽の矢が立てられたのだ
「本作戦は任意の参加とする。不参加の人間は手を上げろ」
そこで手を上げたのは簪だった。
短く織斑先生と言葉をかわすと、そのまま部屋を出た
「他にはいいか? よし、大まかな内容は暴走機の進路上に向かい接敵、停止させる。だが、あちらは時速2000km以上で飛行中だ。この中で高速戦闘が出来るのは?」
セシリアと櫻が手を挙げる
「わたくしのブルーティアーズには本国から高機動パッケージが届いています。今インストール中です」
「あとどれだけ掛かる?」
「2~30分かと」
「天草は」
「私とウォルコットとボーデヴィッヒは試験用の
「接敵まで、か。高機動パッケージは?」
「ウォルコットとボーデヴィッヒの機体にはありません。ですが機体調整で高速機動自体は可能です、逃げられた場合に追いつけませんが」
顎に手を当てて悩む素振りを見せる千冬、やはり人数が足りない。
「先生、暴走機の機体データの閲覧をお願いします」
「ああ、そうだな。コレは国家機密事項に相当する。扱いは解るな?」
黙ってその場のほとんどが頷く
するとスクリーンの片隅に機体のスペックデータが映し出される
「エネルギー兵器による広範囲殲滅型のようだな」
「ウイングスラスターがエネルギー兵器でもあるようですね」
「厄介だね。軍用機だし、エネルギー総量がわからないよ」
専用機持ちが戦略会議を始めると、バコッと音を立てて天井板落ちた
そこからウサ耳を付けた束が「そこは紅椿の出番だよ!」と言いながら部屋に降り立つ
「そこは紅椿と白式で一撃ノックアウトだよ!」
「一体何のようだ。経験の少ない篠ノ之にはできれば出てほしくないのだが」
「でもそれしかないんじゃないかな?」
ちらりと櫻を見てから千冬に自分の考えたプランを告げる
「多分この中でサクッと準備出来て超音速飛行が出来るのは紅椿だよ! それで白式を現場まで運んで零落白夜で一撃!」
「どれくらいで準備ができる?」
「束さんの手にかかれば3分でおっけー! 即出撃可能だよ!」
「仕方ないか……。篠ノ之、織斑行けるか?」
「はい。もちろんです」
「責任重大だな。やってやる」
2人を見ると一夏は適度なプレッシャーを感じているようだが、やはり箒はどこか浮ついている。恐らくは「選ばれて当然」などと考えていそうだ
「では、5分後に作戦を開始する。参加しないものは今後に備え準備はしておけ。解散」
解散を告げた織斑先生が部屋を出ようとした櫻に耳打ちした
「お前はいつでも出られるように夢見草の方を準備しておいてくれ」
櫻が黙って頷くとそのまま去っていった
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箒が一夏を背負って飛び去ってから数分、残された5人は準備という準備を自社の人間に任せ、円卓会議を始めていた
「箒どこか浮ついた雰囲気だったけど、大丈夫かな?」
「戦地であのような気持ちを抱いたら確実にミスを犯すだろうな」
「それに箒さんは渡されたばかりの不慣れな機体ですし。不安ですわ」
「どちらかと言うと一夏くんが箒ちゃんをかばって。みたいなことにならなければいいけど」
「万が一にでもミスったらその時はあたし達がフォローに行けるようにするだけよ。でしょ?」
「そうだね。だから僕らは準備をしっかりと」
「みなさん、そろそろ時間では?」
全員がテーブルに置かれたタブレットに注目する。衛星からリアルタイムで送られてくる
次の瞬間には赤い機体が画面の片隅を通過し、福音がエネルギー弾を放つ。
失敗した。
白がいないことでソレを理解した5人が出撃準備に走る。
だが、それも織斑先生の声で止まる
「作戦中断! 全員広間に集まれ!」
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広間に集められた5人に聞こえるのはすすり泣く箒の声。
部屋に設置されたレーダーには2機の反応のみ。
コレが意味するものは一つ。
織斑一夏の撃墜
「今から本作戦を一部中断。篠ノ之と織斑が戻り次第つぎのプランに入る。全員この部屋で待機しろ」
「「「「「はい」」」」」
肝心なときにいない
まずは櫻単独での殲滅。これも失敗したならば自衛隊に応援を頼みつつこの場の全員を向かわせることになるだろう。
それ以上は考えたくなかった
「失礼します。千冬さん。櫻様をお借りしてよろしいでしょうか?」
音もなく開かれた襖から現れたのはクロエ。この場で櫻という戦力を失うのは惜しいが、束にも何か策があると考えるべきか
「構わないが、何をするんだ?」
「少々問題が起こりまして。
「そうか。ついでに伝言も頼んでいいか?」
「承ります」
「次あった時はゆっくり話を。と伝えてくれ」
「かしこまりました。では失礼しました」
部屋に残された4人と教師は黙って櫻とクロエが遠ざかる気配を感じ取るしかなかった
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そうして櫻が連れて来られたのはにんじんの前。
束がキーボードを必死で叩いている
「来たよ。どうかしたの?」
「大問題だよ。ハックしたISがこっちの操作を受け付けないんだ。だからアレを無力化してきて欲しいってわけ」
「操縦者は?」
「意識がないっぽいね。フィジカルには問題なし」
「りょーかい。コントロールを取り返せた時は言ってね」
「もちろん。クーちゃんも援護で行ってくれる?」
「分かりました。それと束様。千冬さんから伝言が」
「なになに? 告白?」
「いえ、一言『次あった時はゆっくり話を』だそうです」
「これは終わったね。お姉ちゃん」
「とりあえず、いってらっしゃい。ちーちゃんのお説教を避ける手段を考えるよ」
「自分で蒔いた種は自分で始末しようね」
クロエ、行くよ。とISを展開し飛び立つ2人に置いて行かれた束
天才の頭のなかではひたすらに親友の説教を逃れるすべを考えていた
数分も飛ぶと、紅椿とすれ違った。一夏を抱えて飛行する速度はあまりにも遅かった。イメージが阻害されているのだろう
「彼女は大丈夫でしょうか?」
「コレで心がおれるようならその程度ってことだよ」
「櫻様は辛辣ですね」
「何もない人間には興味ないしね。お友達にはいいかもしれないけど、背中を預けるのは嫌だよ」
「発想が学生のソレとは思えません」
「この業界は食うか食われるかだよ?」
フルスキンの為、表情までは伺えないが口調から察するに苦笑いしながら言っていることだろう。
そして依然として福音に飛び続けるとオープンチャンネルで通信が入った
『コチラはIS学園である、貴機は封鎖空域に侵入しようとしている、直ちに進路を変更せよ』
声は千冬のもので、向こうも察しているだろうからとりあえずやらなきゃいけないからやる、といったところだろう。
『繰り返す、貴機は封鎖空域に侵入しようとしている。今すぐ進路を変更せよ。空域の安全が保証できない』
「声を変えて行くよ。適当にでっち上げるからついてきてね」
「了解しました」
「当方では空域にアメリカ軍所属のISを一機確認している。空域通過に支障無いと判断し、進路を維持する」
『貴機の空域通過にこちらでは一切の責任を負わない。以上』
「了解した」
しれっと返事をして終わらせる。
視界に光を反射して輝く銀の機体を認め、火器のセフティを解除。スーパークルーズから通常飛行へと移行する
「目標を確認。操縦者の生存を確認しました」
「了解。一撃で終わらせるよ」
「はい」
勢いそのままに迫り来る福音に拳を向けると、すれ違いざまにウイングスラスターを掴んだ
バランスを崩してきりもみ状態に陥るものの、すぐに立て直し、福音が櫻を引き剥がそうと暴れる
「残念だったね!」
夢見草の右腕に血管のようなラインが浮かび上がり、脈打つように明滅を繰り返していた
福音のウイングスラスターは光を失い、暴れる力が弱まる。
「残量は?」
「残り30%、行けます」
弱まりつつある中でも抵抗を続ける福音、その一方で夢見草はその力を増していた
背部に展開した乾電池のような円筒形の装備。これは見た目の通り、エネルギーパックであり、福音からエネルギーを吸い取っていた。
「内部で高エネルギー反応、セカンドシフトです!」
「んなっ! 無茶だよ!」
いきなり光をまとい始める福音。櫻は慌ててはなれるもそのまま光に飲み込まれてしまった
「La――」
よく通るソプラノで福音が叫ぶ
「櫻様っ! 無事ですか!?」
「生きてる。結構削られちゃったよ、あれ自体がエネルギーの膜だったのかね」
「わかりませんが、脅威度が跳ね上がったことは間違いありません」
「もっかい突っ込もうにもウイングスラスターの砲門はすでにチャージ完了な感じだしなぁ」
「私が牽制するのでその間に」
「頼んだ」
クロエがレーザーライフルを撃ち福音の注意を引くと2手に分かれて距離を置く
案の定福音はクロエについて回り、エネルギー弾の弾幕もクロエに注がれた
危なげなく回避すると再びレーザーを放つ
福音の背後には櫻が拳を引いている
「っっっけぇぇぇぇえええ!」
櫻の拳はウイングスラスターの付け根を掴み、再びエネルギーを吸い取る
だが、次の瞬間、福音が爆ぜた
「実弾兵器積んでるなんてデータに無かった!」
「レーダーにあらたなる機影、専用機持ちです」
「うそっ、待機のはずなのに!」
「あちらは私が何とかします。櫻様は福音を」
「度々ごめんね」
再びエネルギーを吸い取り、残りエネルギーも数%となったところで福音を抱えるとクロエの方へ向かおうとしたところで福音のウイングスラスターが光を失い、夢見草がアラートを響かせる
再び光に包まれる視界。ハイパーセンサーで視覚に割り込ませる情報以外が白く染まる
みるみるうちに減っていくシールドエネルギーに驚きつつも掴んだ腕は離さない
「クロエっ、そっちにこいつをぶっ飛ばすからあとはロッテ達に任せて逃げるよ!」
「はい。タイミングはお任せします」
いち、
にの、
さんっ!
手から離れた福音を更に向きを変えた夢見草の脚部ブースターで吹き飛ばす。
弾丸のごとく飛ぶ福音に気づいた誰かが福音に最後の一撃を与え、福音は沈黙。操縦者を抱きとめたシャルロットがこちらに停止を呼びかけている
『そこの2機、止まってください!』
「デコイを撒いて逃げるよ!」
「はい。ドッペルゲンガー、発射します」
ミサイルコンテナからドッペルゲンガーをばら撒くとそれぞれがチャフを撒きながらあさっての方向に飛び去っていく
乱れるレーダーを無視して一気に垂直上昇。雲の上まで飛び上がるとまたそこでドッペルゲンガーを撒いて旅館へと急いだ
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時間はだいぶ戻って箒と一夏が帰ってきた頃
櫻もおらず、静まり返った広間ではお通夜のような雰囲気で4人がテーブルを囲んでいた
「ねぇ、これからどうするつもり?」
「どうするもなにも、織斑先生が待機を命じた以上ことのしようがありませんわ」
「セシリアの言うことも最もだけど、やっぱり個人的には一夏の敵を討ちたいよね」
「でしょ? ならやることは一つ。あたしはちょっと箒をたたき起こしてくるわ。みんな、わかってるよね?」
「だが、コレが織斑先生に知られたら……!」
「その時はみんなでお説教だね」
「ソレも考慮のウチ、ですわ」
「お前ら……、よし、付きあおう。恩人の敵だしな」
「よっしゃ、じゃ、作戦立案と指揮はラウラに任せるわ。じゃ、箒のところに行ってくる」
「ああ、任せろ」
鈴が立ち上がり、"仲間たち"を見回すと、皆は黙って頷いた
ニッと笑うと足早に部屋を去る
海を見渡せる廊下に箒は一人座っていた
もちろん、その顔はうつむき、頬は濡れている
「ねぇ」
突然の声に慌てて振り返ると、そこには鈴の姿があった
「済まないがしばらくひとりにしてくれ」
「そうやって自分の行いから逃げる気?」
「そんなつもりではないが、事実、私は逃げているのかもな」
「へぇ、ならアンタは置いていく。折角一夏の敵討ちに行こうと思ったけど、そんな腐った気持ちじゃただの足手まといだわ」
「なっ!」
何を驚いているのか疑問でしかないが、こうして箒を煽って気持ちを切り替えさせるのが鈴の役目だ。交渉で出てきてもらえるほど鈴は交渉スキルが高くない
「事実でしょ? あんたが自分に腹が立って仕方ないとか思ってたらその気持ちに乗じて士気を上げられたかもしれないけど、そんな気持ちが微塵もないならソレはただの空飛ぶ的ね」
「うるさい! 私は力を持った、力を振るった。でも力に飲まれたのだ! そんな人間に戦う資格などない!」
「あんたの言う戦う資格って何よ?」
「ソレは――」
「自分の力をコントロールできること? 何か目標があること? ソレって適当な理由で逃げてるだけじゃない?」
「…………」
「もういいわ、あんたは置いていく。邪魔なだけだし」
「わたしも連れて行け」
ボソリと聞こえた言葉に鈴はほくそ笑む
「なんだって? 泣き言なら聞かないわよ?」
「私も連れて行け! 今度こそ、自分で自分の力を使いきってみせる!」
「よく言ったわね。その言葉を裏切らないでよ」
「もちろんだ」
そうして時間は現在へと至る
「あの2機は何ですの? 見たことのない機体でしたが」
「わからないけど、敵じゃなさそうだよね」
「敵じゃない? 何処が!?」
「黒いのはピンクのやつの邪魔をさせないために僕達を引きつけていたんだよ」
「私の目にもそう見えたな。後ろでピンクの機体が福音を落とす間の時間稼ぎをしていたように見えた。最後に福音をこちらに飛ばしたのは自分たちが脱出するためだろう」
「とりあえず彼女らが福音を削ってくれたお陰で任務はひとまず完了だ。ん? レーダーに反応……白式!?」
「ウソっ! だって一夏は……」
『待たせたな! ってかっこ良く登場と思ったが、終わっちまったか』
「なんで……」
『気がついたら身体が治っててな、白式もこのとおりだ』
5人の頭上を白式が飛び去っていく
『で、織斑先生が呼んでたぞ? 命令違反だ、ってな』
「「「「「うぐっ……」」」」」
『そういえば、櫻は何処言ったんだ? "千冬姉"も探してたんだが』
『声をかけようと思ったけど、あの篠ノ之博士の部下みたいな子に連れて行かれちゃって。何処行ったんだか』
『ま、ひとまず戻ろうぜ? みんな無事みたいだしな』
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「やってきたよーっ。戦闘経験値美味しかったね」
「帰還しました」
「さくちんもクーちゃんもお疲れ様。機体は束さんに任せて、ちーちゃんのところに報告だけしてきて。なんか専用機持ちの子達も飛んでちゃったし」
「わかってたなら言ってほしいなぁ。お陰で落とされかけたよ」
「いやぁ、めんごめんご。ちーちゃんへの言い訳を考えてたんだよ~」
「「はぁ……」」
「え、どうしたの?」
「束様。私はあなたへの評価を少し下方修正しなければならないようです」
「いこ、クロエ」
「ハイ、櫻様」
「え、ちょっ、ねぇ!」
2人は自らの主に呆れつつも本館に戻り、広間に戻ると案の定青筋を立てた織斑先生とそれに気圧される山田先生が……
「天草、只今戻りました」
「束のお使いか?」
「ええ、そんなところです」
「ふむ、内容は言えないか……」
「わかってるくせに」
「わかってない奴らに説明する必要があってな」
「そうですか……"ちょっと船に荷物を取りに行っていまして"」
「そうか、企業連の船は沖合だったな。そこに"ちょっと荷物を取りに行っただけ"か、なるほどな」
「ええ、それだけです。お茶でも出しましょうか?」
「ああ、頼む」
「山田先生の分も出しますね」
「え、あっ、はい! お願いしますっ!」
「では、私はこれで。千冬さん、あとはよろしくお願いします」
クロエが部屋から出ると同時に櫻がお茶を持って戻ってくる
「クロエは帰りましたか?」
「ああ、さっきな」
「山田先生、お茶を持ってきました」
「ありがとうございます。天草さんはとりあえずここで待っていてくださいね」
「はい。それで、4人は?」
「篠ノ之を連れ立って5人で勝手に出撃、銀の福音を撃墜したようだ。これは後で灸を据えてやらないとな」
「私は一応出撃はしていないのでセーフですよね?」
「ああ、ただ"お使い"のために席を外しただけだ。問題ない」
「良かったです。じゃ、少し寝てていいですかね? 仕事もできないし」
「仕方ないな」
それから数十分経って専用機持ちが戻ってくると隣の部屋で織斑先生の雷が落ちたようで、雷鳴で目を覚ました櫻は、近くにいた山田先生に声をかけた
「ん……、あ、おはようございます。どれくらい寝てましたか?」
「2~30分ですかね。さっき5人が戻ってきたんですよ、いまはお説教中です」
「これは減給を考えなきゃダメですかね……」
「学園で罰を受け、会社でも罰を受け。大変ですね」
「まぁ、減給は冗談ですけど、軽くお説教はしないと行けませんね」
「天草さんも学生をしながらお仕事もして、私よりも仕事してるんじゃないですか?」
「かもしれませんね」
「冗談のつもりだったんですけど……」
山田先生と話しているとまずはげっそりしたシャルロットが戻ってきた
「ロッテ、無事……じゃなさそうだね」
「うん……。無断で出撃したから仕方ないよ……」
「ラウラは?」
「多分そろそろ戻ってくるんじゃないかな? 正直に話したらそこそこ早く開放されたよ」
「ふうん、ま、2人には後で会社としての処分も言い渡すから。覚悟しててね」
「やめてよぉ」
その後にラウラ、セシリア、凰、篠ノ之の順で部屋に戻り、特に最後の2人の顔は酷いものだった
全員が集まったところでデブリーフィングが始まる
「よし、報告があるものは挙手して発言しろ」
そこでシャルロットが手を挙げる
「ウォルコット」
「福音との交戦前に謎の機体を発見し、交戦しました。機体は黒いフルスキンでオールラウンダータイプです」
「所属は?」
「不明です」
「こちらの被害は」
「ありません」
「ふむ、妙だな」
「はい。不明機には僚機も居り、そちらが福音と交戦していることを目視しています。そちらの機体は詳細がわかりません。私達が交戦した機はおそらく僚機の時間稼ぎをしていたものかと」
「なるほど。それで、不明機が離脱した方向は?」
「デコイを撒いて逃げたためつかめませんでした」
「他には?」
「ありません」
「では、解散。各自の予定通りに行動しろ」
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浜辺を歩くシャルロットとラウラは櫻に二度目の説教を受けて疲れ果てていた
櫻は「今回はコレで済ませるけど、次は社の規則に則り罰則を与えるから」と釘を刺して説教を締めた
――シャルロットが後で確認したところ、BFFの社内規程ではISを用いた行動上の命令違反は懲戒処分、出勤停止から場合によっては懲戒解雇もあり得るとのことだ。
気の抜けた2人の話は次第に生々しい物になっていく
「あの時櫻がいれば一緒にお説教だったのになぁ」
「そう言うな。櫻は自分の立場もあるから居たとしても出撃しないだろう」
「だよねぇ。やっぱり自分の立場って考えて動かなきゃダメだね。まぁ、代表候補生よりずっと過ごしやすいけど」
「一般企業とはいいものだ。自由度は高いし給料もいい、社内もいい人ばかりだ」
「失礼な質問だけど、ラウラって幾らもらってるの?」
「契約上は5200ユーロ位だったな。あとは5万円か」
「その5万円、ってなに?」
「学生手当、という名前で出るお小遣いだ。これだけ円建てだからすぐ使える」
「なるほどねぇ、僕は4500ポンドってあったなぁ」
「ユーロだと幾らだ?」
「5600くらいじゃないかな? イギリスは物価が高いからちょっと多めだね」
「互いに結構な額もらっているな」
「だねぇ、使い道も無いから貯めるしかないけど」
「IS学園を出る頃には家を買いたいな……」
「ラウラってドイツでは何処で暮らすの?」
「フュルステンベルクの家だ。私の為に部屋があてがわれてるとかでな。まだ行ったことは無いが、スイスとの国境近く、コンスタンツだと聞いている」
「櫻の家かぁ、一度行ってみたいな」
「もうすぐ夏休みだ、櫻に掛けあって欧州組で集まるか」
「いいね。EU圏なら移動も楽だし」
話が耳に入った金髪ロールのお嬢様は「わたくしよりもお給料をもらっていますわッ!」と血涙流したとか何とか。