Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
時刻は午前4時。貸し切られたビーチに桜色のヘッドユニットを付けた櫻が一人立っていた
ふわりと浮き上がり、海面上で静止し、空を見上げる。
ハイパーセンサーが遠方より飛来する物体をとらえた。
オレンジ色のソレはどんどんと距離を詰め、裸眼で目視できる距離まであっという間に迫ると減速。浜辺にラフなランディングをして止まった。
プシュッ、と空気の抜ける音とともにハッチが開くと、中からはウサ耳に水色のエプロンドレス姿の束とグレーのスーツを着こなしたクロエが降りてきた。
「やぁやぁさくちん! 直接会うのは久し振りだね、ハグハグしようよっ!」
「櫻様、お久しぶりです」
「束お姉ちゃん、クロエ、久しぶり。よく来てくれたね。立場的に素直に喜べないけど」
「えぇ~っ。束さんはとってもハッピーなんだけどなぁ」
「個人的にはもちろん嬉しい。でもあまり褒められた行動ではないよねぇ」
「IS学園の合宿にISの生みの親である束さんが来てなんの問題があるんだい?」
「束様の存在自体が問題なのでは……」
「クロエ、ソレを言ったらおしまい」
「失礼しました」
「二人とも酷いよぉ。束さん悲しいっ!」
「それで、何でこんな時間から?」
「話を逸らしたッ! えっと、夢見草のバージョンアップをしに来たんだよ。紅椿を作ったし、ソレに合わせて元の機体も進化させないと」
「それで
「その通り。紅椿はコンテナで送られてくる移動ラボラトリーでやるからいいけど、夢見草の存在はできるだけ秘密にしておきたいからね」
「準備が終わりました」
「オッケーぃ! 始めようか。夢見草を展開して~」
櫻は言われたとおりに夢見草を完全展開。そのままコードに繋がれる。
夥しい量の情報が送り込まれ、夢見草がそれに見合った形に変わってゆく。
膨大なエネルギーに見合った出力のブースターやスラスターはもちろん、ハイパーセンサーも高感度化。更に操縦者にやさしくない機体になった
「うお……更にピーキーな機体になったなぁ」
「ISコアの能力をさらに30%くらい開放してるからね~。さくちんかちーちゃんじゃないと飲み込まれるかも」
「それって普通にヤバイじゃん!」
「束様がやばくないことがありましたか?」
「そういや無いね」
「また2人にイジメられたっ!」
「ひとまずは私達の仕事は終わりました。櫻様はお戻りになられたほうがよろしいのでは?」
「だね、もう一眠りしてくるよ。搬入とかの監督任せていい?」
「お任せください」
「じゃ、よろしく。後でね」
砂を蹴る束を置いて一旦部屋に戻ろうと本館に入るとゾワリと悪寒が襲った
恐る恐る後ろを見ると朝からスーツをきっちりと着た千冬が立っていた
「束が来たのか?」
「ええ。夢見草をさっきまで」
「今日は箒の誕生日だ。なにかやらかすんだろ?」
「箒ちゃんの専用機を持ってきたとか。それも第4世代です」
「とことん妹に甘いな……」
「前からですよ。それに束お姉ちゃんはまた"お披露目会"をやるみたいですよ」
「嫌な予感しかしないな。ミサイルじゃすまないだろう」
「でしょうね。IS一機くらいハックするんじゃないですか?」
「やりかねんな。やつなら」
「胃が痛いです……」
「私もだ……」
部屋にもどれ、朝食には遅れるなよ。とありがたいお言葉をいただき、部屋に戻ると再び布団に潜り、この後起こることに胃を痛めつつ、2人の面倒も見なければ。と頭を回すうちに寝てしまった。
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「今日はこれから実動訓練に入る。専用機持ちはそれぞれに与えられたことをこなせ。それ以外は訓練機でチャートに従って……なぜさり気なくお前が混ざっている」
ISスーツを着た生徒たちの後ろ側に混ざるのは漆黒のISスーツを着たクロエだった。
気配が全く感じられず、いきなり現れたような印象をあたえるクロエに辺りがすこしざわめくとクロエは閉じていた目を開いた。
周囲が一気に静寂に包まれる
「束様が一度こういうものを経験しておけと」
「はぁ……。専用機持ち以外は配られたチャートに従って訓練を行え。かいさ――」
「ちょーっと待ったぁぁぁぁ!!!」
千冬に後方から砂煙を上げて迫るウサ耳
ちらりとも確認せずに足を払って顔面をわしづかみにする
「ぢーぢゃん、ギブっ、ギブっ!!」
目の前のカオスな光景にもう生徒は絶句している
その中で櫻は頭を抱えていたが
「ほら、こんなところに来たんだ。挨拶のひとつくらいしろ」
「えーっ、コホン。皆さんおはようございます。私がIS開発者の篠ノ之束です、ここにいるIS操縦者、技術者のたまご達の未来にこの合宿で学んだことが活かされることを願っております」
まさかの束音モードで普通な挨拶をした束を見て櫻は呆れ、箒と一夏と千冬は驚き、クロエは黙って主の行動を見守っていた
「えっと、うん、ありがとう。束……篠ノ之博士の言葉を各自考えてみるのもいいだろう。それでは、今度こそ、かいさ――」
「箒ちゃん、おいで!」
束に呼ばれた箒が前に出ると、久しぶりの再会に姉妹はゆっくりと抱擁した。箒は大勢に見られるのが恥ずかしいのか、どこか赤いが、束はそれを気にする素振りもなく「おっきくなったね。特におっぱいが」などと言って箒に殴られていた
「痛いなぁ、今日は折角誕生日プレゼントを持ってきたのに……」
「……っ!」
「そうだよ。箒ちゃんが望んだ力。束さんの技術を惜しみなく使った最新で最強。空をご覧あれっ!」
空中から降ってくるコンテナ。目の前に砂埃を巻き上げて落下すると、開かれて中から深紅のISが現れた
「コレが箒ちゃんの専用機、紅椿だよ」
「私の、望んだ力……」
箒がゆっくりと手を伸ばす。指先が機体に触れると身体に電流が走るかのような感覚に襲われる。
解る、紅椿が、この力が、限界が。手に取るように解る
「ククククッ、コレなら、何でも出来るな」
箒のつぶやきは束はもちろん、千冬と櫻も聞き取っていた。そして「思った通り」と力に溺れかける箒を案じた
「篠ノ之さん、身内ってだけで専用機与えられるの~?」
「なんかちょっとズルいって言うか、不公平だよね」
目の前で発表された新型に驚く声もある中で、現状に不満を上げるものも現れる
「君たちは世界史を勉強したかい?」
突然、束が自分たちに向かって声を発したことに意識を向ける生徒たち
「普通に教養として知っておくべきことだと思うけど"いままで世界が公平、平等であったことなどないよ"そんなことも知らずに生きているのかな? 私はそんな人達に子どもを預けたくはないね」
「姉さん」
「いいの、これくらい言っておかないと」
手早くフィッティングを終わらせると千冬に目配せして生徒たちを解散させ、再び箒と紅椿に向かった。
だが、恐れを知らない人間もいるようで、セシリアはまさにその典型だった
「あ、あの。篠ノ之博士、宜しければわたくしの専用機を見ていただきたいのですが……」
「ん? 今は見ての通り忙しいんだ。それに私が知らない人間の機体をいじると思うのかい?」
「えっと。失礼しました」
「物分かりのいい子はすきだよ」
セシリアがあっさりと追い返された様を見て、ため息があちこちで聞こえた
唯一、それ相応の言葉遣い然り、態度で接すればバッサリと切られることは無いということがわかったのは救いか。束はIS登場時の対応で人嫌いのイメージがすっかり定着してしまっていた。
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浜辺に展開された企業連ブース。今回は各社の専用機が出ていることもあり、未完成のアンビエント、ネーブル各機の仕上げ作業に追われていた。
櫻のノブレスオブリージュは更に追加のパッケージを
機体が作業台にある以上は操縦者に仕事は無く、3人はテントでのんびりとポーカーに興じていた。
「フルハウスだ」
「僕はスリーカードだよ」
「ワンペア。ここはラウラの勝ちかぁ」
「櫻はさっきから引きが悪いね」
「本当だよ~。捨てても捨ててもバラバラのカードが戻ってくるし」
「まぁ、カードゲームは運だからな」
「ラウラはポーカーフェイス過ぎて読めないね」
時々、赤い光が放たれると爆発音が聞こえる。箒は赤椿にだいぶ慣れたようだ
それでもかなりのリミッターがかかっているようだが
「機体まだかなぁ、待ちくたびれちゃったよ」
「ポーカーもそろそろ飽きてきたな」
「あんまり派手に遊ぶと怒られそうだし」
「敵状偵察という名の覗きでもしますか~」
「退屈凌ぎにはなるかな」
「敵を知ることは重要だぞ?」
そうして双眼鏡を手に辺りを見回す3人が、織斑先生と山田先生が怪しげな手話で会話をしているのを見つけるのは数分後の話だ