Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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タッグトーナメント開始!

タッグ決めに一波乱あったようだが、1年の専用機持ちが2人離脱の中行われることとなったタッグトーナメント。

余り物はくじ引きでペアを組まされたそうだが、ペアの一覧を見る限り、ラウラ/箒組以外は自分の意思で組んだペアだとわかる面々が揃っていた。

 

そして問題は第1試合からラウラと一夏があたってしまったことだ。

 

 

スタンドから本音やクラスの面々と共に試合を見守る櫻だったが、とてつもなく嫌な予感がしていた

社長代理紫苑や 技術部束が視察に来ているというのとは別に。

 

 

 

「始まるよ!」

 

誰かの声でフィールドに目を向ける。

そこには箒の打鉄に相対する一夏の白式とラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに対するシャルロットのラファール・リヴァイブⅡ

 

だんだんと引き締まる空気。

表示されるカウントダウン

 

レッドライトが消える

 

 

まず仕掛けに行ったのは一夏だった。

箒に向かい瞬時加速で勢いをつけた刃を叩き込む

箒もどうにか受け流したようだが、鍔迫り合いになると打鉄がパワー負けするのは明らかだ

 

後ろでラウラとシャルロットが撃ちあっているが、あちらは操縦者の技量もあって、ほぼ互角の戦いが期待できそうだ

 

 

ラウラはどうしても一夏を自分の手で落としたいのか、ワイヤーブレードを時折一夏の方に射出するも、すべてシャルロットによって防がれてしまう。本人なら「一夏の邪魔はさせないよ!」とでも言っているだろう

 

一夏と箒はバトルスタイルが似ていることもあり、剣技で上回る箒を機体で上回る一夏がどのように落とすかだった

互いに剣が届くか届かないかといった間合いで 円状制御飛翔サークルロンドに似た機動を描き、時折浅い傷をつける

 

またしても仕掛けに行った一夏、鋭く剣を振るうと箒の打鉄に確実にダメージを与えていく。そして何か叫ぶと箒が被弾した。シャルロットのロケットランチャーか何かだろう

これで箒は戦線離脱。残すはラウラだが……

 

 

「あの黒いの、なんか怖くない?」

 

「だよね~。ちょっと気味悪いって言うか……」

 

「さくさく~、アレ怪しいよ~?」

 

「怪しいっていうか、違和感があるって言うか……。とにかくボーデヴィッヒさんが本気出したのは間違いないと思う」

 

ほぼ全員が感じ取った気迫。感じ方に差はあるものの、それは負のベクトルの感情の吐露であることに違いないだろう

実際にラウラの動きは確実に良くなっている。

接近されなければ相手じゃない一夏はAICで止めてレールガンを叩き込み、マルチに戦うシャルロットは射撃武器で牽制して距離を置かせる

 

理にかなった戦い方だが、1つ忘れていることがある。

これはタッグマッチだ

 

 

一夏がまたしても瞬時加速でラウラに迫る。案の定止められたが、ブラフだ。本命は後ろから迫るシャルロット。手には物騒なパイルバンカー

 

ラウラが気づいた時にはもう遅く、振り返ってしまった為に背中に受けるはずの攻撃を腹で受け止めてしまう

操縦者保護機能があるとは言え、衝撃は消せないだろう。シャルロットの攻撃はまだ続く、1発、2発……と数発腹に決めて一旦距離を置く。

 

 

おかしい、あれだけの攻撃を受けて試合が終わらない

その違和感は他の生徒も感じ取ったようで

 

 

「さくさく? おかしいよね、これ」

 

「おかしい。全員アリーナから退避!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

今回は隔壁のロックなどは無いため、全員が扉から出て行く

反対側の来賓も、生徒がいきなり出て行き始めたことに不信感を覚えたようだ

 

ほぼ全員が逃げたのを確認すると、ポケットからお守りを取り出して一度叩く

 

 

『ムッティ、束お姉ちゃん、聞こえる?』

 

『聞こえるわ、これを使うなんて何かあったの? 聞くまでもなかったわね』

 

『今アレを解析して……なにあれ!』

 

『束ちゃん解析急いで! 櫻は千冬ちゃんに連絡!』

 

 

紫苑が慌てた理由、それはフィールドの真ん中でどろどろに解けて形を変えるシュヴァルツェア・レーゲンが視界に入ったからだ

 

櫻は非常電話からコントロールタワーに連絡を入れる

 

 

「コントロールタワー、織斑だ」

 

「Dブロックスタンド、1年の天草です。織斑先生、フィールドのアレは!」

 

「わかっている、いま教員のIS部隊が向かった。生徒の避難は済んだようだが来賓がまだだ。来賓の避難が終わり次第教員部隊が仕掛ける」

 

「それじゃ遅いじゃないですか!」

 

「だがッ!」

 

「あぁもう! あとで反省文でも何でも書きますから私が行きますよ! エネルギーシールドを破らねければいいんでしょ!」

 

「いくらなんでも危険すぎる! アレはボーデヴィッヒが乗っているのだ!」

 

「わかってます! でもこの間にもあの娘の精神が歪められているかもしれない! 私はそんなの許さない!」

 

「天草っ! やめろさく――」

 

 

受話器を戻すとそのままスタンドを駆け降りる

目指すはフィールド、そのためには通用口まで降りなければ

 

 

『織斑先生に報告はしたよ、それで、アレは何?』

 

VT(Valkyrie Trace)システムだね。要はちーちゃんのコピーだよ』

 

『櫻、千冬ちゃんに勝てる?』

 

『わかんない、でもとりあえず時間は稼ぐからそっちの避難急いでね!』

 

『わかった。先生が色々やってるけど、爺婆がねぇ』

 

『ムッティ、社長命令です、観客の避難を援助、場合によってはISの展開を許可』

 

『わかったわ。束ちゃん、優先席のマーキングお願い』

 

『イェスマム!』

 

『お姉ちゃん、一夏くんは?』

 

『あー、まずいね、ちーちゃんに防戦一方だよ。これは時間の問題かもね』

 

『壁をぶっ壊したいけど狭くてISが展開できない!』

 

『いっくん!』

 

 

突然の束の叫び、おそらく一夏がやられたのではないだろうか。

間に合わなかった? だが始末は付けねばならない

 

走り続けてやっとフィールドの光が見える

フィールドには黒い暮桜と雪片弐型を部分展開する一夏、その場から走って箒の元へ向かうシャルロット

 

――まだ終わってない!

 

更にスピードを上げ、ゲートから飛び出しノブレスオブリージュを展開、そのまま加速する

 

 

「ラウラぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

『助けてやるよ、お前もな』

 

 

飛び出した時には一夏が零落白夜を当ててラウラを助けだしていた、叫びながら突撃した櫻の立場は無い

その場でISを解除し、辺りを見回す

ラウラを抱きとめる一夏と壁際で苦笑するシャルロット、となりには難しい顔をした箒

ひとまず全員無事なようだ

 

 

「織斑君! みなさん! 無事ですか?」

 

一番大きなゲートから入ってきたのは山田先生を初め教員部隊の先生方

 

 

「はい、ラウラは気絶してるみたいですが」

 

「ボーデヴィッヒさん以外は無事なようですね。天草さんはなぜここに居るんでしょうか?」

 

「えっと、その……」

 

「櫻は俺たちを助けようと来てくれたんですよ」

 

「そうですか。ですが、もうこんな真似はしないでくださいね?」

 

「ハイ、スミマセン」

 

「ひとまず、ボーデヴィッヒさんは先生に任せて、みなさんは一旦教室に戻ってください」

 

 

山田先生に教室で待機を命じられ、更衣室に向かう3人とそのままアリーナから出て行く櫻

櫻の手には先程のお守り。

 

 

『シュヴァルツェア・レーゲンは沈黙、全部一夏くんに持って行かれちゃった……』

 

『こっちも来賓の避難は終わったわ。あとは束ちゃんね』

 

『え? さっきスタンドには誰もいなかったよ?』

 

『となると……』

 

 

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「ちーちゃん!」

 

「ンなっ!」

 

コントロールタワーの最上階、一番警備が厳しいこの場所になぜか入ってきたのは篠ノ之束。

そのハグダイブを紙一重で躱した千冬は久しぶりに会う親友との再会を楽しむでもなく、織斑先生として接した

 

 

「束、何を考えている?」

 

「なんのことかわからないけど、少なくともコレは束さんじゃないよ?」

 

「心当たりはあるんだな」

 

「わかってるんでしょ? それに隠してるし」

 

「どうだろうな」

 

「ふふっ、どうなのかな?」

 

「お前は何をしたいんだ?」

 

「ただみんなで宇宙に行きたいかなぁ」

 

「本当か?」

 

「本当だよ。ISがいつの間にかこんなスポーツになっちゃって、本来の目的を覚えてるのなんて数百人しか居ないじゃん。だから世界中のバカ共の目を覚まさせる。ISとはこうあるべきだってね」

 

「お前が言うと冗談に聞こえないな」

 

「本気だからね。そのためにさくちんの力も借りてるよ」

 

「そうか、ついに世界を変える手はずを整えているのか」

 

「もちろん」

 

「他の教員が戻ってくる。悪いが今日は帰ってくれ。またゆっくり呑もう」

 

「次は夏にまた来るよ。じゃあね」

 

 

嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく。それが束だ

わかっているから必要以上に長居させないし、多くは語らない。それで千冬も束も十分だった

ゆっくり話すのは酒の席でいい、それにこんな場所(IS学園)じゃ自由に喋れない。だから千冬は織斑先生であり続けるし、束はまだどこか束音である気がする

 

 

互いにまたゆっくり話そうね、というのは心の何処かでまだ友人とのおしゃべりを楽しみたいという欲求の表れかもしれない。


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