Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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打鉄弐式、出る

「織斑先生、天草です。ちょっと込み入った話が」

 

そう言って織斑先生に切り出したのは翌日の夜のこと

さすがに簪の打鉄弐式を放ってシャルロットに集中するわけにも行かない

 

「入れ」と短く返事があったため、部屋にはいると……何時ぞやの惨状が目に入る

 

 

「それで、込み入った話とは?」

 

「デュノアのことです」

 

「そうか、それで?」

 

「"彼女"を今の立場から切り離したい。だからIS学園を利用します。それで、彼女本来の人生を歩んでもらう」

 

「そうか、それだけ聞くと報告のようだが、私に何をさせたいんだ?」

 

「シャルルがシャルロットになるにあたっての事務手続きを。あと場合によってはシャルロットを引き取ってもらいたいんですけど……」

 

「なるほどな。分かった。いつやる気だ?」

 

「月末のタッグトーナメントまでには」

 

「事務手続きはこっちでやるが、身元引受までは出来ない。私もまだ監視が付いてるからな」

 

「そうですか、仕方ないですね。何とかします。学園内での情報統制はお願いしますね」

 

「ああ。今これを知っているのは?」

 

「私と布仏、織斑の3人です」

 

「ならお前らから喋ることはないだろうな。あとは生徒会長か……」

 

「バレてますかね?」

 

「どうだかな。それこそ布仏に聞いてみたらどうだ?」

 

「あぁ、そういえば生徒会でしたね」

 

「お前、いつも一緒に居るだろ……」

 

「いつも一緒に居るからわからないんですよ」

 

察した織斑先生もため息をつく

本音の職務放棄が教師に明らかになった

 

 

「デュノアのことは分かった。お前も無理するなよ」

 

「少し無理をする予定なのでそれは出来ませんね。女の子の時間を奪った罰を与えないと行けませんから」

 

「やり過ぎるなよ?」

 

「どうでしょうね。では、おねがいします」

 

 

織斑先生に協力を取り付けた以上は学園内は安心と言っていい。

これからは櫻の仕事だ

 

 

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タッグトーナメントの出場ペア募集締め切りが近づく放課後、ざわつく校舎から離れたアリーナで櫻と本音はモニターと睨み合っていた

 

 

「さくさく~、コレなんだよ~」

 

「ミサイルをすべて的に当てようとすると処理しきれなくなってダウンしちゃうんだよ、だから当てるのは1/3くらい、それ以外は狙った辺りに飛べばいい、みたいなプログラムを組めばいいんじゃない?」

 

「なるほど~。逆転の発想ってそういうことなんだね~」

 

「当てない、ってことも考えないと。本音はどう思ってたの?」

 

「散弾ミサイル?」

 

「あぁ……」

 

そこに戻ってきた簪と打鉄弐式。櫻と本音がコードをつなぐと稼動データが流れこむ

だいぶ形になってきたが、山嵐が鬼門だ

 

 

「櫻さん、どう思う?」

 

「全体的な稼働率は75%と少し低いくらい。たぶん山嵐の稼働率が低いから平均を下げてるんだろうね」

 

「そうだよね。山嵐以外はとてもいい仕上がりだと感じるんだけど、それだけが――」

 

「さくさく~、山嵐のプログラム修正終わったよ~」

 

「あいよ~。ごめんね簪ちゃん、もう一度行ってきて」

 

「うん!」

 

再び舞い上がる簪、空に溶け込む機体が48の尾を引くミサイルを一気に打ち出した

ターゲットポッドがISの戦闘機道を真似て動く、それにあらゆる方向から向かうミサイル

 

ピットで櫻と本音が息を呑む。

 

 

「ターゲット、デストロイ」

 

簪が短く通信を入れるとピットの2人は他の生徒の目を憚らず歓喜の声を上げた

櫻がどこから取り出したのか、ボトル入りの炭酸水を本音に投げるとそれを激しく振った

 

簪が戻ると、

「ひゃ~っほ~い!」「出来たぞぉぉぉぉぉ!!」などと叫びながら炭酸水を浴びせられる。

迷惑そうな顔の先輩を視界に捉えながらも、困った笑みを浮かべるしかなかった

 

 

「おい」

 

背後から声を掛けられ、説教かな……と振り返ると

誰もいない。おかしいな、と感じながらも再びボトルを振ると袖を捕まれ無理やり振り返らされる

もちろん、炭酸水は目の前の人に

 

 

「うわっ、何をする!」

 

「え、あ。すみません!」

 

「貴様、どこまで私を愚弄すれば気が済む!」

 

「え、え~っと」

 

目の前の人とは、背が低く、銀髪で、どこか堅苦しくて、『ドイツの冷水』とか呼ばれてたりする彼女だった

 

 

「ボーデヴィッヒさん、これはえっと……ちょっと嬉しくなってついね」

 

「貴様ぁ……トーナメントでは覚えていろ! 次こそ貴様の頭をぶち抜いてやる!」

 

「ちょっと! 何か用があったんじゃないの!?」

 

濡れた服のままピットから出て行くボーデヴィッヒを櫻はただ見つめるしかなかった

その背中が「近づくな」と語っているようで

 

 

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シャワーを浴び、もう一度機体のチェックを終えた3人はピットでゆっくりとお茶をしていた

一仕事終えた職人たちの如く、その顔には「満足」と書かれているようだ

 

 

「そうだ、簪ちゃん、私と一戦しない?」

 

「え? 櫻さんと?」

 

「そそ、今ならインテリオルのISを見せちゃう!」

 

「よしやろう」

 

「かんちゃん、キャラぶれてる!」

 

「決まり、行くよ! 本音は審判!」

 

「あ~い」

 

簪が打鉄弐式を展開し、ピットから飛び出したのを確認すると、櫻はデッキを走り、空に身を投げた

本音の「さくさく~!」という叫びを他所に、空中でISを展開。そのまま飛び上がる

 

 

「さくさく! バカ! 何してるの!」

 

「ごめんごめん、一度やってみたかったんだよ」

 

「いまのは危ない、もう二度とやらないで。櫻さんはあなただけのものじゃない」

 

「はい、もうやりません」

 

白い天使が簪の前に現れる

 

櫻が展開したのはマルチロールパッケージ、ノブレスオブリージュ。ローゼンタールのHOGIREタイプをベースに翼のようなレーザーキャノンを背中に1対備える。

機体名称にもなる櫻の基本装備だ

 

 

「では、まず小手調べから。簪ちゃん、いい?」

 

「白いのをどうにかしないとインテリオルには……」

 

「そのとおり。さっさと終わらせないとあんな燃費悪いのは出せないかもね」

 

「プライダルアーマーは?」

 

「さすがに無いよ、コジマ汚染されたい?」

 

「遠慮しておく」

 

「だよね。じゃ、行きましょ!」

 

 

いきなり両肩のレーザーを撃つ櫻、避けられることを織り込んでの射撃らしく、その後も左手のアサルトライフルが火を噴く

対する簪もアサルトライフルで牽制しながら時折春雷でシールドエネルギーを削る

 

両者1歩も引かない戦いが続き、距離を保ったまま不規則な動きで翻弄しあい、レーザーの光跡が見えたと思うとプラズマが輝く。まさに一進一退の攻防という言葉がぴったりだった。

 

打鉄弐式は物理装甲にヒビや欠けが見られるが、ノブレスオブリージュは物理装甲が部分的に消滅している。

シールドエネルギーの残量だけならほぼ互角だが、簪には精神的余裕が無く、櫻には機体的に余裕が無い

 

 

「よし、ご褒美だ」

 

そう言うと装甲を収納、再展開する

 

 

「綺麗……」

 

再展開された丸みを帯びたグレーの全身装甲(フルスキン)

左肩の辺りにアンロックユニットとして浮遊する物々しい砲門

両手に持ったスマートなライフル

 

変態の変態による変態のための機体(ARGYROS)がそこにあった

 

 

「簪ちゃん。やっぱり変態じゃ……」

 

「そ、そんなことはないよ!」

 

「さくさくの機体、なんか気持ち悪いね……」

 

「ほら、本音もこう言ってるし」

 

「あの丸みを帯びた物理装甲、背中のプラズマキャノン。手にはプラズマライフルでしょ! これのどこが変態なの?」

 

「えっと、もういいです」

 

「かんちゃんの好みはわかんないよ……」

 

「えっと、もうしばらく機体鑑賞したい?」

 

「もちろん! ちょっとプラズマライフル撃ってみてよ!」

 

「あ、ハイ」

 

砲身が輝き、光の弾丸を射出する

簪は機体が完成した時以上に目を輝かせ、いまにもちょっと貸してと言わんばかりだ

 

 

「次はプラズマキャノン!」

 

「ハイ」

 

背中から強い光が飛び出す、威力も目への攻撃力もライフルとは段違いだ

簪は狂喜乱舞といった様相で桜の周りを飛び回っている

 

 

「かっこいい! やっぱりトーラスマンだよ!」

 

「あの、そろそろ再開しませんか?」

 

「ねぇ! アスピナマンは無いの?」

 

「無いよ! あんなの乗れるか!」

 

事実、ネクストをこのスケールでデフォルメすることにかなり無理があり、シルエットと武装でそれっぽく見えるだけにすぎない。そもそも、ネクストの再現と言うより、それで培った技術を応用しましょう。という物であるため、似せようというより、似てしまった、といったほうが正しい。

アルギュロスは狙って似せているが

 

 

「そっかぁ、残念だなぁ。もう終わりでいいよね、時間だし」

 

「え?」

 

「かんちゃん萎えるの早っ!」

 

センサーによって視界に表示される多々の数値の中、時計を確認すると時刻は19時50分を指している、たしかに時間だが、え?

 

 

「あぁ、うん、そうだね」

 

「早くしないと食堂閉まっちゃうよ」

 

 

よくわからないままに簪との模擬戦は終了、一応実戦データをとれたからよしとしたい

 

 

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食堂にギリギリで滑り込んだ着ぐるみパジャマ3人衆はさっさと夕食を済ませると、簪の部屋に集まった。

もちろん、部屋でやることと言ったら、打ち上げだ

 

 

「では、打鉄弐式の完成を祝して、乾杯!」

 

「「かんぱ~い!」」

 

ワインレッドの液体が入ったグラスを合わせて、軽く音がなる

もちろん、中身はぶどうジュースなのは言うまでもない、気分が重要なのだ

 

 

「ガワは完成していたとは言え、中身は完全再設計だもんね~。それを1ヶ月でやり切るなんて高校生のやることじゃないね」

 

「これも全部櫻さんと本音のおかげだよ。ありがとう」

 

「かんちゃんがちゃんとさくさくに手伝って、って言えたからだね~」

 

「やり方はアレだけどね」

 

「でもお陰で言いたいことが言えたんだよ」

 

「かんちゃんがあんなに大きな声出してるの初めて見たもん」

 

「本当ね、簪ちゃんが感情むき出しで怒鳴りつける姿なんて私も初めて見たわ」

 

「「え?」」

 

いつの間にか打ち上げに混ざっていた楯無に驚く簪と本音

そりゃ、知らないうちに部屋に居るはずのない人がいたら驚くわ

 

 

「簪ちゃん、打鉄の完成おめでとう。お祝い持ってきたわよ」

 

「お姉ちゃん……なんでいるの?」

 

「そこ? 私は櫻ちゃんにお呼ばれしたから来たんだけど、お邪魔だった?」

 

「まさか、お姉ちゃんにおめでとうって言われて、嬉しいよ」

 

「簪ちゃん達は私より立派ね、高校生3人でISの内部システムを全部組み上げたんでしょ?」

 

「お姉ちゃんは1人で全部――」

 

「そんなわけないじゃない。虚や国防省ロケット・砲兵総局(GRAU)からの技術者も居たし。人数だけなら100倍は居たのよ?」

 

「うそ……」

 

「いつの間にかすごいことやってのけてました。ってことね」

 

「簪ちゃん、誇っていいと思う、うん」

 

「かんちゃん頑張ったね!」

 

パンッと楯無が扇子を開くと破天荒解の文字

それを見た簪が姉に笑みを向けると、楯無もそれにつられて笑った

 

 

「前から気になってたんですけど、楯無先輩の扇子って誰からもらったものなんですか?」

 

「これは小さい頃にお父さんのお友達にもらったものよ。素敵でしょ?」

 

「隆文おじさんにもらった扇子まだ使ってるんだね」

 

「隆文、おじさん?」

 

「ええ、有澤重工の社長をやってるって言ってたわ。お父さんの古い友だちで、時々こういうおみやげをくれたわね」

 

「私がもらったのはそこに飾ってあるアクアビットマンやトーラスマンのモデルと写真かな」

 

壁に目を向けると、コルクボードにアクアビットの標準機体LINSTANTとトーラスの標準機体ARGYROSの写真が貼ってある。それもハンガーの中の写真だ。もちろん企業機密だったのは言うまでもない。

それとテーブルには同じくランスタンとアルギュロスのプラモデル。それもアルギュロスはコジマ腕に換装してある、やはり簪は変態の気があるんじゃないだろうか

 

 

「へぇ、まさかと思うけど、更識家って表沙汰にしにくいお仕事してたりする?」

 

「「「…………」」」

 

「あぁ……隆文おじさんが言ってた"そういうの"に強いお友達って更識先輩のお父さんだったんだ」

 

その節はお世話になりました。と深く頭を下げる櫻。なぜ感謝されるのかわけも分からず呆然とする3人

訳を聞くと、以前更識家の先代楯無に仕事を依頼したのは有澤ではなく櫻だったという。あくまでも有澤のコネを使って更識から情報を得るため、これがあると有利に進められる。と言われて選んだのがその扇子だったというわけだ

 

 

「この扇子って櫻ちゃんのチョイスだったの? おじさんは知り合いに選んでもらったって言ってたけど」

 

「ソレを作ったのは私です。多分、要の部分に櫻の花びらのマークが入ってると思います」

 

要を凝視して目を見開く楯無

 

 

「あら、ホントだ。以外なところにつながりがあったわね」

 

「そうですね。これでお仕事のお願いもしやすいです」

 

「おねーさんの仕事料は高いわよ?」

 

「それだけの成果を出してくれればいくらでも出しますよ」

 

「ま、その時は少しまけるわ。簪ちゃんの恩もあるし」

 

「実際そんなことはないに越したことはないんですけど」

 

「そうね。ささ、お祝いの続きをしましょ。主役が置いてけぼり喰らってるわよ」

 

 

その後もワイワイと打ち上げと称した駄姉のノロケは数時間続き、砂糖を濃縮しても追いつけない甘さになった空気から逃げるように櫻と本音は自室へ戻った


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