Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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冴える兎

部屋に戻ってシャワーを浴びると、ベッドに倒れ込み、その状態で束にコールする

 

 

「やっときたね、待ってたよ。本題だけど、デュノアに息子はいなかった。それにいまデュノア社はイグニッションプランから外されかけててピンチなんだって。このまま国からの支援を打ち切られれば、会社は潰れちゃうだろうね」

 

「そのために娘を男装させて、白式の技術を盗むためと自分自身が広告塔になるためにここに来た、と」

 

「だろうね。ともかく、シャルル・デュノアなんて人物この世にいなかった。その社長と社長夫人の間にも子どもはない」

 

「え? じゃあ、彼女は誰の子なの?」

 

「社長とその愛人の子だよ、あんな扱いをされる理由がわかった気がするね」

 

「なるほど、本名は?」

 

「シャルロット・デュノア、こっちはちゃんと女の子の名前だね」

 

「彼女も苦労してるんだね。じゃ、彼女が救いを求めれば全力で助けよう」

 

「さくちんも甘いよね~」

 

「そう?」

 

「だってアドバンスドの娘も上手く手篭めに、とか思ってるでしょ?」

 

「彼女は歪んだ欲望で出来た娘だからね。最初から使われる目的で生み出された。彼女の幸せは誰も考えていないんだよ。だからね」

 

「そんな同い年の女の子に与えられる幸せが彼女等にとって都合のいいものなのかな?」

 

「私は幸せを与える天使じゃないよ、ただ籠から解き放つだけ。また籠に戻ろうと、自身の巣を新しくつくろうと知ったことじゃない」

 

「さくちんは甘いね」

 

「甘いね」

 

「ゴーレムがとったデータは明日送るよ。あと、計画も確実に進んでるから安心してね」

 

「とりあえず本体だけ上げちゃえばね」

 

「そのとおり。あとは2人で作っちゃおう」

 

「束お姉ちゃんも相変わらずだね」

 

「束さんが変わるときは世界が変わる時だよ」

 

「かもね。おやすみ」

 

「おやすみなさい、さくちん」

 

 

通話を終えて寝返りをうつと、目の前には本音が居た

本当に気配が無い。恐ろしい子だ

 

 

「またお姉さんとお話?」

 

「そうだよ、今朝頼んだことを聞いてた」

 

「ほぇ~。かんちゃんから送られてきたデータは見た?」

 

「もちろん。推進系は予想以上の稼働率を出してくれてるけど、やっぱり山嵐がね」

 

「そうなんだよ~、当てようとしても当たらないし。どうやって組めばいいのかな~?」

 

「逆転の発想も大事だよ?」

 

「逆転の発想って言われても~」

 

「ま、頭を使いなさい。若者よ」

 

「さくさくだって同い年だよ~」

 

「ふふっ、そうだね。それで、本音、話は変わるけど、デュノア君の正体、気にならない?」

 

「え? 今朝の続きやるの?」

 

「やる、部屋に突撃」

 

「大胆だね~」

 

「証拠を掴んだからね」

 

「おぉ~、さくさくすご~い」

 

「じゃ、お互いあの格好で行きますか」

 

「犬の嗅覚はすごいんだぞ~!」

 

 

先日届いた狼の着ぐるみパジャマを身につけると、狐のパジャマな本音と共に一夏とデュノアの部屋に向かう

もちろん、こんな格好故に目立つが、1年には櫻と本音がまたなにかやってる程度の認識しかされていないようだ。こういう時に普段のキャラが役に立つ

 

 

「チェリー、こちらモーティブ。部屋の前についたよ~」

 

「了解、廊下にその他敵影なし」

 

「りょ~かい。突っ込むぞ~」

 

 

1025室の前には本音が、その先の曲がり角には櫻がそれぞれ付いて怪しさ満点の行動の最中だ

本音が呼び鈴を押すと、中から「はーい、いま開けます」とデュノアの声で返事があった

 

 

「対象は中にいる模様、このまま侵入する」

 

「一夏くんには気をつけて」

 

「中には、おっと。でゅっちーこんばんは~。今一人?」

 

「そうだね、ちょうど一夏は先生に呼ばれてるよ」

 

「そっか~、それは良かったよ~。でゅっちーにお話があったから」

 

「僕に? ま、とりあえず入ってよ」

 

「おっじゃましま~す」

 

どうやらうまいこと本音が中にはいったようだ

櫻も気配を消し、ドアの前に立つ。中では本音が話を切り出すところのようだ

 

櫻の提案した作戦は簡単。警戒されていない本音が今日のお詫びなどと適当な名目で部屋に上がり、中から櫻を迎え入れ、強引に脱がせる。バレたらかなりまずいがバレなきゃいい。2人はそういう思考の持ち主だ

 

 

「それでね~、今日はちょっとやり過ぎちゃったかな~って。ごめんね~」

 

「いいんだよ、あんまり気にしてないから」

 

「えへへ~、でゅっちーはいい人だね~」

 

「そうでもないよ、僕だって酷いことはするしね」

 

「え~、でゅっちーに限って~?」

 

「誰しも良いことだけじゃ生きていけないと思うしね、布仏さんこそあまり悪いことはしなさそうだ」

 

「でも、こんなこともするんだ~。とうっ!」

 

いきなりデュノアに飛びかかった本音は後ろで両手を抑えると「さくさく!」と叫ぶ

櫻が玄関から堂々と侵入、そのままベッドに組み伏せられたデュノアに目線を合わせる

 

 

「布仏さん、天草さん、いきなり何を!」

 

「でゅっちー、ごめんね~。でもコレもお仕事だから~」

 

「ごめんね、デュノア君。どうしても気になることがあってね」

 

「気になること?」

 

「君って、ホントは女の子じゃないの?」

 

「えっ? なんでそう思ったのかな?」

 

「なんか、男の子っぽくないっていうか、骨格からして変だと思って」

 

「でも残念ながら僕は男だよ、昔から華奢だとは思っていたけど、面と向かって言われると悲しいね」

 

「そう、あくまで否定する? シャルロットちゃん」

 

デュノアの顔が引きつる、だが、わざと気づかぬふりをして本音に命令する

 

 

「本音、脱がすよ」

 

「おぉ、男の子を脱がすってなんだかドキドキするね~」

 

「デュノア君、これで白黒つけましょ?」

 

「ちょちょちょ! 待ってよ! 分かったから!」

 

「かかれ」

 

冷酷な櫻の声が、シャルルの終わりを告げる、コレで"彼"の学園生活はおしまいだ、そう思っていた

本音がジャージの手早く脱がせ、櫻が背中に手を回し、コルセットのホックを外す。重力に逆らって形の良い乳房が露わになった

 

 

「ほう、いい身体してるね」

 

「さくさくがなんだかえっちぃよ~」

 

「酷いよぉ、わかっててやったの?」

 

「もちろん。全部話してくれるよね?」

 

「わかったよ……」

 

デュノアが口を開いた瞬間に、恐れていた人物の登場だ

 

 

「シャルル、いるか~」

 

「い、一夏っ? ちょっと待って!」

 

「ん? どうした……。悪かった、少し頭を冷やしてくる」

 

本当に空気の読めない唐変木は、デュノアの願いも虚しく、そのまま部屋に入ってきた。

そこで彼が目にしたであろうものは着ぐるみパジャマの2人に脱がされ、半裸のシャルロットと荒れたベッド。思春期の青年の目には、少し刺激的過ぎたようだ

 

 

「本音、行け」

 

「おりむーごめんね」

 

あののほほんとした風体から想像もできない速さで一夏に迫った本音は首筋に手刀を叩き込むと、一夏の意識を奪う

あっけにとられる櫻とデュノア、本音のお目付け役と言われて四六時中一緒にいる櫻でさえ、本音の速さは予想外だった

 

 

「報酬は食堂のデザート5品でいい?」

 

「デラックスパフェ」

 

「グッ、仕方ない。後日支払おう」

 

「えっと、何をしてるのかな?」

 

「スパイ映画っぽくてかっこいいでしょ~?」

 

「う、うん。とてもそれっぽいと思うよ」

 

「本音のパフェは週末におごるとして、デュノア君。もうシャルロットちゃんでいい?」

 

「ロッテでいいよ、そのほうが呼びやすいでしょ?」

 

「だね。ロッテ、全部話してよ、場合によっては君を今の立場から切り離せる」

 

「もう天草さんにはお見通しなんだろうけど、ウチの会社は第3世代機の開発ができずにいたんだ。だからイグニッションプランからも外されちゃった。それでこのまま第3世代機の開発が出来なければ資金援助の打ち切りと、IS開発認可の取り消しを告げられた」

 

「しつも~ん」

 

そこで本音がはいはい、と手を上げて質問をする

 

 

「イグニッションプランってなに?」

 

「本音、授業はちゃんと聞いていようよ……」

 

「えっと、イグニッションプランって言うのはヨーロッパの統合防衛計画のことで、簡単に言うとEU圏で使うISをまとめて、もっと安くいいものを揃えよう。っていう計画だよ。そこに入れば開発援助として国からお金が出たり、広告効果で自社のISが売れるようになるんだけど」

 

「でも、ラファールは売れてるんでしょ? なんでそんなことするの?」

 

今度は櫻が変わって口を開いた

 

 

「ISの開発はお金がかかるの。機体を作ってハイおしまい。じゃ済まない、後付装備の開発とか、アップデートプログラムの開発、提供とか、作ったあともやることは山積み。だからほとんどの企業は国からお金をもらってISの開発と提供をしてるの」

 

「天草さんの言った通り、お金がかかる。でも、デュノアには技術力も足りないんだ。だけど、社の存続のためにはイグニッションプランに参加する必要があった、だからまずは盗めるところから技術を盗みましょう、ってね」

 

「それでおりむーに近づいたの?」

 

「そのとおりだよ。男だって言えば一夏に近づきやすいし、何よりデュノアの名前も売れる」

 

「事情は分かった、それで、この後どうするつもり?」

 

「どうだろうね、本国に強制送還されて、良くて牢獄、悪ければ処刑されかねないね」

 

「どう"なる"じゃなくてどう"する"か聞いてるんだけど」

 

「わからないよ、僕は僕の意思で動けない。いろんな人を騙して来た。そんな人げ――」

 

「ならここにいればいいじゃねぇか」

 

 

ぎょっとして振り返れば頭を抱えながら立ち上がる一夏、まだ少しふらついている

壁に手をつきながらもその瞳には闘志が見て取れる

 

 

「お前はそれで満足してるのか? いまここでみんな笑いながら飯食って、みんなで真剣に授業を受けて、そんな学園生活を捨てちまうのか?」

 

「でも、僕は一夏を、みんなを騙してきたんだ、もうここには居られないよ」

 

「それはお前が決めることじゃないと思うぞ、騙されていたかどうかなんて騙された側しかわからない、それを許すか許さないかも騙された側次第だろ? 俺はシャルルを許したい。まだ何もされてないし、何より、俺はシャルルを大切な友達だと思ってるからな」

 

「一夏、僕はここにいていいの?」

 

「ああ、少なくとも俺はシャルルを含め、みんなでここを卒業したいしな」

 

「おりむーいいこと言うね~。かっこいい~」

 

「一夏くんもこう言ってることだし、考えをまとめてみなよ」

 

「ああ、あと2年半はある。その間に見つかることもあると思うぜ」

 

「僕はみんなと一緒に居たい、今はそう思ってるよ。でもこれからどうしよう、僕が女の子だってバレたら……」

 

「いっその事女の子として生きればいいんじゃないかな~」

 

本音の一言で場の空気が凍る

さすがに開き直るというか、潔すぎるというか。さすがにコレもないだろうと思う一夏が何となく櫻に視線を送ると

 

 

「私はありだと思うけど。ロッテはどうなの?」

 

「それが出来るならそうしたほうが気が楽だね。男として生きるのも息苦しかったし」

 

「なら決まりだね」

 

「でゅっちーは女の子になりました~ぱちぱち~」

 

一夏は置いてけぼりだ。

シャルロットは気を利かせて一夏に声を掛けるも、その場で崩れ落ちる

どうやら気力での活動限界を迎えたようだ。正義感だけでは流石に重い話まではついていけなかったか

 

 

「やっぱりキテたのかもね」

 

「おりむーは男の子だし、手加減したとは言え、それなりに強くキメたからね~」

 

「2人とも物騒な事言うね」

 

「とりあえず一夏をベッドに……」

 

女の子3人に担がれる一夏はどういう気分なのだろう。 彼の友人弾に呪われそうなシチュエーションだが、本人の意識はすでにどこかへ行っている

 

 

「じゃ、ロッテは女の子に、でもタイミングもあるからなぁ……」

 

「学年別タッグマッチが終わったらにすればいいよ~」

 

「タッグマッチ? 聞いてないよ?」

 

「え、普通に1対1じゃないの?」

 

「あれ? さくさくもでゅっちーも知らないの? クラス対抗戦の時に黒いのが来たから、タッグになったんだよ~?」

 

「これはもう一荒れありそうだね」

 

「もうしばらく男として頑張るよ……」

 

「それまでに必要なことは済ませよう。ロッテはデュノアをどうしたい?」

 

「一応お父さんだし……、でも恨みが無いわけじゃない」

 

「じゃ、潰す方向で」

 

「いやいや、それはやり過ぎだよ!」

 

「え~、ロッテはどうしたいの?」

 

「とりあえず僕はフリーランスになりたい。デュノア社のシャルロットじゃなくて、ただのフランスから来たシャルロット・デュノアに」

 

「それはロッテをデュノアから奪えばいいね。しばらくはウチの所属ってことになるけど、2年に入る頃にはクビにするから」

 

「さくさくはえげつない言い方するね~」

 

「奪う? クビ?」

 

「ロッテをそうだな……BFF辺りがいいかな。そこのパイロットとしてデュノアから転属させるだけだよ。金か力をちらつかせればあんな小企業、簡単に落ちるさ」

 

「一応デュノアも世界的企業でいたつもりなんだけど……」

 

「さくさくは世界に敵なしだからね~」

 

「とりあえず異存は無い?」

 

「え? ああ、うん。わかった。でもそんな簡単に出来るの? 一応国の息がかかってる会社だし」

 

「大丈夫、意地でも君を奪ってみせるよ」

 

「えっ、天草さん? すごい恥ずかしいんだけど……」

 

真顔で宣言されてはキュンと来ない女性は居ないだろうと思われるほどのイケメンっぷりでシャルロットを陥落させる櫻。となりの本音も頬を紅くしている

本人は自覚なしのようで、飄々しているから恐ろしい

 

 

「とりあえず、織斑先生と相談して進めようか」

 

「なんでそこで鬼を……」

 

「一番信用できて口が堅いからに決まってるじゃん。よし、決まり。明日織斑先生と話をつけよう」

 

「わかったよ。よろしくね、天草さん」

 

「この際名前で呼んでくれていいよ。本音、戻るよ」

 

「はいな~。おやすみ~」

 

「おやすみ、櫻さん、のほほんさん」

 

 

 

シャルロットは学園で初めて、自分が救われたと感じた。彼女にとって一生モノの関係を築く第一歩が踏み出された


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