Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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暴れるウサギ

櫻が教室を出た頃、本音はすでにアリーナの入り口、柱の陰で気配を消していた。

彼女も暗部の従者だけあり、これくらいの隠密行動はできる。はずだ

 

――きたきた、追っかけちゃうよ~

 

ターゲットシャルル・デュノアを発見し、追跡に移る。今の彼は一人だ

デュノアはそのまま更衣室に入り、制服を脱ぎ始めた

 

それを壁越しに見つめる本音。だが、ISスーツを下に来ていたのか、脱ぐだけでそのままフィールドに向かってしまう

 

――はうぅぅ、失敗かな~?

 

少し慌てたが、櫻に指示を仰ぐ

 

 

「チェリー、こちらモーティブ。対象は下にISスーツを着てたからわかんなかったよ~」

 

「その手があったか……。了解、モーティブはそのまま整備室へ」

 

「モーティブ、了解だよ~」

 

この場でのミッション(覗き)は失敗。そのまま簪の専用機の準備に入る

 

一方、フィールドでは先に来ていたセシリアと鈴音がラウラの操るシュヴァルツェア・レーゲンに蹂躙されていた

 

 

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――なにこれ

 

フィールドに入るや否や、目に飛び込んできたのは赤と青が吹き飛ばされ、ぶつかり、打ちのめされる光景だった

 

 

「フン、イギリスと中国の第3世代機はこの程度か。データで見たほうが強そうだったな」

 

「何を言ってますの? まだまだこれからでしてよ?」

 

「これくらいで黙るほど、龍は弱くないわよ!」

 

再びラウラに突っ込んでいく鈴音、それに援護射撃を加えるセシリア

だが、いきなり鈴音の動きが止まると、そこにレールガンが容赦なく撃ち込まれる

 

――AICねぇ、なかなかめんどくさそ

 

さすがに櫻もこの 喧嘩戦闘を止めるほど良い人ではない、それこそ、いま頭上を駆け抜けたオレンジの貴公子ほどは

 

 

『もうやめてくれないかな? ドイツ人はやっぱり頭が固いのかい?』

 

『フランスの 第2世代アンティークが何を言う。それに、私はあくまでも正当防衛として攻撃を行っているまでだ』

 

『正当防衛とか言いつつ、2人のエネルギー残量は具現化限界(レッドゾーン)を通り越して 操縦者生命維持限界デッドゾーンに近いみたいだけど?』

 

『知るか、こいつらはまだまだ殺る気みたいだからな。それ相応の返事をせねばなるまい』

 

『なら、力尽く取り返すしかないかな?』

 

そう言って両腕にアサルトライフルを展開し、照準をあわせる

一応警告のつもりらしく、まだ引き金に指はかけていない

 

 

『シャルル君? やめておいたほうがいいんじゃないかなぁって……』

 

念のためシャルルにプライベートチャンネルで呼びかけるも

 

 

『天草さんは彼女の肩を持つの? 2人が危ないのに?』

 

正論で返されてしまった

 

 

『僕としては天草さんの手も借りたいところなんだけど』

 

『私は関係ないしなぁ』

 

『冷たいね』

 

『お人好しが過ぎると損するよ?』

 

『コレが僕の罪滅ぼしだからね』

 

罪滅ぼし、ね。普通の人間なら、こんな言葉は簡単に使わないだろう。間違いなく彼の裏にはなにかある、そう確信した

ちょうどいいタイミングでゴーレムが指定の位置に到着したとハイパーセンサーの片隅に表示される

 

 

『仕方ないね。セシリア、凰さん、貸一つだから』

 

『櫻さん! そんな、まだ行けますわ!』

 

『アンタの手助けなんかいらないわよ!』

 

『なら2人ともISの限界を超えて死んでしまえばいい』

 

『ちょっと、天草さん。それは言いすぎだよ』

 

『この2人はそれくらい言わないと引かないでしょ』

 

『だからって――』

 

『頭の固いドイツ人はまだ殺る気みたいだけど』

 

『そんな! ああ、もう! 天草さん、援護して!」

 

シャルルが叫ぶと瞬時加速で一気に距離を詰めにかかる

狙いはラウラではなく、ワイヤーに掴まれたセシリアと鈴音だ

 

 

『だからそんなガラクタで何が出来っ! なんだ!?』

 

『台詞の途中にごめんね。ドイツ人として、同郷の人の過ちを見過ごすわけには行かないからさ、アドバンスド』

 

『貴様っ! 何処でそれを! くそっ、殺してやる!』

 

AICを使おうと手を出したところで背中の天使砲を一発お見舞いする

これで一瞬の隙が生まれ、シャルルがセシリアと鈴音を救い出す

 

 

「お前らの罪、未だあるのだろう。すべて精算させてやるよ。この私が」

 

「戯け! 貴様に何がわかる!」

 

「ほら、おしゃべりしてないで行くよ。その目を使ってもいいよ、アドバンスド」

 

「くっ……」

 

空中で円を描きながら互いに銃火器の応酬を繰り広げるジャーマン

それを見ながらシャルルは櫻もドイツ人だったのか、と煽ったことを後悔した

 

『お前ら何をしてるんだ!』

 

 

いきなりオープンで入ってきたのは一夏の声、こういう空気の読めない奴は早死するんだ

 

 

『何って、物分かりの悪いウサギの躾だけど?』

 

『来たか、織斑一夏。まずは貴様から屠ってやる』

 

『邪魔だからとりあえず失せろ、一夏』

 

『なんで俺に! クソッ!』

 

 

いきなりレールガンとハイレーザービームの砲撃を受ければ嫌でもエネルギーを全損させる

なぜか一夏への砲撃は2人共タイミングが揃っていた。だから未熟な一夏はよけきれずに3条の砲撃を浴びる

 

 

『天草さん! なんで一夏を!』

 

『空気の読めない奴は邪魔なだけだからね。さっさと退場してもらったよ』

 

『そんな、ここまでする必要は無いじゃないか!』

 

『ドイツの尻拭いはドイツ人がするべきだ。そんなバカがしゃしゃり出ていい場面じゃない』

 

 

喋りながらも攻撃の手を緩めず更に弾幕を密にする。

両手にマシンガンを展開、秒間140発を超える鉛球がラウラを襲うも、AICの前に無力化される

 

 

「貴様、なぜヤツを撃った」

 

「邪魔だからに決まってるじゃん」

 

「出会いがこうでなければ、貴様ともよくやれたのかもしれんな」

 

「残念だけど、試験体は間に合ってるから」

 

「そうか、では、終幕だ」

 

 

プラズマ刃を手に瞬時加速で迫るラウラ。それをエネルギーブレードで払いつつ、ハイレーザーを見舞う

 

 

「ほら、君の能力はそんなんじゃないだろ? アドバンスド、その目を見せてご覧」

 

「それまでもない、貴様にはコレで十分だ」

 

6本のワイヤーブレードが櫻に迫る

何本かは断ち切るも、数が多く、捌き切れない

2本のワイヤーが腕と足に絡まりそのまま壁にたたきつけられた

 

「これで終わりだな」

 

ニヤリと笑いながらレールガンで櫻の顔を狙い、銃身に紫電が走る

 

 

「それはどうかな?」

 

壁に半分埋まったような状態で両肩の天使砲に光を纏わせる

 

だが、それも鬼の一声で散った

 

 

「それまでだ、ボーデヴィッヒ、天草」

 

そこで現れたのは織斑先生、手にはIS用ブレードを持っている

 

 

「なっ! 教官! まだ、この女は!」

 

「これ以上言わせるな、ボーデヴィッヒ」

 

「織斑先生、生徒同士の模擬戦を止めるんですか?」

 

「これ以上の被害を出されては困るからな。ひとまず、これ以上の私闘を禁ずる。決着は月末につけろ」

 

「ですが!」

 

「お前ら2人は後で職員室に来い」

 

「「はい」」

 

 

『この決着は必ず付けてやる』

 

『その時は立場が逆になってることを願うよ』

 

『ムリだろうな。いまのでわかっただろう、貴様にはアレを使うまでもない』

 

『そうかい、アドバンスド』

 

互いに振り返り、反対に向かって歩き出す様はどこか決闘を終えた騎士のようであり、とても様になっていた

壁際に吹き飛ばされた一夏は「厄日だな」と思いつつ、シャルルの手を取り立ち上がる

 

 

「悪いな」

 

「構わないよ、とりあえずセシリアと鈴を医務室に運ぼうか」

 

「だな。無様な姿晒しちまったから、少しはカッコつけないと、なんというか、俺のプライドが」

 

「一夏は男の子らしいね。良くも悪くも日本人な感じ」

 

「あんまり褒められてる気がしないな……」

 

「ふふっ、どうだろうね。さ、行こ」

 

「おう」

 

 

織斑先生が来たのは手に負えないと判断したシャルルがとっさに救難信号を発したからだ

職員室に行って戻ったらどうなってるかわからない以上、少し賭けに出た

その結果として、狙い通り織斑先生が来たのだから良かったのだろう

 

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「さくさく、大丈夫?」

 

フィールドから出ると本音が待っていた

櫻の身を案じてくれたことが表情から察せられる

 

 

「まあね、機体の損傷レベルも大したことないし」

 

「良かった~。かんちゃんも待ってるから、行こ~」

 

「それで、さっき織斑先生に呼び出し喰らっちゃったから。今日のテストは2人でやって。ワークシートにフローチャートは載ってるから、それに従ってお願い」

 

「アレだけ派手やったからね~、仕方ない、今日は2人でやるよ」

 

「ごめんね。じゃ、逝ってくる」

 

「何か違う気がするけど、生きて帰ってきてね~」

 

 

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その後、着替えを済ませて職員室にやってきたラウラと櫻

この場においても一触即発の空気を発している

 

 

「来たか、隣の部屋を使うぞ」

 

そう言って隣の会議室を開け、目で入室を促す

ここまで来た以上、従うしかなさそうだ

 

 

「本当なら反省文でも書かせたいところだが、お前らだからな……」

 

「それで、事情聴取、ですか?」

 

「そんなところだ。では聞こう。どうしてあんな騒ぎを起こしたんだ?」

 

「私がフィールドに入った時にはオルコットと2組の凰が彼女に一方的攻撃を受けていたため、デュノアと協力し、2人を保護、その後彼女との戦闘に」

 

「天草が言ったことに間違いはないな?」

 

「ありません」

 

「オープンでの会話ログを聞いたが、天草、お前はなぜボーデヴィッヒをアドバンスドと呼んだ?」

 

「彼女の気を引くのに一番の言葉かと思いまして」

 

「そうか、それで気が立ったボーデヴィッヒはそのまま天草と戦闘行動に入ったと」

 

「その通りです」

 

「それで、少し戻るが、ボーデヴィッヒ、なぜお前はオルコットと凰と戦闘を行った?」

 

「私が織斑一夏を見下す発言をしたところ、2人が攻撃を加えてきたため、自衛のため攻撃を加えました」

 

「なるほどな。齟齬はない。だが新しく問題が浮かんでしまったな」

 

ざっくりとした質問の理由は詳しく聞く必要が無いからのようだ

会話ログなどからすべての流れを知っている、だから言い訳のないよう、事実確認のみを行ったと

 

 

「天草、お前は"なぜ"ボーデヴィッヒをアドバンスドと呼んだんだ?」

 

「その質問は先程も――」

 

「さっきとは少し意味が違ってな、わかるだろう?」

 

「……彼女が言葉通りの存在だから、です」

 

「アレは国家機密扱いのはずだが、ボーデヴィッヒ、何かあるのか?」

 

「あるにはありますが、機密情報のため言えません」

 

「そうか、そうだろうな」

 

「天草、といったか? お前は私をどこまで知っている?」

 

ラウラが質問する、この場合、彼女の気と相まって、尋問と言うべきだろうが

 

 

「多分、その機密情報に絡んでるのはウチだからさ。研究所の襲撃だろう?」

 

ラウラはポーカーフェイスを続ける、流石軍人だろうか

 

 

「まぁいいや、これが"千冬さん"の聞きたい話でしょうし」

 

含みをもたせたため、織斑先生の顔が少し締まる

ラウラは相変わらずだ

 

 

「とある情報網から、ドイツ国内でISのための人体改造が行われている事を知った我々は、さらに調べを進め、遺伝子強化試験体、と呼ばれる存在に行き着きました。まさに試験管ベビーのことですね。アドバンスドと呼ばれた彼女らは様々なテストを行われ、過半数が死んでしまったようです。その中の数少ない成功例に、擬似ハイパーセンサーを埋め込む試験が行われました」

 

そう言ってラウラの方を見ればポーカーフェイスも崩れつつある

もうひと押し。そう考えてさらに言葉を続ける

 

 

「身体は上手く行っても、不適合を起こして脳機能に障害を負うパターンが多かったようで、成功例――と言っても、常用は出来ないようですが――はそこにいる一人だけです。我々はそんな非人道的な研究を許さない。だから研究所を襲撃、試験体を保護し、研究所を破壊しました。表に出なかっただけ褒めてもらいたいものです、ボーデヴィッヒ少尉」

 

「貴様が、あの事件の首謀者だと?」

 

「ええ、その通り。捕まえますか?」

 

「いや、やめておこう」

 

「懸命な判断です。それで、ここまで聞いて何かありますか? 千冬さん」

 

「まさかお前らがアレをしでかしたとはな。まぁ、らしいがな。ボーデヴィッヒを煽る為にそう呼んだというのも納得だ」

 

「で、ボーデヴィッヒ少尉、あなたはこれからどうしますか?」

 

「そんな、急に聞かれてもな」

 

「ま、そうでしょうね」

 

「櫻、お前は試験体を保護した、と言ったな。いまどうしてるんだ?」

 

「今はお姉ちゃんと一緒に暮らしてますよ、あの子です」

 

千冬はラウラそっくりの彼女を思い出し、納得したようだ。

 

 

「それは、私以外にも生きた存在があるということか?」

 

「それ以外に何があるんですか? さすがに私達も脳死状態の子を引き取るほど善人ではありませんよ」

 

「そうなのか……」

 

質問を重ねたラウラのトーンが下がる

それを一瞥した櫻は何事もなかったかのように息を吐く

 

 

「では、今日はこれにて解散。さっき言った通り、学年別トーナメントまでの私闘は禁止だ」

 

「「Ja」」

 

今まで以上に厳しい声に思わずドイツ語で返してしまう2人。織斑先生は苦笑いだ

 

会議室から出ると、ラウラが口を開く

 

 

「貴様は、どうして織斑一夏を味方しない?」

 

「一夏くんを庇う意味もないし、メリットもないからね」

 

「なら、なぜ教官を慕っているのに織斑一夏に恨みを抱かない?」

 

「モンド・グロッソの時のことを言っているなら、それは私があの事件の真実を知っているから」

 

「何を知って――」

 

ラウラの口を指で抑えると耳元でささやく

 

 

「知らないほうがいいこともあるんだよ。少尉」

 

「そうか……」

 

「君は君らしく自分の願うままに生きるべきだ。君には名前がある、記憶がある、経歴がある、技術がある、仲間もいる。それを大切にしなよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「貴様、名前を聞かせてくれないか」

 

「私は、櫻。櫻・天草・フュルステンベルク」

 

「フュルステンベルク、貴様の言葉、覚えておこう」

 

 

 

そう言って踵を返すとブーツを鳴らしながら、ラウラは寮へ去っていった


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