Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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本音の目

転入生やら放課後にラウラが一悶着起こすやらで一夏は散々な目にあったようだが、櫻は何の変哲も無い一日を過ごせていた

 

夕食も済ませ、風呂にも入り、あとは寝るだけな1064号室の2人はガールズトークに花を咲かせていた

 

 

「そういえばさ~、転入生の男の子、かわいいよね~」

 

「本音はそういう子が好み、っと」

 

「ち、ちがうよ~!」

 

「どういうタイプがいいの?」

 

「さくさくみたいな、背が高くてちょっと怖いけど優しいところも……って何言わせるの~!」

 

「なるほど、そういうタイプがいいのか」

 

「そ、それでね~。転入生の男の子って、女の子みたいだよね~って」

 

「あ、無理やり戻した」

 

「恥ずかしいもん」

 

着ぐるみパジャマの余った袖で顔を隠す仕草は非常に愛らしい

 

 

「まぁ、確かにデュノア君は男にしては華奢だよね。こんど見てみよっか」

 

「覗き?」

 

「まさかぁ、なんでもみえ~る君でデュノア君の体を全て見てしまいましょう!」

 

「覗きと変わらないよ~」

 

「と、言うわけで、明日は2人でデュノア君の素顔に迫ろう!」

 

「お、お~?」

 

 

 

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翌朝、2人は普段通りに目を覚まし、今までどおりなれた動作であるかのようになんでもみえ~る君を装着。食堂へ向かった

 

 

「チェリーへ、こちらモーティブ。対象を確認したよ~」

 

「チェリー了解。ってなにこれ」

 

「映画っぽくてかっこいいでしょ~?」

 

「はぁ、楽しそうでなにより」

 

「えへへ~」

 

朝からピーピングを楽しむ本音に櫻は少し呆れ気味だ

嬉々としてデュノアに視線を向ける本音を他所に、櫻はテーブルでトーストを囓る

 

 

「櫻おはよ~。あれ? メガネしてたっけ?」

 

そこにやってきたのは結衣と琴乃、実技の時にほとんど毎回櫻の班にやってくる2人だ

壁に突っ込んで以来、かなり仲良くなっていた

 

 

「あぁ、コレね。メガネ型のディスプレイだよ。いろいろと使えて便利なんだ」

 

「へぇ~かっこいいね、何処のモデル?」

 

「これはワンオフだよ、掛けてみる?」

 

「いいの? やった」

 

嬉々としてメガネを受け取ると、そのまま掛けてみる。

ショートカットに薄ピンクのハーフリムが上手くマッチしている

 

 

「おおぅ。意外と軽いね」

 

「でしょ? そこが自慢だからね」

 

「へぇ~。ん? 本音?」

 

「げっ」

 

「あぁ、これね、櫻のメガネ借りてるんだ~」

 

本音との通信を切り忘れ、そのまま結衣に渡してしまったことを悔やむ

透過モードは使っていなかったことが救いか

 

 

「結衣ちゃん誰と喋ってるの?」

 

「いま本音と音声チャットしてたところで……」

 

「朝から中がいいね、羨ましいな」

 

「琴乃ちゃんだって結衣ちゃんといつも一緒じゃない?」

 

「そうかな? そういわれるとそうかも」

 

「自覚なかったの……」

 

「うふふ、そうみたいね」

 

琴乃はかなりの天然だと思っていたが、ピントがずれているというか、周りを見ていないというか……

 

 

「うん、いま櫻と同じテーブルに居るから、そいじゃね」

 

どうやら会話に一区切り付いたようで、なんでもみえ~る君を櫻に返すと、少し困ったような笑顔で

 

 

「いやぁ、朝から絶好調みたいだね」

 

「好調すぎて困ってるんだけどね」

 

「まぁ、櫻は本音のお目付け役だし、あんまりやり過ぎないようにな」

 

「櫻ちゃんはすでにクラスのお姉さんポジションだもんね」

 

「はぁ……」

 

「さくさく~、ゆいっち~、ことの~ん」

 

「噂をすればなんとやらですな?」

 

「本音ちゃん、おはよ。なにか良いことあったの?」

 

「今日は朝からさくさくと映画ごっこだよ~」

 

「それであのメガネか」

 

「そうだよ~」

 

トーストを食べ終えた櫻はコーヒーを啜りながらサーモグラフィーモードに切り替え、丸テーブルを囲む5人に目を向けた

 

――箒ちゃんもセシリアも大きいなぁ……じゃなくて、デュノア君は……は?

 

デュノアの胸は、かなり不自然な形をしている。大きい物を無理に圧縮したような

 

――アレって、どう見てもコルセットで押さえ込んだ胸だよね……

 

そうだ、きっと見間違いだ、彼らが立ってくれれば一発でわかるんだ。と無理に落ち着かせ、またコーヒーを一口

 

 

「さくさく~、部屋行くよ~」

 

「え、あ、うん。今行く」

 

あとちょっとというところで本音に呼ばれ、残ったコーヒーを一気飲みし、トレーを片付け部屋に向かう

 

部屋にはいると本音が口を開く

 

 

「デュノア君やっぱり変だよね~」

 

「本音も思った? あの胸はコルセットで抑えてる胸だね」

 

「これは黒だよ~」

 

「でも、決定的な証拠に乏しいから。今日一日は、ね」

 

「偵察を続けるよ~」

 

「そうだなぁ、彼の体でも見れれば一発なんだけど……あ」

 

「なにかひらめいた?」

 

「放課後にまた一夏たちが練習するだろうから、その時を襲う」

 

「大胆だね~」

 

「経営者は時に大胆な決断が必要なんだよ」

 

「さくさくかっこいい~」

 

「そうと決まればさっさと顔洗って、歯磨き!」

 

「やーっ!」

 

ドイツ語で返事をする本音に少し驚きつつ、携帯を手に、束にダイヤルする

 

 

「はろはろ~っ、束さんだよ~?」

 

「おはよう、お姉ちゃん。時間がないから手短に話すけど、学校にドイツのアドバンスドが来た、それともう一人得体の知れないのが。今日の3時半くらいから学園の上にゴーレムを飛ばして欲しい」

 

「え、まさかの事態だね。あまり荒っぽいことはしないように。得体の知れないっていうのは?」

 

「男、って本人は言ってるけど、十中八九男装した女だね。これは今日中に白黒つける予定だよ」

 

「それは無害そうだね。ゴーレムの件は分かった。その時間に着くように飛ばすよ」

 

「それと、フランスのデュノア社の裏を洗って欲しい」

 

「ん? それはどういうことかな?」

 

「その男装少女がデュノアって名乗ったんだ。血縁かどうかはわかんないけど、とりあえずお願い」

 

「はいは~い、久しぶりのお仕事だ~。さくちん、今度はもっとゆっくりお話したいな」

 

「そうだね。じゃ、またね、お姉ちゃん。また夜に掛けるよ」

 

「は~い、それまでに準備しておくね」

 

 

そう言って通話を終え、後ろを見ると、歯ブラシを咥えて立つ本音。全く気づかなかった櫻は内心焦っていた

 

 

「さくさくってお姉さん居たの~?」

 

「正しくはお姉さんみたいな人なんだけどね。実姉じゃないよ」

 

「そうなんだ~。お姉さんっぽいさくさくがお姉ちゃんって呼ぶのも面白いね~」

 

「そうかな? ちっちゃい頃から一緒だったから」

 

そう言いながら逃げるように洗面所へ向かう

切り替えるためにも冷たい水で顔を洗う、とりあえず今に集中しなければ

 

 

 

身仕度を済ませた2人はいつもの様に教室へ向かい、本音はデュノアに熱い視線を送り続けた。

 

 

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授業中も休み時間も絶えずデュノアに熱い視線を送り続ける本音にクラスメイトも驚いたようで、「ついに本音が動いた」やら「櫻を捨てた」やら好き勝手に噂を流している

 

 

「え~っと、天草さん?」

 

「デュノア君、何か用?」

 

休み時間にデュノアから話しかけられた。喉を見る限り、喉仏は目立っていない

 

 

「いや、彼女からの視線が気になってね、布仏さんのことは天草さんに頼めってみんなが言うから」

 

周囲を見渡すと、頼んだぞ。と言うような視線を送るクラスの面々。

 

 

「はぁ……、本音。デュノア君が困ってるから、好きなら好きって直接言いなよ」

 

「さ、さくさく。それは違うって~!」

 

「え、それは……」

 

櫻がわざとらしく爆弾を投下すると、案の定食いつく 狼女子達

「櫻さんを……」「本音もなかなかやりおるな」「コレで櫻お姉さまは……クヒヒ」

少し不穏なのも聞こえた気がしたが、反応は上々だ

 

 

「え~? 本音の好みってなんだったかナー?」

 

「えっと、僕は……」

 

「でゅっちーもいいけど、さくさくが一番だよ~」

 

「あの、僕はどうしたら……?」

 

「本音の本音はそれかな? ホントかな?」

 

「また嵌められた~!」

 

また櫻に一本取られた本音が不満の声を上げる

デュノアはもう空気だ。

ここで助け舟を出したのはやはり一夏だった。

 

 

「いつまでも夫婦漫才に付き合わなくてもいいんだぜ?」

 

「え、あ~。うん」

 

「さっさと次の準備しちまおうぜ、次をしのげば飯だ」

 

「そうだね」

 

一夏は女の園の切り抜け方をある程度身につけたようで、こんなのいつものことさ、と振舞っていた

デュノアは元が律儀な性格なのか、話しかけられるとほぼ必ず返事をする質で、休み時間のたびに囲まれては質問攻めにあっていた

 

 

「あの2人はいつもあんな感じだからさ、ある程度はスルーしないと身が持たない」

 

「そうかもね。ああいう愛の形もあるんだ……」

 

「シャルルは彼女いた事とか無いのか?」

 

「えっ? あぁ、残念ながら無いなぁ」

 

「以外だな、シャルルは見た目も性格もいいからモテそうだけど。おっと、先生だ」

 

ドア越しに見える影に気付き、一夏が席につくと、デュノアも自分の席へ

未だに本音と櫻はじゃれあっているが、どうなろうと自業自得だろう

 

音もなくドアを開けて入ってきたのは、織斑先生では無かった

 

 

「ん? 誰だ?」

 

空気の変化を感じた本音と櫻は前に教師が立っていることに気づくと慌てて席についた

 

 

「織斑先生に急用が出来たので、この時間は私が代わりに授業を進めますね」

 

教卓に付いているのはセレンだった

IS学園に送り出した張本人はすっかり忘れていたようで、目を見開いている

 

 

「私は2年を受け持っています、セレン・エリジェです。担当は実技と戦闘理論、IS運用論。それと外国語です。よろしくね」

 

クラスがまさかの外国人教師の登場に少しざわめくなか、セレンの戦闘理論の授業は始まった

 

 

「では、現代ISの特徴を。フュルステンベルク社……さん」

 

「現在最新鋭とされる第3世代ISは、操縦者の脳機能を使ったイメージインターフェースを用いてコアの持つ能力を引き出すことに重点が置かれています。コアの処理機能を引き出すことで、今までにないタイプの装備を開発することが可能になりました。主な――」

 

「そこまででいいですよ。ありがとうございます。フュルステンベルクさん……あ、天草さんでしたか、ごめんなさい。彼女の読んだ通り……教科書に無いし……えっと、彼女の言ったとおり、第3世代機の特徴はイメージインターフェースの利用で――」

 

 

知ってる人間に当てたくなるのが教師の性なのか、真っ先に狙われ、それもご丁寧にドイツ姓まで明かされてしまった櫻だったが、ちょっと困らせてやろうと教科書に無いことを読み上げて遊んだ以外は特に特徴のない普通な授業が続き、無事に4時間目を終えた1組。スイッチが切れたのか、一気に休みムードだ

 

 

「天草さん」

 

「はい」

 

セレンに呼ばれ、教卓に向かう

 

 

「お久しぶりですね、フュルステンベルク社長。3年ぶりでしょうか」

 

「そうだね。ここで社長はやめて欲しいんだけど……」

 

「つい癖で。すみません」

 

「いいけどね。それで、先生にも慣れたみたいだね」

 

「ええ、おかげさまで。最初はかなり困りましたけどね」

 

「セレンさんは器量がいいからすぐに慣れたでしょ?」

 

「2年目にいきなり担任を任された時はどうしようかと思いましたよ。それに千冬さんの指導担当に当たるし……」

 

「気まずいね……」

 

「それはかなり! 千冬さんは副担任だったんですけど、実技の指導はとてもうまくて」

 

「千冬さんだしね」

 

「理論はまぁ、なんとか先輩の威厳を保ちましたけど。それで伝説になったのは去年のことですね」

 

「千冬さんがなにかしたんですか?」

 

「生徒会長をぶっ飛ばす、とか気合の入った生徒がいて、いまの生徒会長の子なんですけど。その子がところ構わず元会長の子に戦闘を仕掛けるので……」

 

「それを千冬さんが成敗しちゃったとか?」

 

「その通りです。アリーナでISの練習をしていた時に戦闘になって、千冬さんは代表候補生2人の争いを生身にIS用ブレード一本であっさり」

 

「千冬さん人外~」

 

「ほう、私をそう思っていたとはな」

 

グギギギと首を回すと、織斑先生がそこに

出席簿を振り上げるとバンバン! と重い打撃音が2度響いた

 

 

「なんで私まで……」

 

「私のことを話していたようなのでな。エリジェ先生?」

 

「ヒィッ……」

 

「天草、お前も先生と喋るのはいいが、あまり深いことは聞くな」

 

「あれはセレンさんが勝手に――」

 

再びの出席簿アタックが炸裂。思わず頭を抱える

 

 

「ここでは先生だ。それに彼女はもうオーメルの人間では無い」

 

「それを私に言われましても……」

 

「ともかく、急に授業を任せてすまなかったな、エリジェ先生」

 

「いえ、ちょうど開いた時間でしたし、社……天草さんの顔も見られましたし」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

「それでは、社……天草さん、来年は整備科に来てくださいね」

 

「どうしようかな~?」

 

「ふふっ、どのコースを選んでも退屈でしょうし、整備科で先生の代わりでもやってくださいよ」

 

「考えておきます」

 

 

 

その後また質問攻めが櫻を待ち受けていたのだが、それは割愛させていただく

 

 

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SHRも終わり、部活に自主練に各々が動き出す

その中で櫻は一夏に声を掛けた

 

 

「一夏くん」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「放課後に専用機持ち達と練習してるって聞いてさ。私と、もう一人。4組の子を入れてくれないかな?」

 

「別にいいぜ、先生は多いほうがありがたいからな。それに箒とセシリアのいうことは意味がわからなくてな……」

 

「苦労してるんだね……」

 

「シャルルが来てくれたからまだ何とかなってるけど、アイツが来なかったらと思うとぞっとするよ」

 

「そんなに酷いの?」

 

「細かいことは後で分かるよ。第1アリーナな」

 

「了解。あとでね」

 

「おう、楽しみにしてる」

 

 

一夏が教室から出たのを確認すると、なんでも(ryのスイッチを入れる

 

 

「本音? いま一夏が外に出た。第1アリーナね。簪ちゃんにもそう伝えて。稼動テストはそこで」

 

「解ったよ~。では更衣室にご~!」

 

「任せた」

 

 

ほっと一息つくと、また次の仕事に入る

携帯を取り出し、ゴーレムコントロールアプリを起動、第1アリーナ上空で待機させる。ゴーレムはすでに近くにいるようだ

 

「お仕事お仕事~ってね」

 

 

一つ愚痴るとアリーナへ歩き始めた


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