Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
クラスリーグマッチの熱気も冷め切った5月、何の変哲も無い朝だったが、SHRに来た山田先生の顔がどこかお疲れの様子を呈していた
「今日は新入生を紹介します。しかも2人ですよ!」
クラスがざわめく。噂好きの女子の情報網に引っかからなかったのだ、驚きもする
「では、入ってきてください」
教室に入ってきたのは、とても可愛い顔をした男。その後ろにちっちゃい銀髪の眼帯娘
「お、男?」
新なる戦友の登場に思わず一夏がつぶやく
「はい、こちらに同じ境遇の方がいると聞いて」
あぁ、その声もどこか声変わりしきれてないようで……え?
次に耳に届いたのは鼓膜を破らんばかりの黄色い声
「お、男の子! 守ってあげたくなる系の!」
「かわいい! 王子様っぽい!」
言いたい放題だ
「静かに。静かにしてくださ~い!」
山田先生が声を上げるとひとまず落ち着く
「では、2人共自己紹介をお願いします」
「はい」
最初に出たのは金髪の男。肩ほどまである髪を後ろで束ねているようだ
「フランスから来ました、シャルル・デュノアです。不慣れなことも多く、ご迷惑おかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
かなり平凡な自己紹介を終え、次の銀髪に全員の視線が移る
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「え、え~っと、他には?」
「無い、以上だ」
小さな体から威圧感を発するラウラにクラスはお通夜だが、一人だけ、視線を送り続ける櫻
――あのちっこいのがクロエの成功例、まさかこんな形で出会うとは……
何か獲物を見つけたような目をしたラウラはそのまま前進、何か言いながら腕を振り下ろす。その先はアホ面を晒す一夏の顔。
「ってぇ、何しやがるテメェ!」
「貴様があの人の枷ならば、私はそれを断ち切るまでだ!」
「転入早々問題を起こしてくれるな、ボーデヴィッヒ」
いつの間にか現れた織斑先生が転入生のラウラに容赦無い出席簿アタックを見舞う
「きょ、教官」
「もう教官ではないし、ここは軍でもない。織斑先生と呼べ」
「Ja!」
おいおい、注意されたばかりなのにその返事かい……と思っていたのは織斑先生も同じようだ
「2度言わせるな」
「はい、すみません」
ラウラの行動は彼女の所属を明らかにするには大きすぎるヒントをクラスに投下していった
「あの子、軍の人だよね」「織斑先生を教官て呼ぶのは……」「ドイツだよね」
ひそひそと小さな会話があちこちで起こるが、チャイムと織斑先生の言葉に霧散した
「次は第3アリーナ集合だ、遅れるな」
-----------------------------
「よし、全員揃っているな、今日は訓練の前に模擬戦を見てもらおうと思う、相手は――」
「と、止めてくださーい!」
空から降ってくるのはラファールを纏った山田先生、大丈夫だろうか
一夏が白色を展開し、先生を受け止める動作をするのと、先生が地面に激突し、砂煙が上がるのはほぼ同時だったように見えた
砂煙が晴れ、見えてきたのは
「おお、織斑君? 先生にこういうのは……えっと、まだまずいというか……」
山田先生の胸に手を当てる一夏と、慌てふためく山田先生の姿だった
「早く立て、いつまで寝ているつもりだ」
織斑先生の叱咤に2人が素早く反応し、立ち上がる
「で、模擬戦の相手は山田先生だ。それに見合った生徒となると……。オルコット、凰、来い」
専用機持ち一夏ラヴァーズの中でもあまり仲のよろしくない2人が呼ばれ、渋々といった様子で先生のもとに向かい何か耳打ちをされると
「いいですわ。凰さん、くれぐれも邪魔立てしないでくださいまし」
「ふん、その言葉そっくりそのまま返してあげる」
「お前ら気合は結構だが、それだけでは勝てんぞ」
山田先生が代表候補生だった、という事実を知る3人は心のなかで合掌、相手になってしまったセシリアと鈴音の無事を祈る
「では、始め。全員壁際に逃げろ」
織斑先生の一言から教師対生徒2人の模擬戦が始まった。
-----------------------------
結果だけ言おう。セシリアと鈴音のボロ負けだ
山田先生がヴァルキリーになれたという千冬の言葉も納得の射撃技術はもちろん、基本がすべて高いレベルでまとまっている印象を受けた
セシリアと鈴音は人数の強みを活かして山田先生を翻弄しようとしたのだが、それもあっさり看破され、片方を足止め、そのまま空中でぶつける。なんて言う荒業さえやってのけた
一夏と箒は「山田先生ってすごい人なんだな」と互いに納得した様子だ
セシリアと鈴音がボコボコにされるのをみて織斑先生がどこか満足気だったのも付け加えておく
「この通り、山田先生もかなりの実力者だ。これからはしっかりと敬意を持って接するように」
「「「「「「「ハイッ」」」」」」」
「照れますねぇ」
えへへ~と頬を赤らめる山田先生、これだけならとてもキュートなのだが、彼女は教師なのだ
「そういう態度だからなめられるんじゃ……」
「天草、何かあったか?」
「いえ、なんでもありません!」
「ならいい。では、各自準備をして歩行訓練に入れ」
そうして訓練自体は一夏のお姫様抱っこ騒ぎ以外の騒乱も無く、着々と上達する班員を見て、櫻は満足気な笑みを浮かべていた。