Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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閑話: 鉄を打て

簪が櫻に専用機の手伝いを頼んでから2週間、櫻の作ったスケジュールでは2日後までに機体を完成させなければならない。

だが、もともと技術はあった簪と櫻の手にかかれば多少の余裕ができ、整備室では簪と櫻が最終確認を始めようとしていた。

 

――本音は部屋の隅で寝ている

 

 

「櫻さん、ファイナルチェックです。メインシステム」

 

「おーけー」

 

「FCS」

 

「春雷、山嵐含め大丈夫、問題ない」

 

「機体制御」

 

「おーけー」

 

「推進」

 

「おーけー」

 

「やっと、完成?」

 

「ひとまず、ね」

 

「櫻さん……私、頑張ったよね?」

 

「そうだね、頑張ったよ、簪ちゃん」

 

その場にへたり込む簪の前に屈み、ゆっくり撫でる

満足そうに笑うと、櫻に身を預けて寝息を立て始める

 

後ろからドアの開く音と足音が近づいてくる

 

 

「楯無先輩、これで良かったんですか?」

 

「そうね、簪ちゃんも満足してるみたいだし」

 

「あなたは?」

 

「私は簪ちゃんの幸せで十分よ」

 

「本当ですか?」

 

「何を言ってるの?」

 

「簪ちゃんに何か言ったんじゃないですか? ただ無能だと言い放つ以上に心を縛る言葉を。だからあなたは今の簪ちゃんを自分の言葉が、自分が縛っているとか考えてるのでは?」

 

「そうね、でも今更どうにもならないのよ。口から出た言葉は取り消せないから」

 

「ちゃんと簪ちゃんと向かい合った上でそういう言葉を吐いてもらいたいですね。やりもせずに出来ないって言い切るのはあまり好きじゃないです」

 

「向かい合う、ね……。簪ちゃんに避けられちゃってるからなぁ」

 

「言い訳をしていつまでも先延ばしにし続けるんですね。そうですか」

 

「なかなか辛辣ね」

 

「事実でしょう? 妹が好きならそう言ってしまえばいいものを」

 

「そんな簡単じゃないのよ、姉妹関係は」

 

「まぁ、せっかく目の前に無防備な姿を晒す妹がいるこのチャンスをどう活かすかは先輩次第ですね。私は本音を部屋まで担がないと」

 

「担ぐって……せめておぶってあげなさいよ」

 

「どうしましょうかね。私はもう寝たいので簪ちゃんは任せましたよ」

 

「あなたのものじゃないでしょ?」

 

「ふふっ、先輩がいつまでもそんなだと立場を奪いますよ? では、おやすみなさい」

 

 

本音をお姫様抱っこして整備室から出て行く櫻を見送ると、簪の髪をゆっくり梳く

妹の笑みがすこし苦しい

 

「さて、妹を取られないうちに覚悟を決めないと、ね」

 

簪をおぶると部屋を施錠し、簪の部屋へ向かう

廊下を進み、アリーナを出る。夜風が肌寒い

 

 

「ん……? 櫻、さん?」

 

誰かにおぶられている、下を見れば胸には黄色のネクタイ

櫻では無い、それに、黄色のネクタイを締める人間を簪は一人しか知らない

 

 

「お姉ちゃん?」

 

「あら、簪ちゃん、起きた?」

 

「なんでお姉ちゃんが……」

 

「簪ちゃんが整備室で寝てるって聞いてね」

 

「櫻さんは?」

 

「彼女なら本音と部屋に戻ったわ。さすがに2人は担げないって」

 

「だからってなんで……」

 

「簪ちゃんとお話もしたかったしね」

 

「私には何もない、もうおろして、一人で歩ける」

 

「降ろさない」

 

「もういいから!」

 

背中で暴れる簪を離さないように足をしっかり抑える

 

 

「簪ちゃん、ごめんね」

 

ピタリと簪の動きが止まる

 

「なんで謝るの?」

 

「お姉ちゃん、簪ちゃんに酷いこと言ったから」

 

「なんで今さら」

 

「簪ちゃんが気にしてるのが分かったから……。私の言葉が、私の行いが、簪ちゃんを苦しめてたんじゃないか、って」

 

「私はただお姉ちゃんに見て欲しかっただけ、だからいろんなことをしてきた」

 

「全部見てたよ、家で一人薙刀を振るう姿も、代表候補生試験を受けたことも、打鉄弐式を作ってることも。全部見てたから」

 

「お姉ちゃん、なんで……」

 

「だって、簪ちゃんは私の妹だもの、当たり前でしょ?」

 

「お姉ちゃん……。ありがと」

 

姉がこっそりと自分を応援していたと知り――実際はシスコンが行き過ぎてストーキングしていただけ――ぎゅっと腕に力を込める

 

 

「ちょ、簪ちゃん、苦しっ……」

 

思わず手を放す楯無、もちろんおぶられていた簪は首に抱きついたまま落ちるわけで

盛大に尻もちをつく簪の上に楯無が倒れる

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

「簪ちゃん、大丈夫?」

 

「ごめんね、お姉ちゃん。私は平気だから」

 

「もう泣かないのね」

 

「むぅ……」

 

 

 

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道に倒れる姉妹を遠くから眺める影が2つ

 

 

「上手く行ったみたいだね~」

 

「だね、楯無先輩はやっぱりお姉ちゃんだから、引っ張っていくと思ってたんだ」

 

「おじょうさまは人を落とすのがうまいから~」

 

「落とすって……」

 

「あ、こっち来るよ~」

 

 

 

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建物の隙間を駆ける2つの背中を見ながら楯無は「貸しがまた増えたわ」と毒づきつつ、大切な妹の手をとる

 

 

「お姉ちゃん?」

 

「いいでしょ? 昔はこうやって引っ張り回したんだけどなぁ」

 

「どれだけ前の話なの……」

 

「だいぶ前ね、小学生の頃かしら?」

 

「かな?」

 

「また2人で何処か行こうか」

 

「そうだね、楽しみにしてるよ。お姉ちゃん」

 

「やっぱりお姉ちゃんって響きはいいなぁ」

 

「楯無さん、どうかしましたか?」

 

「簪ちゃん、酷いよ……」

 

「うふふっ、お姉ちゃんから一本とった」

 

「結構悲しいんだよ? 妹から他人行儀にされるの」

 

「ちょっとイラッとした時にはそうしよ~っと」

 

 

 

 

姉妹の仲も改善し、ひとまずは良かったのだろう

楯無が姉らしくリードし、簪に素直にあたったのが効いたのだと櫻は思っている

 

 

 

「さくさく~、夕飯どうする~?」

 

「食堂は閉まってるしなぁ、アレしかない」

 

「アレ?」

 

 

寮長室の扉を叩く2人の姿が、数分後にはあった


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