Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

66 / 173
クラスリーグマッチと襲撃者

五月晴れの空が美しい日

クラスリーグマッチがついに始まる

 

組別の総当り戦で行われるクラスリーグマッチ。

1年生はまだ殆どの生徒がISの操縦すらままならない段階で行われるコレには、うまい人間(大方クラス代表になるのは代表候補生だからだ)から技術を見て盗め、という思惑も感じ取れる。

事実、クラスリーグマッチ後の実技では殆どの生徒が多少なりとも技術の向上を見せるとか何とか

 

第1試合が行われるアリーナは、カードである1組と2組の生徒がスタンドにまばらに座っており、もちろん、そのなかには櫻や本音の姿もある

 

 

「ついに始まるね~。おりむー勝てるかな~?」

 

「どうだろうね。セシリアや箒ちゃんがレクチャーしてたみたいだけど」

 

「相手は2組の転入生だよ~?」

 

「ま、なるようになるでしょ」

 

「そうだね~」

 

 

試合開始3分前、両陣営のピットが開き、赤と白が飛び出す

 

 

「うわぁ、悪役っぽい」

 

「赤いのはトゲトゲしてるね~」

 

「肩のアンロックユニットが怪しいね」

 

「あのボールみたいなの?」

 

「そう、それ。スピーカーみたいになってるから、空間作用系の何かだと思うんだけど」

 

「よくわかんないよ~。けど、なにか怪しいのは分かった~」

 

 

櫻は手元の端末をいじると、ポケットから双眼鏡を取り出した

もちろん、ただの双眼鏡ではない。なんでも(ryである。ハイパーセンサーの技術を転用したIS観戦専用と言っても過言ではないオーバースペックなシロモノだ

 

 

「さくさくばっかりいいな~、私にも貸して~?」

 

「これ? いいよ、もうひとつあるから」

 

そう言ってまた別のポケットから単眼鏡を取り出し、持っていた双眼鏡を本音に渡す

 

「やった~、ありがと~」

 

感嘆の声を上げながら2人を見ている本音を片目に、櫻は単眼鏡でフィールドの真ん中。ちょうど2人が立っている間を見て、スイッチを押す。カシャッ、と音を立て、赤いLEDが光った

 

 

 

試合開始30秒前のファンファーレが鳴ると、会場は静寂に包まれる

誰もが息を呑む中、20秒前、10秒前

 

 

5...

 

4...

 

3...

 

2...

 

1...

 

 

一気に間合いがつまり、ぶつかった

一夏が雪羅を振るえば、鈴音は双天牙月で応戦する、まさに剣と剣のぶつかり合いがそこにあった

 

表情を見るに、2人はとても楽しんでいるようだが、見ているこっちは気が気でない。

「織斑くーん!」「頑張って! 織斑君!」やら「鈴ちゃん! ファイトだよーっ!」などと声が上がり、客席もヒートアップしてきたようだ

 

一夏も戦いながら学んでいるようで、少し間合いを取ったり、突っ込むタイミングをずらしたりして拍子を掴まれないような戦いにシフトしていた

 

 

「おりむーすごいね~。ちょっとづつ戦いのスピードが上がってるよ~」

 

「少しづつ自分のペースに持ち込もうって考えてるかな」

 

「攻撃のタイミングがズレたりして避けづらそうだよ~?」

 

「それが狙いでしょ、たぶん箒ちゃんの教えだね」

 

「もっぴーは剣道やってるんだもんね~」

 

「箒ちゃんのは剣道というより、剣術なんだよね。殺しに特化してる。剣道より実践的なんだ」

 

「もっぴーって侍の家柄なの~?」

 

「かもね、私もよくわかんないけど」

 

 

再びフィールドに目を戻せば、一夏がペースを掴んでいた。

拍子を消し、流れるように剣を振るえば相手からは受けにくく、避けにくい剣になる。まさにソレを体現していた

 

だが、それも一発の衝撃音で逆転する

 

 

「えっ? なになに~?」

 

「たぶん、肩のアレじゃない?」

 

「りんりんの秘密兵器だったんだ~」

 

「だね。本音、双眼鏡で凰さんを見てて。特に肩ね」

 

双眼鏡のスイッチを少しいじると

 

「ふぇっ? サーモグラフィーみたいになってるよ~」

 

「そうしたんだもん。それで肩を見てて」

 

「は~い」

 

 

吹き飛ばされた一夏は状況を読めていないようで、とりあえずの回避起動をとった。だがそれが仇になる

再び衝撃音が響くと壁にたたきつけられる

今の2発で大きくシールドエネルギーが削られたようだ

本音はしっかり発射の瞬間を見たようで、目を輝かせながら報告してくる

 

 

「さくさく~、りんりんの秘密兵器は撃つときに温度が上がるみたいだよ~」

 

「ってことはどういうことかな? 本音さん、お答えください。どうぞっ!」

 

「ふぇっ? え~っと、え~っと……」

 

「ブーッ、時間切れ。温度が上がるってことは、空気に圧力がかかってるんだよ。だからアレは一種の空気砲みたいなものじゃないかな?」

 

「さくさくすごいね~、一瞬でわかるんだ~」

 

「ある程度見当を付けてたからね、本音も勉強すればわかるようになるよ」

 

「が、頑張る」

 

 

そして、櫻が再び単眼鏡を覗く

鈴音は情けを掛けることを辞めたようで、両肩の空気砲をバカスカ撃っている

一夏もある程度の正体を見破れたようで、少しではあるが、回避ができるようになっていた

 

 

「一夏はジリ貧だね」

 

「りんりんはもう固定砲台になってるよ~」

 

「アレで勝てるからね」

 

「りんりんって血の気が多いのかな?」

 

「かもね、一夏の前だと特に」

 

 

 

突然アリーナに響くサイレン

空中投影でCautionの文字が並ぶ

 

スタンドにいた生徒は軽くパニックだ

悲鳴が耳に突き刺さる中で、櫻は冷静だった

 

 

「さくさく~、何があったの?」

 

「わかんない、でもヤバイってことはわかる」

 

「と、とりあえずアリーナから出ようよ!」

 

「いい? 周りがパニックになってる中でそれに流されると怪我をしかねない。落ち着いて」

 

「そうだね。すぅ~はぁ~」

 

深呼吸して自分を落ち着かせる本音。

「よしっ、大丈――」と言いかけたところで空からレーザーが降り注ぎ、上空を守っていたエネルギーシールドが破られる。

そして単騎の黒い 全身装甲フルスキンが舞い降りる

 

 

「ささ、さくさく~、これは逃げるしかないよ~!」

 

「みたいだね、でもみんなドアの辺りに固まってる……まさか開かないんじゃ」

 

「もうやだよ~」

 

「仕方ないから、私が壁を吹き飛ばす、本音はみんなをドアの辺りに固めて」

 

「出来ないよ~」

 

「出来ないじゃない! やるんだ!」

 

泣く寸前の本音に無理やり喝を入れる

突然の怒鳴り声にパニックを起こしていた生徒たちも静まり返る

 

 

「が、頑張る」

 

「がんばれ。本音なら出来る」

 

櫻の言葉に押され、本音は扉の周囲で固まる生徒たちに声を張り上げる

 

 

「これからさくさくが逃げ道を作るから! みんなここでじっとしててね!」

 

本音の後ろでは櫻がISを展開、肩にグレネードキャノンを展開

なにか本能的危機を感じたのか、全員が更に距離を置く

 

 

「え? どうしたの?」

 

「本音、下がってて」

 

 

櫻に言われて初めてそのISの仰々しい姿を捉える

 

ISなのに足が4本、大きく広げられ、衝撃に備えているのがわかる

その肩には小柄な人なら入れるのではないかという大きさの砲身を持つグレネードキャノン

 

明らかにサイズオーバーなモノをぶっ放すためだけに作られたかのような姿に思わず本音も後ずさる

 

 

「本音、全員向こうのドアの辺りにまで下げて、そしたら通路に伏せるように」

 

「わ、解ったよ」

 

 

「みんな~吹き飛ばされたくなかったらバックバック~! そして伏せろ~!」と叫びながら走り回る本音。後ろの アレグレネードを見てしまえば、それが冗談ではないとわかる

 

全員が伏せ、本音がOKサインを出したのを見るとグレネードランチャーを構える。本音も身を屈めたのを確認した次の瞬間には爆発音と衝撃波がアリーナに響き渡り、壁には大穴。

 

 

安心したのもつかの間、スピーカーから知り合いの声が聞こえた櫻は戦慄した

 

 

「逃げろ~!」

 

本音の合図で全員が穴から外に出る。壁を数枚抜いたのか、廊下と部屋を通りぬけ、そのまま青空の下へ出る

 

 

「全員逃げたよ、さくさくも」

 

「箒ちゃん!」

 

「え?」

 

 

本音が目を凝らすと、コントロールタワーの上、放送室に箒の姿が見える。

それも、黒い奴も上を見ているから困るのだ

だが、エネルギーシールドが健在な今、櫻がフィールドに向かうことは出来ない

慌ててオープンチャンネルで叫ぶ

 

『箒ちゃんが放送室に!』

 

『わかってる! 鈴!』

 

『行くわよ!』

 

腕を向けた黒に一夏が斬りかかり、そのままエネルギーシールドをも突き破った

 

『セシリア!』

 

『おまかせください!』

 

赤い光がスタンドにたたきつけられた黒に突き刺さる

一夏が振り返ってセシリアにサムズアップを送ると

 

『一夏さん! 後ろ!』

 

セシリアが叫ぶ。まだ謎の機体は動作を止めていないようだ

腕を一夏に向け、砲口が光を帯びる

 

 

『一夏っ!』

 

『くっそぉぉぉぉぉおおおお!!』

 

 

一夏も離脱しようとするが、エネルギーが無いらしく、大したスピードがでない。

ドン、と一発の重い銃声。侵入機の頭が吹き飛び、完全に沈黙する

 

その銃声の主はスタンドでスナイパーライフルを構える櫻以外のだれでもないことは明らかだった

 

 

 

『一夏くん、無事?』

 

『ああ、だけど、櫻、お前……』

 

『アンタ、何してんの? 何したかわかってんの?』

 

『え? 一夏くんが殺されかけてたから……』

 

『だからって人を殺して良い訳? 自分が何をしたかわかってないの? 人殺し!』

 

『鈴、その言い方は……』

 

『アイツがその黒いISの頭を吹き飛ばした、これがどういうことかわかるでしょ?』

 

『櫻、俺を助けてくれたことは感謝してる。だけど、もっといいやり方があっただろ?』

 

『君たち、何か勘違いしてない?』

 

『どういうことですの?』

 

「その残骸の辺りをよく見て欲しいんだけど、血が流れてるようにみえる?』

 

『えっ?』『そんな……』『マジかよ』

 

 

スタンドで頭を失い横たわるISからは血液どころか、なんの液体も流れでていなかった

 

『血なんて一滴も流れてないよね』

 

『ああ、だけど、ISは人が居ないと――』

 

『そのISには人が居なかった、生体反応も無かった』

 

『そんな、なら、これは無人機だって言うのか?』

 

『そうとしか考えられないですわ……』

 

『お前ら、全員無事か?』

 

 

そこに割り込みをかけるのは織斑先生。

その声にはいつもの威圧感が無かった

 

 

『ええ、全員無事ですわ』

 

『そうか、良かった。とりあえずその場で待機。一応アレからも目を離すな』

 

まだ気は抜けないらしい 

 

 

『アンタ、さっきは悪かったわね』

 

『ん?』

 

いきなり鈴音からプライベートチャンネルで声をかけられる

 

『人殺しとか言って悪かったわ。ごめんなさい』

 

『まぁ、あの場なら仕方ないよね』

 

『ごめんね』

 

 

そのまま一方的に会話は打ち切られてしまった、どうも彼女は照れ屋の気があるようだ

 

次にプライベートをつなげてきたのは織斑先生だった

 

 

『櫻、この件に束は絡んでいるのか?』

 

『どうでしょうね、私のところには特に何も』

 

白式の性能テストをするからゴーレムくん飛ばすよー。と言っていたし、ゴーレム誘導用のレーザーを当てたのも自分だが、言ったら死より恐ろしい罰が待っていそうなために黙っておく。

 

 

『そうか、束なら勝手にやりかねないがな』

 

『ですねぇ、その時はこちらで』

 

『ああ、徹底的〆ろ』

 

『ハイ、そうします』

 

『それと、あの大穴についてだが』

 

『うっ……』

 

『緊急時の行動として、壁に穴を開けて退路を確保するのはまだわかる。だが、その先まで吹き飛ばすのはどうなんだ?』

 

 

そう、あのグレネードは壁を吹き飛ばすに足らず、その先の3年寮を一区画えぐってしまったのだ

 

 

『え~っとですね、ソレはこちらの威力計算ミスといいますか、適切な武器が無かったといいますか……』

 

『反省文の提出と、3年寮に掲示する謝罪文の中身を考えておくんだな』

 

『ハイ……』

 

 

クラスメイトを助けた英雄から一転、上級生から恨みを買いかねない、悲劇の主人公に格下げだ

ソレが顔に出たようで廊下に出たところでセシリアに声をかけられた

 

 

「櫻さん、気分が優れないようでしたら先生に連絡して医務室に」

 

「いや、大丈夫、いろいろ考えることが増えちゃって……」

 

横目で壁に開いた穴を見るとセシリアも察してくれたようで

 

 

「櫻さんも苦労が絶えませんね」

 

「そうだね、ゆっくりお風呂にでも入りたいよ~」

 

「最近大浴場でみかけませんが、どうかされましたの?」

 

「初めての実技の時にできた痣が消えなくてね、とても人様に見せられる体じゃないんだよ」

 

「最近眠そうにしている理由がわかった気がしますわ」

 

「その通り。まだマシにはなってきたんだけどね」

 

「ゆっくり体を休めてくださいな。こんどアロマを贈りますわ」

 

「ありがと、セシリア」

 

「いえいえ、これくらいお友達のためなら」

 

 

懐の深いセシリアにこれほど感謝したことは無いだろう、と思うほどセシリアの好意が嬉しかった。

 

 

「よし、未確認機の沈黙を確認した。とりあえず教室にもどれ。もちろん、このことは口外厳禁だ」

 

 

織斑先生の言葉で状況終了を告げられる。

 

荒れに荒れたクラスリーグマッチは未確認機の襲撃で中止。賞品のデザートフリーパスも流れた

 

後日、レポート提出と事情聴取を受けた専用機持ち達は自分たちへのささやかなご褒美として食堂で大量のデザートを囲んでいたとか

 

 

 

-----------------------------

 

 

「束お姉ちゃん、ゴーレムだけど、思ったよりしぶとく作ったね」

 

「ちょっとやり過ぎたかな? まさかいっくんの零落白夜をくらっても動くとは束さんもびっくりだよ」

 

「まぁ、目標は達成できたし、いいかな?」

 

「そうだね、いっくんと白式の相性もいいし、思ったよりいいデータが出たよ」

 

「あと、千冬さんに感づかれてるかも」

 

「ちーちゃんにバレたら結構まずいなぁ。お仕置きが待ってるよ」

 

「ゴーレムは機能停止にしたけど、コアは残ってるはずだからなぁ。私の不覚だね。アリーナを吹き飛ばすわけにも行かないからおじさん謹製のグレネードランチャーも使えなかったし」

 

「AKAGIだっけ? ACで使っていたものをIS用に再調整したんだよね」

 

「オーバースペック、オーバーサイズもいいところだったよ。壁に向かって撃ったら7枚抜いて寮を一区画吹き飛ばしてさぁ、お陰で反省文だよ」

 

「うわぁ……」

 

束ですら引くレベルの装備を作り上げる有澤重工、日本政府にIS開発を依頼されない理由がわかる気がする

 

 

「でも、BFFの4脚は良かったよ。狙撃時の安定感が違うね。それにAKAGI撃っても反動ですっ飛んだりしないし」

 

「機動性は見た?」

 

「戦闘機動はやってないけど、普通に歩きまわるなら問題ないね」

 

「そっかそっか。パッケージはいくつ試した?」

 

「換装だけならひと通り、実際に動かしたのは天使と変態と四脚」

 

「まだ半分も使ってないよ?」

 

「それを突っ込んだのはアンタじゃろが」

 

「てへぺろっ!」

 

「はぁ、とりあえず千冬さんには気をつけるね」

 

「お願いね、さくちん」

 

 

天災はやはり最強に頭が上がらないようだ。

まだ1学期が半分も過ぎていないというのに散々な目に遭う1年、主に櫻。

これからどうなっていくのか、悩みの種は尽きない


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。