Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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簪の本心

楯無に言われた通り第1アリーナの整備室へ入ると、オープンピットで多くの生徒が練習機の調整から専用機のカスタマイズまで、様々な作業を行っている。

リボンタイの色が違うからほとんどが先輩なのだろう

 

アリーナの閉鎖時間は午後8時と決められており、今は7時半。もうそろそろ片付け始める人もちらほらいる中、一人で黙々と作業を続ける姿を見つけた

 

 

「かんちゃんだ~」

 

「しっ、簪ちゃんが気づくまで見てましょ」

 

「なんで~?」

 

「ドッキリを仕掛けたいっていうのが半分、ここに来た理由を考える時間が欲しいのが半分、かな」

 

「確かに、おじょうさまに行けって言われた。とはいえないもんね~」

 

「まぁ、簪ちゃんの専用機を見に、とか言っておけばあとは押し切れそうだけど」

 

「かんちゃんだもんね」

 

そのまま簪を覗き続けること数十分、アリーナ閉鎖の放送が入るもソレに気づく様子もなく作業を続けている

 

 

「そろそろアリーナ閉まっちゃうよ?」

 

「でも、本人がアレだからねぇ」

 

「もう行こうよ、時間だし探しに来たって言えばいいよ~」

 

「それもそうね。お腹すいたし」

 

「私も~」

 

「お~い簪ちゃ~ん」

 

声をかけながら近づくも完全に無視。さすがにおかしいだろうともっと近づいてみれば、イヤホンが付いている

 

 

「こりゃ気づくわけもないよ」

 

「だね~。えいっ」

 

本音がイヤホンを取るとやっと簪の意識がこちらに向いた

 

 

「え、櫻さんに本音? どうしたの?」

 

「時間だから迎えに来たよ~」

 

「え、でもまだ作業が」

 

「休むことも仕事の内、さ、夕飯食べに行こ」

 

「でも、まだ」

 

「何度も同じこと言わせないで。ここのところずっと作業してるらしいじゃん? 休むことも必要だよ」

 

適当にカマをかけたつもりだが、見事に図星だったらしい

簪がいそいそと片付けを始める

 

 

「簪ちゃんはいつまでに機体を組み上げたいの?」

 

「えっ?」

 

「目標の期日とかは定めてないの? って」

 

「ええと、それは……」

 

「ちょっと酷いことを言うけど、簪ちゃんって大事なところが抜けてるよね。わかってるようでわかってない」

 

「それはちょっといいすぎだよ~」

 

「いいの、事実だから。櫻さんの指摘はもっとも」

 

「それで、聞くけど、いつまでに機体を組み上げる? 目標がないとスケジュールも立てられないしね」

 

「6月末。学年別トーナメントには、コレで出る」

 

「言ったね?」

 

「言った。だからやり切る」

 

「よし、ならあとは開発スケジュールを立てよ。ご飯食べながらでいいね」

 

 

どこか上機嫌な櫻を見ながら、簪と本音は改めて櫻を見返す

 

「さくさくは押しが強いよ~」

 

「たぶん、そこまでしないと私が決められないと思ったからだよ。実際になんの予定も立てず場当たり的にやっていたのも事実。そこまで見通されてたんだ、流石だね」

 

「それで、かんちゃんはどうするの?」

 

「何が?」

 

「あと2ヶ月も無いけど、それでも1人でやるの?」

 

「それは……」

 

「やっぱり1人じゃ無理だよ~。さくさくも言ってたでしょ? かんちゃんは私やさくさくに手伝ってもらったら1人で完成させた。ってことにならないとか思ってる?」

 

「そんなことはない……よ」

 

「やっぱり、どこかでそう思うんだ。だから――」

 

言いかけたところで櫻が前で手を振る

 

 

「早くしないと食堂閉まっちゃうよ~?」

 

「今行く!」

 

これ以上聞きたくない、と言うかのように駆け出した簪に、本音は不安を募らせた

 

 

 

 

「さて、簪ちゃんの専用機、え~っと、名前は?」

 

「打鉄弐式」

 

「簪ちゃんの専用機、打鉄弐式の開発会議を始めたいと思います!」

 

「いぇ~い!」

 

「どうしてこうなったんだろう……」

 

もう終了間際ということもあり、閑散とした食堂の一角で本人の意思のないままに会議が初められた

 

 

 

「で、残り1ヶ月半で学年別トーナメントです。それまでに機体を完成させて、結果を残せるまでに仕上げるにはいつまでに機体を完成させるべきでしょうか? ハイ、簪さん、お答えください」

 

「え、えっと、1週間前くらい?」

 

「う~ん、ダメだね。最低でも1ヶ月、普通は半年前には完成させるよ」

 

「それって、半月でかんちゃんは機体を組まないといけないってこと?」

 

「そうだね。例えばオーメルで国家代表の専用機を開発した時のスケジュールだけど、機体の企画設計に1ヶ月、パーツ制作、組み立てに4ヶ月、調整に1ヶ月、実働テストと調整に6ヶ月の1年スパンでやったんだ」

 

「1年……」

 

「そんなのを1ヶ月半でなんて無茶だよ~」

 

「簪ちゃん、機体はいま何処までできていて何が足りないかまとめたことはある?」

 

「えっと、な、ないです」

 

「はぁ。じゃあそこから始めようか」

 

そう言って櫻がポケットからモバイルPCを取り出すと、1つのデータを簪に送った

 

 

「それはウチの会社でも使うワークシート。外装、推進、制御。どこにどのパーツが使われて、どれがどこまでできているかがぱっと見でわかるようになってるんだ」

 

「どれどれ~?」

 

「1ページ目はメイン。全体のスケジュールと進行具合をメモっておくとこだね。2ページ目から順に、制御、外装、推進の順番だよ。武装とかは3ページ目の外装と一緒になってるから」

 

「かんちゃんへの宿題だね?」

 

「その通り、簪には明日までにそれを埋めて私に出して欲しい。そしたらスケジューリングと物資調達は私がやるから」

 

「え、でも……」

 

「いまさら1人でやる。ってのはナシだよ?」

 

「さくさく無理矢理~」

 

「無理矢理にでも手を突っ込まないと簪ちゃんは人の手を借りないでしょ?」

 

「どうしてここまでするの?」

 

「私は、簪ちゃんの友達だと思ってるからなぁ。困ってるなら助けたくなるんだよ」

 

「いらないよ! 頼んでもいないのに!」

 

誰もいなくなった食堂に、簪の叫びが響いた

 

 

「頼まれてなくても、困ってる人がいたら手を差し伸べるのが友達でしょ?」

 

まぁ、私が思ってるだけかも知れないけど。と言って櫻が続ける

 

「私はISに携わるひとりとして、企業を引っ張るひとりとして、倉持のやり方が気に食わないんだよ。身の丈に合わない開発プランを立てて、無理な発注を引き受け、それで片方はおざなりなんて私は許さない。それも操縦者に開発まで丸投げして、完成したら自分たちの手柄にするんだよ?」

 

櫻の目は真剣で、本当に同じISを造る人間として怒りが湧いているようだ。

だから、簪の目をみて、真剣に想いを吐き出した

 

 

「だから思い切って言いたいことを全部言っちゃうよ。簪ちゃんの機体を、私に組ませて欲しい。そんなクズ共切り捨てて、私のところでやりたいことをやって欲しい。不完全な姿で、子どもたちが空を飛ぶ姿は見たくないから」

 

どこか悲しそうな表情で言い切った櫻に、本音は目に涙を浮かべている。

一方の簪は……

 

 

「櫻さんの言ったことはわかる。ただ、私にも私のプライドがある」

 

「比べられた過去を見返すほどの結果が出したいんじゃないの?」

 

「さくさく!」

 

「何を知ってるの? 櫻さん」

 

「簪ちゃんにお姉さんが居て、とても立派な人だってことくらいかな」

 

「それを知った上で私に手を貸そうって言うの? ふざけないでよ!」

 

「これは私の想像だけど。簪ちゃんのお姉さんが1人、または数人のお手伝いだけで機体を作ったから簪ちゃんも1人で機体を作ろうとしている。お姉さんが国家代表になったから、自分もまた国家代表になろうとしている。違うかな?」

 

必死に櫻を睨みつける目が、ソレが事実だと語っていた

前半は楯無に聞いたこと、後半はそこから予想される行動を上げてみただけだが、ここまで効果があるとは思わなかった

 

 

「簪ちゃん、君は誰なの? 君は簪ちゃんであって、お姉さんじゃないよね」

 

「…………」

 

「お姉さんに何を言われたかは知らないけど、姉妹として比較され続けたのは想像できる。それも出来のいい姉を持ってしまったがゆえに、ハードルが上がり続けるっていうのもわかる。だからってまるっきりお姉さんと同じである必要は無いんじゃないかな?」

 

「……でも」

 

「簪ちゃんは簪ちゃんらしく生きればいいと思うんだけど、間違ってるかな?」

 

「でも、私が無能でないとお姉ちゃんにわかってもらいたいの! お姉ちゃんに認めて欲しいの! そのためにはこれしかないんだよ!」

 

 

今まで見たことがない簪の叫びに櫻は優しく微笑み、本音は目を見開かせている

 

 

「やっと言ってくれたね。それが簪ちゃんの本心かな」

 

「かんちゃん……」

 

「私は、そのために頑張ってきたんだよ……」

 

「私には望みを叶えてあげることは出来ない。でも、そのお手伝いはできると思うんだ。やらせてくれない? 簪ちゃん」

 

簪は櫻を真剣に見ながら願いを伝えた

自分のすべてを、正直に。

 

 

「櫻さん。私にお姉ちゃんを頷かせる力を、お姉ちゃんを超えるだけの翼を頂戴。それで私はお姉ちゃんに私を見てもらう、認めてもらう。だから、私に力を貸して欲しい」

 

「よく言ってくれたね。頑張った」

 

 

そう言って簪を抱きしめるとこらえていたものを吐き出すように泣きはじめた

 

櫻はわざと怒りを買うことで簪に本心を吐き出させた。信頼に乏しいならそれ以外の手段で、と言わんばかりのやり方に本音は舌を巻いた。

これだけ自分を晒せば足りなかった信頼も埋まるだろう、普段から気兼ねなく自分を晒せる相手になってくれる。そう思った

 

 

 

「簪ちゃんがあんなに感情を表に出すなんて……あの子何者かしら。それでも、天草さんがお友達になってくれてよかった」

 

柱に隠れて様子をうかがう駄姉

もちろん、櫻はその視線に気づいていたが、これも姉妹仲を取り持つため、とあえて気づかぬふりをしていた

 

簪を宥めながら楯無に顔を向け、口元だけで「貸し1つです」と告げる

 

 

「天草櫻。恐ろしい子っ」

 

 

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部屋に戻った2人はさっさとシャワーを浴び、ベッドに入っていた

 

 

「ねぇ、さくさく。さっきは狙ってやってたの?」

 

「そうだね、まだ会ってそんなに時間も経ってないから本音なんて言いにくいでしょ? だったら感情的に吐き出させたほうが確実だからね」

 

「きっとかんちゃんの心にグサグサいってたよ~。もしこうならなかったらどうするつもりだったの?」

 

「考えてなかったなぁ。多分本音をダシに何かしたと思う」

 

「えぇ~、もっと先を見てやってると思ったよ~」

 

「簪ちゃんは普段から感情を抑圧してるだろうから、刺激を与えれば爆発すると思ったんだよね。それが上手く行った、と」

 

「これでさくさくはかんちゃんのヒーローだね~」

 

「女だからヒロインなんだけどね」

 

「あとね~、自分の子どもがどうのってどういう意味?」

 

「えっ?」

 

その場の流れでなんてことを言ってしまったんだろう。今更悔やんでも遅いわけだが

 

 

「えっと、自分たちで作ったISは子どもみたいなものだからさ」

 

「そっか~。そうだよね~」

 

「そうだよ、うん。明日もあるし寝ようか。っと、メール? 簪ちゃんからだ」

 

見てみると、ワークシートがびっしりと埋められ、残すはスケジュールのみの状態で送られてきた「ごめんなさい、ありがとう」とのメッセージも付いて

 

 

「ふふっ、やる気は解ったよ。こっちも本気でやらないとね。相手は国家代表だ」

 

「なになに~?」

 

「簪ちゃんから、宿題が送られてきたんだよ」

 

「流石かんちゃん、仕事が早いね~」

 

「よし、私もやらないと。本音は先に寝てていいよ」

 

「さくさくが起きてるなら私も起きてるよ~」

 

「そう? 無理はしないでね」

 

「さくさくもね~」

 

 

 

本音が10分と経たずに寝たのは櫻にも予想できなかったが、そっと枕元に近づくと

 

 

「ありがとね。本音」

 

そういって寝顔にそっとキスをしたのは未来永劫黙っておこうと思った




ちまちまとお気に入り増えてます。
ありがたや、ありがたや。


連続性のある話はまとめたりして文字稼ぎ……もとい読みやすくしようかな~、とは考えているのですが、何分書くときは1話毎に成り行きで書いてるが故に連続性が乏しい……


朝の4コマ漫画的な感じで読んでいただければ幸いです

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