Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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クラス代表決定戦

週が明けた月曜日、1年1組はどこか浮ついた空気に包まれていた

そこに暴君千冬が入るとやはり空気が変わる。だが隠しきれなかったようだ

 

「おはよう、HRを始めるぞ。ほら、クラス代表が決まるからと言って浮ついた気分で居るんじゃない。切り替えろ」

 

千冬の言葉は効果覿面で、一瞬で空気が切り替わる。

 

 

「よし、今日の連絡事項を伝える。今週から通常の時間割だ、各自確認しておけ。それと、ISスーツの購入申し込みをまだ済ませていないものは水曜までに出すこと。以上だ。織斑、来い、話がある」

 

千冬に何かを伝えられている一夏が表情をコロコロと変えている。専用機でも出来たのだろう

 

話を終えて出て行くと、変わって山田先生が教室に入る

この先生は教師というより、勉強のできる友達のようで親しみやすい。早くも「やまや」とか「まやまや」などのあだ名が付けられるのもわかる。もっとも「やまや」だけは本人が全力で否定していたから、あまりいい思い出はないのだろう

 

 

「おはようございま~す。あと3分で始めますから、準備を済ませちゃってくださいね」

 

というわけで、今日も1日がんばろう。あ、本音がいない……

 

 

-----------------------------

 

 

1日の授業を終え、1組の面々は第3アリーナに集まっていた

セシリア対一夏のクラス代表決定戦が始まろうとしている

 

 

「ついに始まるね~おりむ~勝てるかなぁ?」

 

「ムリだろうね、ラファールにしろ打鉄にしろ、一夏じゃ銃が使えないから近接戦闘に持ち込まざるを得ない。でも、イギリスのISがそんな真似を許すわけがないよ」

 

「へぇ~せっしーのISがわかるの?」

 

「前に『イギリスらしいIS』って言ってたから、たぶん遠距離狙撃型だね」

 

話をする間に、セシリア側のピットから青い機体が打ち上がる

 

 

「ほら、お出ましだ」

 

装甲からレーザーライフルまで、全てが青い

まぁ、ここでブリティッシュグリーンにしなかったセンスを褒めよう。あんな渋い色の機体は乗りたくない

 

 

「ほんとだ~さくさくの言うとおりおっきなライフル持ってるね~」

 

「それに、第三世代だから他にも武装があるわけだ」

 

「そっか~おりむ~大変だね~」

 

「一夏もでてくるよ」

 

反対側から上がるのは無骨な白銀、なんでもみえ~る君を使って分析をかけると

 

 

「うそ、あれ一次移行(ファーストシフト)すらしてないじゃん!」

 

「それじゃあおりむ~負けちゃうね~」

 

「それに持ってるのは近接ブレードだし……」

 

「始まるよ~」

 

 

スクリーンにはカウントダウン

 

3...

 

2...

 

1...

 

青と白がぶつかる

 

 

「やっぱり一夏は防戦一方だね」

 

「せっしー射撃上手だね~」

 

一夏を近づかせずに一方的にダメージを与え続けるセシリア

稼働時間はもとより、実践的な訓練に割いた時間が圧倒的に違う

 

 

「でも初期でこれだからまだ頑張ってる方じゃない?」

 

「だね~。練習機だったらどうなってたかな~?」

 

「蹂躙されて終わり。かな」

 

わぁっ、と歓声が上がる。見れば一夏のISが白い光に包まれている

 

 

「一次移行だね。ほんとギリギリだなぁ」

 

「あれが一次移行なの? すごいね~」

 

光が収まると、無骨なシルエットは洗練され、スムーズな流れを持ったものに

手に持つ近接ブレードもエネルギー刃を持つものに変わっている

 

 

「おりむ~の専用機かっこいいね~」

 

「アレって……まさかね」

 

櫻はそのシルエットになんとなく既視感を覚えた。千冬も同様だろう

メインカラーは白、そこに入る差し色の青と黄。背中のウイングスラスターもそうだ。

これはまるで

 

 

「白騎士じゃない……」

 

「ん? なにか言った~?」

 

「なんでもないよ。あ、一夏が動いた!」

 

「えっ? わぁ速いね~」

 

一夏が瞬時加速で一気にセシリアとの間合いをつめ、ブレードで一閃。

決まった。誰もが思った。だが、勝負とは残酷なもので、スクリーンには Win C.Alcott と映しだされていた

 

 

「えぇ? 今のおりむ~が決めたんじゃないの?」

 

「嘘でしょ……」

 

フィールドでは一夏が腰を抜かしたセシリアに手を差し伸べるているが、そんなことはどうでもいい。問題は一夏の専用機がまるっきり千冬の乗った機体のいいとこ取りなのが問題だ

 

慌てて携帯を取り出すと、なんでもみえ~る君と繋いでデータを移す。そして束に送信

次に束にダイヤルして問いただそうとしたが……

「やっほー、束さんだよ? いま電話に出られないから、メッセージを残すなら……」留守電である。

 

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「さ、さくさく? 大丈夫?」

 

いきなり吼える櫻に周囲の目が向けられる

当の櫻は立ち上がるとコントロールタワーへ向かって歩き出した

 

 

「待ってよ~」

 

それを本音が追いかける

普段は超常識人で、博識で、面倒見のいい人。といった印象を与えていた櫻のクラス内での評価が少し変わった

 

 

 

 

 

「千冬さん! 一夏くんの専用機のデータ提出をお願いします!」

 

「天草、ここでは織斑先生だと――」

 

「今は一夏くんの保護者である千冬さんにお願いしているんです」

 

「はぁ……お前も思ったか?」

 

「だからデータをくださいって言ってるんですよ」

 

「櫻、その気持ちはわかるが、いま一夏の機体は政府持ちだ。そう簡単にデータを公開するわけには行かないんだ。すまないな」

 

「なら、今度から実技の授業に分析機器を持ち込みます。授業に支障が出なければいいでしょう?」

 

「ダメだ。あのバカが作るものだ、意味の分からない機能がついてくるにきまっている」

 

千冬と櫻が話す内容は、一夏の専用機絡みだとはわかるが、ところどころ主語がはぐらかされてわからない

 

 

「よくわかんないよ~」

 

「布仏さん、お茶飲みますか?」

 

「あ、いただきま~す」

 

本音はどこまでも本音だった。

 

千冬と櫻は議論を交わし、本音と山田先生は放課後ティータイム。なんとも不思議な時間だったが、しばらくすると話は終わったようで、千冬と櫻がお茶会に加わる

 

 

「織斑先生、天草さん、お話は終わったんですか?」

 

「ええ、まぁ」

 

「本人は不本意なようだがな」

 

「世の中うまくいかないことのほうが多いのは仕方のないことですから」

 

「はぁ……」

 

「そうだ、本人に頼んでみればいい。だがこっそりな。企業への流用などは厳禁だ」

 

「データの扱いくらいはわかりますよ。私はただ明らかにアレが――」

 

「そういえば、布仏。天草と一緒にいることが多いが、どういうきっかけだ?」

 

「さくさくには入学式の時にクラス分けの表を見てもらったんです。それに部屋も一緒だし」

 

さすがの本音も"織斑先生"の前ではまともに喋るのか……とここにいる誰もが思った

 

 

「コイツは背が高いからなぁ、それ以外はアレだが」

 

「アレって何ですか、アレって!」

 

「いや、なんでもないぞ? ただ慎ましやかだなぁ、と思っただけだ」

 

「どうせ私は……」

 

「さくさく~、元気だしてね? あとでおやつ食べよ?」

 

「うん、本音ぇ」

 

「仲がいいですねぇ。私も先輩にこんな風に……」

 

最後の方は殆ど聞こえなかったが、紫苑直伝の読心術はごまかせない

 

 

「どんなふうにされたかったんだ? 真耶」

 

「ふぇっ? い、いやっ。なんでもないですっ!」

 

「織斑先生とまやまやってどういう関係なんですか? 学校の教師、ってだけじゃないですよね~?」

 

だんだん本音のしっぽが出始めている

千冬や山田先生は気にしていないようだが

 

 

「真耶は私の代表候補生時代の後輩だ。射撃ならヴァルキリーになりうる技術を持ってるからな」

 

「山田先生実はすごい人っ!?」

 

「そんなことは無いですよ? ただ人よりちょっと射撃が得意だっただけで、それ以外は先輩に敵いませんし」

 

「本人はこういうが、少なくとも代表候補生になれた実力の持ち主だ。あまり舐めるなよ?」

 

「「はいっ」」

 

「先輩、生徒を脅すようなことは……」

 

「なに、布仏は初めてだろうが、櫻は慣れてるだろ」

 

「ええ、まぁ」

 

「さくさくと織斑先生も何かあったの?」

 

「ちっちゃい頃に、一夏くんや箒ちゃんと剣道をやっててね。その頃に知り合ったんだ」

 

「まぁ、櫻は1年もせずにドイツへ帰ってしまったが、モンド・グロッソに応援に来てくれたりしていたな」

 

「へぇ~、さくさくは顔が広いね~。せっしーとも知り合いみたいだったし」

 

「ほう、初耳だな」

 

「ウチの会社でやったパーティーにセシリアが来てたんですよ。同年代の子もいなかったし自然と話すようになって」

 

「え? ウチの会社?」

 

山田先生だけは会話についていけていないようだ

千冬が補足する

 

 

「天草の所属欄が企業連になっているのは、コイツが企業連のプレジデントだからだ。家族構成の備考欄になかったか?」

 

「そこまでは見てませんでした……」

 

「まあそうだろうな」

 

「ってことは謎のフュルステンベルク社長って天草さんなんですか? すごいです!」

 

「櫻・天草・フュルステンベルク。が私のフルネームですからね。いまは面倒なので母方の姓を名乗ってますけど」

 

「このまえさくさくがカードでお買い物してるのを見た時はお金持ちだなぁって思ったよ~」

 

「生徒に収入で抜かされるのは、なんとも悲しいものだな」

 

「そうですね……」

 

「え、私まずいこと言ったかな~?」

 

「本音は悪くないよ。じゃあ、私達は部屋へ戻りますね」

 

「ああ、予習復習はやっておけよ」

 

「夕飯を食べたら歯を磨くことを忘れないで下さいね」

 

「「失礼しました~」」

 

山田先生、なんだか教育テレビのおねえさんみたいです……

 

寮までの距離はそこそこあるため、話にも花が咲く

 

 

「さくさくも専用機もってるの?」

 

「もちろん。企業連の技術の粋を集めた機体を持ってきてるよ」

 

「どんなの~?」

 

「実際に見てのお楽しみかな?」

 

「こんばんは~」

 

いきなり声を掛けられ、とっさに振り向く

そこには見慣れた青髪

 

 

「え? 簪ちゃん? でもそんな甘ったるい喋り方じゃ……」

 

「甘ったるいって……私は簪の姉の楯無って言うの、生徒会長をやってるわ。天草さんに用があってきたんだけど」

 

「おじょうさまだ~」

 

「本音も一緒なのね、話が早く済みそうだわ」

 

「えっと、状況が飲み込めないんですけど。先輩はどういう要件で?」

 

「天草さんは簪ちゃんと仲良くしてるのよね?」

 

「ええ、まぁ」

 

「私とかんちゃんとさくさくでお出かけしたりしたよ~」

 

「それならいいわ。お願いがあるんだけど。簪ちゃんの専用機開発を手伝って欲しいの!」

 

初対面の後輩におもいっきり頭を下げる先輩

一体何者?

 

 

「なぜ学園に入って1週間の素人にそんなお願いをするんでしょうか?」

 

「あなた、素人じゃないでしょ?」

 

パンッと扇子を開くと「御見通し」の文字

 

 

「どこまで私の素性を知っているのか知りませんけど、私も話を聞いて、必要になったら手を貸す、とは言いましたよ」

 

「簪ちゃんはずっと1人でやるわ」

 

「それまたなぜ?」

 

「私が1人で、正確には私と数人で自分の機体を組み上げたからよ。やっぱり負い目があるんじゃないかしら」

 

「姉妹仲は悪いんですか?」

 

「えっと……」

 

「かんちゃんがおじょうさまを避けてるかな~?」

 

楯無は「悲嘆」と書かれた扇子で口元を隠している

暗くてよくわからないが、面白い扇子だ

 

 

「あっ……えっと、じゃあ、先輩の名前は出さないほうがいいですね」

 

「そうしてちょうだい」

 

「で、簪ちゃんは今何処に?」

 

「第1アリーナの整備室よ。お願いね」

 

「どうなるかはわかりませんよ?」

 

「それと、本音。今度の委員会決めの時には何処にも入らないでね? 生徒会に入ってもらうから」

 

「えっ? お姉ちゃんも居たり?」

 

「もちろん。覚悟しておいてね」

 

「ふぇぇ~」

 

「ま、そういうことで」

 

 

 

そのまま何処かへ向かう楯無を横目に、第1アリーナへ向かった


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