Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
ここは学園からモノレールでしばらく行った少し大きめの町
駅前には大型ショッピングモールがあり、だいたいのものはそこで揃うようだ
それで、学園に入って初めての週末にこんなところで何をしているかといえば。
「さくさくの着ぐるみパジャマを買うよ~」と本音に押し切られ、簪とともに駅前に居る
同室なのに本音が居ないのだ
「櫻さんはなにかお仕事でもしてるの?」
「うん、企業連のCEOだよ」
「へぇ……えぇ?」
普通に返事をした簪が言葉を理解すると驚く
「え~っと? 企業連のCEOってふゅりゅ……ふゅる……、とりあえず名前が呼びにくい人だよね」
「フュルステンベルクとは私のことよ」
「本当? 冗談って言うなら今だよ?」
「ホントホント、今度名刺でも渡そうか?」
「え! じゃぁトーラスの……。はっ、いや、いいよ」
「簪ちゃんはトーラスが好きなの?」
「え、え~っと。企業戦士アクアビットマンってアニメを見てからアクアビットのファンなんだけどね、もう消滅しちゃったし」
「なるほどねぇ、それでトーラスと。簪ちゃんって変態?」
「ななな、なんでそうなるのぉ!?」
ケラケラと笑う櫻を顔を赤くしてぽかぽか叩く簪、ちょうどそこに本音がやってきた
「ごめんね~、待ったぁ~?」
「本音、遅い」
「30分は待ったかな?」
「えぇ~そんな~」
今日の発起人たる本音は30分遅刻してやってきた。もちろん理由は寝坊である
櫻も起こそうとしたが、15分粘っても起きないので、適当に置いてきてあとでなにか奢らせようと考えていた
「でも、さくさくが起こしてくれてれば~」
「起こそうとしても『あと10分~』とか言って起きなかったじゃん」
「あうぅ」
「じゃ、立ってるのも疲れたし軽く何か食べる? 本音のおごりで」
「いいね、本音、ごちそうさま」
「さくさくもかんちゃんも酷いよ~」
3人はショッピングモール『レゾナンス』の1階に入るカフェでブレックファストとした
「かんちゃんのベーグル一口頂戴」
「はぁ……はい、あーん」
さり気なくやってるが、この2人は……いやいや。お固い簪ちゃんに限ってそんな
などと不埒な妄想を振り払い、自分の朝食を貪る
「さくさくのも一口ちょう……もう無いの?」
「ただのトーストだし、もらってもつまんないでしょ」
「さくさくのだからいいの~」
「はぁ……」
「それで、本音。今日はどこに行くの?」
「いつものお店だよ?」
「また着ぐるみを増やすつもり?」
「今日はさくさくのだよ~かんちゃんも買う?」
「だから私はああいうのは……」
「簪ちゃんも買っちゃえば? 似合うんじゃない?」
「櫻さんまで」
「けって~い、かんちゃんは何が合うかな? 今からたのしみだよ~」
もう出発の雰囲気だったので、慌ててコーヒーを流し込み、伝票を持って会計へ向かう
そして支払いを済ませながら「あ、本音に奢らせるんだった」と自分の失態を悔やんだ
「さくさくごちそうさま~」
「くっ、図られた」
「あまりにも自然な動作で気付かなかったよ、ごちそうさまでした」
「じゃ、こっちだよ~」
そうして本音はレゾナンスの外へ向かう
「え? 中にあるんじゃないの?」
「違うよ~プチアニは少し遠いんだ~」
「プチアニ?」
「本音の行きつけのお店、petit animals でプチアニ」
「へぇ、そんなに前から着ぐるみパジャマなの?」
「多分中学に入った頃にはすでに」
「あぁ……」
しばらく大通りに沿って進み、脇道に入る。そして更に路地へ。本音の足に迷いはない
「ここで~す」
「かわいい……」
「でしょでしょ~」
住宅街に紛れ込むのは、どこかアニメに出てきそうなファンシーなお店。
ショーケースにはぬいぐるみが並び、そこから店内を覗くと動物グッズでうめつくされている
本音が扉を引くと、カランカランと鈴が鳴り奥から白いエプロンの女性が出てくる
「あら、のほほんちゃん、簪ちゃんいらっしゃい。そちらの美人さんはお友達?」
「そうだよ~学園で出来たお友達なの~」
「のほほんちゃん?」
「うさこさんはなぜか私をのほほんちゃん、って呼ぶんだよ~」
「まぁ、わかる気がする」
"のほ"とけ"ほん"ねでのほほんねぇ……と謎のあだ名の由来を紐解いたところで本音はさっそく店主と話し始めた
「それでね~今日はかんちゃんとさくさくの着ぐるみパジャマが欲しいんだけど」
「簪ちゃんはいいかもしれないけど、こっちの娘はサイズが無いかもね。着れてもダボダボ感がなくなっちゃうし」
「だよね~ じゃぁ、特注で!」
2人の会話に不穏な単語が出た気が
着ぐるみパジャマを特注?
「ついでにかんちゃんのも作っちゃおうか、じゃぁね、かんちゃんはペンギンで~さくさくは狼! 2人共身長教えて~」
「176」
「153。櫻さん背高いね」
「日本だと目立って仕方ないけどね」
「簪ちゃんが153のペンギンで、美人さんはさくちゃん? が176の狼、っと。他にも測るからさくちゃんから奥で上脱いで」
店主に進められ店の奥へ
櫻がいないところで残された2人は
「さくさくってスレンダーでいいカラダしてるよね~」
「どうしたら背が伸びるのかな?」
「やっぱり血筋じゃないのかな? さくさくってドイツのハーフでしょ~?」
「だよねぇ……」
「ソレばかりはどうにもならないよ、かんちゃん」
さっさとサイズを測り終えた櫻が簪と代わると
「かんちゃんがね~さくさくの背の高さの秘訣を気にしてたよ~」
「あぁ、私も牛乳飲んだり運動したりいろいろしたよ? だからヨーロッパでも高いほうだし」
「さくさくもそんなことしてたんだね~放っておいても背が高いのかと思ってたよ~」
「少しは努力したからねぇ」
「でもおっぱいはそうでもないね~」
「うっ……」
櫻の胸は小さくは無いが、背が高くなるとどうしても目立たなくなってしまう。
やはり女の子でも気になるのだ
そこに簪も帰還
「はい、2人共測り終わったし、2週間位で作るから。できたらのほほんちゃんに連絡するわ」
「よろしく~」
「はい。じゃ、お会計ね。1着あたり25,000円ね」
「ほ、本音。そんなにするなんて聞いてないよ?」
「言ってなかったっけ~? ごめんね、かんちゃん」
従者と主人の間に一悶着ある間に、櫻はスマートに会計を済ませようとしていた
「カードは使えますか?」
「大丈夫よ。学生さんなのにカード払いとは、リッチねぇ」
「えへへ。じゃあ、まとめて一括で」
「はい。まいどね。簪ちゃんに美味しいものでもおごってもらいなさい」
「そうします」
簪がうさこに完成時支払いを掛け合おうとすると「さくちゃんが払ってくれたわ。ちゃんと返しなさいよ?」と諭されていた
「櫻さん、ありがとう。あとで返すから」
「さすがにあの値段だとはね……」
「だよねぇ」
「オーダーメイドじゃなければ12,500円よ。それに狼なんてラインナップに無いから型から作るのよ?」
「そうなんですか? それでも1着持ってれば満足できる価格設定……」
「普通は何着も買うお客さんはいないわよ。それこそのほほんちゃんくらいね」
「本音は何着持ってるの?」
「え~っと。普段置いてるのはコンプリートしてあるから~。何着?」
「全部で15着ね。ほんと、のほほんちゃんのお陰で大助かりよ」
なんて数買い揃えていくら掛けたんだ……と櫻と簪は思ったが、口にだすことはしなかった
「じゃあ、お昼いこ~。うさこさん、またね~」
「お邪魔しました」
「完成を楽しみにしててね」
再び鈴の音を鳴らして外に出る。そして来た道を本音の先導で駅前まで戻るとそのままレゾナンスへ入っていた
フロアを上がるエレベーターで話す内容と言ったら昼食の内容だ
「お昼は何にしよっか~」
「ここならなんでもあるから迷うね」
「とりあえずファミレスでも行く?」
「だね~」
そう言ってレストランフロアのファミレスに入る
時間がピークとずれていたようで、あまり待つことなく案内されると本音が早速メニューを広げる
「かんちゃんはどれにする? 私はハンバーグセットかな~」
「決めるの早いよ。どれにしようかな」
「私はミートソースのスパゲッティで」
「え、櫻さんも。どれにしようかなぁ」
「慌てなくてもいいよ?」
「そうだよ~」
「う~ん、じゃあ和風おろしハンバーグかなぁ?」
「みんなドリンクバー要るよね~、ぽちっと」
やってきたウエイターに本音が注文を伝えると、話す内容は学園のことに移る
「そういえば、簪ちゃんって代表候補生なんでしょ? 候補生ってなにするの?」
「う~ん、ISの実技はもちろんだけど、座学もやってたよ。今は学園で一定以上の成績を出すことが仕事かな」
「かんちゃんは機体のこともあるし、大変だよね~」
「え? 機体に不具合でもあるの?」
「え、いや。え~っと……」
「かんちゃんの機体は未完成だから、かんちゃんが自力でつくってるんだ~。偉いね~」
「そうだったの? なんかごめんね」
「ううん、気にしないで。仕方のないことだから」
「そうだ、さくさくにかんちゃんのIS作りを手伝ってもらえばいいよ~」
「いいの? そんな国家機密の塊を私が触って」
「いいんじゃないかな~? ね、かんちゃん」
「でも、私が自分で作らないと……」
「まぁ、そうだよね」
「ごめんね。櫻さんの技術力は欲しいけど、私がやらないとならないことだから」
「お待たせいたしました」
そこに料理が届くと会話が途切れる。
本音は目を輝かせていたが……
ひと通り食べ終えると本音に伝票を押し付けて櫻と簪は一足先に店外へ出た
「まぁ、私にできることがあったら言ってね。何ならトーラスの技術者も連れてこれるから」
「さすがにそこまでの大所帯は……」
「冗談だよ、出来なくはないけど」
「それって冗談って言わないんじゃないの?」
「どうだろうね?」
「もう、さくさくもかんちゃんも酷いよ~」
「本音、ごちそうさま~」
「遅刻したから仕方ないね、本音」
「じゃ、次はデザートを簪ちゃん持ちで行くかな~」
「えぇ~」
「いいお店知ってるよ~」
「あそこは高いからダメ!」
「なんでよ~」
その後、簪のおごりで何故かメイドカフェでパフェを食べた3人だったが、簪はどこか寂しそうな顔をしていた
「今月の給料まだなのに……」