Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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ちまちまお気に入り登録していただけてるよう。
相変わらずPVは1話と最新話を頂点にするすり鉢型のグラフを描くことから、本作に流れてきた方が一定数いるのかな〜と思ってます。どうぞ、これからもご贔屓に…

初投稿から読んでいただいてる方もどうぞ、これからもよろしくお願いします。


今までのことを

「来たな。適当に座れ」

 

応接室に呼ばれた3人に促す千冬はどこか柔らかくなっている

 

「もう5時過ぎだ、私の仕事は終わった」

 

コレはもう織斑先生ではなく、織斑千冬だ、ということだろう

 

「お前ら、昼は何を騒いでいた?」

 

「私が櫻に平手打ちを」

 

「ほう、箒、自分でその理由がわかるか?」

 

「私は櫻が憎かった、姉さんを、家族を奪ったこいつが」

 

「そうか、一夏はどうせそこに駆けつけた、ってとこだろう」

 

「偶然、な」

 

「それで、櫻、お前はどう思っている? 箒に殴られる道理があるのか?」

 

「箒ちゃんがそう思ってるなら仕方ないよ。束さんと千冬さんとISを作ったのは事実だし、それで篠ノ之家がバラバラに成ったのも事実だから」

 

「束をお姉ちゃん、とは呼ばないんだな」

 

黙って箒に目線を送ると、千冬も察したようで

 

 

「そうか。櫻、束は日本にいるのか?」

 

「ええ、今月中は日本に居ると思いますよ」

 

「あいつに電話をつなげるか?」

 

「もちろん」

 

「なら頼む、あいつの口から妹に説明するべきだろうしな。それで箒、自分からすべてを奪った櫻を殴ってどうだ? 少しは気が晴れたか?」

 

電話を掛ける櫻の横で箒が顔をしかめる

 

 

「いえ、特には」

 

「だろうな、憎しみは力で消えないものだ。つながったか」

 

「もすもす、終日。束さんだよ? どうしたの、さくちん。束さんが恋しくなった?」

 

「残念だが、櫻は学園生活を楽しんでいるようだ」

 

「げっ、ちーちゃん、なんで」

 

「げっ。とは何だ。お前の妹がクラスメートを殴ったから、生活指導だ」

 

「箒ちゃんが? さくちんを?」

 

「ああ、だからお前を呼び立てた」

 

「そう。箒ちゃんもそこにいるんでしょ?」

 

「ええ、久しぶりですね。姉さん」

 

「久しふりだね、箒ちゃん。まだ私を姉さんって呼んでくれるんだ」

 

「もちろん、大切な家族ですから」

 

「そっか、で、箒ちゃんはその大切な家族をバラバラにされたのをさくちんのせいにして殴ったとか?」

 

図星を指された様で、箒は苦しい顔を浮かべていた

 

「そのとおりみたいだな。それで、私達が何を思ってISを作ったのか教えてやろうと思ってな。せっかくIS制作に関わった者が集まったんだ。そろそろ事実を知ってもいいだろう」

 

「そっか。さくちん、カメラつけて」

 

「はい」

 

テーブルの真ん中に携帯を置き、カメラユニットを浮遊させる

 

「あ、いっくんも居るんだ。久しぶりだね。モンド・グロッソのときぶりかな?」

 

「久しぶりです、束さん」

 

「役者は揃った、ってわけか。じゃ、ちーちゃん、さくちん、語ろう。思い出を、楽しかった日々を」

 

 

そしてIS開発に携わった3人は語り始めた。

10年前、束のPCの中で眠っていたアイデアに櫻が興味を持ったことから始まり、マンションの中の研究所にほぼ毎日こもって最初のIS、白騎士を作り上げるまでのことを。

 

そして、白騎士事件と呼ばれる出来事のことも。

紫苑から第二の自分を与えられ、櫻に生かされたことも

 

 

 

「箒ちゃん、私はね、ちーちゃんとさくちんとISを作れてよかったと思ってるよ。結果的には家族は離れちゃったけど、離れていても家族は家族でしょ? 私はさくちんやママさんと一緒に過ごして初めてわかったよ。これも全部、ISが与えてくれたもの。ISが、私に生きる意味と人を愛することを学ぶきっかけをくれた。だから、幸せなことも、良かったことも、全部受け止められるんだ」

 

「箒、私も束がISを作った事に感謝している。私に翼を与えてくれたんだ、束の夢を叶え、自分を高める翼をな。ISのお陰で私は様々なことを経験し、様々なことを学んだ。そして今の地位がある。確かに一夏には危ない目に会わせてしまった、だが、それをも糧にし、二度と繰り返さないと誓ったから今の私があるんだ」

 

「箒ちゃん、私は束さんや千冬さんとISを作ったことを誇りに思ってる。世紀の大天才と、世界最強と一緒に過ごして、私自身が強くなれた。海外に逃げた後、束さんと一緒に過ごして、束さんをお姉ちゃんと呼んで束お姉ちゃんが人々の中で生きる瞬間を見て、千冬さんが世界最強になる瞬間を目に焼き付け、私は幸せだった。だから、私はいま、この地位でやるべきことをやるんだ。2人と、ISがくれた力で、世界を変えたいと願った」

 

 

「「「私は今の私であることを後悔なんてしてない(よ)、私が私であるきっかけをくれたみんなに感謝してるんだ」」」

 

 

3人は語った、今までの事実を、自分の思いを

 

 

箒は以前とかなり印象の変わった姉に驚き、その変化を生み出した櫻や紫苑に感謝すら感じていた

束は天災ではなく普通の女性になった、にわかには信じられないが、千冬や一夏の反応を見ればわかる

 

「一夏、今まで隠していたが、お前が拐われたときに真っ先に助けたのは私ではないんだ。束が気付き、櫻が助けた。私は利用されただけだったんだ。すまなかった」

 

「そうだったのか…… 櫻、束さん、ありがとう。俺を助けてくれて。千冬姉を変えてくれて」

 

「あの時上げたお守りはそういうこともあろうかと作ったんだけど、まさかその日のうちに役立つとは束さんも思わなかったな」

 

 

思わず苦笑いする一夏と束、空気を裂いたのはやはり箒だった

 

「姉さん、あなたは変わった」

 

「そうだね、もう普通に会社でお仕事もしてるよ」

 

「これもすべて櫻のおかげといいますか?」

 

「ママさんに新しい戸籍をもらって、さくちんに働く場所をもらった。そこからは自然と良くなったよ。500万ユーロも借金背負うわけにいかなかったからね」

 

「そうですか」

 

話を区切ると箒はいきなり立ち上がって頭を下げた

 

「櫻、済まなかった。姉さんを変えてくれたことに感謝こそすれ、殴るなどと。本当に済まなかった」

 

「いいんだよ、箒ちゃん。変わったのは本人の意志だから。私とムッティはきっかけを与えたに過ぎないもん」

 

「束様、そろそろディナーの時間だと紫苑様が。あ、お話中でしたか、失礼しました」

 

運悪く出てきてしまったのはクロエ、それも自分たちとあまり歳の変わらない少女が仰々しい呼び方をしたものだから怪しいことこの上ない

 

 

「「束(姉さん)そいつは誰だ」」

 

「え~っと、私の娘。かな?」

 

「すまない、もう一度言ってくれないか?」

 

「束さんの娘みたいな子だよ」

 

「姉さん、いつの間に生命に手を出したのですか?」

 

「決して束さんが作ったわけじゃないんだよ! さくちん、助けて!」

 

「クロエはウチで拾った子ですよ」

 

「拾ったって、どういうことだよ」

 

今まで黙っていた一夏も思わず口をはさむ

 

「言葉通りの意味だよ」

 

千冬に目で「言いにくい事情がある」と訴えると察してくれたようで、助け舟を出してくれる

 

 

「なんだ、養子か。束が慈善事業に手を出すとは、世も末だな」

 

「束さんだって人助けくらいするよ!」

 

「なんだ、養子か」

 

「はぁ、あまり心配をかけないでください」

 

「くーちゃんは束さんがちゃんと育ててるんだよ? 今回だって折角日本に滞在するんだし、いっぱい日本の文化を勉強してほしいね」

 

「まさか束に先を越されるとはな……」

 

「千冬姉、何か言ったか?」

 

「いや、なんでもないさ。お前ら、そろそろ食堂が閉まる。今日は解散だ」

 

やっとか、と言わんばかりに一夏が携帯を見ると

 

「げっ、もうこんな時間か、箒急ぐぞ!」

 

「い、一夏、引っ張るな!」

 

慌ただしく出て行く2人を見届けると、

 

「で、束、あの子はなんだ?」

 

「ちーちゃんがドイツで教えてた黒ウサギ隊のアドバンスド、彼女のプロトタイプだよ」

 

「まさか……」

 

「本当だよ? くーちゃん、居る?」

 

「はい、束様。なんでしょう」

 

「くーちゃんはちーちゃんに会ったことなかったよね。繋いでるよ」

 

「クロエ・クロニクルです。はじめまして、千冬様。お話は束様より伺っております」

 

「どんな話を聞いたのか気になるが、まずお前は本当にアドバンスドなのか?」

 

「正確には異なりますが、ほぼ同じです。ラウラ・ボーデヴィッヒは私の成功例みたいなものですね」

 

「そんな、だが現実か……」

 

「現実です。彼女は上手く行った、だからあの目が証拠です。でも私は違う、失敗し、次の実験の被験体になる瞬間を待っていた。紫苑様が来るまでは」

 

「苦しいことを聞いたな、すまない」

 

「いえ、事実ですから」

 

「これは紫苑さんの教育の賜だな」

 

「ムッティの実子がここにいるよーっ」

 

「櫻様、今朝方ぶりです、学園はどうでしょうか?」

 

「いろいろあって疲れたね、特に私の知り合いが……」

 

「なにはともあれ、無事に過ごせそうでよかったです」

 

「そうだね、千冬さんもいるし」

 

「そろそろ良い時間だ。束、今度は2人で飲みにでも行こう。紫苑さんにもよろしく伝えてくれ」

 

「楽しみにしてるよ! そうだ、さくちんの夢見草、アップデートして送ったから確認しておいてね! 束さんお手製の第四世代機だよ!」

 

「ん? 櫻はすでに専用機を持っているんじゃないのか?」

 

「アレは似非第四世代だよ。今の世間一般の技術じゃ出来ないから、既存の技術でそれっぽく再現して、進化のヒントを与えてるんだよ?」

 

「束……あんまり世間にひけらかすなよ? 学園でやられると困るのは私なんだ」

 

「その時はごめんね。もう一つ、いっくんの専用機だけど、明日には完成させるって報告があったから、週明けにはそっちに着くよ」

 

「お前は手を加えてないのか? 珍しい」

 

「どうだろうね? 実際に届いてのお楽しみ。それじゃ、またね。ちーちゃん、さくちん」

 

「ああ、またな」

 

「おやすみ、お姉ちゃん」

 

 

そして切れるとカメラユニットが収まる。

残された2人は大きく息を吐くと満足そうな顔をしていた

 

 

「そうだ櫻、もう食堂に行っても間に合わないだろ、夕飯はどうする?」

 

「全く考えてませんでした、千冬さんの部屋になにかないんですか?」

 

「カップ麺ならあるな、ソレでいいか?」

 

「もちろん。今日はいろいろありすぎて疲れたのとお腹が空いたのとで……」

 

「お前も苦労が絶えないようだな」

 

「千冬さんも。毎年毎年馬鹿ばかりってことは今までもそうだったんでしょ?」

 

「そうだな、毎年あんな感じだ。戸締まりするから一旦出ろ」

 

慣れた手つきで鍵を確認し、電子ロックをかけると

 

「よし、私の部屋でいいな。こっちだ」

 

 

そう言ってまっすぐ寮に向かう千冬を櫻が追う

 

行き着いた先は、寮長室

 

 

「千冬さんって……」

 

「ああ、ここの寮長もやっている。他にも役職ばかり押し付けられてな……」

 

中に入ると散々たる状況。

散らかった空き缶に無造作に脱ぎ捨てられた衣類、テーブルにも空き缶とおつまみの袋。とてもいい年の女性の部屋とは思えない。

 

 

「一つ幻想が崩壊した……」

 

「どうかしたか?」

 

「いいえ、何も。お、かなりの種類置いてますね」

 

「安いのばかりでもいいが、数回食べると飽きるからな。いろいろおいている。好きなのを持ってこい。お湯を沸かしてくる」

 

「コレおいしそ、千冬さんは何にしますか?」

 

「一番の醤油だ」

 

「分かりました」

 

 

そうして、生徒と教師の二人が散らかった部屋でカップ麺をテーブルに並べていると荒々しくドアがノックされ

 

 

「織斑先生、大変です! 寮の入り口付近に不審物が!」

 

「分かった、今行く。櫻はそれをたべたら部屋にもどれ」

 

「はい」

 

ドアの向こうには緑髪と眼鏡のフレームがちらりと見えたので山田先生だろう

それにしても新学年そうそう大変だなぁ、などと思いつつケトルからお湯を入れて、3分待機。

さぁ、待ちに待った夕食だ、というところでドアが開かれた

 

「櫻、居るか?」

 

「ええ、ちょうど3分たったところです」

 

「いや、おまえに用があってな。多分束だ……」

 

「あぁ……今行きます」

 

寮の玄関から外にでると、コンクリートに生える、もとい突き刺さっているのはニンジンのような何か。

それに近づくと

 

「天草さん、それはもしかしたら! と、とにかく危ないかもしれないので離れてください!」

 

「いえ、大丈夫ですよ。ただのニンジンですから」

 

ヒョイと引っこ抜くとニンジンを叩き割る。山田先生の小さい悲鳴が聞こえたがこの際気にしない。

 

「束か?」

 

「そうですね、夢見草が届いたようです」

 

そう言って千冬に桜の花びらをかたどった髪飾りを見せる

 

 

「あまり人目につかないようにな」

 

「ええ、授業をではもう一つの方を使います」

 

「一人で467の内2つを使うとは、贅沢なやつだ」

 

「夢見草のコアは非登録ですよ、千冬さんも知ってるでしょ?」

 

「そうだったな、まぁ目立たないように気をつけろ」

 

「ええ、そうします」

 

「よし、なら今日はもう寝ろ。明日から通常授業だ」

 

「はい、おやすみなさい千冬さん」

 

「おやすみ、櫻」

 

 

去り際に山田先生への挨拶も済ませ自室へ

部屋にはいるとすでに本音は寝ているようだ

 

「うあぁ、づがれだ~」

 

 

 

 

ベッドに倒れこむと「そういえばカップ麺食べてないや……」とか思ったが、気がつけばそのまま眠りに落ち、長い長い学園生活初日は幕を閉じた


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