Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
チャイムが鳴り、4限目
「では、この時間は授業の前にクラス代表を決める。クラス代表とはいわば、学級委員みたいなものだ。さらにクラス代表対抗戦にも出てもらう。自薦他薦は問わない。誰かやるか?」
と、織斑先生のありがたいお言葉から始まった4限目
クラス代表なんて面倒な役回りゴメン被る
「はーい、織斑君がいいと思いまーす」
「それいいね!」
「さんせー」
やはり一夏の名前が上がるのも仕方ない、注目度が高いのはこういう時に不利になる
「ふむ、織斑だけか? このまま決めてもいいが――」
「納得いきませんわ!」
と声を上げたのはセシリア、やはり代表候補生のプライドだろうか
「男だからと物珍しさで決められては困りますわ! ISの操縦経験が殆ど無い素人にクラス代表をまかせるなどありえません! 代表の座は能力に応じて与えられるべきです!」
セシリアは吠える吠える、言ってることは最もだが、その剣幕に周囲が若干引き気味だ
「大体、わたくしはISの技術を磨くためにわざわざ極東の島国に来たのです! 見世物に付き合うためではありませんわ! 男などという下等生物にこのわたくしが従うなどもってのほか、クラス代表はこのわたくし、セシリア・オルコットこそふさわしいのですわ!」
言っちまったなぁ、セシリア。と櫻は彼女の失言を心のうちで非難する。だが、渦中の人物はそんなに余裕のある人間ではなかったようだ
「言ってくれるじゃねぇか。オルコット、だったか? お前の実力がどれだけのものか知らねぇが、自分たちが馬鹿にされたのだけは許さねぇ。クラス代表の地位が欲しければ自分の力でつかみとれよ。そんなこともしようとしない奴に俺は負けねぇ」
「ふん、代表候補生のわたくしに勝負しようと言うのですか? 身の程を知らないのですね、コレだから極東の猿は――」
「セシリア、言い過ぎ」
「櫻さん……」
「自分の身の程を知らないのはどっちかな? セシリア、君はいま国の代表としてここにいるんだ、その口から出る言葉の重みを理解しなよ」
わざと余所余所しい口調で軽く説教じみた言葉を掛けたのが上手くいったようだ
セシリアは口をつぐんで俯いてしまう
「一夏も一夏だ、喧嘩の売り買いは男の子の特権だけど、時と場合を考えな」
「だけど櫻っ!」
「口喧嘩なんて無粋な事を日本男児と英国淑女がするべきじゃない」
一夏も自分の口の悪さが露呈したのを反省したのか、黙って櫻を見る
「お前ら、そろそろ着地点を決めろ、織斑とオルコットのISバトルで決着でいいか?」
「先生! それは結果が見えます!」
「どうだろうな、確率としては0ではない。それは織斑に同意だな」
「し、仕方ありませんわ。先生がそういうのなら。織斑一夏、蜂の巣にして差し上げますわ」
「おう、望むところだ」
「よし、クラス代表は織斑とオルコット意外に立候補はないのか? ないならこの2人で勝負、勝ったほうがクラス代表でいいな」
静まり返る教室、その沈黙を肯定と受け取ったようで
「よろしい。では授業を始めよう、教科書の――」
通常授業が始まった
しかし授業とは退屈なもので、大半の理論を理解している櫻は一番前の列にもかかわらず船を漕いでいる。それを見逃さない千冬ではない
「それで、射撃武器の特徴として……天草、射撃武器の特徴を上げろ」
「ふぁっ、え~っと。弾速の速さからくる回避の難しさ、リーチの長さ、他には……」
「もういい。教科書の通り、弾速の速さ、射程の長さ、攻撃の読みにくさなどがある――次は無いからな」
「は、はい」
などとアクシデントがありながら、なんとか昼休みに入った
「おい」
櫻に声を掛けたのはポニーテールの少しいかつい顔をした娘
「え~っと、箒ちゃん?」
「ああ、久しぶりだな、櫻」
その声はどこか怒気が含まれているように感じられる
「櫻、私は貴様が憎い。私からすべてを奪った貴様がな」
「謝って済まされることじゃないね。それで、なにがしたいの――」
パシン、と音が響き箒が平手を振りぬく
突然の出来事に静まる教室
「私は許さない、だが何がしたいのかもわからないんだ、済まないな、櫻」
「仕方ないよ、私だってそれだけのことをしたんだから」
矛盾だらけの箒の言動の理由はもちろんISだ
束がISを考え、櫻が資金を与えた。それによりISが生まれ、一家は離れた
幼いころはただの友達だと思っていた。だが歳を重ね、思考力が上がると何がどうなったのかが理解できてしまった。だからこういうことになってしまう
「さくさく大丈夫?」
「大丈夫だよ、平気だから」
「篠ノ之さん、なんでさくさくをぶったの?」
名前が上がると「篠ノ之?」「やっぱり……あの?」などとクラスがざわめく
「関係のないことだ、これは私と櫻の問題だからな」
そう言い切って教室から出ようとする箒に質問の雨が降る
「もしかして、篠ノ之さんって篠ノ之博士と関係があったり?」
「そうそう、気になってたんだ」
「篠ノ之さん、実際はどうなの?」
あ、やばい。櫻がそう思ったのもつかの間
「あの人は関係ない!」
箒が叫んだ、周囲もマズイ顔をしてしまう
騒ぎを聞きつけた一夏が戻ってくると
「箒、なにがあった」
「周りが箒ちゃんに束お姉ちゃ……束さんとの関係を聞こうとね」
「ああ、そうか。それで、櫻、お前の頬が赤くなってるけど、何かあったのか……ああ、分かった」
なんとなく察した一夏は語尾を濁す
「櫻、次に私の前で姉さんの事をそう呼んだら殺す」
「箒、そう言ってやるな。櫻だって――」
「お前もわかるだろう、姉さんと千冬さんと櫻がいつもいつも一緒にしていたことが」
「箒ちゃん、ここでそれ以上は!」
「こいつらが私から家族を奪ったんだ。わかるだろう、一夏」
「わかんねぇな、俺は毎日嬉しそうな顔をして帰ってくる千冬姉を覚えてる。千冬姉が笑ってたんだ、束さんだって嬉しかったはずだ。もちろん、櫻もな」
「どうして、姉さんにISを作るきっかけを与えなければっ!」
「束さんも千冬姉も笑うことはなかっただろうな」
「ッ!」
もちろん箒も毎日毎日楽しそうに笑ってISの話をする束の姿を覚えていない訳が無かった
これもさくちんのおかげだ、と言って無邪気に笑う束を見て、箒も嬉しかった
「悪いな、箒。俺は束さんがISを作ってよかったと思ってる。千冬姉に笑顔を与えてくれた束さんに感謝してる。そしてそのきっかけを作った櫻にもな」
「私だって、姉さんの幸せが……」
「お前ら、何事だ」
そこにようやく織斑先生が到着、教室が鎮まる
「えっと、これは……」
「織斑、篠ノ之、天草、それ以上は何も話すな。この話を聞いてしまったものは絶対に外部に漏らすな。いいな」
「「「「「はい」」」」」
「3人は放課後に私のところに来い」
「「「はい」」」
そうして初日の大きな騒乱は終わった