Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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君の名は

束はひたすらに球体状のホログラフィックキーボードを叩き続ける

3つ並んだディスプレイにはそれぞれ意味の分からない文字や数字が羅列されている

 

「もうちょっとで終わるからね、さくちん」

 

「いいよ、まだ余裕があるから」

 

櫻の言葉に小さく頷いて返すと、手のスピードを更に上げる

それにしたがって文字の流れも加速していき……

 

Succeededの文字が浮かぶと、束は次の操作を始めていた

 

「さくちん、システムは束さんのものだよ」

 

「おっけい。オーギル1,2、システムハックが完了、現着時に再び指示を出します」

 

《オーギル1了解、束ちゃん、お疲れ様》

 

《オーギル2了解》

 

「案の定自立行動型のガードロボが居るね、中に5体」

 

「外は?」

 

「何もない、砲台も全部こっちのもんだからね」

 

「おーけー」

 

掌握したシステムを確認していると、ちょうど紫苑から通信が入る

 

《こちらオーギル、現地上空に到達、指示を請う》

 

「了解。作戦通り、中央上部の隔壁を開きます、目視確認次第、そちらのタイミングで突入してください」

 

《オーギル了解》

 

「開けたよ!」

 

「よっし、パーティーの始まりだ!」

 

 

開けられた隔壁、中に居た科学者達は月明かりに照らされた侵入者(HOGIRE)のシルエットを見るなり一目散に逃げ出した

 

「隔壁が開いたのを目視、ルイーゼ、行くぞ」

 

「はい」

 

突入する影2つに研究所内部は蹂躙されていった

束のナビゲートで最深部へと辿り着くと

 

 

「これは……」

 

「そんな、酷い……」

 

培養液で満たされた水槽に浮かぶのは少女、美しい銀色の髪の少女だった

 

《束ちゃん、これは》

 

「見ての通り、人間。だね。いま生命維持システムを確認してるよ」

 

《束ちゃん、焦らなくていいから……》

 

「うしろでさくちんがブチ切れそうな形相で睨みつけてくるからさ……」

 

束はキーボードを叩き続ける

少女を生かすため、少女を救い出すため

 

 

「終わった! その子は人並みの体はできてるから培養液から出しても平気」

 

《そう、なら割ってしまっていいのよね》

 

「傷つけないでね」

 

《もちろんよ》

 

「社長、ガードロボが!」

 

「ルイーゼ、容赦なく撃っていいわ、脱出路さえ確保できれば内部施設も気にしなくていいから」

 

「了解!」

 

有澤重工製グレネード、NUKABIRAを両手持ちしてガードロボの集団に撃ち込む

強烈な爆風が巻き起こるが、ルイーゼは構わず次弾装塡、再び叩きこむ

 

通路で爆発が巻き起こる中、紫苑はゆっくりと水槽を切り、少女を外に出した

空気に触れるのが初めてなのか、咽る少女の背中をISを部分的に解除した手で擦る

 

「もう大丈夫、助けに来たわ」

 

「あなたは……誰?」

 

「正義のヒロイン、かしら?」

 

紫苑が笑いかけると、少女も小さく笑った。

ただひとつ、違和感を覚えたが

 

 

《束ちゃん、女の子を一人保護したわ。これ以上居ないの?》

 

「そこ以外に生命維持システムが働いてる場所はないからもう居ないはずだよ」

 

《分かったわ》

 

「さくちん、一人保護されたよ、多分例の隊長の前に作られた試験体だと思う」

 

「そう、他にはもう居ないんだね?」

 

「うん」

 

「なら、仕上げにはいろっか」

 

 

2人は今までにないほどの笑ってない笑いを浮かべて最後の通達をした

 

「オーギル、仕上げだよ。研究所内にアレを置いて早く帰ってきてね」

 

《オーギル1了解》

 

《オーギル2了解》

 

――これで終わりだ、汚い計画も、望まれない命も、全部!

 

《両方置き終わった、脱出する》

 

「了解、気をつけて」

 

 

 

オーギルの脱出とほぼ同時刻、辺り一帯が停電、一部の家では家電がスパークするという事件が起きた。

もちろん、送電網に異常があったわけでは無く、森に潜む研究所がひとつ、電気的に消え去った弊害であることは言うまでもない

 

 

 

屋敷に戻った紫苑とルイーゼは保護した少女を束に預け、つかの間の休息を取っていた

すると、下に居たはずの束がその少女を連れて紫苑の部屋にやってきた

 

 

「ママさん、この子の名前を考えるの、手伝って欲しいんだけど」

 

「そう、やっぱり名前は無かったの……」

 

「うん、基本的な生活技能は身についてるんだけど、それ以外の記憶が何もないんだ」

 

「そんな……」

 

「これから私はこの子の親になろうと思う、思い出をいっぱい作ってあげようと思う、ママさん、手伝ってくれる?」

 

「もちろん、この子に、大切なものを理解させてあげましょう」

 

「ありがとう、ママさん。じゃあ、まず、この子の名前を」

 

「そうね、――ってどうかしら?」

 

「いいね! 流石ママさんだ、――、この子は私達の記憶、私達の記だよ!」

 

「ふふっ、気に入ってくれたかしら?」

 

「私、名前――? 気に入った、私は――」

 

「そうだよ! ――! ――ちゃんって呼んじゃおう!」

 

「私は――、私に名前をくれたあなたの名前は?」

 

「え、私? 私は束さんだよ!」

 

「正義のヒロイン、あなたは?」

 

「私は紫苑、よろしくね――ちゃん」

 

「束様、紫苑様、私はあなた方に救われた、この恩を忘れない」

 

「ふふっ、いいのよ」

 

「束さんは――ちゃんが生きてくれてるだけでいいんだから」

 

「私が生きている、それだけで?」

 

「ええ、それだけで」

 

「束さん達は十分なんだよ」

 

 

 

 

 

「これから、私達の歴史を始めよう!」


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