Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
「さて、おじさんからの情報とか、自分達で調べたことをまとめると、千冬さんの件は防衛省内部での企画立案で、内閣府はノータッチで確実っぽいね」
「さすがに国が総出で一人を潰そうとはしなかった、ってことだろうね。防衛省からすれば、役に立たなくなったIS乗りを一人社会的に葬ったところで痛くも痒くもないだろうし」
「だからってコレはないよねぇ、ずっと首輪つけて置くようなもんだよ?」
「奴らはなんだかんだでちーちゃんが恐いんだよ、束さんとのコネがあることはもうバレてるんだろうし、ここで手を組まれたら面倒極まりないってさ」
「だから首輪つけるんだね。それで、束お姉ちゃん、ドイツ国内は?」
「シュヴァルツェハーゼについて調べたら、隊長の女の子は試験管ベイビーみたいだね、それでナノマシンの検体にされたって記録があるよ」
「じゃ、その子が作られた研究所か何かを強襲しよう、それは非人道的すぎる」
「人間を作るのはマッドサイエンスにも程が有るからね。束さんも許せないかな」
「じゃ、あとで作戦立案よろしく」
「りょーかいだよ。次は――」
恐ろしい作戦をいとも簡単に決めていく2人だが、部屋の入口に 一家の主紫苑が居ることに気づいていないようだ。人間頭に血が上ると判断力が鈍るのは仕方ないね
「それで、おふたりさん? なにか楽しそうなこと考えてるのは結構だけど、危ないことはやめてね?」
「む、ムッティ?」
「あ、ママさん……」
「話は聞いたけど、そんな研究所なんて防衛システムが機能してないわけないじゃない? どうするの?」
「えっと、それは、束さんがハッキングしてパッシブセキュリティは無力化して、アクティブなのはさくちんにぶっ飛ばしてもらおうかなぁ……って」
「娘をそんな危険な場所に送り込む許可を出すと思ってるの? 束ちゃん」
「た、束お姉ちゃんは2人で実行可能な計画を立てただけで――」
「櫻は少し黙ってなさい」
「はい」
櫻、撃破沈黙。母の前では娘の立場は弱いものだ
「束ちゃん、確かにそれは許しがたいことよ、だけどまだジュニアハイの子供がやるべきことじゃないの。ここは周りを頼りなさい。束ちゃんの信頼できる人間だけでも十分遂行可能でしょ?」
「確かに、さくちんの代わりにママさんに出てもらうことはできるけど……」
「私じゃ不満かしら?」
「そ、そんなわけは」
「なら、ローゼンタール社内にタスクフォースを立ちあげるわ、ドイツの尻拭いはドイツがやらないとね」
「わ、わかったよ」
「ムッティ! 私も――」
「櫻は束ちゃんと一緒にここにいなさい。大丈夫よ」
黙って頷く櫻をみて、優しい笑みを向けると
「私は 最強ブリュンヒルデより強いんだから、大丈夫よ。束ちゃん、ISの準備をお願い、カラーリング変更と近接戦闘パッケージに換装しておいてちょうだい」
「Jawohl!」
「ふふっ、いい返事よ。一回本社に行ってルイーゼを呼んでくるから、それまでに私の機体の準備をお願いね。櫻は束ちゃんのお手伝いと、情報整理をやっておいて」
「分かったよ」
部屋を飛び出す紫苑を見て互いに頷きあって作業を開始する2人、決して表沙汰には出来ない戦いの幕が上がった 。
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作戦発令から1時間、早くも本社から試験用オーギルを一機とテストパイロットのルイーゼを連れて帰ってきた紫苑は次々と指示を出して行動開始に備えていた
「束ちゃん、次はあの試験用オーギルにもカラーリング変更と支援砲撃パッケージの換装をお願いね」
「はいは~い」
「櫻、ブリーフィングを始めるわよ」
「了解! こっち!」
「ルイーゼ、いらっしゃい」
「はい、社長」
いきなり連れて来られたような形で広い客間に通されたローゼンタールのテストパイロット、ルイーゼはただスクリーンに映し出された地図を黙ってみていた
「ミッションブリーフィングを始めます。今回の任務は、ドイツ軍研究所の破壊が主です。場所はフラウエンヴァルトの森のなか、自然に紛れた防衛システムの存在が予想されます。一応システムを乗っ取り、内部を掌握した後の突入ですが、MTやノーマルによる妨害が予想されるため、常に周囲に気を配ってください」
ひとつ区切って2人を見回す、とりあえず飲み込んでくれたようだ
「では、チャートで説明します。2人はブリーフィング終了後、地下カタパルトより発進、進路を北東にとって研究所に向かってください、その間にシステムハックを行います。システムハックが間に合わなかった場合には上空で待機してください」
ここまでよろしいですか? と確認を取ると2人共頷く
「その後、研究所中央上部の隔壁を開きます、2人はそこから侵入し、内部施設を破壊、試験体となってしまった子が居た場合はカプセルで保護して回収してください。なお、この作戦での音速飛行は禁止とします。空中では亜音速での飛行とし、帰還時の保護対象者にも気を配ってください。作戦内容は以上です」
堅苦しい喋り方にも慣れたつもりでいた櫻だが、場の緊張感に飲まれたのか、ひと通り説明を終えると思わず息をつく
紫苑とルイーゼは互いに意見を交わしているが、櫻のもとに来ないということは2人の連携の確認などだろう。ブリーフィングの締めの言葉を発してこの場を終える
「では、5分後に作戦行動を始めます。解散」
実行班の2人はさっさと地下へ向かい、一人残された櫻は近くの椅子に腰を下ろすと、前髪に付いた髪飾りを撫でて思いにふけっていた
「束ちゃん、機体の準備はできてる?」
「もちろんだよ、ママさん、両方共レーダー波を吸収する塗料に塗り替えて、パッケージ換装も終わらせたよ」
「はい、お疲れ様。あとは櫻とこっちのナビゲート、よろしくね」
「その前にシステムハックっていう大仕事があるけど、チャチャッと終わらせちゃうよ!」
「そうね、任せたわ。さ、ルイーゼ、機体の確認を」
「はい」
――なんかお人形みたいな人だなぁ
束のルイーゼに対するファーストインプレッションはコレだった
紫苑に従い付いてまわる、それだけの存在のようで束は少し不信感を持った
「2人とも異常はないね?」
「オールグリーン、問題なしよ」
「こちらも問題ありません」
「よろしい、じゃ、ママさんからカタパルトについてね」
漆黒のオーギルがカタパルトのシャトルに固定される
「作戦開始時刻です、行動開始!」
櫻の声で作戦行動が始まる
「オーギル1リフトオフ! 次もシャトルが戻り次第固定、発進」
すでにカタパルトに固定されていた紫苑の機体が空に上る
「オーギル2了解、機体固定確認、どうぞ」
「いってらっしゃい!」
ルイーゼの機体がそれに続く
「オーギルの発進を確認、目標地点までのルートをレーダーに表示」
《こちらオーギル1ルートを確認》
「くれぐれも音速を超えないでね、ソニックブームなんてかまされると厄介だから」
《素に戻ってるわよ、櫻、まぁ気負いすぎるよりいいけど》
「次の交信はシステムハック終了後か目的地到着の早い方でっ!」
照れ隠しする娘を想像して思わず笑みを浮かべる紫苑、ルイーゼが不思議そうな顔をするが「いつかわかるわ」と曖昧に返して研究所への道をたどる