Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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閑話: 兎と櫻の日本紀行 Ⅲ

午前は着物を買ったり、辺りをぶらついて上手く時間が潰れた、有澤の案内で天ぷらを出す店へと向かっているのだが

 

「京都って大通りは広いけど、路地は狭いねぇ」

 

「それも車も人も多いから大変だ」

 

「駐車場も少ないんだ、観光地は多いんだが、移動手段が少ない。有名所にはバスなどでいけるが、少しマイナーなスポットにいこうと思えば、タクシーか歩くしかない」

 

「通りでタクシーばっかりなわけだ」

 

道は素晴らしいまでに渋滞していた

ちょうど休日ということもあってか、京都の町は観光客であふれている

 

 

「仕方ない、少し路地に入るからな」

 

「「おお」」

 

 

それから数十分、車は目的地の天ぷら屋に到着した

 

「ここだ」

 

「えっと、古民家?」

 

「これは江戸時代に作られた建物をそのまま使っているそうだ、さぁ、中へ」

 

有澤に付いて中へ入ると

 

「中もまたすごいね、天井高いなぁ」

 

「柱の存在感がいいね、束さん感動しちゃうな」

 

「趣があっていいだろう? 有澤だ」

 

「有澤様、こちらへ」

 

「さぁ、お嬢様方、置いていくぞ」

 

 

有澤が女将に名前を告げ、個室へ案内された一行は見慣れないドーム状のものがカウンターに置かれていることに目が行った

 

「おじさん、アレは?」

 

「ああ、あのドームの下には油の鍋がある、まぁ、油はね防止だ」

 

「意外と単純な理由……」

 

「詳しいことは私も知らん」

 

「最初からそう言いなよ」

 

「ははは、まぁいいだろう。さぁ、席について、頂こう」

 

職人が目の前でタネに衣を纏わせ、油へ入れていく

食欲を刺激される音と共にこんがりとした匂いも漂う

まず出てきたのはキスだろうか、白身が柔らかく、甘みが広がる

 

 

「料理を五感で味わってる感じだね」

 

「だねぇ、音も匂いも、見た目も味も、食感も美味しいね」

 

「だろう? 揚げられたものが皿に盛り合わせで出てくるようなお店では味わえない感覚だ」

 

 

揚げ物には順番があり、味の淡白な物から出るのがルールだそうで、最後にかき揚げをお茶漬けにして頂くのがベターだそうだ

 

彼女らの食べているコースもそのご多分に漏れず、早くも濃厚な味のタネに差し掛かっていた

 

「このかぼちゃホクホクでおいしいね」

 

「衣はサクサクなのに、中は違う食感。面白いねぇ」

 

「楽しんでくれているようでなによりだ」

 

 

食い気の張る2人にペースを引っ張られ、有澤は大して食べないうちに早くも締めのお茶漬けが出ようとしていた

 

「すごい立派なかき揚げだよ、さくちん」

 

「これをお茶漬けで……なんと贅沢な……」

 

「もちろん、お茶漬けのお茶は京都の煎茶だ。美味しいなんてもんじゃないぞ」

 

目の前で茶碗にお茶が注がれる

お茶の豊かな香りが広がり、かき揚げとご飯を一緒に頬張れば口の中は旨味でいっぱいだ

 

 

「あぁ、溶ける……」

 

「お姉ちゃん、これは……」

 

「はっはっはっ、満足してくれたようで何よりだ。では次は美しい庭園をみながらゆっくりしようか」

 

「おじさんナイス」

 

「隆文おじさん、お菓子も」

 

「もちろんだ」

 

 

 

その後は京都の外れにあるこじんまりとした寺で、木々に囲まれながらゆっくりとお茶をすすり、和菓子を頂く

 

「はぅ~、これは束さんも思わずため息だねぇ」

 

「やっぱり、京都に来たら抹茶をいただかないとね」

 

「私は君たちを見ているだけでお腹いっぱいだよ……」

 

「おじさん変態くさい」

 

「隆文おじさん気持ち悪い」

 

「おうふ……」

 

有澤は美女2人から精神的にフルボッコにされながらも、ゆったりとした時間が流れる

 

「さくちん、明日は?」

 

「今晩東京に移動して、明日の午前中にIS学園の視察。その後は日本の国家代表様とご対面だよ」

 

「やっとちーちゃんに会えるんだ!」

 

「アポ取るの大変だったんだよ?」

 

「うんうん、さくちん頑張った!」

 

てへへ~と照れる様子はまさに天使だったが、ここで口に出しては屠られると察した有澤はガチタンの精神で自制した

 

 

「そうか、チケットは取ってあるのか?」

 

「もちろん、5時半のひかりです」

 

「え、もう4時だ、急ぐぞ!」

 

「あわわ、おもわず時間忘れてたよ!」

 

残ったお茶を一すすりで飲み干し、ゆっくり味わいたかった練切を一口で頬張る

 

「おひふぁん、ふぁっひゅふぇ(おじさん、ダッシュで)」

 

「応!」

 

 

車は一路、京都駅に法定速度オーバー気味で走っていった

 

 

時刻は5時23分。

 

「間に合ったぁ!」

 

「何とかなりますね。おみやげも買いましたし、隆文おじさんありがとうございました」

 

「ありがとね、おじさん」

 

「いやいや、また日本に来た時は言ってくれ、美味しい店を紹介しよう」

 

「そのときはお願いします、では」

 

「じゃあね!」

 

「ああ、体に気を付けてな」

 

 

改札を抜け、プラットフォームに向かう着物美人2人を見送る有澤はどこか、田舎に帰ってきた娘を見送る父親のようであった

 

 

 

「さくちん! 着物着たままだったよ!」

 

「まぁ、仕方ないし、ホテルまでこのままだね」

 

「えぇ、目立つよぉ」

 

「お姉ちゃんは十分目立つことをしてきたでしょ!」

 

「だけどさぁ!」

 

 

車内の銀髪着物美人と、いかにもな大和撫子は良くも悪くも目立っていた

 

「お姉ちゃんは今篠ノ之束ではなく、篠崎束音なんだから、気にしたら負けだよ」

 

「うぅ」

 

「着物も似合ってるし、ウィッグも合わせて千冬さんっぽいんだから、もっとしっかりして、ね」

 

今日の束の出で立ちは、素の赤紫の髪ではなく、黒いロングのウィッグをつけていた。

人前に出るときのよくある変装だったが、モデルは千冬であった

 

「ちーちゃんっぽく、ふわぁ」

 

一気に疲れが来たのか、名古屋に付く前に寝息を立て始めた束に、櫻はひとつため息をついてから寄りかかるように眠りについた


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