Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
その後、紫苑は自身のコネをフル活用し、束に新たなる戸籍を与えた
これで時間は稼げるだろう
これからどうするかといえば、企業連で束を匿いつつ世界がISをどうやって扱い出すのかを見守ることだ
「さくちん、ママさん、これは何処に向かってるのかな?」
スイスのチューリッヒ国際空港に到着した天草一行は、そこで待たせていた車に乗り換えて幹線道路を走っていた
「いまはフュルステンベルクの屋敷に向かってるわ、大きな湖の近くのいいところよ」
「お屋敷もでっかくて、1日じゃ探検出来ないくらいだからね」
「そ、そうなの……」
束が呆気にとられるほどの余裕で従者であろう壮年のドライバーと話す紫苑を横目に、櫻に助け船を求める
「さくちん、運転手さんとかは家の人なの?」
「そうだよ、あの人は執事のハインリッヒおじさん。他にもメイドさんとかが何人か居るよ」
「さくちんの家って一体なんなの……」
「よくわかんない、ムッティに聞けばわかると思うけど。ねぇ、ムッティウチってなんなの?」
「櫻、自分の家系も知らなかったの?」
「え、そんなにすごいの?」
「すごいかどうかは別として、貴族の家系よ? ファーティのご先祖様がもともと湖のあたりを治めていたの」
「え、ファーティのご先祖様すごい」
「束さんは理解が追いつかないよ……」
「まぁ、最近は貴族も血統だけだから、あまり意識しなくても平気よ。束ちゃんも、友達のお家に泊まるつもりでいればいいから」
「はぁ……」
執事、という単語が出てきた時点でお金持ち? などと予想していた束だったが、まさかの貴族で束の思考は停止寸前だった
――ってことは、ママさんが今の当主で、さくちんは次期当主ってことだよね……今まで私はなんて人たちとの交流を持っていたんだろう……
束が何が起きたかを理解したようで、驚きが顔に浮かんでいるのを見てから、外に目を向けると、遠くに湖が見えた
「櫻、束ちゃん、遠くに見えるあれが、ボーデン湖、ライン川の湖よ」
世界史でお馴染みのライン川はスイスアルプスを源流に、フランス、ドイツ、オランダの4カ国を流れる国際河川だ。
ボーデン湖はその上流側、アルペンラインと呼ばれる部分に位置する大きな湖である
フュルステンベルク候家は古くにその一帯を治めていた。
「もっと遠くに本家の城があるんだけど、今は観光地として開放してるからあまり住む気に成れないのよね」
「「そ、そうなんだ……」」
娘すら知らなかった驚愕の事実である。
「それで、これからどうするの?」
おそらく空気に耐えられなくなった束が尋ねる
「企業連で束お姉ちゃんを匿うよ」
「え? さくちんは一体何者かな? 束さんはもう何言われても驚かないから言ってみよ?」
「サクは企業連の次期プレジデントなのです☆」
「うん、わかった」
「ふぇぇ、束お姉ちゃん本当に驚いてくれなかったよぉ」
隣の紫苑に泣きつくフリをする櫻
束に向き直ると
「まぁ、しばらくは日本で拾ってきた科学者さんということで、ローゼンタールで雇うよ」
なんてあっさり言い放った
「へぇ、束さんお仕事なんてできないよ?」
「そこは平気だよ、ISの研究、とか適当な名目で研究室を立ち上げたから、そこで思う存分ISの装備を考えてもらうよ」
「IS本体じゃないの?」
「そんなことしたら束お姉ちゃんだって一発でバレちゃうじゃん」
「それもそっか――」
「家の地下に前の家にあったのと同じ設備を用意したから、そこでIS本体はつくろ?」
「さくちんナイス! 束さん感動した!」
「ムッティが気を利かせてくれたからだよ?」
「そうなの? ママさんありがと!」
「束ちゃんにはいっぱい楽しませてもらってるから、これも必要投資だと思ってるわ、気にしないで頂戴」
「あとで探検だね、さくちん」
「うん!」
これからの生活に夢をふくらませ、新たなる決意を胸に束はドイツの地に足をつけた