Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
研究所の設備もほとんど揃い、居住区も家具や小物が揃ってきた。
今日はそんな新居への引っ越しの日。
と言っても、天草からの荷物はほとんど無く、せいぜい数日分の着替えだけだ。
曰く「こっちで揃えればいいでしょ?」
だそうだ、傭兵は物資の現地調達など日常茶飯事なのだろうか?
そして、この新居の新たなる住人は……
「やっほ~さくちん! 久しぶりの再会の記念にギュッとしていいよね!」
「束お姉ちゃん! うごっ、苦しっ! 胸! 死n……」
「束! 櫻が窒息する!」
平常運転だった。
「うわぁ~お花畑が見えるよぉ」
「束、どうするんだ?」
「どうするって! どうしたらいいの? ちーちゃん!」
酸素!酸素!と叫びながら機械の間を走り回る束。
それを見ながら千冬は、
「ほら、シャキッとしろ、櫻」
根性論で櫻を元に戻していた。
「あぁ、千冬さん、お久しぶりです」
「ああ、櫻、久しぶりだ。元気にしてたか?」
「もちろんです。千冬さんも束お姉ちゃんも、変わりないようでなによりです」
「アレは変わって欲しいものだがな」
酸素ボンベを引きずってこちらに向かってくる束をみて、苦い笑みを浮かべた。
「束お姉ちゃん! サクはもう平気だから!」
「さくちん! 本当? 大丈夫?」
「大丈夫だよ、束お姉ちゃん!」
「そうかぁ! じゃあ、やることはひとつ! 探検だぁ!」
「おー!」
「お前らは……私は紫苑さんのところにいるからな」
「は~い」
「さくちん行くよ!」
「出発!」
「あら、千冬ちゃん、いらっしゃい。束ちゃんのお手伝い?」
「ええ、そんなとこです」
「もう全部終わっちゃってて暇だったでしょ? お茶でも飲む?」
「ええ、いただきます」
そうして下で
「下ではどうせ探検だ、とか言って走り回ってるんでしょうね」
「そうですね、率先して行ったのは束でしたが」
「やっぱり似てるのよ、あの子たちは」
「確かにそうかもしれませんね」
「こういうと親バカっぽいけど、櫻は頭がキレる分、質が悪いわよ?」
「束は良くも悪くもああですから、櫻の方がずっと大人ですよ」
「あらあら、照れちゃうわ」
娘を褒められ、我が事のように喜ぶ紫苑。
千冬は自分にもこう思うことがあるのだろうか、と少し考えていたが、
「千冬さん、美人だし、いつか家庭も持つでしょうから、そのうち分かるわよ」
「え、ああ、そうですか」
心の中を読まれたようで、千冬は紫苑を不思議そうな目で見てしまった。
「そんな顔しなくても、ただ会話の流れと、相手の顔、主に目を見ていれば自然と何を考えているか分かるわよ」
「そうなんですか」
ここでの教えがこれからの彼女の人生で大いに役に立つことになるのを、この時点での千冬が知る由もない。
紫苑が社会を生き抜く術を千冬に教えていると、
「ムッティおやつ!」
「ママさんおやつ!」
厄介なのが帰ってきた。
「はいはい、2人共、手洗ってきなさい」
「「は~い」」
「娘が増えたみたいだわ」
そう言って笑う紫苑はどこか幸せそうに見えた。
「おやつ~」
戻ってきた束と櫻はおやつを食べながら、
「食べ終ったら早速ISをつくろう! もう頭のなかで何度もやったし、実際に使う機械も見てきたからバッチリだよ! さくちんも手伝ってね!」
「あいあい!」
「楽しみなのはわかるけど、そんなにがっつかないでゆっくり食べてね、2人共」
「はぁい」
「仕方ないけど、ママさんの言うことだからね」
いつの間にか、束は紫苑のことをママさんと呼んでいた。
それに気づいた千冬は友人が他人に馴染んだことを嬉しく思い、紫苑は娘が増えたようだと喜んでいた。
「千冬さんもお母さん、って呼んでいいのよ?」
千冬に耳打ちすると、顔を赤くして、
「そ、そんなことは……」
「あらあら、冗談よ」
どこか残念に思う千冬だったが、それに気づいたのか、
「まぁ、寂しくなったらいつでもいらっしゃい」
としっかりフォローするのはさすが母親といったところか。
千冬も「はい」と小さく返した。
「「ごちそうさまでしたっ!」」
「行くよさくちん!」
「束お姉ちゃん待って! ジャム付いてる!」
相変わらず騒がしい2人を見て、笑い合う千冬と紫苑だった 。