Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

172 / 173
だいぶ遅くなりましたが、京都編突入です。
あと2話3話続けるつもりですが、どれだけかかるかなぁ……


そうだ京都、行こう。

 飛行機に乗ることおよそ1時間。大阪伊丹に降り立ったIS学園2,3年生280人と教員達はそこから学園の手配したバスで京都に直行するグループと大阪市内に電車で下るグループ、そして関西国際空港の社有機見学グループとに別れての初日の自由行動で校外学習は幕を上げた。

 10グループ、43人と案内役の櫻たち、そして引率の教員2人でバスに揺られることもう1時間。関西国際空港に到着した一行、コンクリートの照り返しで暑さ3割増しの中構内移動の為にバスに再び乗り込み10分ほどすると白い巨体が見えてくる。

 

 

「インテレクトキタ――(゚∀゚)――!!」

「企業連の技術の粋……胸が熱くなるな」

「面妖な、変態技術者どもめ……」

 

 思い思いの感想を漏らす中、バスは更に巨体に近づいて行く。巨大なタラップの前に止まると真っ先に櫻と本音が飛び出した。それに続いて引率のセレンと整備課の白坂先生がタラップの前に生徒たちを並ばせた。

 

 

「先生、ここは暑いのでとりあえず中に」

 

「分かりました。みなさん、中にはいってから点呼を取り、見学を始めます。いいですね」

 

 手短に済ませるとタラップをぞろぞろと登っていく。普通の旅客機と変わらないドアを通るとこれまた普通の旅客機と変わらないようにシートの並ぶ機内へと足を進めた。

 

 

「班ごとに座って下さい。班長は点呼を取って私のところに報告に来てください」

 

 セレンが慣れた手つきで統率を取り、席に座らせる。数分で点呼を取り終えると白坂先生と確認を取ると櫻ともアイコンタクトを取った。

 さすがに上級生ともなると落ち着きがあり、高鳴る心を理性で抑えているのが表情に現れている。

 奥から一人の白衣の女性が出てくるとセレンと一言二言会話をしてセレンが口を開いた。

 

 

「それでは、校外学習補助プログラムを始めます。最初にオーメル・サイエンス・テクノロジーIS部門、フロントサービス課の外川さんからお話を頂きます」

 

「オーメル・サイエンス・テクノロジーIS部門フロントサービス課の外川美里です。みなさん、インテレクトへようこそ。私からはこのインテレクトの概要を大まかにお話したいと思います」

 

 スライドを用意してきましたのでご覧ください、と席に備え付けのモニターにスライドを表示させるとそれにそって説明を始めた。

 このインテレクトでは主に本社のバックアップとしての役割があり、世界を回ってのアフターサービスはオマケの機能だ、ということが説明されると生徒たちは各々にメモを取っていく。

 その後も15分ほどスライドを見ながらの説明が続くと質疑応答に移った。

 

 

「大まかにはこのような業務をインテレクトでは行っています。本来の機能とオマケ機能が逆転してしまっていますけどね。今日はみなさんが明日使用する練習機としてHOGIRE(オーギル)を5機、空輸してきました。こんな風に時折輸送機代わりの仕事もしています。では、ひと通り終わったところで質問のある方はいらっしゃいますか?」

 

 無言のひとときが続く。外川は生徒たちを見回すと一つ頷いて「それでは、機内を見まわってみましょうか」と教員2人の方に向いた。

 二言三言会話をすると白坂先生がパンパンと手を打ち、仕事の邪魔をしないように、と釘を刺してから生徒たちを散らせた。

 

 最初に集められたメインデッキは機体前方の1階、2階はVIPルーム、会議室、データセンターなどの社屋としての設備がまとめられている。後方はカーゴスペースも半分にしてISを一度に6機まで整備できるメンテナンススペースが確保されていた。ドアを解放し、排気ダクトを開ければブースターベンチテストも出来る。

 ここにいる整備課の面々が真っ先に向かうのはモチロン機体後方、メンテナンススペースだった。

 

 

「さて、私達も行きますか。懐かしい面々もいると思いますよ、エリジェ先生」

 

「ふふっ。そうですね。期待していなかったと言えば嘘になります」

 

 櫻がセレンに声を掛けると奥では白坂が外川と何か話しているようだ。会話も弾んでいるようにみえる。

 不思議そうな目で2人を見る本音に種明かしをしたのはセレンだった。

 

 

「あの2人は大学で同期だったみたいですよ。さっき白坂先生から聞きました」

 

「ほぇ~。先生たちの経歴はやっぱり不思議だね~」

 

「ブリュンヒルデや候補生からこっちに来た先生も居れば、白坂先生のように大学から直接来た人も居ます。民間出身の先生も居て……普通の学校じゃありえませんね」

 

「普通じゃないから……」

 

 呆れたようにつぶやいた櫻に本音が頷いた。

 

 

 インテレクトの内部は今日も騒がしい。今回は企業連各社のオーギルを掻っ攫ってきただけに日本語英語ドイツ語トルコ語ロシア語と多種多様な言葉が飛び交っていた。どちらかと言えばオーギル開発元のローゼンタールが多めで、後はパッケージテストの為に各社が寄越した人員だ。

 学園の一行が機体後方、メンテナンススペースに着いた時に見た光景はまさにカオスの一言で、企業の垣根なしに様々な言語で意見を飛ばし合う男女の姿だった。

 

 

「こ、コレが企業連のやり方……」

 

「スゴイね、いろいろと」

 

 呆気にとられ、飾らない本心がポロリと出たところで技術者達がいきなり静まり返って生徒たちを見た。

 思わず短い悲鳴を上げそうになるものの、次に見えたのは青ざめていく技術者達。慌ててある者は奥に飛び込み、ある者は机を漁る。

 誰が言ったか、「せーのっ!」と言う掛け声と共にパンパーン、とクラッカーが鳴り響き、奥では「Welcome to Intellect」と書かれた横断幕がIS整備用のロボットアームで吊るされていた。

 

 

「は……?」

 

 誰かのこの一言は全員の心中を代弁したものだろう。別の言葉を借りるならば「ワケガワカラナイヨ」

 先ほどまでのカオスはどこへやら、技術者達は笑顔を浮かべて混乱する生徒の手を引く。

 

 

「いやぁ、ひどい所を見せちゃったね。ささ、いろいろ見ていってよ」

 

 先陣を斬る白衣の女性はインテリオル・ユニオンのマリー=セシール・キャンデロロ。彼女はコレでもユニオンのCTO(最高技術責任者)だと言うのだから驚きだ。仲介人? 知りませんな。

 他の者はどこから取り出したかコーラのビンを取り出し、未だに混乱する生徒に渡すと軽くぶつけて一口煽った。

 またある者はいきなりパッケージの設計図を見せているし、他所では普通に口説いていたりした。

 ある意味お祭り騒ぎの職場を見て溜め息を着くのはこのフライトの責任者、外川と企業連の責任者、櫻だった。

 

 

「皆さん、楽しんでいるようで何よりです」

 

「未来の後輩のために気合を入れるのは結構。ですが、自身の立場をわきまえた行動を取るのが社会人ではありませんか?」

 

「外川っ……」

 

「修羅だ……」

 

 背丈のあまり変わらない2人から絶対零度の微笑みを向けられ、技術者達だけでなく、学園の生徒たちも頬が引きつった。

 後ろからその光景をみたセレンと白坂が苦笑いしながら本音に助けを求めると、どこからか取り出したハリセンを振りぬいた。

 

 

「っつぅ!?」

 

 思いの外おおきい音と衝撃に本音が少し驚いた顔をしているが、それ以上に一撃で凍った場をさらに凍らせたのは流石に想定外としか言い様がない。

 

 

「本音ちゃん……もう少し他になにかないの?」

 

「せっかく大阪まで来たんだし、こういうのもありかな~って思ったんですけど……」

 

「ここに関西人は居ない」

 

「おぉ~、かんちゃんさすがぁ~」

 

「何が『さすが~』なの…… 私の想像してたハリセンよりずっと重いんだけど!?」

 

 気がつけば真面目に機材や仕事の説明を始めた技術者達を尻目に櫻は頭を擦る。教員2人から呆れたような笑みをもらってから4人は機内見学を始めた。

 

 

 

 ----------------------------------------

 

 

 

「さ、3人共よく似合ってるぞ……」

 

「一夏さんからそう言っていただけると嬉しいですわ」

 

「一夏もお世辞が言えるようになったのね、いいことだわ」

 

「改まって言われると照れくさいな……」

 

 一夏達の班が訪れたのは京都。駅の近くで着物のレンタルをする店があることを事前に調べていたセシリアの提案で4人とも着物で京都を回ることにしたのだ。

 こだわりの強いセシリアの言で、夏とは言え浴衣ではなく、一夏は紺の色無地着物、女子3人は和柄の着物を選んで着つけてもらった。

 

 

「わたくしのわがままに付きあわせてしまって申し訳ありませんわ」

 

「いいのよ。着てみたかったんでしょ?」

 

「ええ、以前浴衣はみなさんと一緒に着ましたが、こういったものも一度着てみたかったので」

 

「せっかくの京都だ、着物で回るのも一興だろう」

 

「そうだよな、1日あるし、ゆっくり楽しもうぜ」

 

 まずは三十三間堂に行きたいですわ! と言うセシリアの声で一行はバスに乗り、三十三間堂へ向かった。

 道中、平日にもかかわらず賑わう大通りを眺めながら4人は10分ほどで博物館三十三間堂前バス停に到着、拝観料を支払い境内に入るとまもなく教科書でお馴染みの1000体の仏像が並ぶ120mの本堂をゆっくりと歩き始めた。

 

 

「うわぁ……」

 

「言葉に困るとはこのことを言うのだな」

 

「教科書じゃ見たことあったけど実際に見ると圧巻ね」

 

「…………」

 

「おーい、セシリア~?」

 

 呆然とするセシリアの肩を鈴が叩いてやっと我に返るセシリア。

 和服の金髪美女が仏堂でボーっと立っている光景はあまり珍しくないのか、チラホラと見かける観光客の人々はちらりとセシリアを見ると小さく笑ってそのまま歩き去る。

 

 

「あまりのオーラといいますか、雰囲気に圧倒されてしまいましたわ……」

 

「だよな。これだけ仏像が並んでいると居るだけで何か悟りが開けそうだ」

 

「一夏は煩悩だらけだろうに……」

 

「ん? 何か言ったか、箒?」

 

「いや、なんでもないぞ。本堂は120メートルもあるそうだ。往復したらいい運動だな」

 

「それにしてもコレが何百年も前に作られたんでしょ? スゴいことよねぇ」

 

「この仏像もすべて手彫なのでしょう? つくづく日本の歴史には驚かされますわ」

 

 その後もゆっくりと本堂を巡った4人は程よくお腹をすかせて戻って来た。

 一旦境内から出て京都国立博物館を見ながら七条通沿いを歩きながら話すことは昼食のメニューだ。

 

 

「どうする? 時間もちょうどいいし、ココらへんで飯にするか?」

 

「そうね、広い仏堂歩いたらおなか空いたわ」

 

「せっかく京都に来たんだ、らしいものを食べたいな」

 

「京懐石、でしょうか?」

 

「それは学生の食べるものじゃ…… お財布的に……」

 

 残念です。とすこししょんぼりなセシリアを引き連れてしばらく通りを京都駅方面に歩くとそば屋の看板を見つけた。

 立地的に観光客向けであることは間違いなかったが適当な物を食べるよりマシ、と連れ立って入るとそれほど多くない客入りの中からテーブル席についた。

 

 

「もちろんにしんそばよね」

 

「だが、どうして京都でにしんそばなんだ?」

 

「江戸時代に北海道から運ばれてきた乾燥にしんを使ったそばを出していたんだ。いらっしゃい、にしんそばでいいかい?」

 

 お冷を持ってきた店主の男性が簡単な説明をしている間にセシリアが調べたらしく、言葉を付け足した。

 

 

「ニシン漁の盛んだった北海道から北前船で運ばれてきた乾燥にしんを使ったそばを四条大橋の南座にある松葉、というお店で出したのが始まりだそうです。当時の京都では魚の干物は貴重なタンパク源だったそうですわ」

 

「なるほどね。おっちゃん、にしんそば4つね」

 

「はいよ、ちょいと待ってな」

 

 さっさと厨房に入った店主が数分で丼を4つもって戻ってきた。

 手際よく4人の前に並べると伝票を一夏の前に伏せ、耳打ちした。

 

 

「男なら女の子の分も持ってやれよ、それが甲斐性ってもんだ」

 

「え、ええ。そうですね」

 

 ちらりと伝票を見ると高くはないが決して安くはない4桁が並んでいた。さすが観光地、そう思った一夏は目の前のにしんそばが伸びる前に少し甘い汁の絡むそばをすすった。

 

 

 ----------------------------------------

 

 

「シャルロット、姉様、次はアレが食べたいぞ!」

 

「ちょ、ラウラ、待って……!」

 

「ラウラ、少しは落ち着きを……!」

 

「はぁ……」

 

 シャルロット、ラウラ、クロエ、そしてマドカの4人は京都のほぼ中心、清水寺の前、清水坂に来ていた。平日といえど昼前、人はそこそこ多い。

 そんな中でラウラはアレに目を輝かせ、コレに目を輝かせと、気がつけばトテトテと居なくなるためにシャルロットだけでなくクロエまで振り回されていた。もちろん、マドカは"3人の"お目付け役だ。

 

 

「コレが生八ツ橋か。ふむぅ」

 

「お昼ごはん入らないよ……」

 

「同意です。それも甘いものばかり……」

 

「その分動けばいいだろうに。今みたいに」

 

「美味しい!」

 

 どこまでもラウラが初めての生八ツ橋に感動する影で苦労人たちは甘いなかにピリッと香るシナモンを煎茶で流すと「はうぅ」とだらしのない息をひとつ吐いた。

 今更だが、まだ半分も歩いていない。あまり距離のない坂で何をこんなに時間を掛けるか。もちろんラウラの好奇心故に過ぎず、ラウラのポシェットに入る扇子もさっき買ったものだった。

 何か思い出したようにラウラが扇子を取り出すとクロエにカメラを渡した。

 

 

「姉様、写真を取ってくれ。ふふっ、どうだろう?」

 

「可愛いですよ。今度は束さまと櫻さまと一緒に来ましょう」

 

「そうだな。最近はいつも忙しそうだし…… 博士は今なにをしてるんだ?」

 

「秘密ですよ。コレばかりはたとえ千冬さまにも言えません」

 

 茶屋の軒先に扇子を持って佇むラウラは確かに可愛らしい。唯一文句を付けるなら、学園の制服が風景に似合わない点だけだろう。シャルロットが母親のような柔らかい笑みを浮かべているのを見る限り、なんら問題ないようだ。

 ラウラが少し拗ねたような顔をした所でシャッターが切れた。

 

 

「こんな表情もいいですね。シャルロットさん、どうでしょう?」

 

「カワイイね。今度は着物を着せたいなぁ。モチロン、クロエさんも」

 

「わ、私もっ?!」

 

「いいんじゃないか? ラウラは茶道部で普段から着ているわけだし、慣れたものだろ」

 

「確かに、ここに制服じゃ風情が無いな」

 

「次の反省だな。ポラリスの慰安旅行を楽しみにしよう」

 

 ケラケラと笑って先を行くマドカを追うように3人も軒先を立った。遠くに小さく見える赤い門。それまでにラウラの興味を引くものがいくつあるだろう。

 彼女の欠けてしまっていた場所を埋めるがように様々なピースをはめ込んでいくのだ。たとえ、それがどんなものであれ、彼女のためならば。

 

 

「シャルロット、シュヴァルツェ・ハーゼの皆に何か送ろうと思うのだが、コレはどうだろう?」

 

「ウヒッ?!」

 

「ラウラ、悪いことは言わない。ソレ(京人形)はやめておけ」

 

「そうか? ならコレ(こけし)はどうだ?」

 

 

 ----------------------------------------

 

 

「隊長! 隊長から、いえ、ラウラから荷物が届いています!」

 

「ラウラから? 開けてみましょう」

 

「こ、コレは……」

 

「こけし、ですね。それも全員分」

 

「フランツェスカ。全隊員に通達、本日2000を持ってシュヴァルツェハーゼは第46回日本文化強化週間に入る。今回のテーマは『和』だ」

 

「隊長がついにオタク文化からの脱却を……! 了解! 全隊員に通達します!」

 

 

 ドイツのとある基地での一コマ……




全回の話でシャルロットとラウラはクラスメートを捕まえたと言ったな。アレは嘘だ。

クロエの他人の呼び方と口調がいまいち安定しないのは仕様。
ポラリス関係者→呼び捨てor~さま
学園→~さん

対ラウラ→砕けた口調
それ以外→形式的


こんな感じですかね?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。