Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
私はIS学園整備課3年の黛薫子。新聞部部長だ。おそらくこの学園で私を知らないのは壁新聞を見ない1年生くらいだろう。
どうしてこんなわざとらしい自己紹介をするか? 今日は来週に控えた学年別トーナメントの特別号に載せるインタビューをするのだ。相手にアポを取ったとしても自己紹介は大前提。特に今の2年生からは私は「厄介事を呼ぶ面倒な人」とか思われていそうなので「デキる女」でもあることを見せつけてやろう。
そう思い立って各学年の専用機持ちにインタビューを行い、最後は人数の多い2年生だ。最大の敵でもある。
「新聞部部長の3年、黛です。今日はよろしくお願いしますね」
「えっと、黛先輩、どこか具合でも悪いのでしょうか?」
食堂の一角に陣取り、さぁ始めようと丁寧な自己紹介をしたらテルミドールさんが開口一番に言い放った。失礼な話だ。私だって真面目にやろうと思えばできるんだからなっ!
「いえ、今日は真面目にやろうかと思いまして。月末のトーナメントへの意気込みなどをお聞かせいただこうかと」
織斑君から、と促すと去年と変わらず面白みのない真面目な意気込みを聞かせてくれた。
「去年は中止になっちゃいましたが、今年こそ正々堂々頑張ります」と。彼は真面目というか固いというか…… もう少し気の利いたことを言ってくれればいいのだけれど。
彼の発言を一言一句逃さずメモ帳に書き込んでいく。オルコットさんが私の正確な記述に目を見張っている。あぁ、普段の行いってこういう時に響くんだなぁ、と少し思った。
続いてそのオルコットさんに話を聞いた。
「昨年は残念ながらトーナメントに参加すら出来ませんでしたが、今年はソロでのトーナメントです。ライバルも多いように思いますがどこまで行ける自信がありますか?」
「もちろん狙うは優勝、と申し上げたいところですが、わたくしの機体は1対1では不利になりがちですの。最近は模擬戦の結果も振るいませんし…… ですから、自分の戦いをできればそれで満足ですわ」
「去年のオルコットさんなら優勝以外ありえない、と仰っていそうですが」
「ええ、そうですわね。ですが、1年間でわたくしも様々なことを学びました。IS以外にも。そういった面でもわたくしを見て頂ければ幸いですわ」
「ありがとうございます。次は篠ノ之さん。お願いします」
本当にオルコットさんは1年で大分落ち着きが出たと思う。去年、織斑君のクラス代表就任パーティーで話を聞こうと思って長くなりそうなので適当に切ったことを思い出す。
それと比べれば今は本当にほしいコメントを、自分の想いを、しっかりと語ってくれた。私が聞きたかったのはこういう言葉だ。
布仏さんや織斑さん――マドカちゃんの方だ。はガチガチに緊張しているのが見て取れるが他の8人はとても落ち着いている。代表候補生はわかる、テルミドールさんも仕事柄こういう場面は慣れっこなのだろう。だが、篠ノ之さんはどうだろう? このような場面に慣れているとは思えないが、とてもリラックスしているように思う。
「そうですね、一夏と被るようですが自分の力を出しきって戦うまでです。いつもの模擬戦の延長だと思ってリラックスして行きたいですね」
「篠ノ之さんには失礼かもしれませんが、「武人」という雰囲気を持つ方が多いと思います。そう思われることについては」
「仕方のない事です。私にはそれしかありませんでしたから」
「ありがとうございます。じゃぁ……ウォルコットさん」
自然な口調、肩肘張らない姿勢。織斑兄妹のように妙に背筋が伸びることもなく彼女らしい短い言葉で語ってくれた。その後も同じペースでインタビューは続き、10人全員から話を聴き終わったのは初めてから1時間ほど経った後だった。更に言えばこの後たっちゃんとサラちゃん、櫻ちゃんとボーデヴィッヒさんの4人に各国のIS事情についてのインタビューもある。先生に話を聞きに行かなきゃいけないしここは早めに締めさせてもらおう。
「みなさん、長い時間ありがとうございました。トーナメントもがんばってくださいね」
席を立って一礼した私にみんな口々にありがとう、と言ってくれる。普段の強引な聞き口だとこうはいかない。たまには真面目にやるものだ。真面目に聞けば真面目な答えが返ってくる。いつも副部長のメグに言われるが、改めてその意味を理解できた。
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特集その2『スペシャリストに聞く、各国IS事情』
学年別トーナメントで注目される生徒たちのインタビューの次は登場するISについてだ。今日はロシア代表の3年、更識楯無、イギリス代表候補生、3年サラ・ウェルキン、オーメル・サイエンス・テクノロジーCEO、2年キルシュ・テルミドール、そして元ドイツ軍特殊部隊隊長。現ローゼンタールテストパイロットの2年、ラウラ・ボーデヴィッヒの4人に各国のISについて話を聞いた。
黛薫子(以下黛)「改めまして、今日はお集まり頂きありがとうございます」
キルシュ・テルミドール(以下櫻)「黛先輩、本当に大丈夫ですか?」
更識楯無(以下楯無)「ホント、いつもどおりでいいのよ?」
黛「そうですか? ならいつもどおりに。今日は各国のIS事情について、そしてトーナメントでの専用機攻略についてそれぞれどう思ってるのか聞かせて?」
ラウラ・ボーデヴィッヒ(以下ラウラ)「どうしてこのメンツなのだ? 3年の整備課や代表候補生なら他に居るだろう」
サラ・ウェルキン(以下サラ)「得意分野の違いかしら? 特殊攻撃のたっちゃん、遠距離狙撃の私、中近距離のボーデヴィッヒさん、テルミドールさんは技術解説かしら」
黛「その通り。解説の手間が省けるね。とりあえず本題に入るね。まず、今回1年と2年の2学年に配備されたレーゲン型。コレについてラウラちゃん、お願いします」
ラウラ「知っての通りドイツの第3世代機だ。1号機は昨年私の事故で解体されてしまったが、3号機の
サラ「私は直接戦ったことは無いけれど、標準装備のレールガンはかなりの威力があると思うわ」
楯無「確かにそうね。前に一撃食らったときは(シールドエネルギーが)3割も削られて驚いたもの」
黛「他に機体や装備、そして攻略のポイントは? 櫻ちゃん」
櫻「ラウラの言ったとおりレーゲン型は厚めの装甲と充実した実弾兵器が特徴ですね。ネーブルは2門、アイゼンは1門のレールガンはISに載る武器ではトップクラスの威力があります。攻略のポイントは威力の高いレールガンをいかに喰らわずに削れるかだと思います」
楯無「簡単に言うけど、かなり難しいわよ? ラウラちゃんにはAICもあるし」
黛「そうそう、ラウラちゃんのイメージ・インターフェイスを使った特殊兵器には停止結界があるけど、ニーナちゃんの機体にはあるのかしら?」
ラウラ「国家機密に該当するから言えないが、間違いなくなにかあるだろうな」
サラ「それって宣言してるも同じじゃない」
一同笑
黛「次はイギリスのティアーズ型。これは2年のセシリアちゃんだけね。先輩として、後輩に専用機を取られてどうなの?」
サラ「もちろん悔しいわ。だけどブルーティアーズの代名詞、多数のビットの操作には適正があるのよ。それが私よりセシリアの方が高かった。それだけよ」
黛「サラちゃんもブルーティアーズに乗ったことはあるの? やっぱり狙撃主体?」
サラ「ええ。開発当初には私も関わったわ。今もデータは見てるし。バトルスタイルは、そうね、やっぱりスターライトMk.Ⅲでのロングレンジね。1対1ではビットは牽制程度しか使わないと思うわ。その分機動力を上乗せしてくるから注意ね」
ラウラ「最近の模擬戦ではブレードを使った近接戦闘にもつれ込むことも多いが、ブレードの扱いもなかなかのものだぞ。箒直伝だ」
サラ「そうなの? あの子も頑張ってるのね」
黛「この前インタビューした時は成績が振るわないって言ってたけど」
櫻「まぁ、あのメンツだと仕方ない面もあるね。鈴とコンビを組むと無敵なんだけど」
楯無「役割分担もできてるし、二人の仲もいいしね。私も2人の相手は大変だったわ」
ラウラ「それでも勝つあたりこの女もえげつない」
黛「(笑)そうね。次は…… 中国の
楯無「見ての通りの近接バリバリモデル。鈴ちゃんも乗り方を熟知してるわね」
櫻「そうですね。龍砲も仕掛けさえ解かれば怖くありませんし。2年の専用機持ちはみんなわかってるのでここでは言いませんが聞いてくれれば教えますよ」
ラウラ「だが、見えても飛び道具が厄介なことに変わりない。一番やっかいなのは360度自由に打てる所だろう」
サラ「砲身のない
黛「それ以外に何かポイントはありますか?」
櫻「甲龍は全体的にバランスのとれた機体なので欠点もなければ秀でた点もありません。鳳さんとのペースに飲まれないように気をつければ勝機は見えてくると思います」
楯無「私も同意ね。あの子は自分のペースに入るとすごく強いからひたすら距離をおいて飲み込まれない事が大事ね」
ラウラ(頷く)
黛「シャルロットちゃんのアンビエントアペンディクスってどんな機体なの? 正直私も2~3回しか見たこと無いんだけど」
櫻「BFFの第3世代機で、ロッテのモデルは近中距離の前衛向きの機体ですね。でも、やろうと思えば超超遠距離精密射撃もできますよ」
黛「なんか売り込みっぽいね。まぁ、身内だし仕方ないかもしれないけど」
サラ「機体とはあまり関係ないけど、彼女って銃の扱いがかなり上手いのよね。それに武器の展開、格納がとても早い。
楯無「シャルロットちゃんは空気を読むのが上手い子ね。こっちが近づくとちょちょっと逃げちゃうし、かと言って離れようと思うといつの間にか近くにいるのよ。それに、一度負けちゃってるしね」
ラウラ「2年の専用機持ちの中で背中を預けるならシャルロットか櫻、次点でマドカ、そう思うくらいに人に合わせるのが上手い奴だ。私がやって欲しいと思ったことの120%の答えを返してくれる」
黛「みんなすごい高評価だね。11月のタッグトーナメントでの気迫は確かにすごかったしね。よし、次、たっちゃんのミステリアス・レイディ」
楯無「おねーさんの機体は――」
サラ「紙装甲」
ラウラ「変態能力」
櫻「爆発」
黛(笑)
楯無「もう! そこまでひどい言い方しなくてもいいじゃない!」
サラ「だってたっちゃんのミステリアス・レイディ、装甲が無いから水で包んでるんでしょう?」
楯無「そ、そうだけど……」
ラウラ「ナノマシンを溶かした水をコントロールなんてどこの誰が思い浮かべたんだろうな」
楯無「ぐぬぬ……」
櫻「必殺は水蒸気爆発ですよ? 攻性成形して一撃に賭けることもできるそうですけど、それって防御用のナノマシン水使ってるわけですから諸刃の剣ですよね」
楯無「薫子ぉ! みんながいじめるのぉ!(泣)」
黛「はいはい、いい子ですね~、たっちゃんが強いからみんな嫉妬してるだけですよ~?」
ラウラ「こんな奴が生徒会長でいいのか?」
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黛「気を取り直して第3世代最後、櫻ちゃんのアリシア。正直見たことも聞いたこともない。あぁ、この前発表会見を見ただけかな?」
櫻「オーメルの第3世代実用機です。イメージ・インターフェイスで操縦者の脳を使ってISをオーバークロックできます」
楯無「危なくないの?」
櫻「ビット操作と同じですよ。頭の片隅をちょこっと使うだけです」
サラ「簡単にいうけどそんなことが出来るの?」
櫻「話すと長くなるので後でご説明しますね。それで、特徴ですか……」
ラウラ「逆関節」
黛「え?」
ラウラ「逆関節だ。正確には脚の関節が1箇所多い」
櫻「普通、脚ってくの字に曲がりますよね? 爪先部分を延長してくるぶしにマニピュレーターの関節を設けたんです」
楯無「キモチワル……」
サラ「たっちゃん!」
黛「(苦笑)それで、関節を増やすとどんな利点が? あぁ、これは記者というより整備課として……」
櫻「マニピュレーター頼りの脚になるので地上でブースターにできない動きが可能になります。反面すこし高さがありますけど」
黛「例えば?」
櫻「ブースターに頼らないハイジャンプとか、PICを切っての複雑な機動も幅が広がりますね」
楯無「でも、実際にはあまりウケが良くないんでしょ?」
櫻「うぐっ…… 市場の反応は良くないです……」
黛「これは以上は後で個人的にお伺いしたいです。さて、おまちかねの第4世代機。2年生に4機ですかね。整備課でも触れせてもらえない貴重なものです」
楯無「正直一夏くんは敵じゃないのよね。箒ちゃんはこの前鍛えたらかなり強くなったけど」
サラ「織斑君は……見てても結構残念よね」
黛「3年からは厳しい意見ですね。その織斑君の白式、機体はどんなものなんでしょう?」
ラウラ「機動力と瞬間的な火力は絶大だな」
楯無「でも操縦者がねぇ」
櫻「それでも去年よりずっと上手くはなってます。零落白夜に気をつけて、実弾メインで戦えば余裕ですが」
サラ「みんな織斑君のことキライなのかしら?」
黛「そんなこと無いと思うけど……。つ、次行きましょ。箒ちゃんの紅椿。これは篠ノ之博士お手製の機体でしょ?」
櫻「はい。最初はリミッターが掛かってましたが、今では無いも同然です。間合いに入ったら最後でしょうね」
楯無「箒ちゃんのセンスは相当なモノよ。剣道をやっていたのもあるかもしれないけど、自分の届く範囲がしっかりわかってる。どれだけブースターを噴かせばどれだけ距離を詰められるか、しっかりと頭と身体でわかってるのが強みね」
サラ「エネルギー主体な上に機動力も相当。織斑君もそうだけど、セシリアとは愛称が悪いタイプよね」
ラウラ「実際にセシリアは2人には負けが多い。だからブレードの取り回しを訓練しているんだろうな」
黛「代表候補生の機体はよくも悪くも尖ってるから、それが響くのかな? 次はマドカちゃんの白騎士。白騎士事件の白騎士とほとんど同じ姿なのよね」
櫻「わざとそう作りました。カッコいいでしょ?」
一同頷く
櫻「それに、一夏君のと違ってちゃんと飛び道具も揃えてますし、バススロット使えますし」
楯無「一夏君へのあてつけは程々に、ね? だんだん可哀想になってきた」
ラウラ「だが、操縦者は2年、いや、学園でもトップクラスだろう。単純に操縦なら櫻よりずっと上手い」
サラ「2年生はほとんど映像で見ただけだからわからないけれど、彼女もまた独特な動き方をする子ね」
櫻「ポラリスの中では千冬さん、じゃないや、織斑先生の再来って言ってましたよ。それくらい織斑先生そっくりな動き方、戦い方をするんです」
黛「入試の映像が公開されてるけど、最後のエネルギー弾に混じっての突撃とか、普通は避けたり防ぎたくなるよね?」
楯無「そうね。マドカちゃんの戦い方と他の子の戦い方の圧倒的な差は生への執着かもね」
ラウラ「ほぼ正解だろう。軍属と文民の差はソコに出る」
サラ「死地を経験しているか、命の奪い合いを想定しているか、ね…… 私もまだまだ浅いかなぁ」
櫻「でもそうそう死地なんて経験できませんよ。しないほうがいいですしね」
黛「話が重くなりそうだから最後に行きましょう。クロエちゃんの黒鍵と本音ちゃんの白鍵ね」
サラ「コレって読みは《くろかぎ、しろかぎ》なの?《こっけん、はっけん》なの?」
櫻「《くろかぎ、しろかぎ》です。両方共どちらかと言えば支援向きなので武装は汎用のものがほとんどです。まぁ、どれも改造済みだったりしますけど」
楯無「パイルバンカー、クレーター作ってたものね……」
ラウラ「本音は怒らせてはならない」
サラ「クロエちゃんはいい子よ?」
ラウラ「当然だろう」
黛「えっと、固定武装が無いのが逆に戦略を読みづらくしてるってことだね。もしかしたら大穴で……」
楯無「ありえるわ」
黛「さてさて、今日はここまで。皆さんありがとうございました」
一同「ありがとうございました」
当日は第3、第4世代だけでなく、第2世代のヘル・ハウンドやテンペスタ、様々な専用機が熱い試合を見せてくれるでしょう。改めてご協力いただいた4人に御礼申し上げます。それでは、学年別トーナメント、盛り上がっていきましょう!
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原稿を仕上げるとパソコンで他の記事とまとめて紙面を組み立てる。今日は特別、長編インタビューが2本。写真もすこし入れたいので1枚で済ますのは無理そうだ。
「メグ、今回は製本しようと思うんだけど」
「いいんじゃない? 内容が内容だし、そうしたほうがいいよ」
「じゃ、準備して始めよっか。200部も刷ればいいよね」
「ま、いいんじゃない?」
2人で機械の設定をし、スイッチを押すとゴトゴトと音を立てて白い機器達がアップを始める。嗅ぎ慣れたインクの匂いがする部屋で私達のバトルが始まった。