Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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猫の墜ちる日

 ドイツでの夏期講習も終わり、櫻は残りも少なくなった夏休みを満喫していた。

 

「さくちゃん、ここの問題なんだけどさぁ」

「櫻ちゃん、つぎ私にも教えてね」

 

 教会の一室は櫻の友人が来て、宿題を片付けていた。

 

「はいはい、みんな頑張ってるね。お茶とおやつ持ってきたから、休憩にしましょ」

「やったぁ、さくママありがと!」

「ありがとうございます、頂きます」

 

 紫苑が差し入れを持っていくと子供達は緊張から開放された笑みでお菓子を頬張る。

 

「みんな真面目ねぇ、私が小学校の頃なんて宿題もろくにやらなかったわぁ」

「えぇ、さくママ真面目そうだから意外だぁ」

 

 子供達の活力を分けてもらうかのように笑顔を振りまきながら接していた。

 

「でもムッティ頭いいもんね」

「櫻ちゃんのお母さんだから、きっとそうなんだろうね」

「あらあら、そんなこと無いわよ? うふふ」

 

 

 悪知恵を働かせたら紫苑に叶うものは居ないだろうが、とは口が裂けても言えない。

 

「じゃぁ、食べ終わったらラストスパート行くっしょ!」

「「お~っ!」」

「食べ終わったものは適当にまとめておいてね、後で取りに来るから」

「「「はーい」」」

 

 

 元気が良くてよろしい、などと思いながら部屋を出てしばらくすると、ポケットの端末が震えた。

 これは仕事用の無線端末、ドックからの連絡や、任務の請負などに使うものだ。

 つまり、夕飯はなんだ?なんてメッセージでは無いということ。

 

 

「嘘でしょ……」

 

 その画面には

 

 from: T.Kuromorimine

 to: S.Amakusa

 sub: レオハルトが倒れた

 main: no text

 

 

 

 ドックまで全力疾走、検査機器の詰まった医務室に駆け込む。

 そこには、様々な機械に繋がれたレオハルトが居た。

 

「これはどういうことっ!?」

 

 肩で息をする彼女は医療スタッフを捕まえて鬼気迫る表情で訪ねた。

 

「先程、ドックの中でいきなり……」

 

 彼女が言うには、彼がドックで作業状況の確認を兼ねて見回っていたところ、突然倒れたため、その場に居た技術スタッフがあわててここに担ぎ込んだという。

 

「それで、彼は……」

「脳と神経系にかなりの負荷がかかっていて……」

「くっ……」

 

 ついにこの時が来てしまった、リンクスとしての、寿命が。

 

「この後意識が戻るかもわかりません。脳はとりあえず生きているため、生命維持に問題は今のところありませんが、いつ脳死するか……」

「そう、わかったわ。ありがとう。このまま見ていて頂戴、また変化があれば連絡を」

「了解しました」

 

 

 医務室を出ると同時に、大粒のナミダが頬を伝う。

 そのままコントロールルームに入ると部屋をロック。

 

「ああァァァっ!!」

 

 ただの咆哮、悲しいのか怒っているのか、もうそれすらもわからぬまま、感情のままに叫び続けた。

 ひたすらに泣き続けた。

 

 その悲痛な叫びはもちろん、ドックの中にも響き渡り、全員が紫苑の心持ちを察し、黙ってコントロールルームに目を向ける。

 

 

「天草指令……」

「指令……」

 

 全員が手を止め、我が主である紫苑の叫びをただ聞いていた、それしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 日も暮れ、友人たちを見送った櫻は、教会にいない紫苑を探してドックへ向かっていた。

 

「やぁ櫻ちゃん、ドイツはどうだった?」

 

 声をかけたのは黒森峰。状況が状況だけに、いまここで彼女をドックに入れるわけには行かないと、ここで張り込んでいたのだ。

 

 

「拓郎おじさん! ドイツはねぇ、楽しかったよ!」

「そうか、それは良かった。ネクストにも乗ったんだって?」

「そうなの! ファーティとネクストで戦ったんだよ!」

「それはすごいな、どんな勝負になったんだい?」

「えーっとね、ビュンってやってズバババーンでね――」

 

 

 黒森峰は櫻が懐いているドックの人間の中でも、一際の信頼を置いている人物だった。

 紫苑がドックで叫び続け、レオハルトは今も死へ歩みを進めている。こんな状況のドックに櫻を入れるわけには行かない。

 

 だから彼なりに気を利かせ、櫻の足止めをしているが、それもいつまで持つか。

 

 

「それでね、やっぱり負けちゃったんだけど、それでも強く慣れたからいいかなって!」

「そうか、櫻ちゃんは前向きだな」

「ムッティとファーティに言われたんだもん、学んだものの多いほうが勝ちだ、ってね」

「なるほどな、それもそうか。流石は我らがリンクス様だなぁ」

「そういえば、ムッティはドックに居るの?」

「え、ああ。そうだけど、いま忙しいから、また怒られちゃうよ?」

「えぇ、嫌だなぁ。拓郎おじさんはいいの?」

「え、俺かい? 俺はちょっと抜けだして休憩だよ」

「おじさんサボりはいけないんだよ? ムッティにいいつけちゃお」

「え、ちょっと、櫻ちゃん!」

 

 ドックへ向かう櫻、まずい。あのお通夜状態のドックには。雄叫びを上げる紫苑を見せるわけには……!

 

 

「ムッティ! 拓郎おじさんが……」

 

 ドックに駆け込むと真っ先に聞こえたのは雄叫びのような紫苑の叫び声だった。

 

 

「え、ムッティ?」

「ハァ、ハァ。櫻ちゃん、これはね。ハァ……」

 

 いきを切らせた黒森峰が説明をしようとするも、

 

「ムッティに何かあったの? ファーティは?」

 

 紫苑の叫びから何かを察したのだろう。痛いところをつく質問をしてくる。

 

「こ、これはね……」

 

 弁解するまもなく櫻は駆け出していた、行き先はおそらく、コントロールルーム。

 

 

「さ、櫻ちゃんを止めろ!」

 

 黒森峰の叫びにスタッフたちが慌てて櫻を止めにかかるも、軽い身のこなしにすべて避けられてしまう。

 

 コントロールルームの前に立つと櫻は、

 

「ムッティ! 何があったの! ムッティ!!」

 

 母を呼びながらもコンソールを操作し、扉を開けようとしていた。

 すると、泣き叫ぶ声が収まり、

 

 

 

「櫻、お話をしましょう」 

 

 そこには髪をグシャグシャにし、泣きはらした目をした紫苑が立っていた。


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