Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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唐突すぎませんかねぇ!?

 届いた新型のISを整備室でいじりながら仕様の確認作業を勧める櫻と本音。この学園に来てから3度めの専用機使用申請書を慣れた手つきで書き上げ、すでに本棚の半分を占領する分厚い注意書きも変更点だけを読み流すと早くも整備室生活を始めた。破壊天使砲のペンダントから展開してみれば期待した機体(ノブリス・オブリージュ)が出てくるのではなく、真っ白は真っ白でもレイレナードの流れを汲む鋭角的なフォルムの短期決戦仕様の機体が出て来た。一応バススロットに申し訳程度の破壊天使砲が入っているものの、コイツの主武装はレーザーブレード。イメージインターフェイスを用いた特殊装備が操縦者の脳を用いたオーバークロックだと聞けばレイレナード譲りのピーキーさが察していただけるだろう。

 

 

「なにこれ」

 

「トガッてるね~」

 

「なになに? 機体名称アリシア。操縦者の脳でオーバークロック可能? ふざけてんの?」

 

「身体とIS繋いでるさくさくがそれ言う?」

 

「いや、だってさ。怖くない?」

 

「私は神経にIS直結の方が怖いかなぁ~」

 

 純白の逆関節に違和感を覚えつつ引き続き初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)を行う2人の下に招かれざる客がやってきた。

 ノックもぜずにドアを開け入ってきたのは毎度毎度生徒会に絡んでくるちっこいの、天王洲アイルだった。更に言えば隣に何処かで見たような金髪を連れている。

 

 

「今日こそ生徒会の牙城を崩しに来たわ!」

 

「はいはい。そういうのは楯無先輩の所にね~」

 

「いいえ! まずは一番弱そうな書記の布仏! あなたを倒して次に弱そうな織斑一夏のところに行くわ!」

 

「すごい小者っぽいね~」

 

 この前のお説教を聞いていなかったのかと思わせる元気の良さで櫻を放って本音から行く宣言をするアイル。その隣の少女もすこし困り顔だった。

 

 

「それで、隣の娘は?」

 

「よくぞ聞いてくれてたわ。彼女はアメリカの代表候補生の一人。アメリア・イアハートよ! 今日はISバトルで布仏を倒すわ!」

 

「うわ。初めて太平洋を横断した飛行士みたいな名前だね」

 

「彼女は私のえーと。ゴセンゾサマ?デス」

 

「ホント? スゴイね。んで、アイルちゃんとはどういう?」

 

「アイルには『悪の生徒会を倒すのに協力して欲しいの!』と言われまシテ」

 

 ジト目でアイルを見る櫻と本音。当の本人はそんなの何処吹く風という顔で本音を睨み続けている。再び顔をアメリアに戻して本音が続けた。

 

 

「アメリア……りありあ?」

 

「WoW! 素敵なnicknameですネ!」

 

「りありあは私と戦いたいの?」

 

「そうですネー。勝っても負けてもPolarisのメンバーと戦えれば私が成長すると思いマス」

 

「ちっこいのと違っていい子そうだね」

 

「ね~」

 

「ちっこいの言うな! 次の次の次には覚えてなさい!」

 

「そんな先なの……」

 

「もちろんよ! 次は織斑一夏。その後にあのちっちゃい銀髪なんだから!」

 

「「「(お前が言うな……)」」」

 

「ま、本人はいいって言ってるし、行って来れば?」

 

「久しぶりの白鍵だ~」

 

 う~ん、と伸びをする本音を見てアイルの顔に焦りが浮かぶ。おそらく"生徒会の下の方なら専用機なんてもってない"なんて甘い考えをしていたのだろう。まだあどけなさの残るアメリアを舐めるように見ながら櫻はすこしばかり考えていた。この娘どこかで見たなぁ、と。

 

 

「アメリアちゃん。専用機持ってるでしょ?」

 

「ハイ。ヘル・ハウンドのモディファイドですネ。3rdGenではありまセン」

 

「事前報告どおりね。すこし機体を見せてもらえる?」

 

「アンタ! 機体に細工しようって言うんじゃないでしょうね!」

 

「ただでさえアンフェアなのにそんなマネしないって。私は一介の技術者として、ね」

 

 オーメルの社員証をアメリアに見せると彼女は驚いた顔をして「Surprise……」とつぶやいた。

 

 

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 3人を送り出すと再びアリシアに向かう。そしてベンチテストを始めようというところで扉がノックとともに開いた。廊下から転がるように飛び込んできたのは見慣れた男。

 

 

「さ、櫻! 匿ってくれ!」

 

「どしたの? 女の子に追いかけられでもしてるの?」

 

「その通り……」

 

「…………」

 

 ついに一夏ラヴァーズが強行手段に出たか。と戦々恐々としていると廊下から少数の足音が聞こえてきた。話し声に耳をすませば「一夏先輩」なんて単語が聞こえる。

 

 

「一夏くん、ついに後輩にも手を……」

 

「出してねぇ! この前の女の子が俺を追いかけてくるんだよ」

 

「そこら辺の戸棚にでも入ってれば? これからベンチテストするからうるさくなるし」

 

「悪りぃ。助かる」

 

 戸棚に身を隠すと再びアリシアに火を入れようと起動シーケンスを始める。初回起動の長いシステムチェックから入り、さてPICを入れよう。というところで再び扉がノック。今度は控えめな感じだ。おそらく女子。(と言うか一夏以外の男は学園長くらいしか居ないわけだが)

 

 

「失礼します。織斑先輩を見かけ……あっ」

 

 一夏の言うこの前の子、と言うのは先日のアイルの手下(言い方は悪いが)の襲撃の際に櫻が盾にした褐色肌の少女だった。櫻と目が会うなり「あっ、やべぇ」と表情に出ている。更に言えば櫻は部屋の真ん中で真っ白いISに真っ白いISスーツで乗っている訳で、そのラスボス感は少女の感情を揺さぶるには十二分だった。

 

 

「えとえと、あの。この前はすみましぇん!」

 

「あ、噛んだ」

 

「ひゃいッ!」

 

 思い切り怯えられている櫻は心を痛めながらも片手間に起動シーケンスを停止。スルリとアリシアから抜け出すと少女の前に立ち、頬に手を添えた。あくまでも振るえる子犬に向ける感情のようなものからの行動であることを申し添えておく。

 

 

「君、名前は?」

 

「リリィ・リベラ、です……」

 

「この前はごめんね。そんな怖がらなくていいからさ。それで、一夏くんを探してるの?」

 

「は、はい。シエラちゃんに探すように言われて手分けして……」

 

 あの唐変木め、と内心一夏に毒づきながらリリィを撫でる。櫻は一夏が唐変木だの朴念仁だの女誑しだのと言うがかくいう本人も無自覚に女の子をオトして行くのだから質が悪い。すでにリリィは身体の緊張を解いて頬は紅潮している。目つきも心なしか変わっているような……。うっとりとした目をするリリィを体調が悪いのかと勝手に解釈し、そっと抱きとめるとそのまま話を続けた。

 

「あの娘がねぇ…… 残念だけどここには居ないよ。部屋には行った?」

 

「はい。他の娘が行ったと思います。食堂や教室もみたんですけど」

 

「そう。じゃ、クラスの娘の部屋かもね。あー、でも学年変わって部屋も変わったんだよなぁ……」

 

「あっ、いえ。そこまでしていただかなくても!」

 

「そう? ごめんね、なんか」

 

「いえ。えっと、それと……」

 

「それと?」

 

「先輩の部屋、教えてもらってもいいですか?」

 

「私の? 2年寮の3219だよ。どうして?」

 

「いえっ、なんでもありません。失礼しました!」

 

 聞くだけ聞いて出て行ったように見えなくもないが異性への告白の経験が無い彼女は一世一代の大博打に出たのだ。憧れの先輩の部屋を聞く。あわよくば……と櫻に抱かれながらそこまで思考したのだから恋する乙女と言うのは恐ろしい。

 

 

「出て来ていいよ」

 

「助かったぁ。でも、どうしてこの前の子、シエラだったか? あの子に追いかけられなきゃ行けねぇんだよ。俺はヒラだぜ?」

 

「そういうのじゃないと思うなぁ」

 

「ん? そうか?」

 

 再びアリシアに身を預けると起動シーケンスを再開。メインシステム、チェック。コントロール、チェック。FCS、チェック。アビエーション、チェック。なぜ航行システムが搭載されているのか疑問に思いつつもシステムオールグリーンの表示に視線を合わせた。そして甲高い音と共にブースターが始動する。

 

 

「櫻! その機体どうしたんだ!?」

 

 一夏の口が動いているのはわかるが何を言っているかはわからない。口の動きからその機体はどうした、とかその類だろうと察しはつくものの、どうせここで喋っても向こうには届かない。デスクにあるヘッドセットを指さし、一夏がそれをつけると彼の声がクリアに届いた。

 

 

「その機体どうしたんだ?」

 

「オーメルの新作。第3世代機だよ」

 

「お前、確かもう一機持ってたよな……」

 

「うわぁ、私ってすごーい(棒」

 

「相変わらずと言うか、価値観が束さんに似てきたよな。いや、昔からか?」

 

「いや、冗談じゃないよそれ」

 

 

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「へくちっ! あぁもう、さくちんやいっくんあたりが噂してるなぁ? 束さんそんな悪巧みなんてしてないのに……」

 

 天災の手元の書類には大量の桁の数字が並び、その単位は円であったりドルであったり、ユーロであったりした。天災も金勘定をするのだ。

 その明細は……

 

 ――『IS学園の運営に関する予算案』というタイトルがついていた。

 

 

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「ちょうどいいや。一夏くん、そこのモニタに出てるグラフ。それの値が100超えたら言って」

 

「おっけ。回していいぞ」

 

 一夏が机に掴まりながらモニターを睨む。棒グラフは縦に伸び続け、ラインを引かれた100の値をギリギリ越えないところで安定した。出力を抑えると青かったグラフは少し下がって緑に変わり、再び出力を上げると瞬間的にラインを越えて赤くなったがやがてそれにピッタリのところで安定した。

 

 

「エネルギー安定。変換効率99.64%。すげぇな、白式はせいぜい95%止まりだからなぁ」

 

「白式もそれくらい出せるな筈だよ。ただ、10を99%使い切るか100を99%使い切るかの差はあるけど」

 

「白式が悪いって意味か?」

 

「悪いってわけじゃないけど、単純に白式のブースターはパワー重視過ぎるんだよ。だからエネルギー効率が良くても元々の燃費が悪いから零落白夜も使えばあっという間にエネルギーが尽きちゃう」

 

「確かに、ダッシュ力だけなら負けねぇな」

 

「それを活かすも殺すも一夏くん次第だよ。コレ終わったら白式見てあげるから」

 

「おう。ありがとな」

 

 その後もファーストシフトまで機体を動かし続け、武装展開まで試したところで一夏の白式が変わって整備室の真ん中に鎮座した。ISスーツを持ってこなかったためにとりあえず上裸になった一夏が白式に身を預けている。

 

 

「ほほぅ。一夏くんも男らしい身体してますなぁ」

 

「マジで束さんみたいだぜ? ほら、さっさと見てくれよ」

 

「ハイハイ。ブースター回せる?」

 

「行けるぞ」

 

「ハーフで止めてみて」

 

 ステイシスのブースターとは対極的に始動時の高周波音こそすれ、エネルギー変換効率が30%を超えた辺りから甲高い音は鳴りを潜め、轟音といえるジェットエンジンのような音を響かせた。

 モニターに映るスロットル開度とエネルギー変換効率のグラフを睨みながら手元のメモに書き込んでいく櫻。一夏の方をみて手をくるくると回すと一夏はスロットルを全開にした。

 

 

「93.94か……一夏くんの言うとおりだねぇ。じゃ、一回止めて。エネルギー回路を見なおしてみよう。バイパス出来る所があれば短くするしね」

 

「ああ。俺はそういうのがさっぱりだからなぁ」

 

「少しは勉強した方がいいよ。理論だけでも身につけておけば注文もしやすいからね」

 

 そう言いながらマジックハンドを動かし天井から降りてきたマニピュレーターを操る櫻の目はモニターに釘付けだ。一夏は背中の辺りでカチャカチャと音がするくすぐったさを感じながら作業終了を待った。

 5分もするとマニピュレーターが離れ、再始動してみれば最初からブースターの吹けの良さが目についた。短時間の作業で明らかな成果を出すとは、流石。と思ったか思わなかったか、言われるがままにスロットル開度を固定すれば櫻の手元が動く。いよいよ全開。心なしか静かになったブースターに神経を使う。

 

 

「98.46。思ったより上がらなかったなぁ」

 

「それでも5%だろ? 大したもんだと思うぜ」

 

「多分全開時間が30秒は伸びるね」

 

「30秒か……」

 

「今日はここまで。本音がアリーナで後輩と遊んでるからそっちに行くよ。一夏くんはどうする?」

 

「おう、さんきゅ。俺は部屋に戻るわ。いろいろあって疲れた」

 

「ふふっ。モテ男は辛いねぇ」

 

 一夏が服を着ると2人で整備室を出た。待ち構えていたのは一夏ラヴァーズ1年筆頭(今命名)のシエラと取り巻き達。一夏は頬をひきつらせると一目散に廊下の彼方に消えた。それを追いかける数人。おそらく追いつかないだろう。残ったのはシエラと数人。彼女は櫻の目の前に立つと下から睨みを効かせるように聞いた。

 

 

「あなた、織斑先輩とはどういう関係で?」

 

「なんだろ、クラスメート? 幼なじみ……はちょっと違うな」

 

「本当に? それ以上ではないんですね?」

 

「う、うん。でも、一夏くんの回りには……」

 

「回りにはなんですか?」

 

「面倒な女の子達がいるからなぁ……」

 

「関係ありません。力でねじ伏せるまでです」

 

「なおさら諦めた方が……」

 

 櫻の忠告を最後まで聞くことなくシエラは踵を返して一夏の向かった方向に走っていった。

 

 

「あの、先輩」

 

 聞いたばかりの声の主を探すとリリィが残っていた。そそくさと櫻の下に擦り寄ると妙に近い距離で落ち着く。コレには流石の櫻も困惑気味だ。

 

 

「ど、どうしたのかな?」

 

「先輩のお名前、聞いてなかったな、って」

 

「あぁ。生徒会副会長。キルシュ・テルミドールだよ。櫻でいい」

 

「ハイっ。櫻先輩! あの、こんどお部屋を伺ってもいいですか?」

 

「別に構わないけど。どうかした?」

 

「あ、あのっ。あのっ!」

 

 俯いて拳を握りしめるリリィ。櫻はうすうす『なんか告白みたいだなぁ』などと思っていたが、『憧れの先輩をご飯に誘っちゃうやつ? うわぁ、漫画みたいだなぁ』と幸せな妄想を頭の片隅で繰り広げていた。

 

 

「私と付き合ってくださいっ!」

 

「ファッ!?」

 

 素で変な声が出た。このシチュエーション的に後者である可能性は限りなく低いと考えていいだろう。一夏みたいな朴念仁ではないと自負している以上、それくらいは心得ているつもりだ。

 

 

「えっと、それはご飯とかではなく?」

 

 小さく頷くリリィ。小柄な彼女はどことなく犬っぽい。

 

 

「えっと、そ、そうだなぁ。私はそういう気は無いし…… ま、まずはお友達からね?」

 

「はいぃ……」

 

 小さい体がさらに小さく感じるほどに縮こまったリリィの手を取り、櫻はアリーナに向かった。




久しぶりに書いたら5800文字。

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