Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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第二章 続きから。
最大のライバルは中から


 1年生の襲撃から1週間。校舎内にやっと場所を戻した生徒会はクロエを会計に加えた新体制で新年度早々積み重なる仕事に立ち向かっていた。だが、クロエの処理能力の高さは虚以上で、本音も少しばかり仕事を真面目にこなし始めた――将来、櫻の秘書になるため仕事のこなし方を覚えようという本人なりの努力――こともあり、日が暮れる前にその日の仕事を片付けることができていた。

 だが、新しくなった革の椅子に腰掛けディスプレイを眺める楯無の顔は優れなかった。

 

 

「楯無先輩、なにか考え事ですか?」

 

「ええ、まぁ。この前の襲撃の首謀者、1年生の名簿を見て検討が付いたわ」

 

「早いですね。誰ですか?」

 

「天王洲アイル。まぁ、腐れ縁の娘よ」

 

「なんか駅名みたいな名前だな」

 

 一夏が突っ込むと楯無も笑って「彼女はそこの生まれよ」とあっさり答えていた。

 楯無曰く、天王洲アイルも裏社会の家の生まれで、元をたどると更識に行き着くという。要するに分家なのだが、その別れ方はあまり良いものでは無かったらしい。というも明治や江戸まで遡ることらしく、今は本人も腐れ縁、と表現するように仲が悪い訳ではなさそうだ。

 

 

「あの娘、根はいい子なのだけど、なんというか、ライバル意識と言うのかしら、それが強いのよ」

 

「楯無さまのライバルですか。大層な娘なんでしょうね」

 

「ええ。ある意味私より冷酷で手段を選ばない面もあるわね。でも中身は結構おこちゃまよ」

 

「でも、どうして年齢の近い簪ちゃんじゃなくて楯無先輩を?」

 

「彼女も家の家督を継ぐ者として思うところがあるんじゃないかしら。だから同じく長女だった私を意識していたんだと思うわ」

 

 それから楯無は次はもっと厳しい攻め手を受けるでしょうね。と顔を暗くして言った。

 この生徒会室はこの前の反省を生かし、テーザーガンを各自の机に用意してある。壁には刺又の他、強化アクリルのシールドも掛けられすこしばかり物々しい雰囲気を醸し出していた。

 今日の仕事も終え、部屋に戻ろうとしたその時、ゆっくり扉がノックされる。先ほどまでの話が話だっただけに寝ている本音以外が身を強ばらせた。

 

 

「開いてるわ、入って」

 

 楯無が引き出しのテーザーガンに手をかけながら入室を促すと扉を開けて入ってきた少女は……

 

 

「会いたかったわ、更識楯無! 今日こそアンタに勝つんだから!」

 

 挨拶するが早く、手を上げると後ろから今度はスタンバトンを持った少女たちが部屋に飛び込んできた。騒ぎに目を覚ました本音が本能的に机の下に潜ると楯無始め生徒会メンバーが慣れた手つきで机からテーザーガンを取り出し目の前の少女に当てていく。電流を流すとそれをさっさと捨てて落ちたスタンバトンを拾うとまた部屋の奥、会長の机の前に陣取った。

 

 

「この子が天王洲アイルちゃん?」

 

「ええ。まったく、毎回面倒を掛けてくれるわ」

 

「聞こえてるぞ! おとなしく負けを認めろ! 更識楯無!」

 

 スタンバトンを中段に構える女子達の奥からアイルの声が聴こえる。隙間から見えるその姿は日本人形の如き長い黒髪と着物のようにゆったりとしたコート型の制服の小さい少女。言っていることと見た目のギャップが大きいが今は笑う余裕はない。

 

 

「一人2人倒せばオッケー。行けるわね、3人共」

 

「もちろんです」

 

「素人相手には負けません」

 

「女の子に負けるのは男としてのプライドが……」

 

 ISでは負け続けていることを思い出した一夏の語尾が小さくなるがそんなことをお構いなしに楯無の短い息で全員が一斉に動き出した。

 初動の遅い相手を一薙で黙らせると次の手であっさりと2人目の意識を刈り取る。全員の流れるような一連の動作に残されたアイルは両手を上げて首を振った。

 

 

「また、また負けたぁ~!」

 

「頭が弱いのよ、あなた。私が一人でいるときに襲えばいいのに」

 

「だって楯無一人で居ないんだもん!」

 

 それぞれが楯無の1日をイメージする。

 朝、ルームメイトであるクロエと朝食。その後クラスへ行きクラスメートと談笑。昼休み、クラスメートと昼食。その後、生徒会の仕事があればクロエと生徒会室へ。放課後、一夏達1年に絡みに行くかクラスメートとISの練習。それか生徒会。夜、クロエやクラスメートと夕食、その後クロエを風呂で愛でてから就寝。

 

 

「あぁ……」

 

 一夏が納得したような声をだすと櫻もクロエも頷いている。楯無は「言われてみればそうね……」と真面目なトーンで同意していた。

 それがアイルの気に障ったようで小学生がダダをこねるような声を上げた。

 

 

「だから一番弱そうな生徒会を襲いに来たんだもん! でもみんなバカみたいに強いんだもん! ズルいよ! チートだよ! 米帝プレイだよ!」

 

「最後のは関係ない気が……」

 

「残念だけど戦力として考えると生徒会が一番強いのよね……」

 

 2年間ISを学んだクラスメートがたとえ30人掛かりになったところで一夏は倒せても櫻なら一人で事足りるだろう。クロエの単機戦闘能力は未知数だが、ポラリスにいる以上、生半可な強さでは無いはずだ。

 そしてさっき机に潜ったきり出てこない本音。目を向ければ器用に丸くなって寝ているが、彼女もまた櫻の右腕とまでは言わなくとも左腕くらいにはなれる実力を持っていることは明らかだ。

 

 が、それを学園に入って1週間足らずの新入生に解かれというのも酷な話であった。

 

 

「アイルちゃん、ここに居るのは世界で唯一ISを動かせる男と国家代表と世界のIS産業を担う企業の経営責任者と秘書、そして篠ノ之博士の家族よ? あなた、勝てると思うの?」

 

 

「うぅ……!」

 

 涙目で楯無を睨む姿は精一杯の虚勢を張る小動物的で非常に愛くるしいがここで手を出したら噛まれそうなのでグッとこらえて3人は楯無とアイルを見守る。

 

 

「私に勝ちたい、家を継ぐにふさわしい人間になりたいというのはわかるけれど、もう少し手段を選びなさい? こんな、ずぶの素人を使っても勝てはしないわ」

 

「数の暴力なの!」

 

「私は数より質を求めるわ。その結果がこの通りね」

 

「テルミドールや布仏の家の人間がいるなんて知らなかったもん! ましてやブリュンヒルデの弟がいるなんて言うのも知らなかったんだもん!」

 

 あぁ、かわいいなぁ。と思いつつ終わりのない茶番を黙って見守る3人。本音は相変わらず机の下ですやすやだ。わがままな妹と真面目な姉のような掛け合いを続けること10分以上。やっと話が終わりかける頃にはアイルはすでにスタミナ切れが近いような雰囲気をまとっていた。

 

 

「楯無に勝つと決めたのぉ。だからまずは小手調べだったの……」

 

「はいはい。アイルちゃんは頭いいもんね。まずは相手の戦力を調べるんだよね」

 

「だから2通りの攻撃を用意したの。ふぁぁ……。アイル頭いいもん」

 

「はいはい。アイルちゃんは頭いいもんね」

 

「つぎはたてなしにかつんだもん……」

 

 ろれつが怪しくなり、うつらうつらしてきたと思えば言いたいことを言って器用に立ったまま寝息を立て始めた。これだけ見れば精巧なドールのようにも見える。楯無が呆れたように彼女をおぶると「今日は解散でいいわね」と言って部屋を後にした。

 

 

「はぁ、なんかよくわかんない子だったね」

 

「楯無さんと姉妹みたいだったな。なんか、簪と違ってわがままな妹、みたいな」

 

「そうでしたね。それに私より小さいなんて……」

 

「あぁ、クロエはそっち……」

 

 ラウラと並んで学園でかなり背の低い方であるクロエは自分より背の低い娘を見つけた驚きや嬉しさのほうが上なようだった。寝息を立てる本音を起こすと3人も部屋に戻ることにしたのだった。

 

 

 

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「テルミドールさん、荷物が届いてるよ」

 

 寮に戻ると入り口で寮のおばちゃんに声をかけられた。言われるままに荷物に受け取りのサインをすると小さい小包を手に部屋に入った。

 

 

「オーメルから? なんだろ」

 

「ふぇぇ? オーメルから?」

 そっと封を開け、中身をだすと中から出て来たのは見慣れた天使の片羽(天使砲)のペンダント。同封されていたメモリの中身を見ると櫻は目を見開いた。

 

 

「また私にテストをやれと……」

 

「またオーメルのISに乗るの~?」

 

「ってことになりそう。こんな杜撰な管理でいいのかねぇ」

 

 エアメールでISを送りつける研究主任に呆れながら櫻は職員室に向かった。

 


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