Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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終わりの始まり

「着いたぁ……」

 

「長かったねぇ」

 

 暑い暑い夏3ヶ月ほど前に一枚の手紙を受け取り、その手紙に定められた日程に合わせて休みを取りはるばる日本まで飛んできたのだ。

 

 

「こんなに長い距離飛ぶのは初めてだよねぇ?」

 

「だね。パイロットの大変さが身にしみるよ…… チケットが高いのも納得だね」

 

 そう、この会話から察せられる通り、自家用機を自分たちで飛ばしてやってきたのだ。櫻と本音の2人で揃ってライセンスを取得し、櫻に至っては一人で一から十までこなせるようにと整備士から運航管理者まで合わせて取ってしまったから凝り性というのも考えものだ。

 

 ライトを消し、フライトチェックを行うとエンジン停止。ちょうど窓から車が来るのが見えた。

 

 

「お迎えかな」

 

 荷物を手に階段を降りると目の前に止まった車から黒髪の女性が降りてきた。

 

 

「久し振りだな。櫻、本音」

 

「変わりないみたいで何より。仕事はどうよ」

 

「久しぶりに会ったのに仕事の話か? かんべんしてくれ」

 

「まどまどが先生とはねぇ……」

 

「悪かったな。就職先が無かったんだ」

 

 ポラリスの解散とISのブラックボックスが公開されたのが5年前。それ以来マドカは日本に残り、IS学園の教師として教鞭を執っている。クロエも同じく教師として学園に勤めているはずだ。

 

 

「クロエは?」

 

「仕事だ、仕事。部活の顧問で休みなんてないんだよ。私も姉さんのおかげで1週間はとれたが、それいがいはからっきしだ」

 

「あぁ、大変だねぇ」

 

「ホントだよ。ま、こんなトコで立ち話もアレだ、さっさと入国審査を済ませよう」

 

 2人が後ろに乗るとマドカがハンドルを握った。

 

 

 これは世界を震撼させた"ネクストショック"から8年後の未来。25歳になった少女たちのその後の話……

 

 

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 櫻と本音が日本に着いてから3日後、適度に着飾った2人は電車を乗り継ぎとある3つ星ホテルにやってきた。目的はもちろん、同窓会だ。彼女たちの世代では初めての同窓会ということで、クラスメート達の変わり様が早くも楽しみになっていた。

 ホールのある階までエレベーターで昇り、受付を済ませようとすると、座っていた女性から声をかけられた。

 

 

「うぉっ、サク!? ってことは、本音だよね!?」

 

「ん~? だぁれ?」

 

 本音が素でとぼける隣で、櫻も必死で頭を回転させて記憶を呼び出していた。それが顔に出ていたのか、「はぁ……」と溜息を付きながら、彼女がメガネとカチューシャをつけた。

 

 

「ナギナギ!」

 

「あぁ……」

 

「やっぱりわかんない!? ねぇ!?」

 

「本当に誰かわからなかったよ~」

 

 受付をしていたのは鏡ナギだった。メガネとカチューシャが無いと本当に誰かわからないのが残念でならない。

 会場に入ると時間にはまだ余裕があるがほとんど全員揃っているのではないかと言うほどの人数が居るように見えた。

 

 顔なじみの金髪を見つけると後ろから背筋をなぞりながら声をかける。

 

 

「シャーロット」

 

「ウヒッ!?」

 

 みっともない声を上げたのはもちろんシャルロット。今はBFFの看板として世界中を飛び回っている。一部ではBFFの裏ボスとか、実は国家代表より強いとか色々と言われてしまっているが、本人はあまり気にしていないようだ。

 

 

「直接会うのは2週間ぶり?」

 

「あんまり久しぶりな感じしないね~」

 

「そうだね、定期的に話してるし。パッと見た感じ、みんな変わってて驚いたよ」

 

「ホントにね。さっき受付でナギが誰だか分かんなかったもん」

 

「あぁ、僕もだよ。メガネとカチューシャでやっとね」

 

「わざとだったんだね~」

 

「えっ?」

 

「私達が受付した時には付けてなかったからさ」

 

「あぁ。彼女も楽しんでるんじゃない?」

 

 適当にまた会場をフラフラしながら話す内に時間になったようだ。クラスの札が立つテーブルに移ると、会場がすこし暗くなった。小さなステージの片隅にスポットライトがあたる。

 

 

「これより、IS学園――期生同窓会を始めさせて頂きます。進行は私、お祭り女こと、田嶋律と」

 

「作戦参謀こと、結由香里が努めさせていただきます」

 

 拍手が起こると律がなんの前触れもなく、いきなり三角形に手を振り、ソレに合わせてパンパパ・パンと手拍子が合うと会場は笑いに包まれた。

 

 

「では、最初に、本日参加して頂いた先生方を紹介させて頂きます。織斑先生――」

 

 手を振ってから頭を下げる千冬。櫻としては千冬が来ていたのが意外でならなかった。

 1年次の担任は全員が参加するという奇跡にも恵まれ、着々と事が進む。

 

 

「さてさて、まぁ、こういう機会ですから、まずは全員乾杯から始めるのが普通ですよね。まさか、もう飲み始めてる人は居ないよね? みなさん、手元にグラスはありますでしょうか?」

 

「乾杯の音頭は織斑先生、お願いします」

 

 事前の打ち合わせが無かったのか、千冬が少し驚いた顔をしていたが、すこし肩をすくめると

 

 

「7年ぶりの再会に、乾杯!」

 

 変わらぬ凛とした声を上げた。周囲も合わせてグラスを掲げる。

 卒業するときのパーティーを思い出させる喧騒があった。

 

 

「あぁ、そうだ。今更ですが、この後4時から学園へ移動します。みんな大人だからわかっているとはおもうけど、飲み過ぎないようにお願いしまーす。それでは、暫しご歓談ください」

 

 パンフレットを見返すと3時間ほどここで騒いだ後、夕方から学園に移動するようだ。俗にいう2次会だろうか。

 それも程々に料理に手を付けた。

 

 

「サク」

 

「ん?」

 

 クラッカーを口に入れた時を狙ったかのように呼ばれるとまたもや誰かわからない。顔の特徴から頑張って見ると、疑わしいのが一人浮かんだ。

 

 

「梨絵?」

 

「おおぅ、正解正解。今のところみんな解るみたいだね。ナギみたいに全員から誰?って聞かれるのよりずっといいや」

 

「ナギはね……」

 

「メガネとカチューシャが無いとねぇ?」

 

 聞けば卒業後は倉持技研に就職したそうで、他にも数人が同様に倉持に就職したそうだ。本音も呼んで一緒に織斑先生のところに行こうとなるといつの間にか1年1組の全員が揃って先生のテーブルにやってきた。

 

 

「織斑先生、山田先生」

 

「なんだ、全員揃って。クラス写真でも撮るのか?」

 

「それは後で。お久しぶりです、千冬さん」

 

「ああ、櫻は1年ぶりか。ソレ以外は…… あぁ、神田はこの前会ったばかりだったな」

 

「はわわわ。みなさん大きくなりましたね~。先生感動ですっ!」

 

 卒業から7年立つというのに見た目がほとんど変わらない山田先生に驚きつつも先生たちに近況報告を兼ねて話す内に意外と身内が居ることが解る。

 例えば、リアーデはローゼンタールに、静寢は有澤に、とグループ企業に就職した人間がちらほら居た。さらに、予想はしていたが、結婚したのもクラスに5人は居るようだ。

 

 

「遅れましたわ!」

 

 突然、入り口から聞こえた声に振り返ると長い金髪に青いワンピース。そして、お嬢様口調。もうひとりしか居ない。

 

 

「セシリア!」

 

「セシリア・オルコット、参りましたわ……」

 

「迷った?」

 

「ええ、少し。でも、なんとか……」

 

「とりあえず、水飲んで、はい」

 

「ありがとうございます」

 

 肩で息をするセシリアに水を飲ませると再び騒ぎが始まる。周知のことだが、セシリアは見事に国家代表の座を射止め、昨年のモンド・グロッソでは射撃部門でヴァルキリーに輝いた。

 

 

「そういえばさ、今考えると、この場には国家代表が4人も居るわけでしょ? それもウチのクラスから2人も!」

 

「一人はヴァルキリー、もう一人はブリュンヒルデだよ? もう信じられないね……」

 

「で、そのブリュンヒルデは?」

 

「ここだ」

 

 全員が視線を彷徨わせるなか、シャルロットがそっと手を引くと人混みからラウラが現れた。

 

 

「変わらないね。相変わらずちっちゃくて可愛い!」

 

「や、やめっ。助けっ、シャルロット!」

 

 代表選考で軍属時代の部下を瞬殺し、余裕でドイツの国家代表、そしてモンド・グロッソではブリュンヒルデに立ったラウラ。だが、その背は残念なことに伸びず、表彰台では隣の代表とそんなに差が無かったのは失礼ながら笑ってしまった。

 

 

「ふふっ、ここではブリュンヒルデも愛玩動物ですわね」

 

 セシリアも思わず笑ってしまうほどに可愛がられるラウラ。本人も本気で嫌ならば振り払うことくらい容易いだろうが、この空気に飲まれてくしゃくしゃだ。いざとなればシャルロットが止めに入るのもわかっているのか、ラウラをいじる面々もあまり極端なことはしなかった。

 

 

「セシリアもラウラも、それに、鈴と簪ちゃんも。私達の世代の4人でモンド・グロッソの上位を独占できたのは誇らしいね」

 

「そう言っていただけるとわたくしも嬉しいですわ。最後にお会いしたのはその時でしたわね」

 

「だね。ラウラが圧倒的な強さで殆ど取って行ったからね。織斑千冬の再来とか言われるのも納得だよ」

 

「ラウラさんがヴァルキリーを落としたのは射撃部門だけ。それ以外は全部トップ。わたくしもまだまだですわ」

 

「次のモンド・グロッソが楽しみだね」

 

「ええ」

 

 シャルロットがラウラを救い出すと話もそこそこに散っていった。

 櫻もセシリアと別れると次は4組の元へ。

 

 

「簪ちゃん」

 

「あっ、櫻さん」

 

「久し振りだね」

 

「モンド・グロッソ以来だから1年ぶりでしょ? もうそんなに経ったんだね」

 

「意外と短いね。さっきセシリアにも言ったけど、私達の代で上位独占はやっぱり嬉しいね」

 

「ありがと。そういう櫻さんもコンクール・デレガンスでヴァナディースを取ったじゃん」

 

「あんなの『私が考えた最強のIS』をつくれば勝てるよ。天使は最強だね」

 

 ISコアの公開に伴ってモンド・グロッソと併催されたコンクール・デレガンス、最優秀賞はヴァナディースの称号が送られる。その初代ヴァナディースが櫻とノブリス・オブリージュだ。

 ヴァルキリー共々、北欧神話の女神から取られた称号はもちろん美や愛の女神であることはもちろん、戦いの神でもあることから、美しいだけでなく、戦力としての価値も求められる。

 

 簪とその後も話しているうちに会場の照明が突如落ちた。

 

 

「っ!」

 

 簪ともに姿勢を低くし、ハイパーセンサーを部分展開、周囲を探ると壁にスポットライトが当たる。

 

 

「ハッハッハッハッ! 久しぶりだな、諸君。私は帰ってきた。今日こそ、この場にいる君たちの心を奪ってみせよう!」

 

 クサいセリフを吐くのは白いタキシードに身を包んだ一夏。何が彼を変えてしまったのだろうか。ISの力も借りて壁から壁へと飛び移り、地面に降りようとした瞬間、彼の頭に何かが当たり、火花が散った。

 

 

「何をしているか、この馬鹿者が!」

 

 千冬が怒鳴ると一夏は頭を掻きながら立ち上がり、"姿を変えた"

 

 

「もぅ、なんで分かるかな~」

 

「オマエの考える事などお見通しだ。それで、一夏は」

 

「いっくんはトイレでお着替え中」

 

「はぁ……」

 

 現れたのは篠ノ之束。現在のIS学園理事長。

 そして、入り口からこっそり入ってきた所をスポットライトで照らされたのが一夏だ。

 

 

「うげっ」

 

「うわっ……」

 

 照らされた一夏をみて会場がざわめく。それもそのはず。かつてのイケメンが7年の年月を経て、一層の磨きをかければどうなるか。もうお分かりだろう。

 

 

 結婚して下さいの嵐だ。

 簪共々避難を兼ねて千冬の下へ行くとあっさりとネタばらしがあった。

 

 

「アイツ、もう結婚してるぞ」

 

「えっ?! 招待状もらってませんよ」

 

「身内だけでひっそりとやった。ほれ、写真だ」

 

 

 見せられた写真にはタキシードを着た笑顔の一夏とドレス姿の女性が写っていた。

 千冬曰く、職場の先輩だそうで、2つ年上なんだとか。それを知る由もない彼女らが一夏を取り囲んでいる様を千冬は写真に収めてメールで送っていた。おそらく、一夏の奥さんだろう。

 

 

「尻に敷かれてる光景が目に浮かびますね……」

 

「そのとおりだ」

 

「いっくんもよりどりみどりだったのに、そんなどこの馬の骨ともしらない女と……」

 

「オマエにとっては他人が皆そうだろ」

 

「違うもん! 今は娘同然の生徒たちが居るもん!」

 

 やれやれと首を振る千冬を他所に、時間はどんどん過ぎていく。

 

 

 

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 日の長い夏は5時になってようやく薄暗くなり始める。部活に励む生徒の声を聞きながら向かったのはIS学園第1アリーナ。懐かしいアリーナも今では設備が更新され、同じなのは見た目だけだ。一行がアリーナに入るとジャージ姿の教師たちが待っていた。それも、千冬に至ってはIS用ブレードのおまけ付きだ。

 

 

「ここはアリーナ。目の前にはジャージの先生。片手にはブレード」

 

「と、なると……」

 

 目を合わせる面々に向かい、千冬が声を上げた。

 

 

「全員5分で着替ろ! 実技を始めるぞ!」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 全員とっさにヒールを脱ぐと更衣室へダッシュ。懐かしいロッカールームの空気感を味わう余裕もなくしれっと用意されたISスーツに着替えて再びアリーナに整列した。

 

 

「まさかこの年でこれを着るなんてね……」

 

「結構恥ずかしいね」

 

「静かに! 今日は基本動作の復習を行う。一クラス5つの班に分かれろ」

 

 徐々に感覚が戻ってきたのか、身体が覚えていたのか、即座にわかれると千冬の指示で練習機を取りに行く。今では各国でISの製造が行えるようになったため、学園には100機程度の練習機が用意されている。台車を押しながら戻るとすでに国家代表達が専用機を展開し、待っていた。

 テレビで見た機体が今、目の前にあるのだ。

 

 

「よし、全員揃ったな。最初に見本を見せてもらおう。オルコット、ボーデヴィッヒ」

 

 2人が等間隔に置かれたパイロンの間をPIC制御だけですり抜けていく。帰りは2人で目配せすると行きの倍近い早さで帰ってきた。そんな2人を千冬が出席簿で叩くと何時かの如く「お前らの技術を自慢しろと誰が言った」と言うのだ。殆どが数年ぶりにISに乗るのだから、時間が掛かるものかとおもいきや、身体に染み込んだ感覚は未だに衰えなかったようで誰一人としてパイロンに触れる事無く往復し、10分ほどで一班の6人が全員千冬のもとに記録を提出していた。

 

 

「ほぼ全員1年の終了時とほぼ変わらない記録だな。国家代表はさすが、と言うべきか、全員記録を上げたな」

 

 幹事であろう数人が千冬と何か話すと、手を打って注意を集めた。

 

 

「予定ではこれに30分ほどかかるはずだったんだが、思いの外早く終わった。そこでここに居る代表に模擬戦をやってもらおうと思うが、いいか?」

 

 千冬が伺いをたてるもそんな必要ないとばかりに7人は即答した

 

「もちろんです」

 

「私は見てるね~」

 

 本音は逃げたが。

 

 

「先に断っておくが、模擬戦は記録させてもらう。生徒のためだ」

 

「ええ、後輩たちのためならもちろん構いませんわ」

 

 セシリアの言葉に頷く。千冬が「全員着替えてスタンドに。代表はピットに行け」と指示を出すと即座に動き始めた。

 

 

 

 ----------------------------------------

 

 

 現役の国家代表による乱戦はラウラの勝利で幕をおろした。最初にダウンしたのは意外にも鈴で、シャルロットを狙った所、背後から零落白夜をモロに喰らって一撃だ。次に箒と一夏が相打ち、シャルロット、簪、セシリアと続き、櫻とラウラの一騎打ちでは最後に壁際に追いやられた櫻に至近距離でラウラがレールガンを叩き込んで終わった。

 

 

「楽しかったね」

 

「ええ、皆さんとこうしてまた戦えて。学園に居た頃を思い出しますわ」

 

「あの頃は櫻が最強だったが、今日は勝てたな」

 

「お前ら強くなりすぎだろ……」

 

「一夏が軟弱なのだ。ほとんどISに乗らない私に斬られるなど……」

 

「あたしなんて一夏にやられたのよ!? トーシロの一夏によ?! プライドなんてズタボロよ!」

 

「鳳さんは周りが乱戦だからって大きな一撃のために隙を見せすぎたね。でも、あの攻撃は怖いかな」

 

「龍砲ね。アレのお陰でモンド・グロッソは楽に戦えたわ」

 

 事実、格闘戦ならばラウラに次ぐ2位につけていたのだから嘘ではない。学園に居た頃の機体とはスペックも大違いだ。

 

 

「ラウラの最後のアレは初めて戦った時を思い出すね」

 

「あ、あの時は悪かった」

 

「ラウラさん、今日は容赦なく撃ちましたわ……」

 

「ラウラ、年取ってからISに乗ると冷たくなったよね」

 

「うぅ…… ぐすっ、櫻ぁ、シャルロットがぁ」

 

「そして、涙腺が緩くなった」

 

「ううぅあぁぁぁ……」

 

 シャルロットの口撃でラウラがあえなく撃沈。櫻がなだめながら少しくらくらする頭を振った。

 

 

「じゃ、私達も着替えて戻りますか」

 

 

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 その後も校舎内を回ったりと充実した1日を過ごした彼女らはそのまま3次会と言って居酒屋に消えたり、学生時代に中の良かったグループでディナーに向かったりと解散後も懐かしい気分に浸っていたようだ。

 そんな夜の学園、屋上庭園には千冬に束、櫻が揃っていた。本音は千冬の部屋で寝ている。

 

 

「時間というのは残酷なものだな」

 

「ホントだね。束さんももうオバさんだよ」

 

「そういう年寄り臭いこと言わない。それで、なんでわざわざ?」

 

「ちょっと思い出話をしようかな、って」

 

「はぁ、なんで私が……」

 

「ちーちゃんと2人だと悲しくなるからね」

 

 ゆっくりと思い返すのは7年前。櫻が学園を卒業すると同時に、ポラリスとして『ISのブラックボックスを2年後に公表することをお約束します』と委員会で発表したのだ。その頃のISは第3世代技術は実用化され、各国の第2世代機を置き換え始めていたが、束の提唱した第4世代技術は全くと言っていいほど世間では開発が進まなかった。展開装甲は普通の人間にはオーバースペック過ぎたのだ。コアの持つ力の3割しか使えないものにとってエネルギー運用が更に難しくなる第4世代は無駄以外の何者でもなく、技術開発として研究が一部の国で行われたに過ぎなかった。

 更に、それにともなって本来の宇宙開発も滞り、各国のISを使った宇宙空間突入実験は行って帰るだけのつまらないもので終わった。

 それを憂いた束が世界に訴えたのだ『ISは必要なのか』と。ISのブラックボックス公開が発表されるとIS関連の研究開発は再び活気を帯びた。コアの製作に合わせるため、事前に新たなプロトタイプを開発する企業、国が後を絶たず、数々の新技術が生まれた。

 

 そして、5年前。ISブラックボックスが開放されると大企業は一斉にコアの製作に入った。あまりの精密さに量産は不可能とまで言われた事もあったが、現在では小規模な企業でも月に1つ。大企業は月に10個以上は生産できるほど技術が進んだ。それと同時に世界は男が使えるISの研究も始めたのだ。現在は一夏が務めるベンチャー企業が中心となり開発が進められている。

 

 

「ISが世界中に行き渡ると戦争抑止の形も変わった。核兵器なんていらなくなったからね。アラスカ条約も合わせて改定されて、国ごとにコアの保有量を制限することになった。それでも、日本やアメリカ、ヨーロッパの先進国は3桁個のコアを持つことが当たり前になった」

 

「でも、お陰でIS産業は急速に発展、私の給料も3倍近くにあがったよ」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

「IS学園はどこぞのバカが買い取るとか言い出したおかげで今では倍率が跳ね上がったぞ」

 

 IS学園はコアの量産化に伴って価値がなくなることが懸念され、廃校が検討されていた。そこで、束が『来るIS量産化に向けて、最高クラスの教育環境を整える』という名目で自身の手中に収めたのだ。解散されたポラリスから、束、クロエ、マドカが教師として就任。外部からの講師も受け入れ、私立IS学園として再スタートを切ったのだ。

 

 

「でも、今ではちゃんと束さんの意思を継ぐ技術者がどんどん卒業して上を目指してくれてるよ」

 

「確かにそうだが……」

 

「そうだが?」

 

「これから、ISが増え続けたら、社会はどうなってしまうんだろうな」

 

「ISが牛耳るようになるんじゃない?」

 

「簡単に言うな。ISも意思を持つ。この世界が嫌になった、と反乱を起こされる可能性は常にある」

 

「そうなったら楽しそうだ」

 

「櫻……」

 

「くくっ、さくちん年取ってからどんどん下衆になっていくね」

 

「大人の世界を垣間見ることが増えたからね」

 

 束の考える世界。櫻の考える世界。この先がどう変わってしまうかは今だにわからない。だが、2人が思うことは『ISが中心の世界は壊れてる』そう、確信を持って言えるということだけだ。

 現在の女尊男卑の風潮も、根源にあるのはISで、ISが力を持つからそれを"従える"女性は偉いと思われるだけだ。実際は本当にISを"従えて"いるのだろうか。彼女らが使うISにはまだ7割の余力がある。コアの本気に耐えられる人間など今のところ3人しか居ないのだから……




長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。これにて、Who reached infinite stratos 完結です。

簡潔に完結…… いえ、なんでもありません。最後は遠い未来、同窓会と過去語りで終わらせました。正直、不満の残る終わり方ではありますが、一応、物語はこれにて終わり、とさせていただきます。ここまで読んでいただいた読者の方々、本当にありがとうございました。


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