Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
4月最初の日。学園の食堂で櫻始め、4月生まれの誕生日パーティーが開かれようとしていた。
発起人は生徒会長。そして、田嶋とリアーデのお祭り女ども。学園復活もあって騒ぎたいだけと言う本心がチラホラと見え隠れするなかで当日にはクラスメートや諸先輩。50人ほどが食堂に会していた。
「楯無先輩、りっちゃんやリアーデと繋がりありましたっけ?」
「ふふん、女の子のネットワークよ」
「はぁ…… あの二人、いつも何かしらの理由で騒ぎたいだけですよ?」
「いいのよ。ペンギンがいなくなってみんな寂しいだろうし、どうせ暇でしょ?」
「まぁ、そうですけど。先輩、ペンギン好きなんですか?」
「もちろん! あのぽよぽよしたお腹! もふもふの赤ちゃん! 種類によって――」
ペンギンについて語りだした楯無を置いて好き勝手に騒ぐクラスメートをかき分けて今回の仕掛人2人の元へ向かう。
「りっちゃん、リアーデ」
「おっ、主役の登場だね」
「おいす~」
「それで、春休みで暇なところに美味しいネタ見つけたからこの騒ぎ?」
「むぅ、折角誕生日をお祝いしようとしているのにその言い草は酷いなぁ~」
「でも、本当のことだよね。実際」
「うぐっ、それを言っちゃ、ねぇ?」
リアーデにあっさりとバラされ、苦い顔で櫻に目を向けると、ふいっと顔をそらされた。
だが、その顔が少し赤いのに気がついた2人がクスっと笑うと「ささ、主役は前に!」と櫻を真ん中に押しやった。
「えっ、ちょっ?!」
慌てる櫻を他所に、クラスメートが田嶋の号令で声を合わせていう言葉はひとつ。
「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」
食堂の真ん中で顔を赤くする櫻に向かって口々に祝いの言葉をかけていく。田嶋とリアーデはしてやったりと笑った。
「じゃ、サクから一言頂きましょう。次はみっちのとこ、行くからね!」
唐突にマイクを握らされると場が静まった。
あっあっ、と声にならない声を出した後、すぅと息をすって話し始めた。
「えと、今日は私の、そして4月生まれのみっちゃん、さっちんの誕生日パーティーを開いてくれて、ありがとう。実は友達に誕生日を祝われるのは始めてで、とっても嬉しいです。本当にありがとうございましたっ!」
泣きそうな櫻からマイクを返された田嶋がそのままマイクを次へ次へと回し、4月生まれが少し話すとすぐに飲めや歌えやの騒ぎに移っていった。
櫻は鼻をすすりながらシャンメリーを飲み、隣で本音はお菓子を貪っていた。
大量にあったお菓子が各々の胃に消えると田嶋が再びマイクを取って言った。
「じゃ、この後9時からALOで二次会やるよ~! ギルドホーム集合で!」
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少女たちが仮想現実に身を預ける傍ら、大人たちは仕事を終え、ある者は愛する者のもとへ、ある者は夜の街に消え、ある者はこれからが仕事だと張り切っていた。
市ヶ谷から電車で秋葉原まで行き、そこから歩くこと10分ほど。東京、御徒町。大通りから1本入った通りの影、そこに佇む1件のカフェ&バーがある。
アメリカ人の店主が営むその店は、昼はカフェ、夜はバーと2つの顔を持つ面白い店だ。千冬がその店を見つけたのはふらりと秋葉原に立ち寄った帰りだった。
始めて入った時は昼過ぎで、遅めの昼食を、と入ったその店で食べたサンドウィッチがまた美味く。カウンターの後ろに飾られた酒瓶の数々から、夜にバーをやっていることを知ると、時折通うようになったのだ。
「いらっしゃい。おや、お久しぶりですね。まぁ、仕方ないかもしれませんが」
「ええ、どうにか新年度に間に合わせることが出来ただけよかったです。BLTとコーラを」
「はい。しかし、先生も大変だ。俺みたいな自営業とは背負うものが違いますね。まだお酒はいいんですか?」
「まだ夕飯を済ませてないもので、軽く食べてからゆっくりと」
「そうですか。空きっ腹にいきなりアルコールは良くないですから。今用意しますね」
学園が復旧し、生徒が戻ると今度は国とこれからの事を相談しなければならない。その矢面に立たされるのはもっぱら学園長の轡木、そして千冬なのだ。特に国内は顔の効く千冬があちこちに(特に市ヶ谷に)頭を下げて回ると言うわけだ。更に言えば、今回は
少し待つとBLTがやってきた。いただきます、と一口かぶりつき、コーラを流し込むとスイッチが切れたように全身の力が抜ける。今日1日の仕事は終了だ。
店内を包むジャズを聞きながらゆっくりとBLTを食べつくすと携帯を見た。真耶からメールだ。
開いてみれば1組の生徒たち、と思しき人々が櫻を中心にクラッカーを引く瞬間だった。
「あぁ、そろそろ誕生日だったか…… すっかり忘れてたな」
「忘れ物でもしましたか?」
「いえ、友人の誕生日を忘れてましてね。今日パーティーをしていたみたいで」
「参加できなくて残念ですね」
「仕事ですから、仕方ないですよ。じゃ、マンゴヤンオレンジを」
「私は誕生日パーティーを企画する側だった事が多くて。いまでも友達とこの店で集まったりするんですよ」
慣れた手つきでタンブラーに氷、リキュール、オレンジジュースを加え、ステアする。
カラカラと涼し気な音を立てマンゴーの香りが広がった。
「私は友人と集まってパーティーをすることはありませんでしたから…… 誕生日も特に特別なこともしませんでしたし」
「はい、マンゴヤンオレンジ。それと、これ、サービスです」
一緒に出て来たのはマンゴープリン。昼メニューのデザートだ。あまりクドい甘さではないのにしっかりとマンゴーの味がする不思議なプリンは千冬も好きなひと品だった。
「昼に余ったものですけど、捨てるのももったいないですし」
「ありがとうございます。頂きます」
今日の千冬の傍らには秋葉原の家電量販店の袋があったことに店主が気づいたのはちょうどこの時だ。袋からちらりと見えた見覚えのあるパッケージに彼がニヤリとして話し始めるのにそう時間は掛からなかった。
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同刻、2年尞。
「ふぁぁ……」
「あら、お疲れみたいね」
「束さまから仕事を丸投げされてますし、疲れるのも当たり前です」
「お茶でも淹れるわ。オータムはどうす…… 寝てるわね」
クロエと楯無の部屋では家主とスコール、そしてオータムが揃って思い思いの場所でキーボードを叩いていた。もっとも、オータムはテーブルに突っ伏しているが……
櫻がオーメルに復帰してからというもの、今まで櫻がこなしていた仕事の半分程をクロエが引き受けるようになり、彼女の仕事は倍増した。
もっぱらの仕事は今の櫻の専用機、"第5世代"ノブリス・オブリージュのことだ。まだ起動したのは2回のみ。それも、卒業式の飛行ではピンクのマントを被って隠蔽したため、実際は1度と言っていい。その際に見られたのは数人だが、気が動転していたのか、あまり覚えていないらしい。今のところはそれでもいいが、何れ世界にバレてしまう。そのための隠れ蓑を用意しなければならないのだ。
「しかし、コアナンバー001には驚かされますね。櫻さまの神経とリンクして自在に能力を開放するとは…… そろそろ自我を持つかもしれませんね」
「なに? 櫻のアレ、そんなにスゴイの?」
「スゴイなんて次元じゃ済みません。束さまと櫻さまが『理解できない』って音を上げるほどの謎機体です。ある意味で白式に似てますね」
「それって…… 知られたらかなりマズいわね」
「ええ。だから頭を悩ませてるのです」
スコールの入れたお茶を啜ると「はぅ~」と可愛らしく一息ついて、目をこすった。だが、楯無が音もなく帰ってきたことに気がつくと閉じかけていた目を開いた。
「楯無さま、おかえりなさい。櫻さまの誕生日パーティー、どうでしたか?」
「櫻ちゃんというより、4月生まれの娘のね。みんな楽しそうだったわ。知ってた? 櫻ちゃんって、今まで友達と誕生日を祝ったことなかったんだって」
「ええ、知ってます。櫻さまと束さまはぼっちですから、誕生日は家族で普段よりちょっと豪華な食事と、ケーキでした」
「クロエちゃん、時々かなり辛辣な言葉をサラリと吐くわね」
「クラスの方にも言われましたが、そうなんですか?」
目の前のスコールも頷いている。妹ともども、可愛い顔をしてかなりえげつない事を言ったりやったりするために一部の生徒から崇められてるとか恐れられているとか…… 噂ではファンクラブまであるとかないとか。
「それで、スコールとオータムがなんの用?」
「見てわからない? 先生のお仕事よ」
スコールのラップトップには文字で黒く染まった表計算ソフトのトップ画面が映し出されている。オータムの方は…… 文章作成ソフトで新1年生のオリエンテーション用資料を作っているようだ。作業は1/3ほどで止まっているが……
「ねぇ、クロエはゲームとかするの?」
「ええ、最近はVRMMOにハマってます。束さまもやってますよ」
「ALOってやつ? クラスで流行ってるわね」
「クラスどころじゃなく、学園全体で流行ってます。楯無さまも知らないわけではないでしょう?」
「ええ、なんどか誘われたことはあるんだけど、私そういうの疎いから……」
「意外ですね。簪さまがALOでトップクラスのプレイヤーなので、今度教わって初めて見たらどうですか?」
「えっ? ホント!? やるわ、絶対やる!」
「簡単に釣れました」
「対暗部の17代目が聞いて呆れるわね……」
その後も楯無に無理やり手伝わせながら作業は進み、楯無が寝たのを皮切りに、4人共ベッド以外で朝を迎えた。