Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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結末

「アスター様、お嬢様とあの声の話はされたのですか?」

 

 クレイドルから飛び出した紫苑にリーネが聞いた。あの不思議な現象、紫苑も櫻も気にしていないはずがないはずだと踏んでいたのだが……。

 

 

「してないわ。でも、あの娘もきっとわかってるはずだし、あえて話さなかったのかもね」

 

「私からすれば何がなんだか…… ただ、後ろで篠ノ之博士が驚いた顔をしていたのだけはしっかりと覚えていますが」

 

「ふふっ、あなたもそのうち分かるわ。いや、この調子だと……」

 

「えっと、そこはかとなくバカにされてる気がするんですけど……」

 

「気のせいよ」

 

 隣を飛ぶ紫苑に不機嫌な顔を向け、視界の片隅に映るクルーザーにマーカーを置く。先の8人はすでにグラスを片手にくつろいているようだ。

 彼女たちのように気の抜けない事が明らかになったリーネとしてはただ羨ましいばかりではあったが、これもまた運命だと自身のツキのなさを悔やむのみだった。

 

 

 

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「ねぇ、さくちん」

 

「ん?」

 

 こちらもこちらでクレイドルから学園に戻る3人。話すことは変わらないようだ。

 

 

「あの声のこと、ママさんと話したの?」

 

「いいや、全く? でも、多分ムッティもわかってるよ。だからきっと話さなかったんだろうし」

 

「束さんでもわからない超常現象なんだけど…… くーちゃんもクレイドルのシステムソースに"愛してる"ってメッセージが追加で書き込まれた、とか言うし。何がなんだか」

 

「愛してる。か、直接いわれたかったかなぁ……」

 

「さくちん?」

 

 ぼんやりとしていたために少しフラついたが、束に呼びかけられて姿勢を直すとどこかで見ているかもしれない父に言った。

 

 

 ――まだまだファーティには届かないみたい。でも、いつかきっと強くなってファーティも、ムッティも認めてくれる"騎士様"になってみせるよ。

 

「そうだ、ママさんの情報、今のうちにある程度始末しないと」

 

「えっ?」

 

「それもそうだな。学園に今のオープンでの会話のログがあるかもしれないし、消しておかないと後々困る」

 

「ってわけで、くーちゃん、よろしく!」

 

『束さまはいつも唐突過ぎます! まぁ、やってますけど』

 

 まだどこかふわついた櫻の理解の外で束とマドカは後始末を始めたようだ。コジマ粒子をまき散らされた学園も浄化しなきゃならないし、やることは山積み。現実に引き戻された櫻はこれからのプラン策定を本音に丸投げするのだった。

 

 

 

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「どうして私達がこんなことをしてるんだ」

 

 マドカが不満を口にするのは事態から3日後のIS学園。紫苑が手配した旧世代の遺物、コジマ吸着剤を学園内に散布しているのだが、広大な敷地を教員とポラリス、そして自衛隊のIS、総勢30機あまりの手作業で回っているのだ。

 最初は学園上空を飛行してのおおまかな散布、いまは細かい影を散布機を背中に背負って回っている。

 

 

『まぁ、ポラリスはIS関連困ったところへは何処へでも、な組織だし。仕方ないね』

 

『作業達成率は80%です。今日中には終わりますよ』

 

『自衛隊特殊作戦班、分担箇所の薬剤散布を終了。本部、確認願います』

 

 愚痴や世間話や真面目な報告が飛び交うオープンは(主にポラリスの面々のせいで)かなり騒がしく、ヘタすれば通信封鎖されてるんじゃないかと思うほどだ。

 最初のほうこそ黙々と作業をこなしていたポラリス実働部隊の2人と本音だが、1時間もすると飽きてきて本音とマドカが話し始める。そして先生も加わって今に至るのだ。真面目に仕事をしている自衛隊の方々には頭が上がらない。

 

 

『特殊作戦班、薬剤の残りはありますか?』

 

『5名とも約10%ほど残っています』

 

『申し訳ありませんが、周囲の未散布箇所に全部撒いてきてください』

 

『了解』

 

 クロエは内心『ウチの人間がご迷惑を……』と思いながらもここで口にしては面目丸つぶれもいいところなので良心の呵責に悩まされながらも"デキる女"であり続けた。朝に始まった作業は日が沈む前に終わり、ここから吸着剤が効果を発揮するまでさらに1週間ほど放置だ。だが、仕事はコレで終わりではない。

 

 

「3人ともお疲れ様でした。明日はアメリカに飛びますから、早めに休んでくださいね」

 

「「「ハイ……」」」

 

 そう、オーメルの新人事。ソレに合わせてポラリスも立場を変えなければならない。ポラリスのトップが世界のIS産業の7割を握る機業のトップに就くことは技術レベルのさらなる乖離を加速させかねず、株主は諸手を挙げて喜んでも、世間は喜ばない可能性が高いのだ。そこで、技術公開の範囲を拡大。そしてクレイドルの詳細を公表することを餌に世間を黙らせると言う目論見を提出しに行くのだ。

 

 

「櫻、このスケジュールキツすぎはしないか?」

 

「仕方ないよねぇ。明後日にはオーメルの臨時株主総会、明日意見書をだして、委員会の緊急招集が掛かったとしても早くて2週間、ってとこでしょ? 学園のこともあるし正直かなり辛いもん」

 

「まどまどより、さくさくのほうが更にハードスケジュールだよ? 秘書としてついていく私の身にもなってほしいよね~」

 

「明日はステーキ食べていいし、トルコ行ったらアイス買ってあげるから、ね?」

 

「せーとーな役員報酬を求めますっ!」

 

「本音の仕事ぶりなら納得だな」

 

 ここ最近の本音はふにゃふにゃした見た目と裏腹にクロエと共にかなりの仕事をこなしてくれた。それを知っているからこそ何も言えない櫻。マドカもその通り、とばかりに頷いている。

 

 

「色々片付いたら私の秘書だから、ちゃんと報酬出るよ。それまで我慢」

 

 そう言ってお茶を濁すのが今の櫻にできる精一杯であった。

 

 

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「束、本当に良かったのか?」

 

「いいのいいの。ポラリスはもともと"ISに関係した争いを消す"事が目標だし、それに巻き込まれちゃったんだからそれなりの補償をして当然だよ」

 

 千冬と束が居るのは海の上。南の海に作られたマスドライバー『ドリームキャスト』だ。ここの施設を学園の再建が終わるまで使っていいと束が申し出て、学園長が了承したため移動から何からすべてポラリス持ちで全生徒がこの寒い寒い南の島に移動してきたのだ。ここで全員の身体検査等を行い、問題があればコジマ対策が可能なオーメルまで送る算段まで付いている。

 さらにさらに、喜ぶべきは施設等の環境だった。さすがに外は氷と雪の世界だが、中身は束お手製の設備がズラリ。学校ではないために授業はホワイトボードとノートのアナログな感じに戻ったが、整備科にとっては天国とも言える環境といえた。

 

 

「しかし、お前がこんなものを持っていたとはな」

 

「これをつくろうって言い出したのはさくちんだよ? クレイドルを誰にも気付かれずに建造するには一回宇宙空間で組み立てて下ろしてくるのがベストだったからね」

 

「製造から打ち上げまで一元的に行うため、か」

 

「その通り。さくちんはホントにとんでもないよ。ある意味、束さん以上の大天災だね。たぶん、さくちんが本気だしたら地球なんて3分で滅ぶよ、きっと」

 

「さすがにそれは…… 冗談じゃないな」

 

 雪の薄く積もったエプロンに止まる旅客機から続々と降りてくる生徒を見ながら千冬は思う。ISに乗ること、ISに携わることを目指して学園に入ってきた生徒たちの真のゴールは櫻なのでは無いかと。束に夢見るうちはまだ無害だと。

 束もそれを知ってか知らずか、ふとこんなことを口にする。

 

 

「あの娘達の目標はきっとちーちゃんであり、束さんなんだろうね。でも、私達を足して2を掛けたのがさくちんだとわかったら、どうなるんだろうね」

 

「さあな。そのレベルの人間が量産されたらソレこそ地球は終わりだ」

 

「くくくっ、そうだね。さて、外も寒いし中でコーヒーでも飲もうよ。ペンギンを愛でながら飲むコーヒーは美味しいよ」

 

「そうだな。生徒の誘導も真耶がやってるし、私の今の仕事は篠ノ之博士の機嫌を取ることだしな」

 

 雪の中を歩く白と黒の2人。世界最強と天災。この二人が認める大天災が再び世界にちょっかいをかけようとしていた。


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