Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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オッツダルヴァとの邂逅

 1週間と少しのローゼンタール本社での集中講座を終え、社屋のあてがわれたオフィスで家族3人、ドイツ最後の団欒としていた。

 

 デスクに置かれた電話が鳴る。

 

「フュルステンベルク様、オーメルのオッツダルヴァ様がお見えになっております」

「通してくれ」

「かしこまりました」

 

 ――来てくれたか、オッツダルヴァ。

 

「ヤツが来たぞ」

「そう、来てくれたの。意外だわ」

「アイツの事だからな、適当な理由であしらうと思っていたが、案外良い奴じゃないか」

「そうね」

 

 オッツダルヴァを呼びつけたのは昨日の親子対決の後のこと、レオハルトが「今ドイツに家族で来ているから、よければ会いたい」と言って呼んでみたのだ。

 

 軽いノックの音

 

「私だ、入るぞ」

 

 そう言って部屋に入ってきたオッツダルヴァはダークスーツに身を包み、やたらと分厚いファイルを手に現れた。

 

 

「オッツダルヴァ、久しぶりだな」

「久しぶりね、オッツダルヴァ」

「ああ、久しぶりだな、レオハルト、マリア。ほう、コイツがお前らの娘か」

「ここではそう呼ばないでよ。ほら、櫻、挨拶を」

「櫻・天草・フュルステンベルクです、よろしくお願いします」

 

 櫻は完璧に気圧されてしまっているのか、ガチガチである。

 

「私がオーメル・サイエンス・テクノロジーのオッツダルヴァだ。君の両親とは旧知の仲でな」

「きゅうちのなか?」

「ふん、古い知り合いだということだ」

「へぇ」

 

 皮肉屋なオッツダルヴァだが、純粋な少女の前ではあまり強く出れないのか、自然とフォローしてしまっている。

 

 

「お前がそんなに柔らかい態度だなんて、明日は嵐だな」

「そうかもね、帰れるかしら?」

「お前ら……それで、なんの用だ?」

「いや、ただ単に最近会ってないから、と思ってな。それに娘も見せたかったしな」

「そうか、くだらん」

「まぁ、そういうな。あと、お前の手腕を見込んで頼みがある」

「ほう、聞こうか」

「娘にお前の経営やコミュニケーションのスキルを叩き込んで欲しい」

 

 レオハルトの言葉にオッツダルヴァの顔も少し歪む。

 

 

「面白い冗談だ。この小便臭いガキに私がものを教えるだと? ふざけるな」

「こっちはかなり真面目よ? それにこの子はあらゆるものを吸収して進化すると思ってるの」

「だから、ひとつ、頼む」

 

 そう言って頭をさげるレオハルト。

 

「ふん、ならば試してやる」

「そうか。娘の出来に驚くなよ」

「親バカも大概にしておけ。では行くぞ、ガキ」

「ガキじゃないもん、櫻だもん」

「そうか、まぁいい。ついて来い」

 

 

 そうして櫻を連れて部屋を出て行くオッツダルヴァを少し不安げな表情でみる2人であったが、

 

「なにをされるのかしらね」

「さあな、適当な算数とかじゃないか?」

「あの子の計算能力はそこら辺の大人と大差ないわよ? どこかの誰かが頑張ってくれたおかげで」

 

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「へぶしっ」

「大丈夫ですか主任?」

「いや、大丈夫だ、誰かが噂でもしてんだろ」

 

 どこかの誰かは最初は宿題を手伝う程度のつもりだったのだが、気がついたら高校数学までやってしまったとか。おかげで櫻は算数のテストで満点を持ってきては紫苑やどこかの誰かに自慢しているという。

 

 

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「くっくっくっ、そう言ってやるな、彼だって良かれと思ってやっているんだ。10年分予習したと思えばいい」

「まぁ、そうだけどね」

「それだけ櫻の知識を取り込む力がすごいということだろう? いいことじゃないか」

「裏目に出なければいいけど」

 

 

 

 オッツダルヴァは焦っていた、目の前の少女がグラフから値を読み取り、それを方程式に当てはめていくのを見て。

 

 ――本当にこのガキエレメンタリースクールに通ってるのか? どう考えてもハイスクールレベルの問題を出してやったのに!

 

 オッツダルヴァが作ったテストは本当にただの算数だった。――序盤は

 足し算引き算なら普通にできるだろうと、1桁から多いものでは10桁まで、嫌がらせのように出した。

 だが、そんなの朝飯前だと言わんばかりに数十問を目を見張る早さで解き、まだ習っていないはずの掛け算をもサクサク解いていた。

 そして、質問されることを前提に100点阻止問題として出した2次関数すらあっさりと解かれてしまったのだ。

 

「くっ、このガキなにもんだ……」

「えーっとね、サクは天草西小学校の1年生だよ?」

「そういうことを聞きたいんじゃない、この数学、算数か。誰に教わったんだ? 普通の小学生はこんな問題解けないぞ」

「算数は拓郎おじさんとか、うちにいる人に教わった!」

「ほほう、そうなのか。面白い、お前に私のやり方を教えてやる、覚悟はできてるか?」

 

 ――日本人と言うのは本当に頭がオカシイんじゃないのか、こんな女の子にどれだけの知識を叩き込んだのだ。

 

「もちろん!おっちゃん!」

 

 

 

 そうしてオッツダルヴァによる経営学教室が始まったのだ。

 この少女の、更なる進化の為に。

 

 

 

 

 

「オッツダルヴァおじさん、呼びにくいから乙樽おじさんでいい?」

 

「それは勘弁してくれ……」


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