Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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開戦

「装備確認急げ! さっさと組み立てろ、何してやがる!」

 

 速度を落とした船の上で男の怒号が響き渡る。すでに船底近くのブロックには組み立てられた無骨なネクストが数十機並び、その目を光らせている。

 

 

「進捗は?」

 

「あと5期だ。2時間で行ける」

 

「わかった。その調子で頼む」

 

「おう」

 

 作業場を取り仕切る男と言葉を交わせば要点を掴んだ短い答えが帰ってきた。私はこういうタイプのほうが好きだが。

 船尾のブリッジを登り、操舵室裏の部屋にはいると私が今仕える男が立派な椅子に腰掛けていた。

 

 

「後2時間ほどで作業完了と」

 

「よし。計画通りに行きそうだ。白昼堂々と突っ込むぞ」

 

「畏まりました」

 

「学園の動向は?」

 

「学園外洋にシールドを展開中。おそらく実習訓練を行うものと」

 

「おかしな点は?」

 

「ありません。時折行うことのようです」

 

「ならば計画に変更なし。道中で出会ったら叩き落として進め」

 

「はっ」

 

 報告を済ませれば操舵室に行き、細かい調整をしていく。GPSに座標データを打ち込み、ポイントをセットし、航行速度を選択すればそのとおりに動いてくれる。まったく、最新技術とはスゴイものだ。

 ふと広い窓から外を見ると空が徐々に明るくなっていく。何もない海の上での夜明けはコレで11回目だが、何度見ても美しい。

 

 

「我々にご加護を」

 

 そうして私は十字を切り、そっと天に祈りを捧げた。

 

 

 

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「間に合う?」

 

「はい。7時前には成田に着きます」

 

「それはよかった。ウチのエースを連れてきたんだから、これで間に合わなかった、は冗談じゃないわ」

 

 中国上空、徐々に白んでいく空を見ながら言う姿はとても裏の世界から世界を見てきた組織のトップとは思えません。まるで名家のお嬢様みたいな……

 と言ったら「冗談はやめなさい」と言いながら手元のメニューで叩かれそうなので口には出せません。小さい飛行機の10もない座席は全て埋まり、その乗客はすべて女性です。私達がこれから為すことにはISが必須なので当然とも言えますが。

 

 

「アスターさま。一つ問題が」

 

「えっ、なにかしら?」

 

「学園沖に外部フィールドが設営されています。おそらく出来る限り沖に出る作戦かと」

 

「ああ、それね。予想通り、というよりも計画通りだわ。あくまでも主戦力は彼女たちだもの。ただ、私達はそれを後押しすればいいの」

 

「そうですか……」

 

「ええ。いくら対ネクスト向けに装備を整えても、幾ら第4世代のISを使おうとも、ネクストが圧倒的物量で押し寄せれば勝てないわ」

 

 そう言い切る彼女はいつも通りの底知れぬ笑みがありました。私が彼女の下で働き始めて数年立ちますが、未だにわからないことが多いです。この笑みもその一つ。

 私や周囲に向ける笑みとも、余裕の笑みとも、慈愛の笑みとも違う。得体のしれない笑いは時折恐怖すら引き起こします。

 

 

「分かった。あと1時間くらいしか無いけど、あなたも休んでおきなさい」

 

「はい」

 

 自分の座席に戻ると言われた通りに目を閉じることにしました。これから起こることは、ヘタすれば歴史の教科書にも乗ってしまうことかもしれません。

 ですが、私達もなさねばならないのです。彼女の望む世界のために。あの娘の望む世界のために。

 

 

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「突然だが、今日の実習は1年4クラス合同で行うことになった」

 

 朝の織斑先生の一言でクラスは一気に騒がしくなる。突然合同で実習やります、と言えばそりゃ何か言いたくもなるだろうが、あいにくその理由を知っている私はそんな気分にもなれない。

 

 

「聞け! 今日の実習では来年度の学園練習機の実機テストも兼ねて行われる。一般生徒は後で言うアリーナに、国家、企業代表は8時50分に波止場に集合だ」

 

 櫻はわざわざこのためだけにおばさんに無理を言ってオーギルを5機空輸させたらしいから驚きだ。それも昨日の夜中、と言うか今朝届いたばかりで、束が全速力でセットアップをしている。

 学園に篠ノ之束が居るなんてバレたらまた一騒ぎ起きそうだ。

 

 

「26番から30番は第6アリーナだ。連絡事項は以上だ。解散!」

 

 初っ端から実技だなんて、と思う生徒も居るだろうが、織斑先生には逆らえず、廊下を早足で歩いて行く。専用機持ちも波止場までゆっくり急いでいた。私もその一人だが。

 

 

「櫻、これって……」

 

「察しの通りかな。今日だよ」

 

「そんな突然言われても困るぞ?」

 

「船の中でブリーフィングね。織斑先生には船分けも口利きしてもらってるから」

 

「どこまで手を……」

 

「ふふっ、どこまでだろうね?」

 

 前でいたずらっぽく笑う櫻をみてつくづく思う。アイツは絶対に同い年じゃない。貫禄ありすぎだろ。どう見ても。

 校舎内をゆっくり急いで、外に出た途端全力ダッシュで波止場に向かい、着いたのは49分。ギリギリセーフだ。

 

 

「遅かったわね」

 

「仕方ありませんわ。ホームルームが長かったのですし」

 

「私が来た時には簪なんてとっくに居たわよ?」

 

 鈴とセシリアがいつもどおりのやりとりをしていると織斑先生がやってきた。気がついた一夏や箒が黙る。

 

 

「揃ったか? 出欠取るぞ。1組――」

 

 1列に並んだ専用機持ち。その数は10人。国家戦力相当と言っても差し支えないほどだ。そこに姉さんを加えれば…… 考えるだけでも恐ろしい。

 そして、2扱のボートに分乗すると即座に作戦会議が始まった。

 

 

「作戦概要を説明します。本作戦は学園防衛の為の敵機迎撃。目標は敵機の無力化――」

 

 と櫻が話し始めた隣のボートで声が上がった。なにかあったのか。こちらからは見えないがまぁ、織斑先生が何もシないところを見るとマズいことではなさそうだ。

 

 

「出来る限り私達で戦線を保ちたいけど、たぶん無理だから。そのときはお願い。ロッテには辛いかもしれないけど……」

 

「大丈夫だよ。ママも言ってたしね『目的のために手段は選んじゃダメ』ってね」

 

「それはそれで問題なような…… まぁ、いいや。ラウラも行ける?」

 

「ああ。久しぶりの戦闘機動だが、大丈夫だ」

 

「本音、ジェネレーターは?」

 

「ばっちりおっけー。30回は満タンにできるよ~」

 

「マドカ、大丈夫だね?」

 

「もちろん。今回は枷なしでいいんだな?」

 

 枷。もちろん、殺しの是非だが…… 櫻は少しためらってから「なしで」と言った。コレで私も手加減なしで力を振るえる。

 

 

「じゃ、まずは普通に実習をこなしますかね」

 

 ボートは気がつけば浮島に到着。そこにはささやかながら、整備用の施設まで設けてあった。本音が真っ先に何処かへ走って消えると2番めのボートから降りてきた織斑先生が号令を掛けた。

 

 

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「全員乗ったな」

 

 冷たい声が狭いコックピットに消えると次々とこわばった声が返ってくる。いよいよ、これから。始めてしまえば後には戻れない。

 

 

「全員、ジェネレーター始動。出力安定後、1番機から発艦」

 

 懐かしい感覚が帰ってくる。脳が溶けそうな、全てが一緒になってグルグルとする感覚。視界の片隅でジェネレーターの出力表示が緑色になったのを確認すると一気にブースターを吹かした。

 飛行機の離着陸のような振動を感じながら出力を上げていく。そして、ある程度の見切りをつけ、一気にエネルギーを注ぎ込めば鉄の塊がいとも簡単に飛び上がった。

 少し高度を上げて待てば次々と上がってくる。自分がネクストに乗っていた頃はありえなかった光景。数十機のネクストが隊列をなし進む。

 

 

「全機上がったな。体の調子が悪ければすぐに離脱しろ。暴走する前にな」

 

 行くぞ、とひと声かけ、背中のオーバードブースターを開くと世界が飛んだ。

 

 

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「緊急警報、緊急警報、高濃度コジマ粒子を確認。総員、レベル1警戒態勢。レベル1警戒態勢」

 

 突然無機質な放送が鳴ったと思ったらいきなり櫻たちがピットに戻っていった。レベル1警戒態勢ってかなりマズいんじゃないか? そう思いながらも機体をピットへ向ける。その時にはすでに後ろでまた櫻のピンクの機体が空にむかっていた。

 

 

「何やってんだ櫻! 戻れ!」

 

『これより、ポラリスは学園の指揮下を離れます。ポラリス全機、私の指揮下に』

 

 櫻の声色がいつもと違う。まるでこの前怒らせた時みたいだ。身体の底から何かが沸き上がってくる。嫌な予感なんてものじゃない。動かなきゃ後悔するほどの、なにかだ。

 気がつけば俺も機体を櫻の方に向かわせていた。

 

 

「櫻、なにがあったかしらねぇが、俺も行くぞ!」

 

『一夏君、戻って。お願いだから』

 

「今回ばかりはお前の頼みでも聞けないな。絶対にマズいことが起きる。そうなんだろ?」

 

『そうだから戻って、って頼んでるんだ。君のために無駄なエネルギーを使いたくもないからね』

 

 最悪、お前を落とすと言う脅し。気がつけば後ろに鈴と箒まで来ている。オープンで千冬姉が何か叫んでるが構っては居られない。

 

 

『櫻! 何処へ行くつもりだ!』

 

『はぁ…… ちょっとお使いに』

 

『お使いなら私達が着いて行ってもいいでしょ?』

 

『スゴイ困る。全機、正面!』

 

 呆れた声から一転、突然櫻が叫んだ。とっさに前を見れば何かが大量に飛んでいる。レーダーにも写ってる。

 

 

『はぁ、お客さんだ。一夏君、箒ちゃん、鳳さん下がって。死ぬよ』

 

『はぁ!? 何いってんのあんた?』

 

「櫻のいうことはマジっぽいぞ…… ISじゃねぇ、あれは……」

 

『全員、私の言うタイミングで避けてね。4…3…2…1……今!』

 

 いわれるがままに機体をロールさせると今まで俺が居たところを弾丸が突っ切って行った。それも、ISのものとは大きさが違う。バカでかい砲だ。

 

 

「箒、鈴。戻ろう。櫻の言うとおりだ……」

 

『一夏、あんた何言って――』

 

「今の攻撃、自力で避けられたか? 箒」

 

『む、無理だな……』

 

「今のお前なら、マドカに稽古をつけてもらったお前なら解るだろ。俺らじゃ実力が足りねぇ。ただの足手まといだ」

 

『だがっ、だがっ!』

 

「俺だって仲間の力になりたいよ! でも、その力が無いから! 出来ないからこうするしか無いんだ!」

 

 また、無力だから、こうなるのか。折角俺に答えてくれた(白式)もあるってのに、また俺はここで諦めるしか無いのか……

 

『賢明だね。今ならまだ逃げられる。ポラリス散開。反撃に移れ』

 

 櫻の声は同情も、哀れみも、何もない、無機質な声に聞こえた。


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